第二十九話 タスラの町にて
翌朝いつも通りイリスのダイブで起こされ、変わらないルーティーンを終えて宿を出る。町をのんびり散策しながらギルドへ向かい、到着すると昨日慌てていた受付嬢がいたので、午後は外で剣の稽古をすると告げるとギルドの地下でと返って来た。
こちらとしては問題無いので後ほど伺いますと答え、イリスと二人でタスラの町を散策に戻る。サノンの町で襲撃に関する報告は上にも行っているだろうし、足止めされることは無いだろう。
なら直ぐにでも首都へ行けば良いと思うかもしれないが、首都で何が起こるか分からない今、なるべくイリスには色々な物を見てもらい体験してもらいたい。誰からも急かされるようなことは言われていないので、個人的には注意が入るまでそうしようと思っていた。
ただサノンでの反省点を踏まえ、居ても二、三日程度に納める予定ではある。成長のために必要なことであったとしても、小さい頃にわざわざ毎回毎回辛い別れを経験する必要はない。
「ねーあれ食べてみたい」
「おう」
人混みを歩いているとまだ背の低いイリスは危ないため、説明と断りを入れてから彼女を抱きかかえ町の中を歩いていた。露店を見つけて指をさしたのでそちらへ行き、購入しては食べながら歩いて回る。
前回まではそれで終わりなのだが、今回はあるところに行きたいと言われ共に探して歩いた。
「あった」
忙しなくあちこち見ていたイリスが指さした方を見ると、そこには裁縫店と書かれた看板があった。中に入り商品を見つつ、これはこんな感じとイリスから説明を受けその度に感嘆の声をあげる。
心から凄いな勉強したんだなと思っているこちらを分かってか、とても饒舌にそして熱心に説明してくれた。一通り見て終わったところで裁縫道具を持っているかと聞かれ、俺は持ってないよと答えると買った方が良いと力説される。
裁縫屋さんの店員そのものだなと思いつつも、たしかに毎回ほつれて誰かに直してもらう訳にもいかないな、と感じ購入することにした。縫い針と糸と糸通しなどの道具が入ったコンパクトなもので、これなら持ち運びしやすいなと思い購入することにする。
イリスはどれが欲しいと聞くと赤い布と糸を選び、これが欲しいというのでそれも合わせて購入し、裁縫道具セットが割と高く全部合わせて五十ゴールドの出費となった。
店を出てからどうするか考えたが歩きつつちょこちょこ食べており、イリスも今はもういらないと言うのでギルドへ戻ることにする。
「戻ってきました。稽古をしたいのですが」
ギルドについて受付にそう話すとこちらへどうぞ、とカウンター奥の扉を開けながら促された。いつも従業員の人たちが通るのしか見たことがないため、どうなっているのか興味津々で後に続く。
地下への階段を三回降りたところで、洞窟のようになった場所に辿り着いた。ギルドの建物を支えている柱が何本もあり、中にはとても大きな柱の束も見える。
「いらっしゃいませコーイチ殿。是非稽古にはここをお使いください」
奥の暗がりからランプを片手に人が現れた。右目に片眼鏡を付け白髪をオールバックにし、白のシャツに赤いネクタイ、黒のベスト黒のスラックスを着た老年の男性だ。
鼻が高く彫りの深い顔で若い頃はモテたであろうなと思しき人物は、近付くにつれ言い知れぬ凄みを感じる。イリスもそれに気付いたのか強くしがみ付いてきた。
「おっとこれは申し訳ございません。私の名はレオン・フォン・アドラーと申します。年寄り故つい漏れてしまったようで……。マイア、ひ……お嬢さんに上で美味しいお菓子を差し上げておくれ」
案内してくれた受付嬢にそう告げると、彼女はイリスに近付いて掴もうとしてくるが、これまでで一番早い動きをして肩車の位置に移動し頭にしがみ付く。
「いけませんな、やはり……このようなやり方、私の好みではない」
「お爺様……」
「イリス様、少々コーイチ殿と二人で話がしたいのですが、この爺やと彼を二人だけにしていただけませんか? 決して無理に連れて行ったりはしません、そう約束しますので」
先ほどまでと違う優しい笑顔を作り彼がいうと、しばらくしてイリスは元の位置に戻り受付嬢の方へ移り離れる。
冒険者ランク:ブロンズ初級
職業:二刀流剣士(初級)
魔法:生命力変換
仲間:イリス(護衛対象のエルフ族の子ども)
サジー(白毛で小さめの馬)
所持品
メイン武器:銅の剣(初心者講習修了記念品)
サブ武器:ショートソード(リックさんから頂いた初級講習完了記念品)
防具:布の服・ズボン・革の靴(初期装備)
アイテム:エリナから貰ったリュック(非常食、水、依頼書、身分証、支援金)
水晶の荒粒
コンパクトな裁縫セット
所持金:三十二ゴールド六十二シルバー




