第二十八話 黒騎士
「取り合えず私としては満足いった。首都へ向けて進むが良い」
距離を詰めてくるかと思いきや、そう言って剣を納めると放っていた強烈な気もなくなる。
「満足いって何よりです」
「取り合えずな。取るに足らない存在であれば目的を果たそうと思ったが、手合わせした結果、泳がせることにする。望みをいうのであればお前の存在によって、他の連中が痛い目を見てくれればと思う。人間族が格下で弱い存在だと舐めて掛かるなど、傲慢にも程がある。それではいずれ滅ぶしかない」
「あなたが王であれば改革は早く進むのでは?」
「余計な口出しは止めてもらおう。とにかく今後とも鍛錬に励むが良い。私が本気を出して相手をしたくなるくらいになってくれると良いがな」
どうやら合格し通してもらえるらしいが、王様になれば良いというワードは禁句らしく、食い気味に強めの拒否をされた。手合わせをしてみたこちらの感想としては、リックさん並みかそれ以上に腕の立つ人物であると言うことだ。
角が生えているがあれは兜についているものかもしれないし、蝙蝠の羽が無いと言う点から考えればエルフ族という可能性もある。どの種族にも尖った能力の持ち主はいるだろう。
「私のことは黒騎士とでも呼ぶと良い。あいにくそれ以外で部外者に呼ばれたことは無いのでな。七聖剣のリックにもそう言えば伝わるだろう。ではコーイチ、これからも鍛錬に励めよ」
黒騎士と名乗る人物は二歩ほど下がると景色の中に溶けて行く。なんとか脅威は去ったことで緊張が解け疲れがどっと襲ってくる。相手が真面目に戦う気が無かったから生きているが、殺しに来たのであれば間違いなく死んでいた。
戦う前から死ぬかもしれない、というのをこの世界に来て初めて感じたかもしれない。世の中広いなぁと思いながらサジーのいる場所まで戻る。
「帰って来た!」
「おおイリスおはよう!」
サジーが見える位置まで来たところ、荷車の荷台に立ったイリスがこちらを見つけ手を振った。軽く走りながら近付き何事も無かったかのように笑顔で返す。
「おかえり!」
「ただいま! 何もなかったか?」
「うん!」
見た感じ少しは元気を取り戻したようだ。少しほっとしつつ、なにか声を掛けようと思いついたまま言ってみる。
「なぁイリス」
「うん?」
「ずっとお別れじゃない、生きていれば必ずまた会える。よく寝て食べて勉強して遊んで、大きくなってまたあの町へ行こう」
「うん、また会いに行く」
イリスは俯き頷いた後でこちらを真っ直ぐに見る。吹っ切れた訳じゃないけど前へ進む意志が瞳に映っていた。小さくとも逞しいなと感心し頷いて鞍に跨り出発進行! と声をあげる。後ろから元気よく呼応する声が聞こえサジーもいななき、次の町へと三人で進んでいった。
黒騎士のような強い人物がうろうろしていたお陰か、その後誰も現れずタスラの町へ辿り着くことに成功する。ホッと胸をなでおろしながら馬車や馬が並ぶ列へ並び、順番が来るとチェックを受けた後で小屋へサジーを預け、町に入りギルドへ直行しここへ来るまでの出来事を報告した。
「え、あ、しょ、少々お待ちくださいませ!」
受付嬢はこちらの話が進むたびに青ざめ、終わると急いで後ろの扉の中へ入っていく。しばらくして戻ってくると宿を指定し地図を渡してきた後で、明日以降出掛ける場合はどこへ行くか教えて欲しいと言う。毎度毎度これだと面倒だなとは思いつつ、テロがあった直後だし仕方ないかと飲み込み、分かりましたと答えてギルドを後にする。
移動や泣きつかれたこともあってか、イリスは宿に着き部屋に案内され入ると欠伸をしていた。早めの夕食を頂いてお風呂に入らせてもらい、自分も疲れがどっとでたので二人でこの日は早めに就寝する。
冒険者ランク:ブロンズ初級
職業:二刀流剣士(初級)
魔法:生命力変換
仲間:イリス(護衛対象のエルフ族の子ども)
サジー(白毛で小さめの馬)
所持品
メイン武器:銅の剣(初心者講習修了記念品)
サブ武器:ショートソード(リックさんから頂いた初級講習完了記念品)
防具:布の服・ズボン・革の靴(初期装備)
アイテム:エリナから貰ったリュック(非常食、水、依頼書、身分証、支援金)
水晶の荒粒
所持金:三十三ゴールド三十八シルバー




