第二十七話 森の黒い気配
途中で石や棒を拾いイリスに当たらないよう荷台に置き、なるべく彼女を起こさないよう平坦な道を進んでいく。森といえば毎回盗賊が現れ道を塞がれるので、今回もそうなるだろうとは思っていた。
森に入るとサジーが何故か走りつつ周囲を気にし始めたので、そろそろ盗賊が出てくるのかと思いきや
「なんだこれは」
その盗賊が道の両脇に複数綺麗に並べられ倒れているのを発見する。サジーはその真ん中を恐る恐る進んでいくが、速度は徐々に落ちていく。
「止まっていいよサジー。イリスを頼む」
禍々しい気を感じたがサジーは突っ切ろうと速度を上げたので、そう言って止まるよう促し止まったところで鞍から降りた。第六感か野生の勘か分からないが、この先を少し行ったところに何か恐ろしいものがいる、そう何となく感じている。
行かない方が賢明だろうけど、盗賊の遺体を両脇に綺麗に並べていたのは、ここまで来なければ殺すというメッセージに思えた。深呼吸をしてから少しずつ前へと進む。
「よく来たな……変人コーイチだったか?」
兜を通して聞こえているのによく通る声の主は、道のど真ん中で剣腹の広い剣を地面に突き刺し立っている。全身を黒い鎧で覆い兜の額からは角が生えていた。魔族かエルフ族かはたまたそれ以外なのかそれはわからないが、前回の魔族やエルフ族とは格が違う相手だというわかる。
纏う禍々しさも段違いで、相対しているだけで鳥肌が立って震えが止まらない。明らかに自分は怯えていた。
「ふふ……やはり間抜けどもとは違うな。互いの力量差がなんとなく分かるだけでも、人間族にしては大したものだ。用件に関しては同じだが、私的にはそんなものは大した事ではない」
「……では見逃してもらえませんかね」
ダメもとで提案して見ると相手は少し間があった後で、体を震わせて笑い出す。
「良い度胸だ。恐らく何の意味もない提案だろうが、特別に考えなくもない」
「考えてもらえるとすれば、あなたにとっての大したことに関してでしょうか」
「察しが良いな。私として大事なのは、お前の強さだ。初見で魔族を圧倒してみせ、殺さずに潰したその強さを見てみたい。満足すれば見逃す」
イリスがいる手前逃げる選択肢は無いが、相手が見逃してくれる可能性があるなら全力で挑む。言葉で答えず剣を抜き、左手のショートソードを前に右手の銅の剣を後ろに引いて構えると、相手も地面から剣を引き抜き切っ先をこちらに向ける。
じりじりと距離を詰めて相手の間合い近くに入った瞬間、素早い上段斬りが放たれた。銅の剣で横から叩きつけ、剣を弾きショートソードを相手の喉元目掛けて突き出す。
相手は流された剣の切っ先を素早く下に向け、切り上げを放ち弾こうとしてくる。受ければ飛ばされると感じ、伸ばした突きを素早く引いて一歩下がって避けた。
がら空きの右わき腹を狙いショートソードで突きを放つが、相手も下がって回避する。短い静寂の後、再度相手が仕掛けてきて剣戟を交わす。
「なるほど……七聖剣のリックが鍛えただけはある。下級魔族やエルフ族が魔法も使わずにお前に勝とうなど、わざわざ殺されにいったようなものだな」
「そういう意味でも運が良かったんですよ」
リックさんもそうだがこちらを褒めている割には、まったく隙を見せてはくれない。相手は余裕をもって話していても、こちらはそれどころではなかった。
受けるという行動を出来ない為、いなすか避けるかしてこちらの攻撃を入れこもうとするも、それを難なく弾かれてしまう。
「私の部下であればそのような者たちは、戻ったその日に殺しているところだ。人間族だからと甘く見るような愚か者は、この先一族に害をなす」
「魔族やエルフ族は人間族を下に見ていると聞きましたが」
「……確かにな。魔族やエルフ族が地上を制圧出来ないのも、他種族を見下しているが故、そう言われればそうであろう。今回はエルフ族が魔族へ要請し受けたものなので、多少は他種族に対する見下しが改善したのではと思ったが、やはり先は長そうだ」
「魔族やエルフ族の全体がそうなるには時間がかかるでしょうね」
「まぁな。最も今回のことは人間族が先に動いたが故に、エルフ族も魔族を頼らなくてはならなかった、という情けない話なのだがな」
こちらの攻撃で有効なものはなかったが、相手はこちらのショートソードと銅の剣を受け止め、大きく息を吸い込んだ後で強く押してくる。堪えられずにそのまま足を浮かせて吹き飛ばされ、勢いが死んだところでバランスを取りながら着地した。
冒険者ランク:ブロンズ初級
職業:二刀流剣士(初級)
魔法:生命力変換
仲間:イリス(護衛対象のエルフ族の子ども)
サジー(白毛で小さめの馬)
所持品
メイン武器:銅の剣(初心者講習修了記念品)
サブ武器:ショートソード(リックさんから頂いた初級講習完了記念品)
防具:布の服・ズボン・革の靴(初期装備)
アイテム:エリナから貰ったリュック(非常食、水、依頼書、身分証、支援金)
水晶の荒粒
所持金:三十三ゴールド三十八シルバー




