第二十三話 不殺を志すなら
町を出て近くの草原で相対し、リックさんは近くで拾った木の棒を二本投げて渡してくる。筋トレやランニングは良いのかと聞いたところ、それはこれからの模擬戦で考えるという。
意図してはいないが結果的に稽古をサボってしまい、少し後ろめたい気持ちのまま打ち込んでいく。
「さすが実戦をこなしただけあって良い動きだ。魔族をも退けたと聞いた時は俺も鼻が高かったぞ」
実戦を褒めてくれはするものの、リックさんは余裕でこちらの攻撃をいなして避けており、嬉しくは無かった。
「まぁ前回より経験を積んで良くなったとはいえ、だ。殺さずというのは信念としては素晴らしいが、この腕でそれは相手にとっては侮辱と感じるかもしれんぞ?」
「リックさんなら出来ますか?」
「そうだな、俺は技量的に出来る。殺しなんてしたくないとは思うが、すべての相手がそうできる訳じゃない。終わらせるものをきちんと終わらせるのも、勝者の責任だと思っている。名も知らない奴に殺されたり処刑されるより、最後は七聖剣のリックと戦って死んだ方が良いとか希望されるし。仮にもしお前と同じ信念の元でそうするとしても」
鋭い切り上げがこちらの右手の棒に当たり宙へ吹き飛ばされ、唖然とするまもなく喉元に棒が突き付けられてしまう。
「完全に相手の気力も技量も思考すらも捻じ伏せるしかない。その為には高い技量を持っていることは大事だ」
「ぐっ!?」
素早く強い突きが鳩尾に入り、体がくの字に曲がると同時に呼吸が出来なくなり、さらに顎の先を擦るように棒で薙がれると視界が揺れ地面に突っ伏した。
呼吸ができ視界の揺れが収まったところで、抵抗を試みようと起き上がろうとした瞬間、素早い薙ぎ払いが両肘裏に入り再度突っ伏してしまう。たしかにこうされてはその場での反撃は無意味だと悟り、もう抗いようもない。
前回の魔族は魔法主体の遠距離タイプであり、こちらを格下と見て侮っていたから出来たと思っている。次は必ず同じようにはいかない。相手は次も襲ってくるだろうから腕を上げる必要がある、それを稽古で身をもって知れてよかったとホッとした。
「お前は俺との技量の差を知っているし、知り合いで殺されないと分かっているから降参しているが、そうでない相手なら喉元に剣を突き付けようが、死ぬまで突っかかってくる。特にお前の場合、他に優先しなければならないこと、例えばイリスを助けるには直ぐに行かなければいけないのに、相手は負けを認めない。その場合はどうする?」
「先ほどのリックさんのように気絶させる」
「出来るのか? という問題にぶちあたる。前回はお前を甘く見た上に得意な距離では無かったが、仮にそうでなかった場合、今のお前には気絶させる技術も力もない。となると」
「技量が無ければ殺すしかない……」
「そういうことだ。一度上手くいくと次も行けると思いがちだが、運だけで毎回なんとかなるもんじゃない。運を味方につける為にも基礎トレーニングは欠かせない、という訳で明日から森を走り回った後で剣の稽古をしよう」
「よろしくお願いします!」
「ただしあまり期間的な期待はしないでくれ。恐らく首都での準備もあと一週間程度で終わる。そうなればここを出るよう指示が来るはずだ。イリスにも伝えて心構えをさせておいた方が、俺は良いと思う。それじゃあまた明日」
リックさんはそう言って風のように去って行った。前回と違い今回は本気ではないだろうけど、少しは加減していない攻撃を受けられ良かったと考えている。七聖剣という字名を持つ彼の攻撃は、この世界でもトップレベルだと思っていた。
先に進むたびに強敵に阻まれるだろうし、それを考えれば本当に良い経験をさせてもらっている。一週間あるかないかの間にトップレベルの動きを記憶し、手が空いている時はイメージトレーニングでもしよう。
今後を見据えて頑張ろうと気合を入れつつ、生命変換を御腹と顎に当てながら町へ戻る。
冒険者ランク:ブロンズ初級
職業:二刀流剣士(初級)
魔法:生命力変換
仲間:なし
師匠:リック
所持品
メイン武器:銅の剣(初心者講習修了記念品)
サブ武器:ショートソード(リックさんから頂いた初級講習完了記念品)
防具:布の服・ズボン・革の靴(初期装備)
アイテム:エリナから貰ったリュック(非常食、水、依頼書、身分証、支援金)
水晶の荒粒
所持金:三十八ゴールド四十シルバー




