第二十二話 大人たちの都合
「早かったな、コーイチ」
先日のコボルト襲撃戦の際、初めて会った場所に彼女はお付きを連れて立っていた。
「遅れてしまったようで申し訳ありません、マチルダさん」
「いや、こちらこそ色々事情があって足止めさせてすまない。なかなか面倒な話が多くてな……依頼書を」
言い終わると不動のマチルダさんはお付きの人たちに対し、周囲を警戒しておくよう命じ彼女たちは離れ二人きりになり、依頼書を渡すと直ぐにサインして返してくれる。
「すまんな。魔族だけでなく首都襲撃犯の一人がイリスに接触を試みた、と知って上はてんてこまいなのだ。そのせいで二人には不自由をさせてしまっている」
「イリスはとても楽しそうにしています」
「そのようだ。怖い目に遭い続けだったから、こういう日が続いても良いだろう」
「彼女について具体的に教えてもらえることはありますか?」
「ないな。他人が語る真実より、コーイチは自分で確かめたいだろう? 本当はどうなっているのかを」
マチルダさんの言葉に冷や汗が出た。エルフの少女は幻術と特殊な薬と言っていたので、空間を封鎖していたわけではないし、俺が無効だったように他の人がそうであっても可笑しくない。
重要な人物を護送している男を、ただ野放しにしないのも考えれば当然の話である。ひょっとすると俺みたいな新人おじさんに依頼したのも、相手を油断させるための餌だった可能性もあるだろう。
ならば厳戒態勢を布いていると言うよりは、テロリストをおびき出し根絶やしにする、そのための足止めという気がした。
「具体的には言えんが、思惑は二重三重にある。君は気兼ねなくイリスと共に逗留し許可が下りたら首都へ向かってくれ」
「森への散歩のお誘いは受けた方がよろしいでしょうか?」
「任せる。それなりに給金は弾むし貢献度も上がるのでおすすめはするがね。ではまた会おう」
任せると言いつつギルド員ならば受けた方が無難、という会社的な指令を残してマチルダさんは去っていく。幸いイリスは防具屋のおかみさんが見てくれているし、彼女の危険を事前に取り払う面においても、森への散歩の誘いは受けておくべきだろう。
「やれやれ、思ったより変な立ち位置になったな」
一人木漏れ日を見ながらボヤキ、溜息を吐いてから町に戻る。今日はもう散歩は終わったので、ギルドに行って依頼書を出し倉庫の手伝いをと言うも、今日はのんびりしてくださいと言われ断られた。
二十シルバーを受け取りギルドを出るも、まだ陽も高いからイリスを迎えにも行けない。行っても良いんだろうがイリスを不安にさせるだろう。クビになったことを言えないお父さんみたいな感じで、居てもよさそうな場所を探した結果、中央広場のベンチを見つけそこに座る。しばらく人の往来を眺めていたところ、見覚えのある人が向かって来て隣に座った。
「よう、元気そうだな」
「……リックさんまで来るとは今日は凄い日ですね」
「悪いな面倒なことに撒き込んじまって。あの時点で信用が出来るのが、俺が直接稽古を付けたお前さんしかいなくてな」
「良いですよ自分でやると決めたことですから」
事ここに至っては、すべてがそうなるようになっていたと言われても不思議ではない。リックさんの稽古だけでなく、アヤメさんとの授業があったからこそ魔族に勝てたのだ。仕組まれたとしても、この世界で生きていける自信を付けてもらったので感謝をしている。
「俺が来たのは他でもない。ただ散歩してろなんてのは幾らなんでも酷すぎる、と言う訳で」
「稽古ですか?」
リックさんはニヤリと笑いながら立ち上がり、行こうぜと親指を立て横へ動かした。明日から毎日散歩するだけでお給料が貰える、というのは有難いが退屈で気が緩みそうだと思ったけど、稽古を付けてもらえるなら助かる。
冒険者ランク:ブロンズ初級
職業:二刀流剣士(初級)
魔法:生命力変換
仲間:イリス(護衛対象のエルフ族の子ども)
所持品
メイン武器:銅の剣(初心者講習修了記念品)
サブ武器:ショートソード(リックさんから頂いた初級講習完了記念品)
防具:布の服・ズボン・革の靴(初期装備)
アイテム:エリナから貰ったリュック(非常食、水、依頼書、身分証、支援金)
水晶の荒粒
所持金:三十八ゴールド四十シルバー




