第二十一話 大人の役割
倉庫へ着くとオーナー、一緒に働く人たちに謝罪した後で仕事を始める。今日は搬入する荷物が多く、皆と協力して場所を作りつつ整理しながら納め、さらに取りに来る業者へ渡し閉門まで作業をした。
帰り道、イリスを預かってくれている防具屋へ行くのに手ぶらではと思い、露店で前に食べたパリパリ串を買ってから向かうことにする。
「おかえりなさい」
防具屋へ行くとおかみさんが出迎えてくれる。頭を下げながらお礼を言いい土産を渡す。
「あら、わざわざありがとうございます。ちゃんとお代も頂いてるのに」
「わー! パリパリの匂いだ!」
匂いに釣られてイリスが走って来て、おかみさんの足に抱き着く。元々イリスは人見知りしない感じだけど、ここまで一日で懐くなんておかみさん凄いなと驚くも、子どもだからおじさんよりお母さんに近い方が良いよなとも思った。
「今日も楽しかったか? イリス」
「うん! 私明日からここで御店番するの!」
楽しく過ごせて良かったと思ったが、明日から御店番という言葉を聞いてきょとんとする。
「もし預ける先がないなら、うちで預からせてもらおうかと思って」
おかみさんがそう言いながらイリスの頭を撫でた。どうやら鍛冶の仕事というより裁縫に興味をもったらしく、隣で営んでいる裁縫店で今日は一日御店番をしつつ、裁縫を習っていたようだ。
ウェンディさん曰く、小さいのに大人顔負けの器用さでおかみさんに師事しつつ、お客さんのほつれを直したりしたらしい。出来れば鍛冶もと思いウェンディさんは懸命に教えたらしいけど、そっちの才能は無かったという。
「じゃあ明日からおかみさんに弟子入りするか?」
「いいの!?」
「おかみさんが良いって言ってくれれば、イリスの好きにして良いよ」
「お願いします!」
「こちらこそよろしくねイリスちゃん」
「やった!」
子供らしくイリスは喜び飛び跳ねた。正直な話、ここにずっといる訳には行かない。ギルドから移動許可が出ればすぐに首都を目指して出発する。依頼の達成条件がそうである以上、首都へは行かなくてはならないし日数も掛けられない。
別れの日を思うとしんどい気持ちになった。嫌がる彼女を無理やり連れて、サノンから出なければならないのだから。とは言え辛い目に遭わないよう、今の内から人々から遠ざけ一人寂しい思いをさせる、なんていうのは有り得ない。
だとしたら自分が出来ることはただ一つ。それは別れの日に嫌がる彼女を無理やり連れてここを去り、恨まれることくらいだろう。哀しい日が来るまでの間、彼女には思う存分楽しい日々を送ってもらいたい。自分が悪者になる覚悟を決め、おかみさんとウェンディさんに頭を下げて頼んだ。
「申し訳ありませんが、明日からイリスの事を宜しくお願いします」
こうして次の日から日中はイリスとは別行動になる。宿にまでの間や食事の時、寝る間際まで今日何をしてどう思ったかを話してくれた。とても楽しいし頑張りたい気持ちが伝わり、嬉しくもあり寂しくもあると言う不思議な感情に襲われる。
翌日、朝のルーティーンを終え、防具屋のおかみさんとウェンディさんにイリスを頼み、冒険者ギルドに赴くとイリスの件を伝えた。ハルさんからは少し間があった後で、複雑な表情をしながら問題ありませんと言われる。
彼女の反応の意味が分からず何かありましたかと聞くも、今日から森までなら出ても良いと許可が出ましたという、こちらからすると的外れな言葉が返って来た。立て続けに妙なことが起こる場合、それは偶然ではないと何かで聞いたことがある。
「そういえばコーイチさんにご指名の依頼があります。倉庫の方はこちらで断っておきましたので、今日はそちらをお願いします」
何が起こっているのか問いただそうとした瞬間、求めていた答えらしいものが返ってきた。この不可解な出来事は俺を指名して来た人間に聞けばいいらしい。分かりました受けますと答えると、ハルさんは依頼書を差し出してくる。そこには綺麗な字で
―前回の場所で待つ。
とだけ書かれていた。冒険者ギルドの依頼システムを利用して来たということは、エルフ族ではなくあの人しかいないだろう。ハルさんを見て頷きサインをし、その書類を持って該当の場所へ向かい町を出る。
冒険者ランク:ブロンズ初級
職業:二刀流剣士(初級)
魔法:生命力変換
仲間:イリス(護衛対象のエルフ族の子ども)
所持品
メイン武器:銅の剣(初心者講習修了記念品)
サブ武器:ショートソード(リックさんから頂いた初級講習完了記念品)
防具:布の服・ズボン・革の靴(初期装備)
アイテム:エリナから貰ったリュック(非常食、水、依頼書、身分証、支援金)
水晶の荒粒
所持金:三十八ゴールドニ十シルバー




