第十九話 イリス、怒る
気が付けばもう夕暮れを迎え、夕焼け空を見ながらイリスと二人でサノンの町を歩く。彼女を見ると凄く綺麗だねとほほ笑み、そうだねとこちらも微笑んで頷いた。
―私の姉は首都に幽閉されている。
あのエルフの台詞がふと頭の中に流れる。本来このくらいの年齢なら親と共に歩くものだろう。それは異世界だろうと変わらないはずだ。俺は首都について真実を知った時、出来れば変わらずに夕陽を眺めることが出来たらいいな、と思わずにはいられない。
「いこ?」
「あ、ごめんね。宿へ帰ろうか」
手をつないで宿まで帰り、お風呂を頂いてから就寝する。翌朝もイリスのいつものダイブで目を覚まし、宿で朝食を済ませて外へ出た。冒険者ギルドに洗濯を依頼できるらしく、それを利用しようと思ったのでイリスに替えがあるか聞いたところ、替えはまだあるから平気だという。
日常的な衣類の心配はないにしても、イリスも依頼を受けるとなれば防具が気になる。散歩がてら防具屋を探したところ、ギルドの近くにあったので入ってみることにした。
店に入ると同時に元気な声が飛び込んでくる。声の方を見るとバンダナを巻いて茶色のエプロンを付けた、小麦色の肌をした笑顔の少女がいた。
「子供用の防具……この子が付けるのかい? 子供に何させる気なんだ?」
子供用の防具が無いか聞いたところ、一瞬にして顔が曇りこちらに近付いて凄んでくる。説明しようと口を開くと同時になぜかイリスが間に入り、少女の膝を押し始めた。
「あ、イリスありがとう大丈夫だ。この人は勘違いしてるだけだから」
「勘違い?」
さすがに依頼のことは話せないので冒険者業をしつつ旅をしており、預ける先もないので一緒に行動していて危ないから防具が欲しい、そう説明すると少女はバツが悪そうに髪をくしゃくしゃし始める。
「悪い、勘違いしたんだな私は。お嬢ちゃんもごめんよおじさんに変なこと言って」
「むー」
謝ってもらっても納得できないらしく、押すのを止めてこちらの後ろに回り足にしがみ付いた。思えばイリスが不機嫌な顔をするのを見るのは二回目だな、などと呑気に思っていると少女は改めて俺とイリスに対し、申し訳無かったと謝罪してくる。
「分かってくれたらそれで問題無いよ。それより子供用の防具ってあるかな」
「それ用ってのはないんだが、お詫びも込めて私で良かったら作るけど」
作るといっても一からではなく、成人女性用の防具から仕立て直すという。予算の都合があり高すぎると買えないため、いくらかと問うと十ゴールドだと教えてくれた。
見ると大人の皮の鎧が一式で二十ゴールドらしく、半値なら問題無いと考え注文する。防具屋の女性がイリスの寸法を測ろうとするも、俺の足に顔を隠して嫌々していた。
二人で外に出る為に必要な物を買うからと説得するが、うんと言わず離れようともしない。どうやら先ほどのことが相当頭に来ているようだ。
仲の良い人が侮辱されたと感じたら怒るのは当然だと思うし、彼女にとって俺がそうであることに嬉しさを感じる。嬉しいがそれでは防具が得られないし、聞いた感じ他では買うことが出来なさそうなので、ここはイリスにお願いしてみることにした。
「イリス、俺はイリスと二人で町の外へお出かけしたいんだ。その為には防具を付けてないと心配で俺は寝れなくなってしまう。お姉さんも謝っていることだし、俺のお願いを聞いてあげるって感じで採寸させてくれないか?」
足にしがみついているので動けないが、立ったまま優しく語り掛ける。しばらくすると小さく頷き手と体を俺の足から離す。ゆっくりしゃがんで目線を合わせ、笑顔でありがとうと伝えるとイリスははにかんで頷く。
そこから防具屋の女性は素早く採寸し終わらせ、神に書き込んでいき直ぐに取り掛かると言ってくれた。ただ正確な日数を出せないので完成したらどうするか、と聞かれたので完成したら冒険者ギルドに知らせて欲しい、とお願いし名前を伝えお代を先に払ってお店を後にする。
「ねー私の鎧いつできるかな」
「早く出来るといいな。そうしたら二人で外へ出かけよう」
「うん!」
イリスは元気よくそう言うと手を振りほどいて走り出した。四日くらいでお別れになると思ったけど、色々なことがあってそれは長くなりそうだし、その間は彼女をなるべく楽しませてあげようと思っている。なるべく早く鎧が出来るといいなと思いながら、取り合えずギルドに顔を出すことにした。
冒険者ランク:ブロンズ初級
職業:二刀流剣士(初級)
魔法:生命力変換
仲間:イリス(護衛対象のエルフ族の子ども)
所持品
メイン武器:銅の剣(初心者講習修了記念品)
サブ武器:ショートソード(リックさんから頂いた初級講習完了記念品)
防具:布の服・ズボン・革の靴(初期装備)
アイテム:エリナから貰ったリュック(非常食、水、依頼書、身分証、支援金)
水晶の荒粒
所持金:三十七ゴールド九十シルバー




