第十六話 コボルト襲撃戦
「グォオオオ!」
他の冒険者と被らないよう走り続けていたところ、手に石斧と丸い盾を持った二足歩行の狼が飛び込んで来た。得物を抜きショートソードを先に突き出し牽制し、身構えたところに銅の剣を叩きつける。
ガシーンという音を盾が立てつつ、相手は少し離れた位置に下りた。バランスを崩したところを逃す手は無いと距離を詰める。
反撃しようとした相手は再度盾を構えるがお構いなしに叩きつけた。腕も痺れるだろうが動物ならば耳が良いので衝撃音も辛いはずだ。
「ギギギ!」
タイミングを見計らい横へ移動しようとしたが、それも想定済みで直ぐに回り込み叩きつけ続ける。二刀流であるためリズム良く隙なく叩きつけられ、それにより相手は逃げるタイミングを難しくさせていた。
「ウォー、ン!」
遠吠えを上げたが手を止めない。全力で叩きつけていると遂に頭部が現れ、そこ目掛けて思い切り銅の剣の腹を向け叩きつける。やってから気付いたが倒すなら刃を向けて振り下ろすべきであり、反射的にいつもの癖で刃の部分を向けるのを忘れてしまった。
相手はなんとか気を失ったようで倒れており、どうするかと考えながら見ていたところ、盾を持っていた腕に縄が巻かれているのを見つけた。急いでそれを解き、初心者講習で習った腕への拘束する際の巻き方を施し、盾を拾って足を持ち引きずりながら最初の場所へ戻ることにする。
「ほう……殺さずに戻って来たとはな。貴様は何者だ?」
「あ、えっと自分はアーの町の冒険者でコーイチと申します、マチルダさん」
最初に見掛けた位置にまだ不動のマチルダさんはおり、声を張り上げ味方を鼓舞していた。コボルトを捕獲したのでお付きの人に引き渡したところ、そう問われたので胸に右手を当て頭を下げ挨拶する。
「アーの町のコーイチ……なるほど、貴様がそのような散歩に行くような出で立ちで戦場に来て、功績を上げられたのも納得だな」
「え、どういうことでしょうか」
「少し耳を貸せ……あまり大きな声では言えんがな、私は七聖剣のリックの妻なのだ」
あまりの驚きに声が出そうになるのをなんとか手で押さえ、目を見開きながらマチルダさんを見た。考えてみれば自分くらいの年齢なら結婚して当然だとよく言われたが、異世界で生存競争が激しい世なら確実に可笑しな目で見られるのだろう。
また言われるのかもしれないとしょんぼりしつつ、自分を知っていたのはリックさん経由だと分かり、親近感が一気に沸いてくる。
「よくやってくれたコーイチ! まだ敵の数は多いから励むように!」
「はっ! 失礼します!」
「うむ!」
誰も知り合いがいない中で戦うのとそうでないのとでは、心持が全く違って来るなと感じた。しかも事情を知っている人となれば、何かあればイリスの力になってくれるだろう、そう勝手に期待して少し安心する。
「喰らえ!」
卑怯かもしれないがうろうろしていたコボルトを背後から斬りつけ、先ほどと同じように縄を撒きつけていたのでそれを外し、拘束してマチルダさんのお付きの人に渡した。何度かそれを繰り返しているうちに周囲にはコボルトの声よりも、彼らを探す冒険者の声の方が増えてくる。
そろそろ緊急依頼も終了かと思いながら、残党狩りを始めようとした時、足元に靄がかかっていることに気付いた。
―あら、勘が良いのね人間の癖に。
透き通るような美しい声が聞こえたと同時に、前方から光る何かが飛んできて回避に成功するも、逃すまいと次々と飛んで来る。なんとか避けつつ飛んでくる方向へ、正体を探るべく距離を詰めるため走った。
「……あなた本当に人間族なの?」
距離的には少し離れていたが、こちらも相手も視認できる距離まで来たところでそう問われる。相手はローブを着て顔も体も隠していたものの、背丈くらいある弓を持っており武器は確認出来た。
距離を直ぐに詰めたいが相手は距離があった方が良い武器だ。今距離を詰めても逃げられるだろうし、ここは適当に会話をして少しでも情報を引き出したいところである。ただ転生者ですなどといえば面倒になるので、それ以外に何かあるのかと聞くと笑い始めた。
「異変に気付いた程度か。それにしても私の幻術も特別調合した眠り薬も無視って異常よ?」
一頻り笑い終えた後で彼女は頭部の布を後ろへ引き、頭部が露になる。顔が見えるようになって驚いたが、見た目が髪をストレートにした感じのイリスだった。
「……エルフ族か」
「あなたじゃないけどそれ以外ある?」
「そうなると狙いはイリスだな」
「正解。物分かりが早くて助かるわ。ならこれも分かって欲しいんだけど、あの子をこちらに渡してくれない?」
冒険者ランク:ブロンズ初級
職業:二刀流剣士(初級)
魔法:生命力変換
仲間:無し
所持品
メイン武器:銅の剣(初心者講習修了記念品)
サブ武器:ショートソード(リックさんから頂いた初級講習完了記念品)
防具:布の服・ズボン・革の靴(初期装備)
アイテム:エリナから貰ったリュック(非常食、水、依頼書、身分証、支援金)
水晶の荒粒
所持金:四十八ゴールド(露店などで使った分は護衛代で回復)




