2
「ねえねえ、見て。アルメダ様よ。今日はシャーロット様と一緒だわ」
入学してからできた女友達のメリッサが言う。
入学前にアルメダ様に言われていたので、メリッサには婚約については話していない。
「アルメダ様は婚約者のいない領地持ちの伯爵だもの。シャーロット様の家も満足でしょう」
王立学校に入学して一週間もしたら、在学する優良物件の情報だって、耳に入ってくる。
アルメダ様は婚約者がいないと吹聴して、複数の令嬢と付き合っているようだ。シャーロット様はその中でも身分の高い公爵令嬢で、領地なしの家に嫁ぐことはない、らしい。
完全に狙われている。
伯爵位は伯爵位同士。その中でも領地を継承する伯爵は侯爵や公爵並みに大人気だ。
侯爵以上は親の爵位ではなく、生まれながらに別の爵位を与えられて、跡継ぎだけが然るべき時に親から爵位を譲られる。王子が全員、その国の王になれないのと同じ論理だ。
だから、伯爵位は身分が低いと言われる。親が伯爵なら、嫡出子全員が伯爵でも、それは代わりの伯爵がいるということだから。
侯爵以上の家は国主の爵位で、伯爵は非国主の爵位だ。同じ非国主の爵位の中では、伯爵という地位は天と言えて、その次の子爵は地に例えられるほど、地位が違う。
非国主の爵位でも、最高位の伯爵で、領地を継ぐ予定。国主の爵位の跡継ぎの次に魅力がある。
公爵家の跡継ぎにならない次男に嫁いだ立場より、いずれは領地持ちの伯爵夫人となる立場のほうが強い。公爵の次男の妻、公爵の弟の妻、公爵の叔父の妻。爵位で言えば、子爵夫人。子爵夫人では、公爵家との繋がりのほうが、実際の爵位よりも上だからだ。
公爵家の令嬢なら自国どころか他国の王族の血を引いていることもあって、引く手数多の筈だけど、実際は政略結婚の国策がなくては中々、他国には嫁げない。国内でも国主の爵位から探して、ようやく、領地持ちになる伯爵に行き着く。
王族や国主の爵位は他国の王女と結婚することが多く、公爵令嬢・侯爵令嬢はそこから溢れた跡継ぎになる令息を選ぶことになるからだ。
だからといって、私はアルメダ様に教える気はない。
アルメダ様は私より彼女たちと過ごすことを選んだのだ。
だから、私もそんなアルメダ様を選ばない。
金銭面で自立した女伯爵との婚約は、自分の財産を使わずに済む結婚だ。代わりに、持参金を自分の物として使い込むことも許されていない。
これは子爵令嬢や男爵令嬢との婚姻時も変わらない。
持参金は妻の生活費及び品位維持費を含む妻の財産である。
法律で妻の財産の扱いがどうであれ、妻の品位維持費すら使い込む男など、貴族としての面目も守る気がないのだから、爵位を返上して然るべきである。
でも、持参金を使い込まれても一緒に窮乏を耐えたい相手も居れば、実家に逃げ帰ることを拒否されて仕方なく一緒にいる場合もある。
アルメダ様の所業はたとえ、持参金を使い込まなくても一緒に居たくない。
◇
学校のどんなイベントも、私とアルメダ様には関係なかった。
模擬舞踏会ですら、アルメダ様は私を誘わず、他の令嬢を誘っていた。
そして、月日は流れ、アルメダ様の卒業の日――
その日の卒業パーティーにも、私は誘われなかった。私はまだ在校生だから出席する資格はなくても、婚約者なら出席できる。
けれど、アルメダ様は彼女たちを騙して夢を見せることを選んだ。
・・・・・・・・・私には関係ないことだけど。