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「王立学校に入学したら、他人として振る舞って欲しい」
仲が良かった筈の、婚約者との久し振りのお茶会でそう言われた。
ああ、そうなんだ。私は違和感に納得がいった。
王立学校に一足先に入学していく婚約者は、勉強や人脈作りで会えなくなることを不安に思っていた。
それでも、手紙だけは毎週、送ると言っていたけど、それは三ヶ月も続かなくなり、私の入学を前に今日のお茶会の誘いが来た。
ああ、そうなんだ。久し振りに会った婚約者は時間の無駄とばかりに、さっさと切り上げようとしている。
ああ、そうなんだ。私の気持ちも変わっていた。同じ王都に住んでいて、出かける先もほぼ同じである私たち。婚約者が私以外の令嬢と出歩いていることも見かけていたし、噂だって、ご婦人方のお茶会で流れている。
ああ、そうなんだ。だから、私は仲が良かった筈だと思ったのか。仲が良かったのは婚約者が入学する前までで、今はそうじゃない。
ああ、そうなんだ。だから、私はショックなんて受けなかった。もう、わかりきっていた結果だったから。
「わかったわ。久し振りに顔も見れたし、もう、帰ってくれる?」
私の変化にも気付かず、放たれた矢のように帰っていく婚約者。きっと、会いたい相手に会いに行ったんだろう。
仲が良かった婚約者より会いたい相手か。
この婚約は大きな事業が絡んだものじゃない。
この国の伯爵の嫡出子は全員、親と同じ伯爵位を生まれながら継承し、財産も成人と同時に均等に継承される。
男だから女だからといっていては、お家乗っ取りで家門が途絶えるからと、男女問わず生まれながら爵位を持つ。
だから、教育も男女共に同じように受けて、家計簿がつけられない令嬢令息はいない。でも、令嬢は剣や戦術などは習わないが、令息だって薬草の種類や傷の手当ての方法なんて習わない。
だから、私は女伯爵だし、婚約者も伯爵である。ただし、伯爵名はファミリーネームを使う。
男女共に爵位も財産も相続するから、婚約する令嬢の家が裕福であれば、自分が相続した財産を領地運営や投資に回して没落を逃れられる。
だから、大きな事業が絡んでいなくても、婚約する令嬢は相続財産=持参金の観点から、伯爵同士の婚約が好ましい。自分が金銭面で苦労しない為に。
でも、婚約者は王立学校で、私より大事な令嬢ができたのだろう。
婚約解消を言ってこないのは、持参金が望めないからだろう。
同じ財産目当ての結婚なら、気が合って、私を大事にしてくれる相手がいい。
今の婚約者なんて、絶対に選ばない。