夜よ、月よ
銀の雲に金の月は宿る
垂れ込める光と
地上に落ちるささやかな影
夜香木の薫りは重く
這うように漂いながら
この夜を湿らせる
ひと知れぬ不安が
胸底に沈み
小さな泡を立て
息を潜める
雲を掻く風のひとすじ
あらわになる月の肌
とりとめのない記憶が
照らされては陰り
蛍火のように揺れている
誰も彼も
ここにいて
もうここにはいない
薄衣を捲るように
時を駆けた
風のなかの
いくつもの夜よ
巡りゆく月よ
遺された言葉はなくとも
足跡を重ね
この寂しさをすくい上げるように
皆 あなたを見ていた