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2日目③

 自殺したその子の中学の同級生曰く、すごい大人しくて優しくてそしてしっかり者で、一言で表せば人格者とか聖人って感じの子だったらしいです。まさに虫も殺さないって言葉がそのまんま似合うような。


 さっき言ってたみたいに、原因がいじめなのは間違いないです。

 いじめが始まった正確な時期は分からないですけど、確か入学してから二週間も経たない内に起きてたって聞きました。

 もう戦慄を通り越して笑うしかないですよね――あ、勘違いしないでくださいよ。この笑いは絶望したときに働く防衛反応と同じですから。乾いた笑いってやつです。


 だって入学して二週間ですよ?

 普通はまだクラスメイトの名前を覚えてる段階なのに、そんなほぼ見ず知らず状態の相手をいじめるとか意味不明じゃないですか。

 あまりに残酷で……言葉も出ない。


 噂によるといじめの発端は、その女子生徒が同じクラスの男子生徒の告白を断ったことだったらしいです。

 どうやらその男子生徒が入学と同時に一目惚れしたみたいで。

 すごいですよね。入学して一週間以内に、ほぼ他人相手に告白するなんて。

 結果はまあ、当たり前っちゃ当たり前ですけど、その男子生徒は例の女子生徒に怖がられ、見事にフラれたというわけです。聞いた話じゃ、その男子はそれが初めての失恋経験だったそうで。

 

 なるほど、その男子生徒が逆上していじめたんだなって?

 半分正解で半分間違いです。

 そのとき、男子生徒は特に何もしなかったんです。ただ本人が打ちのめされただけというか、落ち込んだくらいで、それ以上は特に。

 問題はその二人と同じクラスにいた別の女子生徒です。


 なんか紛らわしいので、亡くなった女子生徒を女子生徒A、もう一人の女子生徒Bと置きますね。


 女子生徒Bは、その男子生徒と同じ中学出身で、二人はとても仲が良かったみたいで。それどころか女子生徒Bはその男子生徒のことが中学の時からずっと好きだったらしいんですよ――でも振り向いてもらえなかった。そんな彼女に同じクラスの誰かも知らない女子生徒Aが、その男子生徒に告白されて、さらに断ったという知らせが来るわけです。

 屈辱、憤怒、嫉妬。

 きっと激しい感情が臨界点に達して暴走したんでしょうね。


 そうです。

 いじめは女子生徒Bによって始まったんです。

 一応噂ではありますけど、まあこれは確定してるようなもんですね。 


 それでこのいじめには最悪な点が三つあるんです。

 一つは女子生徒Bがクラス内カーストのトップ、つまり頂点(バラモン)だったんです。

 その結果、Bの機嫌を損ねぬよう、クラス内の女子たちは皆、Aを一緒になっていじめたんです。

 ただBがやれと言うから、自分がその対象になりたくないから。いじめる理由もないのに、周りに合わせて……。

 ダチョウかよって。


 二つ目は例の男子生徒もいじめに加担したことです。

 初めは女子内だけの出来事だったらしくて、まだマシだった――いやそんなわけないんですけど、それでもそれだけで終わっていたらまだ良かった、って誰かが言ってました。

 さっき言ったみたいに、元々男子生徒の方には復讐しようとか、そういうつもりは全くなかったみたいなんです。

 でもある日、Bがその男子生徒を焚きつけた。

 詳しいことは知らないですけど、まあ、多分男子生徒の初失恋で傷ついた心に付け込んで色々と煽り立てたんでしょうね。

 そうして男子生徒もAをいじめるようになった。


 そして最後は、その男子生徒もクラスの一軍だったこと。

 簡単なことですよ。

 女子たちに起きたことが男子たちにも起きたんです。

 ついにその男子生徒がいじめを始めたことで、その暴虐の渦はクラス全員を呑み込んだんです。

  

 1年6組には、誰一人Aの味方はいなかった。

 

 え?

 教師は気づかなかったのか、ですか?

 秋野さん、最近の子供は狡猾なんですよ。大人には見えないところでバレないようにやるんです。しかも高校の教師って授業時間以外はほとんど教室来ないですからね。余計に見つかりませんよ。 

 それに先生たちも入学二週間足らずでいじめが起こるなんて考えないんじゃないですかね?

 普通。


 それになんでもAは、最後まで抵抗も、助けを求めたりも何もしなかったそうなんです。

 多分、被害者が声を上げるってのは難しいことなんでしょうね。言いづらいってのもあると思うんですけど、そういう過酷な場に置かれると脳が正常な判断をできなくなるって言うじゃないですか。

 あとこれは俺の勝手な想像なんですけど、彼女は性格上、悩みとか問題を全部自分だけで抱え込んでしまうタイプだったんだと思うんですよ。

 ほら、大人しくて優しい人ってなんかそういうイメージありませんか?

 

 それでまあ、Aはクラス全員からいじめを受けていた。

 具体的に何が起こっていたのかは知りませんが、最後の方は本当に酷かったらしいですよ。

 その凄惨さに調査した大人が嘔吐したとかしないとか。


「さて、この結末ですが、それは秋野さんも知っている通りです。いじめが始まってから約二カ月後。確かちょうど今くらいの時期にAは自殺しました、この教室で」


 俺は一度息継ぎをした後、天井を指差した。


「あそこに何かが抜かれたような跡があるじゃないですか。あそこには元々プロジェクタースクリーンを引っかけるための金具があったんですよ。Aはそれを使ったんです。それにロープを固定して、首を吊ったんです。早朝、学校に忍び込んで、そのまま。見つかったときにはもう……」


 言葉の続きを飲み込んだ。

 わざわざ言う必要もない。


「――以上、俺が聞いた話です」 

 

「……なるほどな。そして、その最終的な処理として、教室の入れ替えとお祓いというか供養の儀をしたわけだが……その最後の最後でミスった、と。ったく、詰めが甘ぇんだよ」


 秋野さんはブツブツと呟くと、大きなため息を吐いた。

 しばらくの沈黙が教室を包む。遠くで響く運動部の掛け声や体育館の床がバタバタと踏まれる音が微かに聞こえていた。


「……胸糞悪ぃ話だな」


 唐突に秋野さんは言った。

 その声は、いつもの軽い調子ではなく、どこか静かで冷静な響きを持っていた。


「そうですね。入学すぐにクラスメイト全員からの加害、そして二カ月で自殺……前代未聞としか」


 自分で言っていて、改めて胸の奥が重くなるのを感じた。

 こうして言葉にすると、一連の出来事の異常さが際立つ。


「相変わらず人間ってのはいつの時代も非合理的に残酷で愚かだな。それで、結局1年6組のやつらはどうなったんだ?」


「刑事的な方は知りませんけど、とりあえず退学処分で全員この学校から去りました。当時はびっくりしましたよ」


「まあ、当然だな」


 秋野さんはそう言うと、机の上をじっと見つめた。その視線の先は、おそらく花瓶に入った花に向けられていた。


「――お前が聞いたとおり、死んだその女子生徒は本当に優しいヤツだったんだろうな」


「え?」


「普通、こんな死に方をすれば、憎悪で死ぬに死ねず、怨霊の類になってもおかしくねーんだよ。というかこんな非業の死を遂げりゃ、規模の大小問わず大抵の人間はそうなる。恨みつらみを抱えてこの世にしがみつく魂なんてのは、昔からよくある話だ」


 秋野さんは、ふっと息を吐きながら天井を見上げた。


「けど、そいつはそうはならなかった。さっきも言っただろ? ここに霊魂はいない。ここにあるのは残留思念だけ。多分、優しすぎたんだろうな。怨んで呪って祟るなんて発想そのものを、死の間際ですら持たなかったんじゃねぇか? だからこそ、普通なら怨霊になるような状況でも、意識を伴う魂そのものは何事もなく成仏しちまったというわけだ……ただな――」


 そう言って、秋野さんは机をトンと叩く。


「人間ってのはそう単純にできちゃいねぇんだ。そいつがどれだけ清廉潔白だったとしても、そんだけの仕打ちを受けて、何の怒りも怨みも抱かなかったなんてことは心を持つ人間である以上ありえない。少なくとも、心の奥底では、何かしらの負の感情が生まれていたはずだぜ。ただ、そいつはそれを意識することすらしなかった……いや、したくなかったのかもしれねーな。優しすぎたがゆえ、そんな感情を持つこと自体が忌避される行為だったのかもな」


 一拍置くと同時に、秋野さんは改めて教室を見回した。


「でもな、そうやって抑え込んだからって、一度生まれた感情は簡単に消えやしねぇよ。きっと、そいつ自身が気づかないところ――無意識の領域に沈んでいったのさ。怒りも、憎しみも、復讐の衝動も、全て。人は窮地に陥ると、自分が壊れないように認識を都合よく変える。それも相まって、こういった激情は彼方へ追いやられたんだろう……でだ」


 秋野さんは指を鳴らす。その音が、教室に妙に響いた。


「その結果、そいつ自身の意識や自我の根源、つまり魂は穏やかに成仏したってのに、その奥底で燻っていた黒い何かだけが、この場に残ったってわけだ」


「なるほど……」


 そう言葉を返しながら、胸の奥に冷たいものがじわりと広がっていくのを感じた。

 この教室に入った時から感じていた違和感、それが何なのかようやく理解できた気がする。

 ここに染み付いているのは、人間が理性で抑え込んだはずの負の感情。

 本来なら、本人が向き合うべきだったはずの何かが、こうして形を持たずに残り続けている。


 そう考えた瞬間、背筋が一層冷えた――それに頭も少し痛む。

 

「ようやくすっきりしたぜ。この教室に入った時から気になってたんだ。普通、ここまで強い邪気だと怨霊の類になるはずなのに、どうしてここに満ちていたのはあくまで邪気だったのかってな」


 秋野さんは大きく息を吐いた。


「それがおそらく、死んだヤツの優しさが原因だったとは……ったく、経緯から結末まで、何から何までその全てがひでぇ話だったな」


 そう言いながら、秋野さんは軽く首を回し、肩を鳴らす。さらに腕を十字に組み、今までじっと突っ立っているのに疲れたのかストレッチをし始めた。

 

 切り替えの鬼だ。

 俺は一連のやり取りでブルーな気持ちになっているというのに。

 この人はもう既に、シリアスな雰囲気をまとっていない。

 さっきまではまるで人を睨んでいるかのような鋭い真剣な表情だったのに、いつの間にか、人を小馬鹿にするような笑みをうっすらと浮かべるいつもの秋野さんに戻っているじゃないか。


「さて、と」


 秋野さんは、机の上の御札に手をかざす。

 俺もつられて視点が動く。


 そうだった。

 結構語っちゃって忘れかけてたけど、俺たちはこの御札が邪気を吸い取るのを待ってったんだった。

 

「もう終わりですか?」


「いやまだだ。あともう少しかかる」


「了解です」


 俺は時間を確かめようと、黒板の上に目を向ける。

 ふむ。

 このペースなら、生徒が校舎から出てきても何の違和感もない時間に学校を脱することができるだろう。先生が教室の戸締りをして回る時間まで相当あるし、この分なら侵入がバレることなく終われそうだ。


 カー。

 窓の外でカラスが鳴いた。

 何度目かの静寂。

 秋野さんはじっと御札を見つめ、俺もそれにつられるように黙る。

 こんな風に、何も喋らずただ待つ時間が妙に長く感じるのはなぜだろう。

 

「あの」


 俺は思い切って声を出してみた。


「お、どうした?」


 秋野さんはキョトンとした顔で俺を見た。

 こういう会話間の沈黙を破るのは大抵秋野さんからだったので、少しばかり驚いたのかもしれない。


「昨日、見殺しの話をしたじゃないですか」


「ああ、したな」


「実はあのとき、この事件のことを思い出してちょっとドキッとしたんです」


 昨日の秋野さんとの会話がやけに胸の奥に引っかかるのを感じる。

 でも――すぐに首を横に振る。


「あ、でも、決して見殺しをしたとかそういうわけじゃないですからね。というかさっきも言いましたけど、俺はこの事件とはほとんど無関係ですし。そもそも、自殺によって事件が表に出るまで、少なくとも俺たちの周りはそんなことが起こってたなんて知らなかったんです」


「ほう?」


「当時の俺は1年1組だったんですけど、ほら、1組って6組とちょうど廊下の逆サイドにあるじゃないですか。物理的に6組の情報が一切流れてこなかったんですよね。それに、結末を迎えたのだって入学二カ月後ですよ? ようやくクラス全員の顔と名前が一致してきたって時期なのに他のクラスに関心を向ける余裕なんてなかったんです。せいぜい隣のクラスと交流を持つぐらいが関の山です。現に今でも、元6組の生徒なんて誰一人思い出せないですし」


 俺は早口で捲し立てた。

 まるで無罪であると必死に弁明するかのようだと自分で思った。

 

「――だから、仕方なかったんです。見殺しどころか、何も知り得なかった」


「それならなんで見殺しのくだりで思い出したんだ? 無関係なんだろ?」


「そうなんですけど、いくら知らなかったとはいえ同じ学年で起きたことである以上、それもある種見殺しだ、と言われたら確固たる自信を持ってその全てを否定できない気がして。それで昨日は、まさかそのことを責められてるんじゃないか、っていうのが一瞬脳裏によぎってちょっとドキッとしたんです」


 苦笑する俺に対して、「ふっ」と秋野さんは鼻で笑った。

 

「なるほどな。まあ、変に歪んだ見方でもしねぇ限り、それが見殺しだとは、ボクも含めて流石に誰も思わねーだろ」


 秋野さんは腰に手を当て、ゆっくりと息を吐いた。

 まるで煙草の煙を口から吐き出すように。 


「そうですよね」


 俺は秋野さんのスラっとした佇まいを観察しながらそう言った。

 チクタクと、時計の針の音とともに時間は過ぎる。


「あ、そういえば」


 不意に俺はあることを思い出した。

 その拍子に、言葉が口から漏れ出てしまった。


「今度はどうした?」


 怪訝そうな顔が向けられる。


「すっかり忘れていたことを思い出しまして」


「気になるな。教えろよ」


「別にいいですけど……いや、この事件と直接関係がある話ってわけじゃないんです。ただ、鈴美が転校してきたのって確か、この事件の直後だったなーって……」


 当時、自殺が発見されてからすぐに警察が介入し、翌日から現場検証だかなんかの関係で1週間ほど休みになった。

 鈴美が転校してきたのはその休み明け初日だった、気がする。

 

「それに、俺の周りから友達が徐々にいなくなり始めたのも、ちょうどこの事件を境にして起こったような気がするなーって……まあ、それだけのことですよ」


「それだけって……お前、自分で友達がいなくなった原因を探ってないのか?」


 冷めた目つきで秋野さんにじっと見つめられた。


「いや、別に完全に忘れてたってわけじゃないですから! ただ完璧な時期、というか、この事件と結びつけて記憶してなかっただけです。ほら、一緒に覚えたら、この嫌な事件を毎回思い出すことになるじゃないですか。それが嫌だったんですよ。だから敢えて曖昧に記憶してたってだけです」


「はあ……なるほどなぁ」


 首を傾けながら、秋野さんは言った。

 無駄に抑揚のある声だったが、それは納得して感心でもしたからなのか、それともただ釈然としない気持ちの表れなのか、果たしてどっちなのかはよく分からなかった。


「お、そろそろだな」


 秋野さんはそう言って、再び御札に手を伸ばした。


「今度こそ終わりですか?」


「ああ……そうだな。どうだ、邪気が消えたのが分かるか?」


「そんなの分かるわけ――」


 ん? 

 いや待て。

 まさかな。


 周りへと感覚を研ぎ澄ませながら深呼吸をしてみる。

 すー。

 はー。 

 あれ……?


「……確かにさっきよりも気持ち空気が澄んでる気がします。それに、文字通り肩の荷が下りたような」


「だろ? もう、この教室に邪気――つまり、死んだ生徒の残留思念は残ってない。綺麗さっぱり浄化完了だ」


 秋野さんは御札の端を指でつまんだ。


「取っちゃうんですか?」


「ああ。もう役目は終わったからな」


 その一言とともに、御札が机の上から取り除かれた。

 つままれて宙ぶらりんになった御札が、ペラペラと揺れる。

 俺が、


「それ、どうするんですか?」


 と聞くと、


「こいつは今、たっぷり邪気を吸い取って、さながらちょっとした呪物みたいなもんだ。もし何かあって悪用でもされたら困るから、ボクが持って帰ってさっさと然るべき処理をするのさ」


 と秋野さんは言って、使用済み御札をポケットに突っ込んだ。


「これで、今日の活動は終了ですよね。バレない内にさっさと出ましょうよ」


「いや、ちょっと待て」


 そう言って、今度はさっき御札を入れた方とは逆のポケットを弄る秋野さん。

 ポケットから手を抜くと、そこにはまた、もう見慣れた書体の文字と紋様が装飾された紙切れが指に挟まれていた。


「最後にこいつを貼っておく」


「まーた御札じゃないですか。今度は何なんです?」


「これは、まあ、保険みたいなもんだ。ないとは思うが、万が一またここに悪い気が溜まったら、今度はこいつが防いでくれる」


 秋野さんは四つん這いになって、机の下に潜り込んだ。


「こいつを、元々鎮魂の札があったとこに貼って――よっと。これで、今度こそ終わりだ」


 身体をほぐすような動作をしながら秋野さんは立ち上がり、制服についた埃をパンパンと手で払った。

 そして彼女は両手を腰に当てると、満足気な顔で頷いた。

 特に何かをしたわけでもないけど、俺もつられて一仕事終えたような満足げな表情になってしまった。


「さて、撤退するか。行くぞ、三国」


「あ、はい」


 相変わらず行動に移すのが早い秋野さんの背を追った。

 そうして俺は旧1年6組を後にした。


 退室する際、鍵はかけなかった。

 というよりも、かけられなかった、というのが正しいだろう。

 秋野さんに、なぜ鍵を閉めないのかと訊いたところ、


 ――ピッキングのやり方はそこら辺に転がってるけどよ、開錠じゃなくて施錠のやり方を紹介しているのをお前はこれまでに一度として見たことがあるのか?


 と返された。

 なるほど。

 盲点だった。


 また、それと同時に、


 ――どうせほっといても、花に水をやってる教師が勝手に施錠してくれるだろうし、それにもうあの教室は他と何ら変わりない教室だから、別に誰かが入ったところでもう何の問題も起こるまい。

 

 とも言っていた。


 結局俺たちは誰にもバレることなく学校を脱出し、最終的に神社の前で解散した。

 昨日みたく自転車で送ってあげようとしたが、すぐ近くにバス停があるから大丈夫とのことだった。

 そういえば学校の北側に、学校の名前を冠したバス停が堂々とあったっけな。

 俺は最後に、秋野さんと次会う日にちを再確認してから帰路に就いた。

 

 しかし、さっきからずっと頭痛がする。

 まあ、とはいっても大層なもんじゃない。

 ただ脳の奥をちょっとチクチクされるような、何かが疼くような、そんな感覚。痛みというよりも、むしろ、違和感。

 最初に感じたのはお祓いの最中で、今もそれが治まらず続いていた。

 

 風邪の初期症状だろうか。

 俺にしては珍しく、明日も、来週も、予定が詰まってるってのに。

 

「今日はさっさと寝よ」


 独り自転車を漕ぎながら、そう呟く俺であった。

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