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2日目②

「あの、とりあえず学校の敷地内には来ましたけど、その別件とやらは具体的に何をするんですか? というか俺は何をすれば」


「今日やることを簡単に言うと、そうだな……お祓いだな」


「お祓い、ですか」


 あれ?

 結構普通だ。

 あ、いや、全然普通じゃないんだけど、ただ異変探しとかいう意味不明なものと比べて聞き馴染みがあってイメージしやすい。

 お祓い棒でも持って祈りを捧げるんだろうか?


「それで、俺は一体何をすれば」


「とりあえずボクが言う場所へ案内しろ」


 学校の案内……って、これもう完全に不審者の手引きだよなあ。

 でもまあ、こんな不法侵入者を連れてきた時点で既にアウトではあるんだけど。

 

「分かりました。して、どこに案内すればいいんです?」


「1年6組の教室だ」


 1年6組……。

 秋野さんも”お祓い”なんて言ってるし、もしかしてあの事件に関わることだろうか?

 でも、だとしてももう二年も経ってるのに今さら何をするんだろうか。

 それに噂話じゃ、全てきちんと処理を施したって聞いたのに。


「おい、どうした?」


 黙って突っ立っていた俺に、秋野さんが声をかける。


「あ、いや、なんでもないです。ほら、案内するんでついて来てください」


 まあ、どちらにせよ行けば分かることだ。

 俺は秋野さんを先導するように歩き出した。


 既に部活動が本格的に始まっているようで、グラウンドや体育館、校舎内(主に音楽室)から騒がしい音が聞こえてくる。

 そんな喧騒の中、俺たちはとりあえず校舎に入るために昇降口へと向かった。

 

 次に、下駄箱で靴をスリッパに履き替える。

 もちろん秋野さんのスリッパはないので、どうするのかと思っていたら、なんと彼女はサイズの合いそうな誰のかも知らないスリッパをてきとうに引っこ抜き、何も言わずそれを勝手に履いた。

 モラル……。


 さて、我が校の()()の1年6組の教室は少し変わっている。

 この学校では、一学年ずつ階ごとに西側から廊下に沿って教室が1から6まで順にナンバリングされているのだが、一年生のクラスがある一階だけ、最も西にある教室が1組ではなく6組になっているのだ。

 つまり、6、1、2、3、以下順番となっているのである。

 

 加えて、より細かな教室とその他の部屋の位置関係に言及すると、現在の1年6組は単純に1組の西隣にある、というわけではない。

 二、三年のフロアと照らし合わせるとすぐに分かるが、1年6組があるのは、他の階では多目的室となっている最西端の空き教室がある場所にあるのだ。

 

 本来の並び順をより詳細に記すと、〔多目的室〕・〔教科準備室〕・〔1組〕・〔2組〕・〔3組〕以下略となるのだが、一年生のフロアだけ、〔6組〕・〔教科準備室〕・〔1組〕・〔2組〕以下略となり、本来6組がある最東の教室が多目的室になっているのである。


 俺は秋野さんを引き連れ、違和感のあるフロアを案内する。

 終業の時刻からはそこそこ経っていたので、教室のある棟にはほとんど人は残っていなかった。

 

「はい、着きましたよ」


 6組の扉の前で俺は立ち止まり声をかけた。

 ちなみに6組には出入口が一つしかない。

 廊下の突き当りに引き戸が一つだけ。


「ふ~ん。ここが1年6組ねぇ……」


 秋野さんは怪訝そうな顔つきで、閉められているその扉を舐るように見た。

 そして秋野さんは、 


「とりあえず入るか」

 

 と言って、扉に手をかけた。


「あ、ちょっと」


 俺の制止も聞かぬままに、秋野さんは勢いよく扉を開け放った。

 

 グゥァッターン!

 扉が凄まじい速度で壁に激突し、発砲音の如き轟音が鳴り響く。

 

 うるさっ!

 なに考えてんだこの人は!?

 扉をぶっ壊す気か!?

 

 秋野さんは表情を一切変えることなく、ずかずかと教室に闖入(ちんにゅう)していった。

 俺もすかさず教室に入る。

中に誰もいませんようにと祈りを捧げたが、その祈りは届かず、教室の中には初々しい一年生二人が残っていた。

 おそらく談笑でもしていたんだろうが、今はビクビクと文字通り身体を震わせながら、怯えた目でこちらを凝視している。


 あーあ、可哀想に。

 すげー怖がってるよ、一年生。


 教室に入ると、秋野さんはキョロキョロと忙しなく辺りを見回して言った。


「おい、三国」


「なんでしょう」


「ここ、本当に1年6組か?」


 秋野さんは俺に背を向けて立っている。だから表情から彼女の感情を読み取ることはできないが、その声色からは困惑している様子が見て取れた。


「そうですよ。ほら、そこの掲示物とかにもちゃんと書いてあるじゃないですか」


「うーん、っかしーなあ……」


 秋野さんは目を伏せ、顎に手を当てて言う。


「どうしたんですか?」


「いや、どーもここには邪気の一つも感じねぇんだ。ボクの情報に間違いがなきゃ、そんなはずねーんだが……」


 なるほど。

 どうやらこの教室の状態は秋野さんが想像していたものとは違うらしい。

 

 ――だろうな。

 最初からそんな気はしてたけどやっぱりそうだった。

 おそらく秋野さんが求めたのは”現”1年6組ではない。

 ”旧”1年6組で間違いないだろう。


「秋野さん、ついて来てください」


「お?」


 俺は秋野さんの手を強引に掴んで引っ張った。


「ついて来いっつったって、どこに行くつもりだ?」


「秋野さんが求めてる方の1年6組ですよ。案内します」


 俺はそう言って、完全に怯え切っている一年生のためにも急いで現1年6組から退出し、今度はその廊下の最東端に向かって歩き始めた。


「あ、おい! 待てよ三国!」


 後ろから秋野さんが戸惑いながらついてくる。

 まるで立場が逆転したみたいな感覚だ。

 

 秋野さんは、いい加減にしろ、と言った感じで俺の手を振りほどくと、すぐさま俺の横に並んだ。


「それで、どういうことだ。さっきのとこが1年6組じゃねーのかよ」


「秋野さんの目で確かめてもらった通り、もちろんそうですよ。でも、実は1年6組は二つあるんです」


「二つ?」


 秋野さんが眉を顰める。


「まあ、二つって言うとちょっと違う気もしますけどね。何て言うか、さっきのとこは現、というか新1年6組なんですよ。実は1年6組は一度場所が変わってるんです。。元々は他の階と同様、廊下の一番東にある教室がそうだったんですけど、ちょうど二年前、一番西にあった、つまり今の1年6組がある場所に本来あった多目的室と入れ替わるかたちで配置が変えられたんです」


「へぇ……」


 秋野さんが興味深そうに相槌を打つ。


「それで多分、秋野さんが言ってるのは、配置が換わる前の1年6組、つまり旧1年6組のことだと思います」


「もう一度訊くが、場所が変わったのは二年前なんだよな?」


「そうです」


「ふーん……そうやって処理したわけか……。なるほどな。大方理解したぜ。お前の言う通り、ボクの用があるのはその旧6組とやらで間違いなさそうだ」


 秋野さんは小刻みに頷いた。

 

 廊下の東端の教室。

 扉の上には、”多目的室”の室名札が付けられている。


「ここが旧1年6組なんですけど、どうですか?」

 

「明らかにここから()な気配を感じるぜ。間違いねぇ」

 

 教室の扉を眺めながら秋野さんは言った。

 俺には彼女が言う嫌な気配とやらは分からない。

 でも、この教室が単純に異質だということは見て分かる。

 旧1年6組は、廊下に面している全ての窓が、理科室にあるような真っ黒な遮光カーテンで覆われ、地窓は木の板で塞がれている。

 まるで何かを隠しているかのように。


「それじゃあ早速入らせてもらおうか」


「あ、でも――」


 俺の言葉よりも早く、秋野さんが扉に手をかける。

 ガチャガチャ。

 金属かプラスチックが擦れる音が鳴る。


「ふむ。鍵か」


 そうなんだよな。

 ここに来る直前まですっかり忘れてたけど、この教室には鍵がかけられてるんだよな。

 いつだったか侵入しようとした奴の話を耳に挟んだとき、扉も高窓も、全部鍵がかかってたとか言ってたっけ。


「多分、鍵は職員室にあると思うんですけど……どうしましょう」

 

「まあ任せな」


 秋野さんは自信満々にそう言うと、スカートの内側に手を突っ込んだ。

 な、なんだ?

 なんかちょっと言葉で説明するには恥ずかしい地帯一面を(まさぐ)ってるけど……これは一体何してるんだ!?

 エロか! エロなのか!?

 

 はあ……。

 まあ当然のことながらそんなわけがないんですけどね。

 まったく。俺を含めて男ってのはホント馬鹿。

 すーぐそういうのに結びつけるんだから。

 聞いてるか? (せがれ)よ。


 秋野さんはスカートの中をゴソゴソと探ると、短く細く、そしてきらめくワイヤーのようなものを取り出した。

 針金だ。

 もしかして、ピッキングでもするつもりだろうか。


 予想はすぐに的中した。

 秋野さんは針金を変形させると、教室の扉の鍵穴に突っ込んだのだ。

 

「ちょっと! 大丈夫なんですか!?」


 針金でのピッキングは難しいと聞く。

 それに、失敗して鍵穴に詰まりでもしたら大変だ。


「黙って見ときな」


 慌てて止めようと近づくと、肘で追い払われてしまった。

 どうやら秋野さんは自信があるみたいだけど……。

 本当に大丈夫なんだろうか。


 しばらくして、秋野さんは針金を引き抜いた。

 そして再び扉の取っ手に指をかけると、俺に向かって誇らしげな表情を見せつけるのと同時に扉を開けてしまった。


 おいおい嘘だろ……。

 まさか本当に成功するなんて。しかもただの針金だけで。

 何者なんだよこの人は。

 あな恐ろしや。

 

「ほら、入るぞ」


 いやだなあ……。

 あんなことがあった場所だし、正直すげー入りたくない。

 しかし、秋野さんは躊躇なく部屋の中へ入っていってしまう。

 仕方ないので、嫌々ながらそれに続いて俺も引き戸のレールをまたいだ。

 あ、扉を閉めることを忘れずに。

 

 現多目的室の中は他の教室とほとんど変わらない明るさだった。

 外に面する窓には廊下側にあるような遮光カーテンがなく、陽の光がそのまま入り込んでいる。


 教室の中は空っぽだった。

 黒板のすぐ近くに、花瓶が置かれた机がただ一つだけぽつんと置かれているだけで、それ以外には何もなかった。

 他の机も椅子もその他備品も、何もなかった。


 まるで抜け殻のような空間に、机がただ一つ。

 それは、明らかに、異様。

 

「こりゃまたすげー邪気だな」


 俺は彼女の言う”邪気”とやらはよく分からない。

 ただ、この教室に漂う空気が外と比べて違うことは感覚で何となく分かる。

 こう、気分が沈むような、背中に何かがのしかかってくるような、とにかく嫌な雰囲気を感じる。

 昼間に心霊スポットに行ったときのような、恐怖とは違う薄気味悪さ。

 上手く言葉にはできないけど、胸がざわつくのだ。


 秋野さんは唯一置かれていた机のすぐそばまで近寄った。

 俺もつられて近づくと、花瓶とそこに活けられた数本の花が自然と視界に大きく入り込む。

 遠目で見たときは造花かと思ったが、それらの花には艶があった。

 本物の花だ。

 この瞬間も水を吸って生きている。


 よく見たら机にも周囲の床にも、ほとんど埃が付着していなかった。

 誰かが――つっても教師だろうが、定期的にこの教室を管理している証拠だ。


「ふむ……」


 秋野さんはそう言ったかと思うと突然、四つん這いになって机の下を凝視し始めた。

 びっくりして俺も目線を下に向けた。

 すると、変な紙切れが床に貼られているのが目に入った。

 紙には墨で文字が記されている。


 ん?

 なんだあれ。

 お札?


「なるほどな。そりゃこうなるわけだ」


 秋野さんはその札を見ては、何か納得したかのように頷いている。


「あの、なんですかそれ」


「見りゃ分かるだろ。御札だよ、御札」


 そう説明しながら、秋野さんはその御札らしい紙切れに手を伸ばした。

 そして


「よっと」


 ――ベリベリベリッ!

 あろうことか、御札を床からかいっぺんに剥がしてしまった。


「ちょ、ちょっと! 何してるんですか!? そういうの剥がしたらマズいですって!」


 俺が慌てて声を上げると、秋野さんは剥がした御札をひらひらと振りながら、まるで大したことじゃないと言わんばかりの表情を浮かべた。


「大丈夫だって。これは何の役にも立ってねーんだから」


 そう言って、秋野さんはその御札を俺の方へ近づける。

 

「簡単に言えばこれは鎮魂の御札だ。死んだ魂が地縛霊や怨霊のような死後の道を違えた存在に進まないように、そして無事に成仏できるようにするための札」


 なるほど。

 でも、それならなおさら剥がしちゃダメだったんじゃ……。

 だって、この教室は――。


 秋野さんは、俺の思考を見透かしているかのように続ける。


「でも、これは全く役目をなしてねぇ。だって、ここには鎮める必要のある魂なんて存在してねーんだからな」


 秋野さんは立ち上がると、剥がした御札を半分に破いた。


「多分、二年前の事件の処理の際、学校は運悪くモグリを引いたか、もしくは金をケチったかで、まともな術者が来なかったんだろうな。確かにここは禍々しい気配で溢れてるが、それは怨霊のような魂によるものじゃない。ボクの勘によれば、そもそも”ここで死んだヤツ”の魂はとっくのとうに、というか多分、死と同時に現世とおさらばしてると思うぜ」


 両断した御札をくしゃくしゃに丸めてから制服のポケットに入れ、辺りを見渡す秋野さん。

 そして一度深呼吸。


「だが、それにもかかわらずここには良くない気が満ちている。お前も感じるだろ?」


「えっと、多分……」


 やっぱりこの教室に入った時から感じている重苦しい空気感がそうなんだろうか。

 とにかくこの空間が変であることだけは分かる。


「じゃあここに充満する邪気は一体何なのか、その原因は何なのか。答えは簡単、それはここで死んだヤツの残留思念だ」


「残留思念?」


「そう、残留思念。まあ、簡単に言えば、そうだな……人の精神――強い感情や想い、思考なんかの残り香のことだ」


「それって……幽霊ってことですか?」


「いや違う。さっきも言ったが、ここに霊魂は残ってない。怨霊や幽霊なんかの霊魂の類は”多少なりとも意識や自我を持った存在”だが、言うなれば残留思念は精神の残滓、人から無意識に溢れ出た単なる思考や感情それ自体に過ぎず、それには人間が考えるような意識なんて存在しないんだ。喩えるなら、そうだな……ほら、椅子に座った後ってそこに温もりが残るだろ? そんなイメージだ」


 秋野さんは針金を取り出した時のように、またスカートの内側に手を突っ込んだ。

 そして何かを探すようにガサゴソとかき回す。


「この教室に満ちている邪気は正にその残留思念によるものだ。腕の立つ神職や祈祷師、ボクみたいな専門家にとっては、こういった邪気の原因が霊魂か、それとも思念のようなそれ以外の精神的なものなのかの判別は特に難しくもないんだが、ここを担当したヤツは程度が低かったみたいだな。鎮魂したって意味ねーっつの」


 鼻で笑う秋野さん。 

 口ぶりから察するに、もしかしてこの人は優秀なんだろうか。

 というかもう自分で言っちゃってるけど。


「こういうのは放っておくと周りの似たような気を溜め込んで肥大化し、遅かれ早かれいつの日か災いをまき散らすことになるんだが……そこでボクの出番ってわけだ。最初に言ったように、今日はこれからお祓いをする。この教室のな」


「……で、そのお祓いってのは何をするんですか?」


 俺の問いに連動しているかのように、秋野さんはようやくスカートの内側から腕を引き抜いた。

 その手には一枚の紙切れが握られている。


 あれ。

 さっき破ったはずの御札がもう一枚。

 ――いや、よく見たら書かれてる文字や紋様が微妙に違う。


「それは、何です?」


「これと言った名称はないが、強いて言えば厄払いの札だ。残留思念や邪気を浄化してくれる。今回はさっきの鎮魂の札の代わりに、こいつを使ってお祓いをする」


「なるほど……。それで、これから俺は何をすれば……」


「実は、今日のお前の役割はボクをここに案内した時点で終わってんだ。だからもう何もしなくていいぞ。とりあえずそこにいろ」


「分かりました」


 もう役目がないなら早くここから出してほしいんだけど……。

 この教室、居心地が悪いから長居したくないんだよなあ。


「さて、始めるか」


 秋野さんは机の正面に立ち、手に御札を構える。

 何をするつもりなのかは分からないが、得も言われぬ緊張感がその場を包む。

 俺はゴクリと喉を鳴らしながら、少し身構えつつその様子を見守った。


「せいっ!」


 気の抜けた掛け声とともに御札が机に叩きつけられる。

 花瓶が揺れ、花びらが一枚ふわりと散った。

 

「よし」


 秋野さんは御札から手を離して僅かに頷いた。

 

 え?

 もしかして、それだけ!?


「あの、それで終わりなんですか?」


「いや、まだだ。この状態で少し待つ」


「待つとどうなるんです?」


「この御札が周りの邪気を吸い取ってくれる。とういことでしばらく待ちだ」


 貼って不浄が吸着するのを待つ……。

 消臭剤かよ。

 トイレに置く消臭剤と同じシステムじゃん、それ。

 

 既存の御札に対する神秘的なイメージを少し裏切られた気がする。

 とはいえ、そういう仕組みなら仕方ないんだけど。


 俺は腕を組みながら、机に貼られた御札をじっと見つめる。


「いじめだったらしいな」


 不意に、秋野さんが落ち着き払った様子で言った。

 突然のことで一瞬戸惑ったが、何のことはすぐに分かった。

 この場所。

 いじめ。

 おそらく二年前の出来事に他ならない。


「教室で首吊り自殺とは……ひでぇもんだな」


「知ってるんですね」


「まあ、その程度なら新聞にも残ってたしな。逆にそれ以外の情報は大して知らねぇよ。そうだ、何があったのか教えてくれよ。お前は色々知ってんだろ?」


「そりゃまあ、それなりには……だって――」


 思い出す。

 嫌な記憶だ。


「その事件は俺の代で起きた話ですからね」

 

「確か起きたのがちょうど二年前だもんな」


「話してもいいですけど、別に俺は一から十まで全く関与してないんで、正直後から出てきた噂レベルのことしか知りませんよ」

 

「別に構わねーよ。とりあえず聞かせろ」


「まあ、それでいいなら……分かりました。あれは――」


 ――あれは二年前。

 俺が高校一年生だったとき。

 当時同じ一年生だった女子生徒が自殺したんです。

 場所はここ。

 1年6組で。

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