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8日目

 同じ写真を撮ってこい。

 その依頼をこなすため、俺は翌日の朝早くに家を発った。

 

 目的地は隣の県のとある場所。

 新幹線か快速でも使えばたいした時間はかからないが、ただの移動手段にわざわざ大金を払いたくなかったし、なによりその日は依頼をこなすだけでなくただゆるりと旅をしたい気分だったので、俺は鈍行でゆっくりと向かうことにした。

 景色を楽しみながらまったりと。

 ここ最近、秋野さんに連れ回されたり鈴美の様子が変になったりと、色々とバタバタしていたので、リフレッシュするのにもちょうどいい機会だ。


 写真の住所の最寄り駅に着いたのは、家を出てからおよそ3時間後のことだった。想定よりも大分早く着いたが、途中の二度の乗り換えがスムーズにいったからだろう。

 なにより全部がJR本線で、よく分からないローカル線を使わなくてよかったのがデカい。なにせ乗り換えをしたのは今日が初めてだったので、謎の路線に案内されていたら勝手が分からず大幅に時間をロスしたはずだ。

 

 そういえば、電車に乗っていて気付いたことがある。

 俺はてっきり、今日も鈴美のストーカー癖が発動すると思っていたのだが、家を出てからここまで、一切あいつの気配を感じないのだ。

 いつもは、俺が出かけると必ずどこかで鈴美の影を感じるのだが……珍しいこともあるもんだ。

 もしかして、これが秋野さん絡みの用事だから、約束通りストーカー癖を抑えているのだろうか。

 いや、それは理由としてはおかしいだろう。

 だって、鈴美とは昨日の学校以来会ってないんだから、その後に決まったこの用事のことを知るわけがない。

 ということはなんだろう。

 今日は家を出るのが早かったし、ただ寝ていて気付かなかっただけかもしれない。

 俺はポケットからスマホを取り出して、ロック画面を眺めた。

 通知は特に無し。メッセージも来ていない。

 変な話だが、今までストーカーされるのが当たり前だったので、こうして何の気配もないと逆にちょっと不安になる、というかどこか落ち着かないような感じがした。


 写真の場所は駅から少し離れているため、近くまでバスで向かうことにした。

 街を通り過ぎ、坂を上り、揺られることおよそ数十分。

 バスを降り、今度は徒歩でしばらく歩くとついに目的地の場所に到着した。

 そこは屋外のとある施設で、俺が着いたときには誰もいなかった。


 その辺りは小山の一部で、その施設は写真の通り、空と海と街を一望に収められる場所だった。

 写真越しにも綺麗な場所だと思っていたが、いざ肉眼で見てみると、その美しさたるや。その場の厳粛な雰囲気も相まって、俺はしばらく圧倒されていた。

 一人景色に満足した後、俺は秋野さんに課せられた使命を忠実に守ろうと、写真と全く同じポイント探した。

 手に持った写真と風景を見比べながら、その施設の中をうろうろと歩き回った。


 そして俺はついに、写真とぴったり重なる場所を見つけて――。

 その瞬間、俺は――。

 

「――!」


 持っていた写真を八つ裂きにした。

 何度も何度も引き裂いて細かくなった紙片は、突然吹き付けた風に飛ばされて、あっという間に散っていった。

 

 それから俺は即座にその場所から離れた。

 事前に住所をマップで調べてたから、ここがどういう場所かは最初から分かっていたけど……でも、まさか――!

 走って。

 走った。

 必死に走って。

 必死に走った。

 その姿は、きっと俺史上最も醜い姿だったに違いない。

 俺は無我夢中で来た道を引き返した。

 バスで来た道さえも走って引き返した。

 とにかく早くあの場所から離れたかった。

 俺はひたすら――。

 ……。

 ……。

 ……。


 ――気が付くと、俺はいつの間にか電車の中にいた。

 全身を震わせながら座席に座り、帰りの電車に揺られていた。

 気が動転していたせいか、あの後どうやって駅まで戻ったのか全く覚えていなかった。

 現状を理解した俺は、静かに頭を抱えて目を閉じた。

 今はもう、何も見たくなかった。

 何も考えたくなかった。

 いっそ死んでしまいたかった。 

 ……頭が痛い。


 結局写真は撮れなかった。

 そんなことはもうどうでもよかった。

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