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3日目②

 俺は王のようにふんぞり返る秋野さんを荷台に乗せ、自転車を漕いだ。

 向かった先は、相も変わらず端泉の住宅街を走る生活道路だった。

 前回の異変探しで来た場所とは違うが、それ以外は大して何も変わらない。

 家々と道があるだけの普通の場所。


「今日もこんなとこで調査するんですね」


 自転車を引いて、トボトボと歩きながら俺は言った。


「こんなとこって……一体どんな場所を想像してるんだ」


「うーん、神社とか墓所とか、何て言うかパワースポット的な、もっと言えば前に行った旧1年6組みたいないわくつきの場所とか、そんな感じの場所を巡るのかと思ってました」


「やっぱりお前、異変のことを幽霊かなんかだと思ってるだろ。違うんだって。ボクが専門とするのは、幽霊とは似て非なる存在なんだよ」


 そんなことは知っている。というか、何回も秋野さんの口からそう聞いた。

 けど、その異変とやらはまだ見たことないし、そもそも異変について具体的に教えてもらってないので、正直その二つが実際どう違うのかは分からない。門外漢の俺からしたら、現時点では両者似たようなものだと思うんだけど、まあ、秋野さんが違うって言うんだから違うんだろう。

 何が違うのかは知らないけど。

 

「異変ってのは、幽霊みたいに出やすい特定の場所があるわけじゃねーからな、いろんな場所を標本的に探すのが重要なんだ。幽霊を探すのとはわけがちげーんだよ」


「なるほど。ちなみに、探す場所の基準ってなんかあるんですか?」


「いや、特にないが、強いて言うならボクの勘ってヤツだな。経験からくる知識と直感。プロの仕事ってのは案外そういうもんだぜ?」


「……へえ」


 俺は曖昧に相槌を打ちながら、自転車のハンドルを握り直した。

 プロの仕事か……。

 仕事。

 つまりそう言う以上、そこには利益が伴うわけで。

 一体全体、異変探しでどうやって富を生むんだろうか。

 退魔師の業務形態はよく分からない。パトロンでもいるんだろうか。

 そんなことを考えていると、秋野さんが俺の肩に手を置いてきた。


「して三国少年、金曜にテストが全部返ってくるって話だったが、結果はどうだったんだ?」


「さっきもですけど、何なんですかその呼び方……」


 秋野さんは怪しい笑みを浮かべてこっちを見ている。

 落ち着いているような、大人の余裕を見せるような少し癪に障る態度で。

 なんだろう。

 もしかして巷で耳にする、少年呼びお姉さんでも気取ってたりするのか?

 公園に行くとなぜか毎回そこにいて、自分を”少年”と呼んでくる、近所に住んでるらしけど素性不明でミステリアスなあのお姉さんを――いやいや……それは無理があるだろ。秋野さんのベールの内側を知らなければ、正統派の謎めいたお姉さんに見えるかもしれないけど、少なくとも今の俺には無理だ。この人をそういうキャラとして認識することはできない。

 確かに見た目と、身分の不審さはその少年呼びお姉さんっぽくはあるけど、内面が、何て言うか、がさつ。

そう、がさつだ。

 仮に公園にいたとしても、輝く夕陽を背に、優雅に「少年」と微笑むようなタイプじゃない。むしろガキのことなんて意に介さず、ベンチで一人ふんぞり返ってる感じ。そして子供が近寄ってくれば、何かとかこつけてパシリにしてそう。

 それに実際この人、一から十まで普通に不審者だし。

 とにかく俺がイメージするあの少年呼びお姉さんとはとても言い難い。


「……おい、なんか失礼なこと考えてないか?」


「いや、別に?」


「ま、いいけどな。それで、テストの結果は?」


 秋野さんは腕を組んで改めて問いかける。


「うーん……まあ、普通でしたよ」


 俺がそう言うと、秋野さんは「はあ」とため息をついた。


「普通って言われても基準が分かんねーよ。せめてもっと具体的に言えよ、つまんねぇ。お前、会話下手くそか?」


 ゔっ。

 最後の言葉が胸に突き刺さる。

 ここニ年間で会話能力が落ちてきてるだろうなとは思ってたけど、他人に面と向かって言われるとそこそこくるものがある。


「えーっと、そうですね……現代文以外は平均点をそこそこ超えてて、総合順位が上の中くらいでした」


「上の中ってことは、普通どころか結構な好成績じゃねーか。やるな、三国」


「あ、えっと、ありがとうございます」


 俺はそう言って、ハハ、と笑った。

 まさか素直に褒められるとは思ってなくて少し(ども)ってしまった。


「しかし、現代文だけ平均超えてねーんだな。もしかして苦手なのか?」


「そうなんですよ。現代文だけはどうしてもダメで」


「世の中には理数科目がどうやったってできなくて嘆いてるヤツらがごまんといるってのに、誰でも解ける簡単な現代文ができないとは贅沢な悩みだな」


 誰でも解けるって……。

 あなたの隣にいる人はそれができなくて困ってるんですケド。


「ちなみに、お前は現代文何が苦手なんだ?」


「うーん、何というか曖昧じゃないですか、現代文って」


「曖昧?」


「数学とか化学なら、答えは一つに決まってるじゃないですか。別に理系科目じゃなくても、社会系科目だってそうですし。でも、現代文って絶対的な正解があるとは思えないんです」


「お前それ、現代文が苦手なヤツがこぞってよく言うやつだな。免罪符みてーに」


「でも、実際そうじゃないですか? ”この時の登場人物の心情を答えよ”とか、作者の意図を答えよ”とか、そんなの本来、作者本人にしか分かるはずがないですよ。人の心なんてそもそも正確に読み解けるわけないじゃないし、それを問題にすること自体がおかしいと思うんですよ」


「ほう?」


「しかも、前にネットで”作者自身が現代文の問題を解いたら正解できるのか”って記事を見たんですけど、作者本人が普通に間違えてたんですよ。つまり、作った本人の答えが不正解になるような問題を、出題者はどうやって”正解”だって決めつけてるのかって話です。作者と作問者の答えすら一致しないのに、俺たちがどれだけ考えたって、結局はそこに絶対的な正解、”正しい心の読み方”なんてもの存在しないんじゃないですか?」


 俺がそう力説すると、秋野さんは嘲笑うかのように「ははっ」と笑った。


「いい屁理屈じゃねーか。年相応のガキっぽくて」


「屁理屈、ですか? 結構な人が同じような考えを持ってる気がするんですけど」


 馬鹿にされているような気がして、俺も負けじと言い返す。


「別に賛同者が多い言説が必ずしも正しいってわけじゃねーからな。ちなみに言っておくが、その考えを嬉々として掲げてるヤツは物事の本質を知ろうとしないただの阿呆(あほう)だ」


 秋野さんは強い言葉でそう言い切った。


「そこまで言うなら教えてくださいよ、現代文にどんな意義があるのか」


 俺がそう問い詰めると、秋野さんはふっと口角を上げた。


「まずそもそもの話、現代文ってのは人の心を読むもんじゃねぇ。文章から根拠を探して、論理的な思考の下で解釈をする科目だ」


「論理的な、思考?」


「お前、答えが曖昧なのが苦手って言ったよな。まあ確かに、お前が言った通り、文章やそこに描かれる心なんて人によって自由に解釈できるから、そんなことを言いたくなるのも分かる。だが、それはあくまでも個人が好きに楽しむ場合の話だ。例えば、お前がプライベートで本を読む場合は、”このキャラはこういう気持ちだったに違いない”とか”この結末はこう解釈できる”って考えるのは自由だし、誰にも否定される筋合いはない」


「じゃあ、何が違うんですか?」


「公の場においては話が違ってくるってことだ。テストで出される問題や、批評、議論の場じゃあ、ただ好き勝手に解釈しましたってだけじゃ通用しねぇ。”俺はこう思う!”だけじゃなくて、”一般論で考えた場合、この文章はこう解釈される”ってな感じで論理的な根拠に基づいてなきゃダメなんだよ」


 一間置いて、秋野さんは言葉を続ける。


「確かに、一つの作品に対して複数の解釈が成立することはある。しかし、だからといって、どんな読み方でも許されるわけじゃねぇ。しっかり査読すれば、その解釈の根拠が全くないものや、明らかにそう読めないものは存在する。つまりだな、現代文で問われてるのは、個人が自分勝手に考えた解釈じゃなくて、あくまでも文章を読んで客観的にその有効性を証明できる論理的な解釈だっつー話だよ」


「でも、そうはいっても解釈って時点で、数学みたいに一意に定まる答えが存在してるってわけじゃないですよね。結局それって出題者の”これが正解です”って決めたものに無理矢理合わせてるだけなんじゃないですか?」


「よく聞く指摘だがそれも違うな。一見、出題者が恣意的に決めた答えを問われてるように見えるが、実際には本文の内容と論理的に整合性が取れているものが”正しい解釈”、つまり正解として設定されてるわけだ。例えば、選択問題が分かりやすい。選択問題の正答は論理的に考えて適切な解釈になっているが、不正解の選択肢は大抵、本文の内容を曲解していたり、微妙にニュアンスが異なっていたりしてそもそも論理的な解釈としては成り立たないものになってるんだ。そんな風に、出題者がどう思ってるとか関係なく、文章中から根拠を探し出し、そして論理的に考えたら一般論的には当然そう帰結するはずの解釈が答えに設定されてるのさ。まあ、問題の性質上、理数科目みたいに絶対的な答えがあるとは言い切れねーが、ロジカルに考えれば自然と導き出される答えは限られてくるはずだぜ」


「なるほど……」


 俺は一度俯き、自転車のハンドルを握る手を見つめながら喉を鳴らした。

 

「……だとしても、論理的に導き出された解釈が正解になってるっていうなら、それは最終的に、本来その文章を書いた作者が考える解釈と一致するはずですよね。でも、実際には作者が問題を解いたら間違えることがある……それってつまり、正しい解釈とか言っておきながら、本当の作者の考えとはズレてるってことですよね? やっぱりそれっておかしくないですか? 結局出題者の匙加減というか、曖昧というか……そもそも、そんな状況って時点で、論理云々以前に問題として破綻してると思うんですけど」


「実は、それがそうでもないんだな」


 秋野さんは首を横に振りつつほくそ笑んだ


「じゃあ例えばこういう文章があったとする。


 ”青年は咄嗟に手を伸ばし、石ころに(つまづ)いて今にも転びそうになっている少女の肩を掴んだ。

  少女は体勢を立て直すと、即座に青年の手を乱暴に振り払った。

  そして彼女は礼も言わず、それどころか、「私に触らないでよ。気持ち悪い」という言葉を吐き捨ててその場から走り去っていった。”


じゃあ問題だ。この時の少女の心情を論理的に答えてみろ」


 唐突に始まるクイズ形式。

 論理的……。

 動揺しつつも俺は考える。


「えーっと……普通に考えたら、嫌な気持ちとか、もっと言えばその青年に対する嫌悪感とか怒り、ですかね」


「どうしてそう思った?」


「そりゃあ、礼の一言もなしに”気持ち悪い”なんて言うくらいだから、明らかに嫌がってるじゃないですか。それに、”振り払う”とか”吐き捨てる”とか、あとは”走り去る”とか、どの動作もなんか拒絶してる感じですし」


「なるほど。根拠もしっかりしていて、論理的で良い回答だ」


 秋野さんは「うんうん」と、大袈裟に頷いた。

 しかし次の瞬間、彼女はニヤリと狡猾そうな笑みを浮かべ、横目で俺を見た。


「でも、もしここでボクが”いやいや、この少女はその青年のことが好きな極度のツンデレで、ただの照れ隠しにそんな態度を取っただけで本当は物凄くときめいていたんだ”って言ったらどうする?」


「えっ……?」


 言葉に詰まる。

 確かに、文章を作った本人がそう言うのなら、そうなのかもしれない。でも、それって――


「ほら、今お前の中で引っかかっただろ? 文章をどう読んでも、少女の行動やセリフからトキメキなんて読み取れねーし、どこにもそんな描写はない。それなのに作者であるボクが”これは少女の甘い気持ちの裏返しなんだ”って言ったら納得できるか?」


「……いや、それは流石におかしいって思います」


「だろ? つまりはそういうことだ。文章が客観的に示している情報から導き出せる論理的に”正しい解釈”と、実際の作者の意図は必ずしも一致しない。少し極端だったが、さっきの例みたいにな。作者が”そう思って書いた”って言ったところで、読み手がそう解釈できなきゃその意味は成立しない。作者自身が、自分の文章を客観的に分析できてないってこともあるし、意図を表現しきれてないってことがあるってだけの話だ。っつーわけで、作者の解釈と問題の答えが違っていたとしてもなんの問題もねーんだよ」


「なるほど……確かに、さっきみたいな場合があるって考えたら、納得です」


「まあ、現代文にだけ関して言えば、出てくる文章なんて原文の一部を切り取ったものなわけだし、前後の文脈が無視されてるって理由でそこの乖離が起きる場合もあるけどな」


 秋野さんはそう言って、道端の小石を蹴っ飛ばした。

 カツンと、ゴミ捨て場の錆びた金属網に当たる音がした。


「まあつまりだ、総括として、現代文ってのは人の心を読むわけでも、出題者の匙加減で決まる曖昧な問題を解くわけでもなく、文章に書かれた明確な情報をもとに、論理的に筋道を立てて考え、客観的にも正しい答えを導く答えを問う科目なんだよ。理解できたか?」


「なんとなくは、分かったような気が、します……」


 ブレイクスルー。

 まさにそんな言葉がぴったりに思える。

 論理的・客観的か……。

 現代文とは正反対だと思っていたものが、まさか密接に結びついていたなんて。

 俺が静かにかみしめるように考えていると、不意に秋野さんが「しかし――」と口にした。


「――まあ、お前の言ってたことが全て間違いってわけじゃねーけどな」


「何ですか急に」


「いや、お前が初めに言った、人の心は読めないって指摘。これに関してはお前の言う通りだから、一応そこはちゃんと伝えとこうと思ってな。人は他者の気持ちを完全に理解することはできない。ましてや時に人は、自分自身の心でさえも分からなくなる」


 突拍子もなく始まった語りに驚きつつも、俺は秋野さんの言葉に耳を傾ける。


「ただ、人の心が読み解けなくとも現代文の問題は解ける。理由はもう分かるな? 現代文は人の心を読むわけなじゃない。あくまでも文章を読み解くにすぎないからな。でも現実世界じゃそうはいかない。現実世界じゃ人の心を精一杯読まないといけない。現代文と違って論理的に導き出せない、正解かも分からない答えを探さないといけない、考えないといけない、向き合わないといけない……ちなみにお前、人の心を考えるの苦手だろ」


「……何でわかるんですか」


 図星。

 ほんの一瞬、足を出すテンポがずれた。


「現代文が苦手な理由とかを聞いてればなんとなく分かるさ。そうやって捻くれてるヤツは大抵そうだからな。それに、人の心情を察するのが得意なヤツは、わざわざ”人の心がどうたらこうたらだから現代文が苦手なんです”なんざ多分言わんだろ」


「……」


 ぐうの音も出なかった。

 ついでに俺が捻くれてるとこまで見破られていた。


「そんなお前に一つ忠告しておくぜ。まあ、さっきも言ったように、現代文じゃ人の心を読む必要はない。というか読むな。だがしかし、現実で心っつーものを蔑ろにすれば、いつか足を(すく)われるから気を付けるんだな」


「掬われるっていっても、一体何にですか?」


「さあな。それは他者かもしれないし、自分自身かもしれない。とりあえず何かしらに、だ」


「はあ……善処します」


 うーん。

 心を蔑ろにすれば足を掬われる、か。

 まあ当たり前の話といえば当たり前だけど、そんな単純な話なんだろうか。何かそれ以上の、深い意味があるような気がする。だってわざわざ”忠告”なんて言ってたし。

 もしかして鈴美のヤツに関連でもしてるんだろうか、俺がまともに関わる相手と言えばあいつくらいだし――いや、流石に違う気がする。だって、蔑ろにされてるのはむしろ俺の方だし。

 ストーカー被害者が加害者にこれ以上何を配慮するってんだ。どっちかって言えば足を掬われるのはアイツの方だろ。特に警察とかにな。

 結局、秋野さんが何を意図してそう言ったのかはよく分からなかった。

 俺は、最後の最後で判然としないモヤモヤを植え付けられつつも、自転車を押して歩いた。


 生温かい風が、直線に伸びる道に沿って吹いていく。

 塵が舞い、若葉がそよぎ、秋野さんの髪が揺れた。


 いやしかし、しっくりくるな、今の秋野さんの髪型。

 何て言うんだろう。

 ストレートボブ? ぱっつんボブ? それともおかっぱ?

 うーん……詳しくは分からないけど、とにかくそんな感じの髪型だ。

 こっちの方が秋野さんの雰囲気によく馴染んでいる。

 やっぱりこう見ると、先日のポニーテールの噛み合わなさが際立つな。


 そんなことを思いながら秋野さんの髪、特に後頭部の辺りを眺めていると、不意に秋野さんが顔を俺の方へ向けた。

 お互いに顔を見合う格好になり、ばっちりと目が合った。


「そういえば、一つ訊いてもいいか?」


 秋野さんは言った。


「何ですか?」


「先週の木曜、例の事件の尻ぬぐいをしにお前の学校に行ったときにさ、確かお前、鈴美が転校してきた時期と友達が消え始めた時期が同じだった、って言ってたよな」


「確かにそう言いましたね」


 鈴美と再会したのも、俺から友達が消え始めたのも、ほぼ同時に起きた。

 自殺事件が起きてすぐの頃だった。


「それで気になったんだけどよ、お前、自分から友達が消えた原因が鈴美にあるって思わなかったのか? 例えば、皆にお前を無視させるように、裏で何か工作してたとかって考えなかったのか?」


「そりゃあもちろん、初めはそう思いましたよ。同時期にそんなレアイベントが起こるなんて明らかに変じゃないですか。でも、違ったんです」


「ほう?」


 秋野さんは興味深そうに片眉を上げた。


「実は友達が消えてすぐ、あいつに直で訊いたことがあるんですよ。でも、そしたらあいつ、何も知らないって言ったんです。そもそも、俺の”元”友達の名前すら知らなった」


「それで、お前はそれを信じたわけか」


「まあ、他に証拠もなかったですし。そもそも普通に考えて、学校を巻き込むようなそんな大々的な工作を、転校してきてすぐの人間ができますかって話ですよ。それに、あいつにそれをするだけの動機があるとは思えませんし」


 もしあいつが俺のことを好きで、かつ過激派ヤンデレみたいな性格だったらそういう可能性もあったかもしれない。

 けれど現実として、あいつは俺に対して恋愛感情を抱くことは決してないってきっぱり言ってるし、性格はむしろその正反対だしな。

 さっぱりサバサバ。


「ていうか、何ですかこの質問? 俺から友達が消えた理由を秋野さんは知ってるんですよね? なのに何でわざわざそんなこと……いや、まさか、やっぱり鈴美のヤツが原因だってことですか?」


「あーいや、違う違う。これはただの純粋な疑問。お前がその偶然をどう受け止めてんのか気になっただけだ」


「ああ、なるほど」


「まあ、これだけは一応言っておくと――」


 秋野さんは人差し指を立て、得意気な顔で俺を見た。


「友達が消えた原因に、鈴美は直接関わっちゃいねーよ。そいつは白だ」


「やっぱり……でも一体誰が、何が原因なんだ……」

 

 俺はそう呟いて、チラチラと頻りに目を動かし、わざとらしく秋野さんの瞳に訴えかけてみた。

 しかしそれは即座に棄却されたようで、「ふっ」と鼻で笑われてしまった。


「そいつはまだ教えねーよ。教えてもらいたかったらしっかりボクに尽くすことだな」


「はい……」


 がっかりと僅かに項垂れながらも、俺は躾けられた犬のように、素直に返事をする他なかった。


「あの、俺からも一ついいですか」


 俺は気を取り直し、訊いた。


「何だ?」


「そういえばなんで秋野さんって俺と普通に接することができるのかなー、って」


「んあ?」


 秋野さんの間抜けな声。

 多分、もっと詳しく説明しろ、って言ってんだろうな……。


「いや、他の人は大抵、嫌な顔して俺を避けるのに、秋野さんはこうして俺と普通につるんでるじゃないですか。なんで秋野さんは平気なんだろうって思ったんですよ」


「ああ、なんだ、そういうこと」


 秋野さんは澄ました顔で、平然と言った。


「そりゃボクは、お前から友達がいなくなった原因とその真実を全て知ってるからな。ただそれだけのことだ。ま、それもこれもボクの手伝いを終えたら全て分かることさ」


 俺が口を動かしている最中に、秋野さんは俺の肩にポンと手を乗せた。


「……結局そうなるんですね」


 俺は肩に乗せられた手を見下ろしながら、ため息交じりに言った。

 

 それから10分ほど歩き続け、その日の異変探しは終わった。

 結局この日も異変は見つからなかった。

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