0日目①
恥ずかしながら告白させてもらうと、俺は友達がいない。
……ごめん、今のは嘘だ。
本当は全くいないわけじゃない。言葉の正確さを追求するなら「少ない」が正解だろう。
しかし、たった一人だけという事実を「少ない」だなんて曖昧な言葉で表すのは何か違う気がする。
だから結局、友達がいないと言う他ないのだ。
さて、青春真っ盛りの高校三年生にもかかわらず、なぜ俺には友達が一人しかいないのか。
その理由は――分からない。
いや、本当に分からないのだ。
さっぱり。
全く。
誤解のないように言っておくが、俺は今までの人生を通して友人に恵まれてこなかったわけではない。
自慢じゃないが、客観的に言っても俺の容姿は悪くない。いっそ良い方だと言い切ってもいい。それに運動も勉強もコミュ力も、誰から見ても文句なしのオールラウンダーだった。性格も外向的で、人当たりも抜群に良かったと自負している。
ゆえに俺は友達がいないことに悩む人生とは無縁の生活を送ってきた。
高校に入学した直後もそうだった。
今の俺からは考えられないが、そのころの俺の友達の数は両手の指を軽く超えていた。
――はずだったのに。
それが今や、友達の数を数えるためには人差し指さえあれば事足りるという悲しい現実。
思い出すこと二年前。高校一年目の春と夏の季節の変わり目のことだった。俺の周りにいたはずの友達が、一人残らず、消えた。
消えたといっても当然物理的に消滅したわけでもなければ、ある日を境にして唐突に俺の周りから離れていったわけでもない。
察するに、廊下ですれ違うときに目を合わせてくれなくなったり、談笑を何かと理由を付けて早めに切り上げられたり、といった細かい過程を踏んで、徐々に、緩やかに、ゆっくりと、俺の周囲からフェードアウトしていった――のだろう。
語尾が推定なのは、俺が実際にその過程を見ていなかった、というか感付けなかったからだ。
気づいた頃には既に孤立し、同時に避けられるようになっていた。
当時、友達が離れていったという初めての経験に酷くショックを受けた。
友達がいなくてもやっていけるという人もいるんだろうが、今まで大勢に囲まれた賑やかな生活を送ってきた俺にとってそれは耐えがたかったのだ。
そして俺は考えた。その理由を考えた。
もしも原因が自分の非によるもならば、どんな些細なことでも改善しようとした。
考えに考えを重ねて考えた。
しかしいくら考えたところで、友達が俺の元を去った理由は分からずじまいだった。
それから二年経っても状況は変わらなかった。クラスが二回変わったが、相変わらず友達はできなかった。
放課後になると皆そそくさと足早に教室を出る。特に俺の周りの生徒は、あたかも俺を地雷とでも思ってるかの如く、逃げるように、避けるようにして席を離れる。
四方八方で音が消えていき、俺の周りから次々と人がいなくなっていく。
四面疎化。
楚歌ではなく、疎化。
また一人、また一人と教室を後にして、俺を中心に、無人になった席の輪が出来上がる。
逆ドーナツ化現象とでも言おうか。
そして今日も、俺は教室に独り取り残されていた。
――虚しい。
ただそう思った。
今まで友達がいないということだけを言ってきたが、実は俺を避けるのは同級生だけじゃない。この二年間で何となく察していたが、学校でのみならず、俺の周囲にいる人間がうっすらと俺を避けているのだ。
社会から疎外されてしまったかのような感覚を抱く日々。
それが俺の毎日だった。
しかし、そんな孤独な日常にも例外がある。
俺は自分だけがぽつんと座っている静かな教室で、程なくしてやって来るだろうあいつを待った。
雁鈴美。
俺の唯一の幼馴染であり、唯一の友人であり、そして――唯一のストーカーだ。