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恋愛モノ

妹に捨てられた私は、偽荷運び人に拾われました〜薬草を絞って調合し続けたら溺愛ルートに突入〜

作者: マルジン

「アルバート様ぁ、いらっしゃいませぇ〜」


「おおキャサリン、今日も美しいな」


「フフフ、もぉ~他の女の子にも言ってるんでしょぉ?」


「まさか、キャサリンにしか言わないよ。真に美しいのはキャサリンだけだからね。ところで、ポーションはあるかな?」


「うんあるよ~。たくさん買ってほしいな〜」


「それじゃあ、あるだけ買おう。その代わりといってはなんだが、この後お茶でもどうかな?」


「ンフフ、また〜?」


「君を見つめながら飲むお茶の味が、忘れられなくてね」


「もぉ~アルバート様ったらあ」


「ムハハハ」


「ウフフ」


今話しているのは、バーバトン公爵家の当主、アルバート様だ。

たしか2日前にも、まったく同じ会話を聞いた。

3日前は、宮廷魔道士の方からお誘いを受けていたし、昨日は王国筆頭文官の方からお誘いを受けていた。

ほぼ毎日、いろんな方からお誘いを受けて、ほぼ毎日出掛ける彼女は私の妹、キャサリンだ。


王都から少し離れた町にポツンと佇む、しがない薬屋なんだけど、最近は身分の高い人やお金持ちが頻繁にお越しになる。


目当ては妹……もそうなんだけど、その妹が魔力を注いだハイポーションだ。


ハイポーションは世界的に見ても、かなり貴重な薬品で、この国ではウチとラマン商会という中規模商会だけが販売している。


もともとは、ただのポーションとして販売していたのだが、とある日やって来た冒険者に、効果がおかしいと言われて、ハイポーションであると発覚した。


作っている私たちも、その当時は正直驚いた。

ただのポーションを作ってたら、ハイポーションになるなんておかしい話だ。

なぜだろうと考え、たどり着いた結論は、妹の魔力だった。

ポーションの製法は、どこにでもある一般的なもの。

唯一違うのは、ポーションに込める魔力だけだ。


だから妹のおかげで、ポーションはハイポーションになっている、のだと思う。


ひっきりなしに、上流階級の方々がお見えになる理由は、ハイポーションだけでなく、妹に愛嬌を振りまいてほしくてってのもあると思うけど。


キャサリンは人とお話するのが上手だし、顔も可愛いから。


ガチャリ――。


受付と作業場を隔てる扉が開いて、キャサリンが作業場を見回した。


「どこ」


「え?」


「聞こえてたでしょ?いちいち説明しないと分かんないの?はー使えない」


「あ、ごめん。そこにあるので全部だよ」


箱に並べられた小瓶を見て、キャサリンは顔をしかめた。


「……少ない」


今日の午前中にも、お貴族様が大量に買っていったから、商品の在庫が少ないのは知っていたはず。

それなのにキャサリンは、私を睨みつけて言った。


「アンタの仕事はポーションの調合と瓶詰めだけでしょ?もう6時になるけど、今まで何してたの?」


「薬草を絞って――」


「遅いのよ!はあ、ホント使えない」


そう言いつつも、ポーションの列に両手をかざして魔力を注ぐと、乱暴に木箱を抱えて受付へと向かった。


「お待たせ〜。ごめんね今これだけしかなくて〜」


「うん?いつもより少ないな」


「姉がトロくて〜。明日来てくれたら準備するよッ」


「まったく商売上手な娘だな」


「ウフフ。じゃあお茶行こッ」


チリンチリン――。


入口のドアベルが、新しいお客様の来訪を告げる。


この扉から向こう側、受付側は妹の領分だ。

人と話すのが苦手で、うまく笑えない私では、向こうに行っても役に立たないから。

作業場で淡々と、ポーションを調合する。


でももう、閉店時間だ。


また怒られてしまったな。


ひとり落ち込んでいると、受付の会話が薄っすらと聞こえた。


「あら〜ベイヤーさん。今日は変わった服装ですね。とても似合ってます」


「下の者の苦労を知るためにな。これはどこへ?」


「回って裏からお願いします〜。姉がいますので、びっくりしないでくださいね」


お客様かと思ったけれど、そういえば今日は仕入れた薬草が届く日だ。


私は勝手口の扉を開けて、荷運び人さんを待った。


「ああ、助かる。そのまま、開けててくれ」


「……は、はい」


作業場へと荷を下ろす荷運び人さんは、いつもとは違う人だった。

短く刈り込まれた金髪に、綺麗な青い目をしていて、筋肉質なたくましい体つきの若い男で、カッコいい人だなと思って見ていると、ふと目があった。


「……初めて見るな。名前は」


「エ、エリザベス、です」


「ふむ。俺はベイヤーだ。よくここにいるのか?」


「そ、そうですね」


「……なぜ受付に立たない」


「わ、私は調合しかできないので」


「調合、か。ハイポーションを作ってるのか」


「い、いえ、私は調合だけで、魔力は妹が」


「……だから、ハイポーションを作ってるんだろ?」


「調合は、してます。けど、魔力は妹です。妹の魔力が、ハイポーションにしてます」


するとなぜか、ベイヤーは目を瞬き一言だけ、ボソリと小さく呟いた。

「知らんのか」と。


その言葉の意味は分からなかったけど、なんだか横柄というか威圧的な感じがして、ちょっとだけ怖かった。

早く帰らないかなと、思っていると勝手口を出て私の代わりに扉を押さえてくれた。


「あ、ありがとうございます」


私が作業場に入ると、ベイヤーさんは私の目をじっと見て言った。


「彼氏はいるのか?」


「え?」


「彼氏はいるのか。意中の相手、想い人はいるのか」


私に!?

と一瞬だけ思った。けれどそんなはずはない。

妹を口説くために、私から情報を引き出したいのだろう。

妹はよく誘われて出掛けるけれど、特定の相手がいるわけではないと思う。


「い、いませんよ」


「ふむ。そうか分かった。明日もここに?」


「はい。ここしか居場所がないので」


「……そうか」


バタンッ――。


ベイヤーさんとの会話は、終始圧倒されるばかりだった。


◇◇◇


翌日、私はいつものように仕込みの作業を行っていた。

大量のシピッラ草を鉢に入れてすり潰し、布で濾していく。

その後にはバルブロの葉もすり潰して濾して。


昨日仕入れた草花を全て濾したら、調合用の大きな瓶に、適量を加える。

失敗したら、真っ黒な液体ができるんだけど、上手く行けば薄青色の綺麗な液体ができる。


上手くいったら、販売用の小瓶へと移し替えて……。


今日はいつもより多めに作ったから、4時間掛かっちゃったな。


この作業にも慣れてきたけれど、やっぱり腕が疲れる。


私は一息ついた後、小箱の中に緩衝材と小瓶を並べていた。

すると作業場の勝手口が開いて、キャサリンがやって来た。


開店間近にしか来ないのに、今日はやけに早い。


「おはよう」


「……邪魔」


通り道にあった小箱をゴツンと蹴って、彼女は受付へと消えていった。


あの不機嫌さは今に始まったことじゃない。


覚えてないぐらい昔から、あの調子だ。


人と話すのが苦手な私は、受付を妹に押し付けているし。

ポーションをハイポーションするために、妹の魔力を使っているし。


おんぶに抱っこの使えない姉、だから不機嫌になっても仕方ないと思う。


こうして、ポーションの調合を任せてくれて、私の居場所を残してくれてるだけ有り難い。


私は残りのポーションを木箱に詰め込んで、片づけをしている間に、開店の時間がやってきた。


午前中には、隣の領から男爵様がやってきて、ポーションを買っていった。

それから宮廷魔導士の方がやってきて、キャサリンを口説いていたけれど、口車に乗せられてポーションを買わされていた。


おかげで在庫が半分以上なくなってしまったので、私は追加でポーションを作り始めた。

それから数時間後のこと。


チリンチリン――。


「キャサリン、迎えに来たよ」


「アルバート様!」


昨日に引き続き、バーバトン公爵様がやってきたようだ。

追加のポーションも作ったし、こちらの準備は万端だ。

私は扉のほうを眺めて、キャサリンが来るのを待ったのだけど、首を傾げた。


迎えに来たよ?


すると扉が開け放たれ、笑顔満面のキャサリンが私を見て言った。


「バーバトン公爵様のお家に仕えることになったから。私出ていくね」


「……え」


「あ、もちろんアンタは居残りよ?ついてこないでね」


「で、でもそしたら」


「散々私の脛を齧ったんだからもういいでしょ。姉のくせに私の役に立ったことがないじゃない」


「……ご、ごめんなさい」


「ちっ。ごにょごにょ喋ってないで、ハッキリしてよ。気持ちわるい」


「わ、私も頑張ったよ。調合とか」


「だから何?その辺の孤児でもできるわよ。親が死んでから変わるかと思ったけど、ずっと根暗で引きこもって、妹に頼ってさ。恥ずかしくないわけ?」


「……ご、ごめんなさい」


「あんたの顔見なくて済むと思うと、ホントせいせいする。頑張って生きてね、どこも雇ってくれないと思うけど。この店は好きにしてねー」


チリンチリン――。


冗談だと思って、私はしばらく入り口を眺めていた。

たった一人の肉親だから、捨てるはずはないと確信めいたものがどこかにあったのだけど。1時間も呆然としていれば、次第に絶望がせりあがってくる。


両親はいないし、頼れる親戚もいない。

今まで引きこもってたせいで、友だちもいないし。笑顔が苦手で接客には向かないと自分で分かっていたから、妹に代わってもらっていた。


そうだよ。

ほとんどのことを妹に押し付けていた。


こんな無能でトロい私を、雇ってくれる職場なんてこの世にあるのだろうか。

これから私はどうやって生きていけば……。


暗転した未来に、私にはひたすらに絶望しかなかった。


◇◇◇


何もかもが壊れた気がして、溢れる涙と共に崩折れていたところ、間が悪いことに、勝手口が叩かれた。


まだ営業時間中だから、お客さんだろう。

けれど失意のあまり、扉を開ける気が起きなかった。

それから何度も何度もノックがあり、さすがの私も、開けざるを得なかった。


するとそこにいたのは、燕尾服に身を包んだベイヤーさんだった。


「なにをしてる。居留守か?」


かなり不機嫌そうにしながらも、ズカズカと上がり込んで受付の様子を窺っている。


「キャサリンはいないのか」


そういえば昨日、彼氏はいないのかと聞いていたし、今は燕尾服で身なりを整えているから……。


キャサリンをどこかへ誘うつもりで来たんだ。


「バーバトン公爵様と出かけましたよ」


ベイヤーさんには同情する。

ただの荷運び人では、キャサリンを射止めることなんてできないだろう。

たとえ燕尾服に身を包み、まるでお姫様を踊りに誘うような厳粛さと気品を醸し出しても、彼女を慕う上流階級の者には勝てない。


「そうか。で?なんで泣いてるんだ」


そう言われて、私はありのままを話した。

このままだと、この店は潰れてしまうから、別の取引先を見つけてくださいと。


そしたらベイヤーさんは、意外なことを口走った。


「だったらウチに来い」


言葉の意味が分からなくて怪訝な表情をすると、ベイヤーさんは大きなため息をついた。


「ラマン商会に来いと言ってる」


ラマン商会といえば、ウチと肩を並べてハイポーション製造する中規模商会だ。

ゆくゆくは大商会の仲間入りをすると目される、そんな商会に入れるなんて、夢のまた夢。

行倒れそうな私には、願ってもない幸運だ。

そんな商会に来いと言えるこの人は、一体何者なんだろう。


「……ベイヤーさんは何者なんですか?」


するとベイヤーさんは、フッと笑った。


「跡継ぎだ。今は親父が会頭で俺が副会頭だ。心配しなくても、一生面倒は見てやる」


昨日のキャサリンとベイヤーさんの会話を思い出されて、合点がいった。


「下の者の気持ちも知らんとな」


人は見かけによらないとよく言うけれど、荷運び人さんが、副会頭だなんて思いつくはずもないし、拾ってもらえるなんて幸運も、これから一生訪れることはないだろう。


不安しかなかった私には、過分すぎる希望だ。


私が頭を下げると、ベイヤーさんはまた笑った。


「さあ行こう」


「……え、いやここの片付けが」


明日明後日の話だと思ってた私は、意表を突かれて面食らっていた。


するとベイヤーさんは怪訝な表情で言う。


「それは食事の後でいいだろ」


「……食事?」


「……彼氏はいないんだろ?」


彼氏って、ああ、昨日聞かれた。


え?


「妹ではないのですか?」


「化粧が濃いのは好かん。お前ぐらいのがいい」


そう言って顔を覗き込まれたので、恥ずかしくて俯いてしまった。

だって、生まれてこの方化粧なんてしたことないから。


「わ、私、化粧なんてしてませんよ」


「ほう。じゃあそのままでいろ」


「ど、どうしてそんなこと言われなきゃ……」


「国を傾ける気か?平和のためにも止めてほしいものだな。で、行くのか行かないのか決めてくれ。予約してあるんだ」


「……」


「おい」


ぼーっと熱に浮かされた。


“国を傾ける”の解釈が、私の勘違いでないとしたら……もう顔を見れない。


恥ずかしくて、もうベイヤーさんを見れる気がしない。


きっとお世辞に決まっている。それはもちろん理解しているんだけど、初めて言われたから。


俯いたまま黙っていると、無骨な指が私の顎を持ち上げて、ベイヤーさんの青い目に囚われてしまう。


「……ふっ。照れてるだけか、なら行くぞ」


すると彼の大きな手が私の指先に触れた。

もじもじと絡む、私の指を解いて、優しく包みこんだのだ。


強引な手に導かれたその瞬間に、私の世界はこれまでと違った景色へと移り変わる。


◇◇◇


あの日から1年後、キャサリンという女性が私を探しに、ラマン商会へやって来たらしい。

店員さんは「エリザベス・ラマン」ですか?と尋ねたらしいけれど、キャサリンは首を振ったそうだ。

家族名が違うと言って、去っていったらしい。


だいぶやつれていたらしいから、公爵様と何かあったのだろうけれど、結局私と会うことはなかった。


結婚したから、家族名が変わったなんて思わないよね。しかも大商会の家族名になるなんてさ。




あの日、ベイヤーさんがウチへ来いというから、商会で働けって意味かと思ったら、ただのプロポーズだった。


けれどいきなり結婚は怖い気がしたので、ひとまず働かせてくれと懇願した。

すると彼は好きにしろといって、商会の調薬部門で、それなりの地位にしてくれた。


……地位にさせられた、というのが正しいかもしれない。


ほとんどやることがなくて、日がな一日ぼうっと、ベイヤーさんの隣に座っているだけだったから。


これではダメだと思い、ベイヤーさんに何度もお願いして働いた。


漫然と働いてた日々よりも、商会のため、ベイヤーさんのためと思うと、毎日楽しく働けたし、やりがいがあった。


それから暫くしたある日、また彼が言った。


「ウチへ来い」と。


だから私は頷いた。


「ベイヤーさんのように働きたいです」


「……薬草に触れているだろ。それだけで十分、商会に貢献できている」


「私が触れた薬草でポーションを作れば、ハイポーションになる、ですよね。それは分かってますけど、並行して働けばもっと貢献できますよ?」


ベイヤーさんは、ため息混じりに私の頬を撫でた。


「なぜ働こうとする。ゆっくりしていればいいだろう?」


私の頬に添えられた無骨な手。

その手に触れるだけで、私は安心できる。


「商会と、ベイヤーさんのために働きたいんです」


ベイヤーさんは困ったように笑うと、ため息をついた。


「……労働時間以外は、必ず俺のそばにいること。これが約束できるならいいぞ」


「お手洗いもですか?」


「常識の範囲内でだ」


「フフフ。分かりました」


強引で口調も強い旦那様の隣が、私の居場所でした。

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