登用試験(前)
昔語りを始めましょう……。
ある日、担娘国に立てられた高札は、いよいよ登竜の門が開かれたことを示したので御座います。それは、無論太郎佐も例外ではなく、そして、特別ではなく。無論彼は代々高崎家に仕える家柄ですから、少しは有利かも知れませんが……。
とはいえ、勝負は時の運にして、更に言えば海千山千の者共が目指すわけでございます。当然、太郎佐だけに良い思いはさせまいと阻んで参ります。
それでは、本日もとくとご覧あれー……。
花が散り始め、やや地表の熱気が強くなってきたある日のこと。父宗熙も清顕国へ旅立って暫くして、いつものように教育係の監督の下太郎佐が稽古をしていた頃の話である。妙に城下が騒がしい。とはいえ、騒がしい以上のものではなく、一揆特有の物々しい気配ではない。大方、行商人が競りでもしているのだろう、そう思い直し南川と芝田が若君の指導に戻ろうとした矢先。
「おお、太郎佐の家臣ではないか」
……巡察でもしているのか、高崎満豊が現れた!
『こ、これは大殿!』
あわてて伏せ始める南川と芝田。それを見て満足そうに頷き、満豊は次のように告げた。
「ああ、気にするな。楽にせい。……さて、この辺で良いか。折角じゃ、おぬし等も手伝え」
「ははっ、して何を」
「ちと、高札を立てる。なんだったら、先に読むか?」
高札を立てると言い出した満豊は、既にそれ用の家臣団も連れておりどうやら何かしらの決定事項を領民に告げる途中のようであった。そして、既に家臣団で稟議したであろう高札の中身を見せてくれるという。彼らも興味があったのか、読み始めた。
「有り難き幸せ。然らば、拝見致しまする」
「おう」
そして、その高札の中身は次の内容であった。
・高崎家登用試験の日付
・年貢率改定のお知らせ
・昨年度の流民審査通知
まあ要するに、高崎家へ仕官する者への発表と税率改定、そして流民に対しての戸籍割り当ての合否通知であった。後世の者達や我々の世界からすると何のことはない通知であるが、この通知自体、当時どれだけ衝撃的なことであるかを理解する必要がある。
まず、登用試験自体が他家ではあまり見られない通知である。なぜならば、通常、特に名門の家柄である場合は登用をしようにもその門自体縁故でぎっしり埋まっており、足軽一人といえども通常は何誰家の何某、と決まっているものである。それは、洋の東西どころか異世界であろうと、概ね中世というものはそういう時代なのである。特に、この世界では家柄の長さと確かさはそのまま魔法の属性や威力に繋がるのである、少しでも確かな家柄の者を登用することに躍起になる、はずである。
次に、年貢率改定であるが、高崎家は現在、多少なりとも懐具合に余裕が出ていた。それは言うまでも無く、隣国を平定したからであるが、この年貢率改定はいわば、「開拓者募集」とでも言うべきものであった。つまりは、隣国を平定して、版図に加えたから開拓志願者には多少なりとも税率を低くしよう、というものであった。そして、更に開拓者達には様々な特典が与えられた。貯まったものではないのは清顕国や米咲国などの元の住人であるが、征服されるとはすなわち、そういうことである。
そして、一番衝撃的なのが次のお知らせである。通常、他の地域の人間というものは喩え政体が同じであったとしても外国人として扱われた頃の話である。故に、それはいわば国力を補う為に外国人に帰化を与える行為といえた。無論、こればかりは狭き門であったのだが、高崎家は清顕国や引上国、そして米咲国などを平定したばかりである、懐に余裕があるということは、狙われないように防備を固める必要があった。故に、まずは担娘国になじんで貰い、代わりに足軽として兵役に就いて貰う、ということでもあった。
そして、その高札の内容を制定した者こそ……。
「……大殿」
「おう、どうした」
「若が、何かご無礼を働いたのならば、先に腹切って詫びまする」
南川や芝田は、太郎佐の教育係である。故に、この高札の内容にその「太郎佐」が何枚か噛んでいることに気づいてしまったようだ。それに対して、高崎満豊は笑ってこう答えたという。
「……ああ、やはり感づいておったか。安心せい、無礼など働かれておらぬし、確かに高札の中身にはかの「若殿様」の助言も混じっているが、決めたのは儂じゃよ」
「は、はあ……」
困惑の表情をしつつも、眼前の「大殿様」が怒っていないことから考えて大事にはなっていないことに安堵する二人。
「それじゃあ、問題は無い、ということでよいな?」
「問題ない」かどうかを決めるのは基本、上の者である。戯れにそんなことを聞いてくると言うことは、高崎満豊は今相当に機嫌が良いとみるべきであった。
「滅相も御座りませぬ!」
「ははは、それで良いのじゃ。……それでは、手伝ってくれるな?」
「ははっ!!」
そして、高札が打ち込まれる高い音が周囲に鳴り響いた。無論、音である以上限られた範囲にしか響きはしないが、ことがことである、次第に人がよって来始めた……。
それでは次回、「現在執筆中」。ご期待戴ければ、幸甚の限り。




