太郎佐の天稟・前話
昔語りを始めましょう……。
道術適性試験の刻限が近いことを告げられた太郎佐。最悪の場合は「廃嫡」という言葉が彼の胸に重くのしかかる。そして、それだけでも重圧だというのに、まずは「赤入道様」の小姓としての登用試験に合格せよという。はたして、太郎佐の天稟やいかに。
それでは本日も、とくとご覧あれー……。
「そういえば、若」
父宗熙の命に従い、旅支度を行い始めた太郎佐を呼び止めたのは、南川ではなく別の家臣であった。苗字を芝田という。
「ん、芝田だっけ」
「はい。……そういえば若はまだ、道術適性を計られておらぬ、と思いましてな」
「道術適性?」
「はい。以前、南川との会話で治療を魔法にて行おうとして居られたことを聞きましてな。若もそろそろ生まれついてより一回りしております、計るには適した頃合いかと」
道術適性試験。それはいわばその人物がどの魔法が適性であり、尚且つ適性の魔法でどれだけの力価を発揮できるかというものを具体的に見極めるためのものであった。
「それって、つまりはどの魔法が適しているかってことだよね?」
「はい、然様に」
「……それで、悪い結果が出ると?」
「……最悪の場合、廃嫡も考えられまする」
さすがに「廃嫡」は行きすぎた想像であったが、大隅家嫡男ともあろう者が術の一つも使えぬ、とあっては如何にも外聞が悪かった。そして、そもそも時暦的に考えれば彼が魔法を使えぬはずがなかったのだ。
「えっ……」
そして「廃嫡」ということの重大さを知っているのか、ジト汗を何個か顔に貼り付ける太郎佐。無論、「最悪の場合」であり、更に言えば廃嫡騒動が仮にあったとしても彼に変わる男児は未だ大隅家には存在しなかったのだから、事実上不可能ではあるのだが。
「まあ、若であれば大丈夫でしょう」
「……だと、いいけど……」
「然らば、若が生まれたのは夏で御座いますが故、次の雨期が過ぎるまではお待ち下され」
そして、こういう「試験」は通常、誕生日に行われるのが常であった。通常、「誕生日」、より正確に言えば「その人物が誕生した瞬間」よりきちんと年月が経った刻限を以て行うのが、一番良い結果が出るとされていた。そして、その場合太郎佐は深夜であり、月が並ぶ中行われることとなる。
「ああ、わかった」
「それに、若であれば良い結果が期待できると思いますよ」
「……世辞か?」
「いえ、若の生まれし時を考えれば、そう思えるだけで御座います」
「ああ、そう……」
ちなみに、この「大隅太郎佐」が生まれた時暦を参照すると「法王の座、軍神の時、絶の頃合い」であった。少なくとも、魔道士を志す場合はこれ以上無い程の恵まれた星の下に生まれたようである。とはいえ、それはあくまでもこの場においては未来の話。まずは、如何に「赤入道様」に好かれたとはいえ小姓に登用されることが目標であった。
それでは次回、「現在執筆中」。ご期待戴ければ、幸甚の限り。




