とりあえず、現状を確認しますか
昔語りを始めましょう……。
本日の昔語りは、父宗熙より所領を与えられ、清顕国の要所である虎原郡領主として旅立つ前の担娘国で残り少ない加冠前の日々を過ごす、豊遠龍樹公がまだ幼名太郎佐を名乗っている時代の頃。
傅役南川を従えた太郎佐の行く末は果たしてどんな花が咲く、本日もとくとご覧あれー……。
「えぇと、南川さん」
彼は、眼前の家臣が重大な協力者であることはきちんと理解していた。故に、ひとまず立てることにした。彼は第一印象が非常に大事であることを、10そこそこにも関わらず理解していた。
「呼び捨てで構いませぬぞ、若」
一方で「相変わらず謙虚な若殿だな」と苦笑しつつ、太郎佐に改めて挨拶を行う南川。諱を交わした訳ではないが、彼自身この幼武者にそれなりの愛着があったこともあって、後に数々の危険な橋を渡る際にも喜々としてついていったという。
「そうもいかないでしょ。重要な家臣で、しかも年上なんだし」
それは、彼なりの配慮であったのか、あるいはいつもの用心慎重であったのか。少なくとも、彼は彼なりの理由で眼前の老臣(と、いうほど南川は年老いては居ないのだが、眼前の若に比べれば少なく見積もって15~20は離れていた)に対して敬意を表していた。
「ははは、立ててくれるのはありがたいのですが、若は大隅家の御曹司にございます。基本的に、下の者に頭を下げる必要はありませぬ。むしろ、そんなことをすれば軽く見られますぞ」
大隅家とは、主家である高崎氏の執事的存在であり、高崎氏が村上氏を討伐して報告を行うために首都に在住している現状、事実上の担娘国の主でもあった。無論、南川や芝田ら大隅家郎党衆にとっては、眼前の若が重く見られれば見られる程、彼らの存在感も増すのだから担ぎ上げる行為も苦ではなかった。
「……わかった、気をつける」
流石に、積み重なった謙虚の根拠を全て崩された以上、彼も南川に敬語を使うことを辞め、目下的な言葉を使い始めた。それを見た南川は、満足そうに頷いて、所領を取り扱うための授業を執り行い始めた。だが。
「それで宜しいのです。さて、若。所領経営の心得に御座いますが……」
「それは、与えられる所領がわかってからかな。土地によって、使うべき政策は全部違うから」
なんと、太郎佐は加冠前の齢にも関わらず地勢を知っていた。無論、平野に河川が近いといった穀物を作れる場所と、人が多く集まりやすく取引に向く場所、そして鉱脈が近くにあったらそれを加工する職人が出入りする場所など、全て異なる地勢なのだが、彼はそれをどこで読んだのか、既に知っていた。
「おお、そこまでわかっておいでならばこの翁、出る幕はないかもしれませぬな」
目を丸くして驚く南川。それは眼前の若が有望であることもだったが、やはり用心慎重なのは爪を隠すためであったかと思い至ったからでもある。
「そうかな、まあそのときが来るまでは使い倒すから覚悟してて」
「もちろんで御座いますとも! ……して、所領への案内が始まるまでにはまだ時間があります。何をなさいますか」
そして、所領への案内の後に所領を取り扱うための授業を行うことにした南川は、残り少ない担娘国在住期間に何か他に与えるべき知識はあるかと問うてみた。それに対して太郎佐が出した答えは……。
それでは次回、「薬を作ろう(前)」。ご笑覧戴ければ、幸甚の限り。




