春雨じゃ。濡れて行こう。
ざー。
「雨だ」
校舎の昇降口でワタルが呟いた。
「ワタルくん、傘持ってないの?」
ハルカが聞いた。
「傘って、かさばるし」
駄洒落かなと思いつつも、
「一緒に私の傘に入って帰ろ」
とハルカは嬉しそうに言った。
相合傘だあああ。
ハルカの心を知ってか知らずか、ワタルは
「だが、断る!」
と一刀両断。
ふえーん。泣きそうなハルカ。
「花柄のピンクの傘なんて、入って行けないよ!」
「そりゃ、そーだ」
クラスの男子たちが通りすがりに口々に言って行った。
「学校の置き傘貸してやろうか?」
先生が様子を見に来て言った。
「あいや、ご心配めさらずとも、春雨じゃ、濡れて行こう」
ワタルがそう言って外に飛び出して行った。
「いつの時代の生まれだよ!!」
と先生がツッコミを入れた。
「今、季節は春じゃないし」
案の定、ずぶ濡れで帰宅したワタルは3日間熱発して学校を休んだ。
「ワタルくんのいけず」
ハルカが空席のワタルの席に向かってひとりごちた。