第2話 メイドさんと
緊急事態である。
ついにとうとう破滅フラグとの接触である。しかも相手は超☆積極的。毎日お昼の逢瀬(?)を約束させられてしまいましたよ。
これはマズい。
マズい気がする。
いや王子様との恋愛になんて興味はないし、私をポイ捨て(予定)な野郎にフォーリン☆ラブなんてするつもりはない。
けれど、相手はイケメンだ。
ものすっごいイケメンだ。
ゲーム画面越しではなく。遠くから眺めるわけでもなく。会話ができるほどの距離で王子殿下の顔を見た私は認識した。認識せざるをえなかった。
前世のアイドルとか芸能人でも滅多にお目にかかれないレベルの、ハリウッド映画で主役を張るようなイケメンがリアルで目の前に存在し、私に微笑みかけてくるのだ。
うん、コロッといかない自信はないね!
今はまだ理性が勝っているけれど、毎日会ってたら惚れる自信があるよ!
前世で彼氏/ZEROだった私のチョロさを舐めるな! イケメンから微笑みかけられたらそれだけで恋に落ちるわ! 搭載していなかったはずの乙女回路が今さらながら大回転中!
「くっ! メイ! どうしたらいいと思う!?」
先ほど第二王子が立ち去ったばかりの屋上植物園で。いつの間にか近づいてきていた美少女に私は問いかけた。
彼女の名前はメイ。学院にも同行している私の専属メイドであり、そこらの貴族令嬢では太刀打ちできないレベルの美少女だ。クール系メイド、超萌える。
ちなみにメイドさんの名前がメイというのは安直すぎる気がするけれど、ネーミングセンスについて突っ込まれると幼き日の私が泣くので勘弁して欲しい。あのときはナイスなネーミングだと思ったのだ。『きゅぴーん!』と来てしまったのだ。……正直すまんかった反省している。
まぁしかしそんな名前を名乗り続けてくれているところに私とメイとの確かな絆が感じられる。ような気がする。うん、けっして我が国に改名制度がないからそのまま行くしかないだけ、ではない。と信じてる。
「はぁ……」
そんな絆の力が溢れるメイからなぜだか呆れを込めた視線で見下ろされる私だった。
いや立ち位置的にご主人様を見下ろすのはしょうがない(私は今テーブルセットに腰掛けていて、メイは立っているからね)けど、ご主人様の破滅の危機なのですからもう少し心配してくれてもいいのではないですか?
「……また『おとめげぇむ』とやらのお話ですか?」
幼い頃から私の専属メイドをしてくれているメイには乙女ゲームや転生について話してある。幼い頃の私は破滅ルート回避のために変な行動をすることが多かったからね。一番近くにいたメイには話してしまった方がいいと判断したのだ。
まぁメイは『乙女ゲーム』に関してはあまり信じていないみたいだけれど、諸々の経験から私に予知能力的なものがあるとは判断しているらしく、昔から何度も私の奇行(と書いて運命への反逆と読む)をフォローしてくれた。
メイがフォローしてくれたからこそ私は第二王子の婚約者にならず、趣味の小説執筆を謳歌できるようになったと断言することができる。
「そう! 乙女ゲーム! メイに何度も話していた破滅フラグがやって来たのよ! もう明日にでもコロッと落ちちゃいそう! リリーちゃん最大のピンチ!」
「あなたには『最大のぴんち』とやらがありすぎる気がしますが。……リリー様はたしか以前から「殿下から捨てられる未来を知っているから恋に落ちたりしない!」だとか、「報われない恋なんて嫌! 百合も現実も『はっぴーえんど』が好きなの!」とかほざいて――おっしゃっていませんでしたか?」
今「ほざいて」とか言いかけませんでしたこのメイドさん? むしろ言い切っていませんでしたこのメイドさん?
メイが深々と、それはもう深々とため息をついた。
「なのになぜ“即落ち”しているのですかあなたは?」
「お、落ちてねーですし。まだギリギリ大丈~夫ですし?」
「ギリギリなのですか……」
「いやだってあんなイケメンよ? キラキラ光っているのよ? 恋に落ちても不可抗力じゃないかしら?」
「いくら王子殿下でも、さすがに光ってはいないと思いますが」
え? 光ってないの? なんだか背後に光エフェクト発生していませんでした? 笑顔が輝いていませんでした? 私てっきり乙女ゲームの特殊効果なのだとばかり……。
「……異性が輝いて見えるとか、それは話に聞く『恋に落ちた』状態なのでは?」
「は、はははっ、何をおっしゃるウサギさん。そんなわけあるわけなかろうですことよ」
「図星を突かれて妙な口調になっていませんか?」
「そ、そんなことは……なんだか今日は一段と辛辣じゃありません、メイ様?」
「気のせいでは?」
いや気のせいじゃない。たしかにメイは普段から辛辣で、容赦なくて、私をぞんざいに扱って本当にご主人様と認めているのか疑わしくて――あ、ちょっと泣けてきた。とにかく、クールでツンドラなのだけどときどきデレてはくれる子なのだ。
そんな彼女から、今日は微塵も容赦というものを感じ取れない。これはどういうことかと私は考えて――
「――謎はすべて解けた!」
「はい?」
「嫉妬! 嫉妬しているのねメイちゃん!?」
「…………」
「幼なじみとしてずっと側にいた私が、ぽっと出の王子殿下に取られそうになる! 心穏やかじゃなくなり口調も乱暴になってしまう! そういうことだったのね!」
「どういうことですか?」
「いや~私って百合は好きだけど自分が百合百合するのは解釈違いというか、でもメイから求められて悪い気はしないというか? まさかこんなところに百合の花が咲いていたなんて――」
「…………………」
「……あの、メイさん? 何か言ってくれませんか?」
今の彼女、苦虫を百匹くらい噛みつぶしたような顔をしているでござる。
「………………………リリー様はご主人様ですし、拾っていただいた御恩もありますし、そういうことを望まれるなら覚悟を決めるしかありませんが……」
「いやそんな苦汁を2ℓペットボトルで飲み干したような顔で言われても。え? なに? 私ってそんなにダメなのかしら? もしかして嫌われている? け、結構いい友達というか親友だと思ってたのだけど?」
「私のような下賤の生まれの者を友と呼んでくださるのは嬉しく思いますし、身分不相応ですが私も友人――親友だと思っています。しかし、えぇ、恋人はちょっと無理ですね。私にも選ぶ権利をいただければありがたく」
真顔でお断りされてしまった。泣いていいかしら?
「……なるほど、よく考えてみれば、リリー様のような奇特な方を求めてくださっているのですから、王子殿下を逃がす手はないかもしれませんね」
なんだろう? メイが『王子様との恋愛推進派』に転がった音が聞こえたような?
「あ、あの、メイさん?」
「えぇ、承知いたしました。今後殿下がリリー様との面会を希望されましたら引き留めることなくお通ししますので」
いくら殿下であろうとも、婚約者でもない貴族令嬢の専属メイドに渋い顔をされたらそれ以上近づかないのがマナーだし、メイにしても、主が望むなら居留守のために嘘をつくことも許される。つまりメイは私にとって最後の砦になれる人物なのだけど……なぜそんなノリノリになっているんですかね?
ど、どうしてこうなった?




