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第1話 第二王子と




 



 私の名前はリリー・ユリスト。15歳。自分で言うのも何だが銀髪碧眼の美少女だ。


 本来は悪役令嬢らしいけど、破滅の原因である第二王子との婚約もしていないのでまぁまぁ平穏な日々を過ごしている。


 もしこれからゲーム補正的なものによって第二王子と婚約し、婚約破棄を喰らっても、悪役令嬢もののテンプレとして冒険者になるのもいいかもしれない。私、悪役令嬢であるおかげか魔法も剣技も人並み以上だし。


 まぁでもこのままなら結婚はしなくてよさそう=破滅ルート入りもなさそうなので将来は実家の公爵家でお父様やお兄様の補佐をしつつ作家として生きていこうかなぁと計画中。


 もちろん書くのは“百合”専門ね。何が悲しくて妄想の世界に野郎(ヤロー)を登場させなきゃならないのか。

 私は百合に男が乱入するのは地雷だし、さらに言えば百合カップルの仲を深める噛ませ犬(男)も許せない原理主義者であり、背景に男が描いてあるのすら吐き気がする過激派だ。


 魔法を使えば女同士で子供を授かることだってできるのだから男なんて滅びればいい。マジでそう考える今日この頃私は元気です。


 さて。そんな元気いっぱいである私はいつもどおり学院の校舎屋上にある庭園に寝そべって眼下を――校庭を見下ろしていた。ここからなら誰にも見つかることなく様々な人間模様を観察できるからね。


 屋上庭園は『庭園』と名付けられているけれど実際は植物園に近い。しかも手入れが不十分で鬱蒼としている。綺麗でお高いドレスを着た令嬢は近寄らないし、三大欲求しか頭にない男子などは認識すらできないだろう。


 だからこそこの庭園にはほとんど人がやって来ないし、もし来たとしても寝そべっていればまず見つかることはない。学院で繰り広げられる百合模様を視姦――じゃなくて観察するにはもってこいなのだ。


 もちろん私の目は二つしかないのですべての情事――じゃなくて恋愛模様を見届けることはできない。なので、私は妖精さんと契約して遠くの映像を空中に映し出してもらったり、資料として重要なものは魔力を固着させやすい水晶に録画してもらったりしている。


 妖精契約。遠視。そして水晶を用いた映像記録。どれか一つでもできるのなら宮廷魔術師になれるらしい。が、私にとっては快適な百合ライフを助けるちょっと便利な魔法に過ぎない。

 才能の無駄遣い? むしろ余すことなく有効活用していますが何か?


 誰かに言い訳しながら私は屋上の縁ギリギリに身を乗り出して校庭の隅、木陰で繰り広げられる百合模様(世界の真理)を注視した。


 木陰に立つのは派手な金髪ロールが印象的なユリスキー侯爵家の長女、メリア・ユリスキー様。見た目は華やかなのに性格は穏やかで学院での人気も高い。


 そんな彼女に抱き寄せられているのは庶民ながらも特待生枠で学院への入学が許されたアンナ様。この国には多い茶髪をした美少女。男性女性構わず心を撃ち抜けそうな涙目でメリア様を見上げている。


 そう、見上げて。メリア様は女性にしては背が高いクールビューティーで、逆にアンナ様は小柄な小動物系なので結構な身長差があるのだ。20~30cmくらいかな?


 ちなみに乙女ゲームの舞台である影響かこの世界の度量衡はメートル・リットル・キログラムが使われている。が、重要なのはそこじゃない。重要なのは身長差&身分差のある美少女が今にもキッスしそうな雰囲気を醸し出していることだ!


「……ふへっ、身長差カップル、いい……。最高……。しかも身分差とか……ふひひ、私を萌え殺す気かしらあの二人は……」


 たぶん今の私は人様に見せられないレベルの顔面崩壊をしていると思う。よだれを垂らしていないのはわずかに残った貴族令嬢としての誇りだ。それ以外は手遅れだけれども。


 しかし、ここまでは長かった。私が鍛え上げた百合百合センサーによってメリア様とアンナ様の間に芽生えたほのかな恋心を察知。健気で儚い想いが枯れてしまわないようにときどき助言をしつつ遠くから見守り続けて……ついにとうとうこのときが来たのだ!


 大興奮する私に妖精さんから現地の声が届けられる。



『メリア様! 私、わたし――っ!』


『待ってちょうだい、アンナ。その続きはわたくしから言わせてほしいわ。――好きよ、アンナ。誰よりも愛している。たとえ政略で他の男性と結婚することになろうとも……誓うわ。わたくしの心はあなただけのものよ』


『メリアさまっ!』



 ひしと抱き合い初々しいキスをしたメリア様とアンナ様。背景に百合の花が見える。確かに見える。


「きたー! カップル成立! 今まで苦労した甲斐があったぜ! もう顔真っ赤にして可愛いなぁ二人とも! ひゃっほう! 萌える! ちょう萌える! きゃああぁあああぁあっ!」


 ごろごろと転がって喜びやら萌えやらを全身で表現する私。あ~ぁ心がムズムズするぅ! ヤバい鼻血出そう!


「はっ! そうだ! 記憶が鮮明なうちにメモしなければ! くぅう新作のお題はこれに決定――」


 起き上がってテーブルに置いておいた秘密のネタ帳の元に行こうとした私は、固まった。冗談みたいに美しい金色が目に飛び込んできたためだ。

 見覚えがある。めっちゃある。


(え、エマージェンシーッ! われ敵の奇襲を受けつつありッ!)


 敵味方識別! 輝く金髪! 宝石のような紺碧の瞳! 輝くような女殺しの微笑み! どっからどう見ても第二王子じゃないか! 殿下だよ殿下! 第一種戦闘配置! 破滅フラグキタコレ!


 いや! 落ち着くのよリリー・ユリスト! まだ慌てるようなタイムじゃない!


 先ほどまでの痴態を見られたのは確実、それは死にたいほど恥ずかしいけど、逆に言えば殿下も呆れ果てているはず! ――いける! 今こそ『こんな女は婚約者にしたくないなぁ』作戦をやるしかない!


 ……私は百合模様の観察と平行して第二王子(破滅フラグ)のことも気にかけていた。『彼を知り己を知れば百戦連勝天下人』と言うし。

 その結果を鑑みれば、殿下は自分を取り巻くご令嬢に苦手意識を持っているのは間違いない。言い寄ってくる女子に辟易していて、真逆の反応を見せるヒロインに『ボクに興味を持たないなんて、面白い子だ……』とかほざいちゃう系のキャラだと思う。


 つまり! 軽率に言い寄ってくる貴族令嬢を演じきれば殿下も私に苦手意識を持つはず! 何という名推理! 私はやはり天才か! よしやるぞ! 前世の乙女ゲームやら今世の婚活令嬢を思い出してそれっぽいセリフを! 無意味に腰をくねらせながら!


「きゃ、きゃあー、こんなところで殿下に会えるだなんてー。これはもう運命に違いありませんわー」


 きゃぴきゃぴ。


 ……うんゴメン。自分でも棒読みだって分かったわ。あまりのひどい演技に殿下も固まっちゃったし。赤面して頭を抱えてしまった私は悪くないと思う。いや演技は最悪の出来だったけど。


「…………」


「……あー、リリー嬢?」


 戸惑いがちな殿下に対して私はふるふると指を一本立てて見せた。


「り、」


「り?」


「リテイク!」


「あ、はい」


 殿下が頷いたので仕切り直し。とはいっても万策尽きた感。そうだよ、百合が好きすぎていまいち男性との恋愛に興味がない私はどうしても演技に熱が入らないのだ。いくら相手がイケメンでも……。これでは他のセリフを選んでも同じような結果になるだろう。


 ならば、高飛車で嫌な女を演じるしかない! そっち系ならお茶会で何度かやったことがある!


「――あら、殿下。許可もなくわたくしを視界に収めるだなんていい度胸ですこと。それとも王家では最低限の礼儀すらお教えにならないのかしら? ふふ、間抜けな顔。あなたを見て発情しない女性がそんなに珍しいのかしら? まったく無様ね。有象無象の令嬢たちを侍らせたからといって勘違いなさっているのではなくて?」


 不敬ーっ! 王族相手に何言っているんだ私!? しかも考えるまでもなくすらすらと口をついて出てきたし! 私って実はサディストの才能があったのか!?


 これまで知らなかった自分自身の一面に私が愕然としていると――


「――ぷっ、あはははっ」


 殿下がこらえきれないといった様子で笑い始めた。あーはい滑稽ですよね今の私。貴族令嬢としては致命的だけど不敬罪は避けられたようなのでセーフ。セーフです。……アウトかな?


 ひとしきり笑った殿下はなぜか片膝をつき、私の右手を取った。


「では、あなたを視界に収める許可をいただけますか、フロイライン?」


「…………」


 乙女ゲームなら赤面の一つでもする場面だろう。きゅんと胸を高まらせる場面だろう。なにせ最上級のイケメンがキラキラ光りながら私を見つめているのだ。


 だがしかしここは現実世界。プロポーズでもないのに殿下に膝を付かせるとか不敬すぎて腰が抜けるわ。たとえ殿下からやり始めたとしてもだ。


 もはやこれまで。

 膝を折り、背中を曲げ、頭は地面に。私は流れるような動作でジャパニーズ・ドゲザを行った。


「マジすみませんでした。不敬罪だけは勘弁してください」


「……ぷ、くくくくっ」


 殿下が必死で笑いをこらえている。土下座している女性を見て笑うなんてとんだサディストですね、とはさすがに口にしない。なんか今の私はどんどん失言を重ねそうだもの。


 頭を下げ続けていると殿下が立ち上がった気配がした。


「――頭を上げよ。この場は『学徒としての立場は平等』を掲げる学院の敷地内。多少の不敬に関しては目を閉じるとしよう」


 威厳たっぷりな声は万民に静寂をもたらすような色を持っていた。第二とはいえ王子であることは伊達じゃないってことか。

 よし、殿下のおかげでちょっと落ち着いてきた。……そもそも取り乱したのは殿下が原因だけれども。


 とりあえず仕切り直しといこうかな。


「ありがたき幸せに存じます」


 私は頭を上げ、立ち上がり、魔法でドレスの汚れを綺麗にしてから淑女らしいカーテンシーを行った。


「名乗りが遅れましたこと平に御容赦下さいませ。わたくし、ユリスト公爵家が一子、リリー・ユリストでございます。殿下におかれましてはますますご清祥のこととお慶び申し上げます」


 決まった。我ながら完璧なカーテシー。『せっかく美少女に生まれたんだからそれにふさわしい所作ができるようにしないとねー。女子力アップ!』と頑張った過去の私、偉い。


 今までの努力が走馬燈のように蘇ってくる。何だかんだで『池に落ちたせいでお城がトラウマ』という言い訳が現在まで続いているから陛下をはじめとした王族の方々に挨拶する機会はほとんどなかったんだよね。フラグ回避のためにパーティも王族が出ないようなものばかりに参加していたし。

 つまり、今こそ努力の果てに習得した完璧な所作を殿下(王族)に見せつけるチャンスなのだ!


 ……だというのに。


「いや、そんな堅苦しい挨拶は不要だよリリー嬢。さっきも言ったがここは学院なのだからね。むしろ気軽に学友として接してくれた方が私としても嬉しいな」


 私の今までの努力全否定!?

 いやしかし、殿下からの申し出を断るわけにはいかないよね。ただでさえ不敬を積み上げているのだし超えてはいけない身分の差がある。


「しかし……、いえ、殿下が望まれるのでしたら、学友らしい対応ができるよう努力しますわ」


「うん、そうしてもらえると助かるよ。口調も楽にして欲しい。なにしろ私たちは学友なのだからね」


 過剰なまでに『学友』を強調して微笑んだ殿下は絵画のように美しく、口調も親しみがあふれるものに変化していて。そんな彼を見ていると胸の鼓動が高まり頬も少しばかり赤くなっていることが自分でも分かった。イケメンって凄い。


 私が普通の女性だったらこれだけで恋に落ちていたことだろう。


 しかし私は殿下から捨てられる未来を知っている。彼のせいで滅茶苦茶にされる運命を知っている。恋をしたらそれが最後。破滅の始まり。その知識のおかげで私はギリギリのところでトキメキ☆フォーリンラブを回避することができていた。


 ……できているよね? なんだか胸の鼓動が全然収まらないけど、恋に落ちてないわよね私?


 混乱する私の内心を知ってか知らずか、殿下はニコニコと笑顔を浮かべながらテーブルセットに腰を落ち着けた。どうやらすぐすぐ帰るつもりはないらしい。もちろんテーブルの上に置いてあった秘密のネタ帳は読まれる前に回収したともさ。


 ちなみにこの植物園はかつて屋上カフェテラスとして活用されていたらしく、テーブルセットはその名残だと思われる。

 ただ植物の手入れが放置されて鬱蒼としているのでかなり奥まで来ないとこのテーブルセットの存在には気がつかないだろう。人が近づいてくれば植物をかき分ける音で気がつけるし。……さっきの私みたいに興奮していなければ。


 まぁつまり何が言いたいかというと、学院内で密会をするなら中々都合がいい場所なのだ。


 椅子に座った殿下が微笑みかけてくる。


「私だけが座っているのも何だね、リリー嬢もかけたらどうかな?」


「そんな、殿下と同席させていただくなど恐れ多いですわ」


「私たちは『学友』、つまりは友人だ。友人が同じテーブルを囲んで他愛もないおしゃべりをするのは普通のことじゃないのかな?」


「…………」


 あれ、これ嵌められたかな?

 不自然なまでに『学友』を強調していたのはこれが狙いか……と察しつつ断るわけにもいかないので渋々席に着いた私である。


 お昼休みが半ばを過ぎているのが不幸中の幸いか。そんなに長い時間相手をしなくてもいいだろうし……。眉間に寄った皺に気づかれないことを祈るばかり。いやむしろ気づいて欲しい。さっさと気づけ。そして帰れ。『お邪魔なようですね』と気遣いを見せろ。


 内心の願いはもちろん殿下に届くことはなく。そんな私の様子を何が楽しいのか殿下は笑顔で見つめていた。


「リリー嬢はいつもここにいるのかな?」


「……いつも、というわけではありませんわ。わたくしにも友人付き合いがありますし。このような綺麗とは言いがたい場所に誘うのも気が引けますもの」


 前はここにもよく来ていたけれど、最近では妖精さんから『いい感じの子たちがいるよー』と報告を受けたら覗き見に来るくらい。それに休み時間には百合な悩みを抱えたご令嬢から相談を受けることも多くなったし。この世界、女の子同士でも子供ができる影響か前世よりも百合な人は多いのだ。


「なるほど、確かに普通の淑女はこんなところには来たがらないだろう。ここまで鬱蒼としているといつドレスや靴が汚れるか分からないし、虫も多いからね」


「そうですわね」


「虫は平気なのかな?」


「平気とまでは言いませんが、他の人のように慌てるほどではないかと」


 前世は一人暮らしの部屋で黒い悪魔と果てしない戦いをしていました。なんてことはもちろん話さない。


「……殿下はなぜこちらに? 見たところご友人も侍従の方もいらっしゃらないようですが」


 普段は『逆ハーか!』ってくらい男性を侍らせているのにね。そりゃあもう第二王子が婚約者を選ばないのはBでLな人だからじゃないかって噂が出るくらいに。


 しかし、将来の側近候補である友人は百歩譲るとして、殿下の護衛も兼ねている侍従がいないのは問題だと思う。第二とはいえ王子様。継承権第二位なのだ。


 殿下も悪いことをしている自覚はあるのか少しバツの悪そうな顔。


「たまには一人になりたくてね。ちょっとまいてきた」


 あー、侍従の方の苦労が偲ばれる……。前世の私はこういう人に苦労させられたものだ。

 そんな立場ではないのは百も承知だけど、ついつい苦言を呈してしまう。


「いけない人ですわね。ご学友の方はとにかく、侍従の方はお仕事なのですからあまり困らせてはいけませんよ?」


「リリー嬢からの苦言ならば受け入れなければな。だが、たまにはこの場所で息抜きをする許可はもらいたいな。最近は兄上が仕事をさぼりがちになってきて私にしわ寄せが来ているし」


「…………」


 息抜きという名目で、ときどき私とここでお話をしたいと。あれ私モテモテじゃない? まさかのモテ期到来? 殿下とこうしてじっくりと会話するのは初めてのはずなのだけど……。見た目? 見た目で選びました?


 まぁいいや。どうせ私の立場では断れないのだし。こちらに脈がないと分かればそのうち離れていくはず。私にこだわらなくてもチヤホヤしてくれる女性はたくさんいるのだから。


 私は報われない恋なんてしたくない。百合も現実もハッピーエンドが好きなのだ。


「ふふ、この場は広く学生に開放されていますもの。わたくしの許可など必要ありませんわ。それに殿下の御心が安らかになることはわたくしたち臣下にとっても重要ですもの」


「ではまたリリー嬢と過ごせる時を楽しみにしておこう」


「……わたくしなどでよろしければ、喜んで。ただ、毎日いるわけではありませんのでご了承いただきたいですけれど」


 会えなくても恨んだりしないでねーと前もって言い訳しておく。


「そうか。残念だが、リリー嬢にも都合があるし仕方がないか。でも、私はここが気に入ったよ。たぶん毎日のように通うことになるかな。放課後は忙しいから昼休みの間だけだろうけどね」


 ある程度は許すが昼にはなるべく顔を出せ、と? 直接そう言えばいいのに、まったく貴族のやり取りって面倒くさいわー。


「……御心のままに」


 渋々そう返事をすると殿下はくくくっと喉を鳴らした。


「う~ん、堅いなぁ。私としては先ほどまでのリリー嬢の方が好みだな」


 あのハイテンション痴態が好きとか特殊性癖すぎません?


「わたくしとしては忘れて欲しいのですけれどね。これでも公爵令嬢という身の上ですので。そう簡単に本性をさらけ出すわけにはまいりませんわ」


「いやいやこの場は二人きりなのだから――っと、予鈴が鳴ってしまったか。残念だがここまでにしよう。リリー嬢、またの再会を楽しみにしているよ」


「……、………えぇ、わたくしも楽しみにしておりますわ……」


 眉間の皺はもう隠す気もない。

 そんな私に殿下は大満足のご様子。上機嫌に鼻歌まで歌いながら植物園を後にした。


 やっと帰ったぁ。


 ため息をつきつつテーブルから離れ、校庭を見下ろす。開放感を存分に味わうために深呼吸をしていると……とある集団が目に付いた。

 噴水の近くで女子生徒一人と四人の男性がお弁当を広げている。予鈴が鳴ったのに食べ終わる気配はなく、どうやら午後の授業はサボるおつもりらしい。


 いいご身分ですね。

 まぁ実際いいご身分(・・・・・)が大半なのだけど。


 距離があるので表情までは読み取れないけれど、あの集団の中で唯一となる女子(かつ平民)はきっと天真爛漫な笑顔を浮かべているのだろう。


 私と同学年なゲームのヒロイン。庶民でありながら云々(うんぬん)かんぬん。

 乙女ゲームのヒロインらしくピンクの髪色をしている。現実でのピンク髪というのはものすっごいインパクトだ。目立つこと目立つこと。


 そんなヒロインの周りにいるのは王太子殿下と宰相の嫡男さま、騎士団長の長男坊、そして魔術師団長の養子殿。この学園における最上階級に君臨される方々は、あっという間にヒロインの色香に惑わされてしまったご様子だ。


 当然というか何というか、テンプレ通り全員に婚約者がいる。


 もちろん。いくら美少女とはいえ普通に学院生活を送っているだけであれだけの男子(それぞれに面倒くさい事情持ち)を侍らせられるわけがない。それこそ前世の記憶があって、最適な行動を選ばなければ不可能だ。


(もしもヒロインに前世の記憶があるのなら……。きっと逆ハーエンドを狙っているんでしょうね)


 幸い、私にとっての破滅フラグである第二王子はまだ攻略されてはいない。

 けれど、いつあの中に入っても不思議じゃないだろう。彼の心の闇も、悩みの原因も、ヒロインはすべて知っているはずなのだから。


 私は第二王子の婚約者じゃないし、百合趣味であることは学園中に知れ渡っていて、その影響か女の子が好きだと認識されている。だから『嫉妬に狂ってヒロインをいじめた』という展開にはならないし、万が一そんな噂が出てきてもすぐに否定されると思う。


 思うけど、どうにもきな臭くなってきた感じがする。


 第二王子が私に近づいてきたのが純粋な好意ならまだいいけれど、よくある“ゲーム補正”だとしたのなら……。下手をすれば婚約をした直後に破棄されるなぁんて展開も十分予想できるのだ。直前まで相思相愛だったのに人が変わったようにあっさりポイ捨てされるなんてストーリーはありがちだし。


「…………」


 王家から第二王子との婚約を打診されたら、いくら公爵家(うち)でも断り切れないだろう。そこに私の意志が介入する余地はない。親バカなお父様もさすがに公爵としての判断を下すはずだし。


 せっかく破滅フラグは回避して、これからはのんびりまったり生きていこうと思っていたのにね。


 はぁ、どうしてこうなった……。


 この世界を作った神さま、ちょっと恨んでもいいですか?




本日続きを投稿予定です。

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