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006 わい 2019年 春

挿絵(By みてみん)


腰が痛い。

めちゃめちゃ痛い。


わい、腰痛持ちやしな。

わいの背骨は奇形らしいわ。

病院へ行ったとき、お医者さんがそうゆうてはった。

背骨の異常はフレブルあるあるやさかいな。

こればっかりは宿命や思うて諦めんとしゃあない。

そやけど、これがもっと悪うなってヘルニアになったら嫌やなあ。

痛いやろなあ。

ぶるぶる。

整体の施術受けたら、一発で良うなんねんけどな。

半年ほど前に、お隣のコーノさんに紹介してもろた医院に行ったことあんねん。

でもそれ以来、連れて行ってくれよらへん。

まあ、一回の施術で1万円以上するんやさかい無理もないけどな。

うちはコーノさん家みたいな金持ちちゃうしな。


でも納得したところで、楽になる訳やない。

痛いもんは痛い。

あーあ。

整体行きたいなあ。

金があって自由に使えたら、すぐ行くねんけどなあ。

金なんかその気になったら、なんぼでも金稼げんのに。

わいは犬の中でも特別可愛らしいさかいな。

ペットの用品のモデルとか絶対出来るやん。

整体の施術料ぐらいなんとでもなるがな。

金があったら好きな食いもんも買えるしな。

ひひ。

なに買お?

エゾシカのステーキやろ、いのししのジャーキーやろ、チキン味のプレッツェルやろ、フカヒレのジャーキーと蒸したささみと、それからそれから…。


はあ…。

あり得へんこと考えんの止めよ。

虚しい。

あー腰痛た。


腰が痛い上に、昨日の晩から身体のあちこちが痒いねん。

おそらく散歩のときに河川敷の草むらでノミが付いたんや。

ノミめ。

わいかてノミが血ぃ吸わんことには生きられへんことぐらい分かってる。

そやかて、咬まんでええがな。

咬まれたわいが痒い思いせんならんがな。

欲しかったら、血ぃぐらいやるわ。

「ダンナ、わて腹へってまんねん。ちょっと血ぃくれまへんか」て、そうゆうたらええねん。

ちゅーっと血ぃ抜いて、魚の形した醤油の容れもんにでも入れて草むらへ届けたるがな。

そしたらあいつらは血ぃ吸えるし、わいは痒い思いせんで済むしな。

そないようけはやれんけど、ノミが吸う量ゆうたらまあ知れたあるやろ。

たまに採血しとったら新陳代謝も良うなるやろし、一石二鳥や。

わいは賢いなあ。


しかしや。

いかんせん、わいにはノミの言葉がさっぱり分からへん。

せっかくのアイデアが伝えられへん。

やっぱり散歩のたんびに痒い思いするしかないんか…。

困ったなあ。

まあ、百歩譲って血ぃ吸うのんは負けといたろ。

そやけどな、なんも足の指の股咬むことあらへんがな。

なんでよりによって一番痒いとこ咬むねん。

あー痒う。

痒いわ〜

かいかいかいかい、あー、かいかいかいかい。

薬欲しいなあ。

自由に使える金があったら、すぐ病院行くねんけどなあ。

わいなんか犬の中でも特別可愛らしいさかい…。


はあ…。

あー痒う。


昨日の晩、痒うて寝られへんかったさかい眠うて眠うて。

とりあえず横になろ。

ちょっとは疲れ取れるやろ。

あー眠う。

ふわぁぁぁぁぁ。


むにゃむにゃ。


どどどど…。


なんや?


どどどど…。


くっそ。

道路工事か。

やっかましいて寝られへんがな。

たまらんなあ。


どどどど…。


がるう。

そら、工事の人らかて悪気があってごっつい音出したはるんやないわ。

あの人らは仕事でやってはんねん。

そんなことぐらい分かってる。

道路の具合悪いまんまやったら、わいかて困るしな。

ご苦労さんです。

そやけどな、わいはものごっつい眠いねん。

ごっついごっつい眠いねん。


どどどど…。


ううう…。

今日は堪忍してえや。

頼むわ。

わいは眠いんや。


どどどど…。


くそ。

音、止む気配ないな…。

どっかしら静かな空き地へでも行って、のんびり昼寝したいなあ。

わい、ペットやさかい自分では出掛けられへん。

あー眠う。

眠い眠い眠い眠い。


どどどど…。


うう…。


どどどど…。


ううう…。


どどどどどどどどどどどどどどどど…。


がるるるううう!


あかん。

頭おかしなりそうや。

わい、犬やさかい自分で整体行かれへんし、薬も買われへんし、自由に出掛けることも出来へん。

やりたいことなーんも出来へん。

くーん。

痛うて、痒うて、眠いのに。

このまんまやったら気ぃ狂てまうわ。

せめて10分かそこら寝さしてくれ。

こうなったら一生のお願い使うて、しばらく工事止めさしたろかな。

どうしよ…。


どどどど…。


いらいらいらいら、いらいらいらいら。

いらいらいらいら、いらいらいらいら。


どどどど…。


がるっ、がるっ、がるう!


あかんわ。

もう我慢出来へん。

一生のお願い使うてまお。


おーい。

その工事、ちょっと止めてくれ~!!


しーん。


お?

音、止んだ。

ふう。

一生のお願いて利くもんなんやな。

それにしても、なんで急に工事がストップしたんやろ…?


あ。

そうか。

今、12時過ぎや。

お昼休みやん。

作業員の人ら、めし食うとるんや。

時間も確認せんと、うっかり一生のお願い使うてもうたがな。

わいとしたことが…。

今後、風呂で溺れたりした時には自力でなんとかせんならんのか。

あ〜あ、勿体ないことしたなあ。


まあええわ。

しゃーない。

済んでしもたことをぐちぐちゆうのは止めよ。

わいの性に合わん。

何事も諦めが肝心や。

今のうちにちょっとでも寝とこ。

ふわぁぁぁ~、眠う。


わいは、じきにうとうとし始めた。


でろりろりん♪


ふと気ぃ付いたら、わいは整体院におった。


「やや、金太郎さん。ご無沙汰しとりますなあ」

「どうもどうも。お商売のほうはどないです?」

「ぼちぼちでんな。今日はどないしやはりました?」

「また腰が痛うなってしもうて」

「それはお困りでしょうな。どうぞベッドへ上がっとくんなはれ」

「失礼しまっさ。よっこいしょと」

「すぐに良うなりますよってご安心下さい」

「あんじょう頼みます」


きゅっ、きゅっ、きゅ。


「どうでっか?」

「おおきに。おかげさんで楽になりました」

「痛いときは辛抱したらあきまへんで。悪うなる前にお越しやす」

「おおきに。また寄してもらいますよってに」


でろりろりん♪


場面は変わって、次は動物病院や。


「やや、金太郎さん。久しゅうお見かけしませんでしたな」

「どうもどうも。お商売のほうはどないです?」

「ぼちぼちでんな。今日はどないしやはりました?」

「先だって、散歩の折りにノミに咬まれてしもて。痒いのなんの」

「そうでっか。かないまへんな。すぐにお薬出しますよって」

「助かります」

「寄生虫よけのスプレーも用意しましょか?」

「おおきに。それもいただきます」

「虫よけの首輪もありまっせ。必要とあらばお申し付け下さいな」

「ほな、それも貰ろとこか」

「まいどおおきに。春ともなるとあちこちに害虫がおりますよって、気ぃ付けとくんなはれ」

「おおきに。また寄してもらいますよってに」


でろりろりん♪


また場面が変わって、今度は近所の空き地や。


ふう。

ここやったら工事の音も聞こえへん。

静かでええわ。

そよ風が鼻をくすぐりよる。

へーくしょん。

ずるずる。

春やなあ。

ええ気持ちやなあ。


わいは、じきにうとうとし始めた。


あんさんの夢は何でっか?

わいの夢は、整体行って、薬塗って、寝るこっちゃ。

それだけ。

ただ、それだけ。

くーん。

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