第1話 ステータス
生ごみのような異臭に目を覚ます。目を開くと目の前には身の丈140cmほどの緑色の皮膚をした生物の死体がある。そこから血が滴っていて床を赤く染め上げている。血が顔に付きそうな距離まで流れて来てたので急いで顔を上げる。
顔には付かなかったが先ほどの戦闘で服や髪が血と汗でべしょべしょだ。ものすごく気持ち悪いしこの血からは鼻が曲がるようなにおいがする。シャワーを今すぐ浴びたいが先に体の調子を確認したほうがいいだろう。
気絶する前は確か指一本動かせないほど満身創痍だったはずなのに体のどこにも目立った傷がない。肩を触っても嚙まれた後なんて一切見当たらない。原因が分からない事が少し不気味に感じるがこの際気にしない方がいいだろう。とにかくシャワーを浴びてこよう。
体の隅々まで洗い、においを落とした後、着ていた服を捨て新しい服を着た。いつもなら風呂上りは自分の部屋でゆっくりするのだが部屋には血濡れた死骸が放置してある。風呂上がりにそんなのを見たら気が滅入りそうなのでとりあえず死体処理は保留にしてまだ食べてない昼食を食べようとリビングに向かった。
生き物を殺した後、罪悪感や生々しい光景にご飯が食べられなくなると言う話を聞いたことがある。まあ、俺にはそんな感情が全くわかなかったしご飯もおいしかった。この噂は眉唾物なんだろう。そんなことを考えながら食事が終わった。
熱いコーヒーを淹れゆっくりと飲み干した後ソファーに寝っ転がり天井を見ながらぼーっとしていると視界の隅に本のようなマークをしたアイコンが点滅しているのが見えた。頭を振ったりしても視界の隅についてくるそれをとうとう幻覚まで見え始めたかなどと思いながら指で押してみた。すると目の前に画面が現れた。
◆◆◆◆◆
・ステータス
・ログ
・プレゼント
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まさか本当に反応するとは思っていなかったので少しの間、思考が停止していたが思い返してみればあの奇妙な緑色の生物、あれはまさしくゴブリンだ。
それならゴブリンが出てきたのに今更こんなことで驚く必要ないか。そう割り切ると目の前の画面に意識を集中し始めた。
「じゃあ、取り敢えず上からいってみるか」
ステータスと書いてあるところをタップする。
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【名前】:なし(入力してください)
【性別】:男
【種族】:人族Lv7
【職業】:なし(選択してください)
【ギフト】
『万能細胞Lv2』
・不老
・超再生
『大罪ノ悪魔Lv2』
・傲慢
・憤怒
【スキル】
早熟Lv1
逆境Lv1
対強敵Lv1
【称号】
『先駆者』
『無謀な挑戦』
『下剋上』
◆◆◆◆◆
少々気になるところがあるが、いいねこういうの。テンション上がる。
まずは名前のところから見ていこう。
名前と書いてあるところが点滅している。そこの部分をタップするとステータスの下あたりにキーボードが出てきた。これで名前を入力しろという事だろう。
「うーん、どうしようかなー」
普通に本名である”伊東 恵”と入力してもいいが自分で決められるのならもっと男って感じの名前にしたい。俺は家族とか親友とかの重要そうな人間関係がほぼ全滅しているので最悪これが本名になってもいいぐらいの名前を考えたい。
しばし考えた後、無難に”恵”の音読みをカタカナにして”ケイ”と入力した。
よし、次は性別。これはまあ書いてある通りだ。種族の人族はレベルが7になっているがこれはゴブリンを倒した影響だろう。
そして職業これは名前の欄と同様に点滅をしていてタップをすると俺が今なれるであろう職業の選択肢が出てきた。
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・初級戦士
・初級魔術師
・初級法術師
・初級冒険者
・剣士
・狂戦士
・研究者
・科学者
・咎人
・適応生物
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「馬鹿にされてるのかな?」
そうとしか思えない職業が混じっている。
ここでは職業名をタップすると「この職業でよろしいですか YES / NO」の文言と共に簡単な職業の説明が見れるようだ。取り敢えず全部見てみよう。
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『初級戦士』
・戦士系職の最下位職。
・条件なし。必ず発現する。
・物理攻撃を得意とする。
『初級魔術師』
・魔術師系職の最下位職。
・条件なし。必ず発現する。
・魔法攻撃を得意とする。
『初級法術師』
・法術師系職の最下位職。
・条件なし。必ず発現する。
・回復、支援を得意とする。
『初級冒険者』
・冒険者系職の最下位職。
・ダンジョンモンスターの1体以上の討伐が条件。
・迷宮の探索に必要なスキルを覚える。
『剣士』
・戦士系職の下位職。
・カッターナイフでのダンジョンモンスターの1体以上の討伐が条件。
・カッターナイフ以外の装備を不可とする代わりに装備時は能力に上昇補正がかかる。
『狂戦士』
・戦士系の下位職。
・レベル差5以上のモンスターの単独討伐が条件。
・多大な攻撃力を得る代わりに知性を失うスキルが多い。
『研究者』
・職人系職の下位職。
・3年以上研究をする。研究成果を2つ以上上げる。
・戦闘能力は上昇しないが汎用性の高い製作系スキルを覚える。
『科学者』
・職人系職の下位職。
・3年以上科学について研究をする。研究成果を2つ以上上げる。
・戦闘能力は上昇しないが科学特化の製作系スキルを覚える。
『咎人』
・特殊職。
・罪系ギフトの所持。
・罪系スキル、ギフトの効果に上昇補正。
『適応生物』
・特殊職。
・特殊体質系ギフトの所持。
・特殊体質系スキル、ギフトに上昇補正。
◆◆◆◆◆
3つの項目があり1段目がその職業の系統と位、2段目が発現条件、3段目がその職業の特色や性質が書かれている。
この選択肢やさっきの出来事を鑑みるにこれからあのゴブリンようなモンスターが出現してくるのだろう。それならば他のやつらよりも強くなっていた方が安全だろう。
上の3つの初級系は必ず発現するものらしい。ポケ〇ンで言う御三家みたいなものだろう。これらは最下位職と書いてあるし下位職が存在する中で選ぶ必要はないだろう。冒険者も同様の理由で除外しておこう。
カッターと狂戦士は能力がピーキーすぎるのでこれもダメだろう。っていうかなんだ『剣士』って。バカにしてるのか。
次に『研究者』と『科学者』だがこれは俺が大学で遺伝子学を専攻している影響だろう。これが一番性にあっている気がするが戦闘がしづらくなるというのは大きなハンデだ。これもやめておこう。
最後にギフトが条件の職業だ。この職業は両方ともギフトの能力の向上を行う上にデメリットがない。俺はこの二つのうちどちらかを選択しようと思っているがこれはまず先にギフトを確認したほうがいいだろう。
ギフト自体は無理だが能力の詳細を見ることができた。
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【万能細胞Lv2】
・不老
寿命の上限がなくなる。魂が劣化しなくなる。
・超再生
魔力を使用し身体を超再生させる。
【大罪ノ悪魔Lv2】
・傲慢
己の寿命を代償に能力を得る。自分より種族レベルが下の相手に対して圧倒的な優位を得る(与ダメージの爆発的上昇)。業の上昇。
・憤怒
己の寿命を代償に能力を得る。怒りの感情をトリガーに敵を確実に殺すまで身体能力を上昇させる(身体能力の爆発的上昇)。業の上昇。
◆◆◆◆◆
「えぐいな」
この一言に尽きる。
【大罪ノ悪魔】は寿命という大切なものを代償に多大な力を得るというものだが、【万能細胞】の不老の能力でデメリットが相殺されている。すごいなこれ。
あと超再生。この能力の効果でゴブリンとの戦いの傷が治ったのか。疑問が解けてすっきりした。
「よし」
このギフトの能力ならなるべき職業は一つしかない。名前は非常に不名誉だがこれが最善の選択だろう。
俺は『咎人』をタップしYESのボタンを押した。
<職業『咎人』を獲得しました>