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晒し者

本日三つ目の投稿です



◆◆◆



「………カミラ?」


 洞窟での暮らしを始めてから数週ほど経ったある日の事。いつものようにタイタニスに魔力を流し込み、魔法で焚き火を作って暖を取っていたハルトは急に胸騒ぎを感じて上を見上げた。

 今や実質的に自身の許嫁では無くなり、勇者アレクの恋人となった彼女だったが、幼馴染みに変わりは無い。どれだけ裏切られようとも、許嫁としてまるで家族のように共に過ごしてきた彼女だけは心配だった。


 もうだいぶ魔王軍の本拠地には近付いてきていたのだ、今頃は突入していてもおかしくないだろう。早ければもう魔王との最後の戦いを始めているかもしれない。


「何も………無いよな?」


 空を見上げても、見えるのはいつもと変わらない暗闇だけ。そもそも自分は戦力外として見捨てられ、未遂ではあるが殺害の被害すら受けた身。彼等を心配すると言うのも可笑しな話だ。

 きっと彼等は上手くやってくれる。彼等四人で魔王を見事打ち倒し、人々に元の平和をもたらすのだ。


 不安を振り払うように焚き火に視線を戻し、指を一振り。すると焚き火から上がっていた煙がぐるぐると捻れ、一点を中心に収縮し、そして透明なビー玉のようなものに閉じ込められて地面に転がった。

 暖を取るためとは言え、洞窟内で焚き火なんてしていたら煙が充満して呼吸すら困難な事態になってしまう。そんな様々な不便を解消する為に使える生活魔法は幾つもあり、この魔法もそんな魔法の中の一つ。魔法が下手くそな僕でも出来る簡単な魔法だ。


「タイタニスも、あと少しだ」


 毎日、自身の限界まで魔力を流し込んでいたタイタニスだったが、最近になってようやく終わりが見え始めた。タイタニスに魔力を供給する度に、段々と魔法玉が限界を迎えてきているのを感じていた。多分、あと二日か三日、魔力を補給すれば魔法玉は満杯になるのではないかと思う。問題はそれからだ。


 魔法玉が満杯になるまで魔力を補給し終えた後、彼を再起動させる方法がわからない。勝手に腕に装着された腕輪を弄れば良いのか、それともタイタニス本体に起動させる為の何かが付いているのか。

 調べてみたが、どんなに弄っても腕輪はまるで反応を示さないし、タイタニス本体は余りにも大きすぎるせいで上まで調べる事が出来ない。タイタニスの本体で調べられた部分にも、それらしいものは一切存在しなかった。


「そもそも、一体何なんだろう………」


 現在の人類の技術力では製作不可能な程の大きさ。何らかの理由によって封印された古代の兵器なのかとも考えてみたが、兵器と呼ぶには些か魔導砲などの火器の類いがまるで見当たらない。工事用ゴーレムかとも考えたが、彼等のようにそれぞれの用途に特化したフォルムをしている訳でもなく、もっと人の形に近い。

 装甲にはヒヒイロカネのような耐久性に優れた金属が使われているのだろう。見るからに頑丈で力強いその姿には、ゴーレムオタクでない僕ですら神々しさを感じてしまうほど。


「………本当はもう起きてたり、しない?」


 片膝をつき、頭を垂れたまま動かない彼にそう問い掛けるが、やはり彼は微動だにせず、声は洞窟の暗闇の中に消えていった。





◆◆◆



 広い海にぽつんと浮かぶ島国『ヤマト』の、その首都の中心に建てられた城の一室にて。書類と向き合っていた国王の元に、扉を叩く音が届いた。


「陛下、ハンゾウでございます。急ぎのご報告が」

「うむ、入るが良い」

「失礼致します」


 扉が開き、部屋の外から黒装束を身に纏った細身の男が入ってきて、王の前にひざまづく。彼は『忍』と呼ばれるこの国の諜報組織の長であり、国王に最も近い人物の一人。

 常に冷静沈着で、感情を表に出すことが滅多にない彼の、いつになく深刻な様子に王は心にざわつくものを感じ、背筋を伸ばした。


「勇者一行が全滅し、止める者が居なくなった魔王軍が大規模な進攻を再開。北の大国『アウルド共和国』と『バールカッド帝国』の二国が交戦し、両国とも滅びました」

「………何だと!? 勇者一行が、全滅………アウルドとバールカッドが滅んだ? 信じられん!」

「真でございます。こちらをご覧下さいませ」


 アウルド共和国とバールカッド帝国。どちらも列強と呼ばれる大国の一つであり、魔王が現れた以後も滅ぶことの無かった稀有な国々の一つ。もちろん残っていた国々の中でもその軍事力は非常に高く、アウルド共和国は世界最強とも謳われる飛空艇団を保有し、バールカッド帝国は大量の戦闘用ゴーレムによる軍隊を保有していた。そんな二国が、ほぼ同時に滅びるなど普通ならばあり得ない事。


 ハンゾウによって王の目の前に一つの水晶玉が置かれ、彼がその水晶玉をピンと弾くと玉の内部から光が宙に照射される。光は空中にスクリーンのようなものを作り出し、そこには戦場の様子が写し出されていた。

 大量のおぞましい姿をした魔物に退治するのは、銀色の鎧を着込んだ屈強な兵士達。空には大量の飛空艇が。彼等の鎧には、赤いクマの紋章が輝いていた。


「アウルドか………」

「先に魔王軍と衝突したのがアウルド共和国の軍でした。後にバールカッド帝国の軍が合流する事になるのですが、この映像は私の部下が戦いの始めを記録したものになります」


 両軍ともに動かず、しばらくの間にらみ合いが続いたのだが、数分後にアウルド軍からどよめきが起こった。何かと目を凝らすと、なんと両軍の真ん中に魔王が立っている。そしてその手から、何かが四つぶら下がっていた。


『愚かなヒトの子よ、絶望するが良い! お前達の信じていた勇者共は、我と戦い呆気なく死んだ!』


 彼は手に持っていたものを高く掲げる。

 何とそれは、神によって選ばれ、魔王を倒すために旅をしていたはずの勇者一行の首。死して蝋のように青ざめた彼等の首が四つ、魔王に髪を掴まれてぶらぶらと揺れていたのだ。


『馬鹿な………勇者様が負けるなど』

『う、嘘だ、そんな……』


『嘘では無いとも。それに、貴様等に良い知らせがある。何故この中に武聖ハルトの首が無いのか、気になった奴も居ただろう?』


 魔王は四つの首から勇者アレクのものと賢者カミラのものを選び、その二つを掲げると声高に叫んだ。


『武聖ハルトは、奴を疎んだ勇者アレクによって殺された! その上、武聖ハルトと許嫁の仲だった賢者カミラは武聖ハルトを裏切り、勇者アレクと姦淫していた! ハハハハ! これが貴様等が盲目に信じていた英雄共の真実だ! 貴様等にとっての希望など、最初から存在すらしていなかったのだ!』


『な……!? そんな、勇者様がそんな事』

『賢者様が武聖様を裏切った?………あんなに仲睦まじくしていたのに』


 これからの決戦に向けて、士気を高めていたアウルド軍の兵士達にに動揺が走る。


『一つ言っておくが、我がこやつ等に手を出したのは、こやつ等が戦いを挑んできた一度きり。勇者アレクは平気で仲間だった男を殺すような男で、賢者カミラは愛していた男を平気で裏切り他の男に乗り換える売女。勇者の殺しを知っていて許容した剣聖と聖女も同罪だ。お前達の信ずる神は、こんなクズ共を英雄として選んだのだ!』


 そう言って魔王は四つの首を、アウルドの軍に向けてゴミのように放り投げた。突如投げ込まれた英雄達の首によってアウルド軍の戦列が乱れた瞬間、魔王は叫ぶ。


『かかれ者共! 本能のままに殺し、貪り尽くしてしまえ!』



 映像はそこで途切れ、光は水晶玉の中へと再び戻っていく。

 あの後どうなったのか、ハンゾウからの報告を聞いていた王は全てを察し、腕組みをして押し黙る。


「………陛下」

「良い、魔王の言葉の真偽はどうあれ勇者達は死んだのだ。いずれ我が国にも魔王軍は攻めてくる。ハンゾウよ、ユキムラ陸軍大将とフランツ海軍大将、クズノハ魔道師団長をこの場に呼んでくれ。我等も本格的に備えねばならん」

「御意」


 王命を聞き、ハンゾウは一礼して部屋を去って行こうとする。だが彼が部屋を出ていく寸前、王は彼を呼び止めた。


「待て」

「………如何致しましたか」

「もしもの時………もしも、国が落とされるような事があった時、娘を頼んだ。余の跡を継げるのはあやつ一人しか居らぬ。どんな事があっても、守り通せ」

「…………御意」


 僅かな逡巡の後、ハンゾウは静かに頷いて部屋を出ていく。

 部屋は王一人となり、再びの静寂が訪れた。






読んで頂きありがとうございます。

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