転生したらスライムだったので困った件
ふと扉を見ると、質素だが頑丈そうな作りながら、下側にわずかな隙間が見えた。
俺はどうやらこの隙間から中に入ったらしい。
アメーバ状生物でなきゃ、この隙間はとても通れそうにないな・・・。
今は頭も働いているし、家主も一緒だ。
さっさと開けてもらって通ろう。
と言っても、特に何かする必要はなかった。
家主が自分で出るときは自動ドアのようだ。
見た目のわりに意外と音もなく扉が開いていく。
龍の魔法、スゲーのかも。
まつことしばし、完全に開ききったところで、ようやく外に出・・・・・れなかった。
『は?』
開いた扉の中央に仁王立ちしている女性がいる。
「変な格好~」
と、ベルが評する。確かに。
高価そうな白いドレスが、場所にそぐわない。
ワンポイントなのか、胸元に赤い毛玉が1つついている。
金髪の長い髪に、みどりの瞳。
うん、日本じゃないな。
「やっと開いたわね。遅かったじゃないの!」
『え、いや、そんな事言われましても・・・』
「きゃぁ! だ、だれっ!!?」
誰と言われてもなぁ。
俺はこの世界のスライムらしいし。
とりあえず、目の前にいるスライムな事と、念話で話ができる事を説明して落ち着いてもらった。
「そう、おまえが話していたのね・・・普通ならあり得ない事だけれど、これもドラゴンの秘宝の効果かしら?」
彼女が言うには、ここにドラゴンの秘宝があると確信し、のらスライムを使役して隙間から潜り込ませたらしい。
つまり、俺がここにいるのは彼女が原因のようだ。
「まぁいいわ。扉は開いたのだから。 おまえ、知性があるのなら丁度いいわ。中でドラゴンの秘宝探しを手伝いなさい。」
『なんで俺が・・・』
言いながらベルのほうを見ると、ベルも嫌そうな顔をしている。
まぁ、自分の家に押し入った盗賊みたいなもんだしなぁ。
「まさか、このワタクシに逆らおうというの? 身の程を知りなさい。」
『誰だかも知らないのに身の程言われても』
「だまりなさい! ・・・いいわ、「帝国が姫たる我が名ジールを魂に刻みしものよ、命に従え!ジテム!!」」
『なにそ・・・うぉっ!!』
なんだ? 体が勝手に動くぞ?
『お、おいベル! なんだこれ!?』
「あーあ、モンスターとして使役されちゃったのね。ご愁傷様~」
ちっ、今のは呪文か何かか。
なんとか抵抗はできないものか・・・むぐぐ!
力を入れて踏ん張ってみた感じだが、なにか違うな。
あ、もしかしてこれ、力じゃなくて魔力こめてんのか?
「な、このスライム、抵抗を?」
『むぐぐぐぐぅ』
いいぞ、とりあえず体が止まった。
この調子で押し返せば・・・。
「ふっ、馬鹿ね。 「帝国が姫たる我が名ジールにおいて欲っす!ファイヤーランス!!」」
ぼひゅっ、という音とともに飛び出した細く尖った火の玉が、動きの止まっている俺を刺し貫く。
なんだ今の・・・俺の体に有った、単細胞の中の細胞核みたいな丸い何かを打ち抜いた・・・よう・・・な・・・
「馬鹿な奴。知恵が出たといっても所詮はスライム、魔核が丸見えなのに・・・ふっふふ」
・・・なん・・・だ・・・と。
ダメだ・・・もう・・・・意識が・・・・・保て・・・・・・・。
・・・なんだ、ここ?
気が付くと、真っ白な空間にいた。
上も下も何もない。
部屋というわけではなく、どこもかしこも真っ白な“空間”に浮いているようだった。
「こんにちわ~、おひさしぶりぃ~」
なんだか間延びした女の声が聞こえた。
少なくともさっきの姫とやらとは別人だろう。
「ここに来たって事は、あなた死んじゃったのねぇ」
瑠璃色の髪の女性がいつの間にか正面に立っていた。
後光がさしていて顔は見えない。
まるで定番ドストライクの女神様みたいだな。
って、ちょっとマテ、おひさしぶり?
「そうよ~、覚えてないかしらぁ~、ホントはあなた、この世界には召喚されてきたのよ~」
なんだって! いや、まてよ、そういえば、なんかそんな会話を誰かとしたような。
「それそれ、それが私よぉ~。でもあなた、ここに来るなり死んでしまったのよ~。あの時はホント困ったわぁ」
あぁ、なるほど、それで急遽転生に切り替えられたんだったな。
悪いな、どうやらすぐに死んじまったみたいだ。
「それでね、もともとの召喚の際には、特典があったのよねぇ。だから今回またここに来れたのよ?」
は? 特典? それって?
「この世界では、他の世界から呼び出される人はそこそこ居るんだけど、ほとんどの人がすぐに死んじゃうのよねぇ。
環境が違いすぎるのかしらね。
それでぇ、最近は一回だけ特典を付けているのよ~。」
ほほぅ、それでその特典というのはいったい何だ?
「じゃじゃ~ん! それはぁ!! “練習モード”でーすっ!! ぱんぱかぱーん♪」
・・・は?
「なんと! 特別に一回だけこの世界がお試し体験できるのです! えっへん!」
な、なんじゃそりゃぁ~~~~っっっっ!!!
「とゆーわけでぇ、今回に限り、あなたはこの世界に出現した最初の時間に戻りまぁす!!
あ、経験値とかもすべて元に戻るから注意してね!!! 残るのは記憶だけだから! じゃ、いってらっしゃーい♪」
ま、まてコラ! 転生の最初の瞬間って、それまたスライムに生まれるって意味・・・おい、まてぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!