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〜休日〜

  私は彼女と別れた後、街の探索を続ける。

 子供の頃に誰しもがやったことはある探検ごっこの様な気分で街を歩く。

 暗い道を嬉々と歩いている私はきっと子供の頃にそういう経験があったのだろう。

 初めての場所でも怖さよりも好奇心が打ち勝つ。

 すると、私の目に止まった者があった。


「あれは、レリューア?」


  桃髪の後ろ姿が見えたのでレリューアかと思い後をつけてみる。

 もしかしたらレリューアも休日なのかもしれない。

 私はレリューアにカラト絡みの一件で嫌悪感の様なものを覚えていたが、さすがにレリューアのことをなにも知らないままで悪と決めつけるほど愚かな考え方はしたくない。

 感情だけで相手の人格まで否定してしまえばそれは人とはいえないであろう。

 少しレリューアに悪いことをしている様な気分になりながらも彼女の休日を追ってみることにした。

 黒の街に似つかわしくない桃髪を風になびかせているので見失う事はないだろう。

 レリューアが路地裏へと入っていく、すかさず追いかける。



  路地裏の先には不思議な形をしたテントの様な物が張られていた。

 色とりどりのカラフルな屋根がいくつもあり、様々なライトで照らされている。

 この街とは異質で異様なその形状はまるで奇妙な団体が技を演じる場に似ていた。

 恐らくレリューアはあの中に入ったのだろうとカルシャも侵入を試みる。

 中は薄暗いホールの様であり今カルシャが立っている場所は入り口で観客席の様な物がホールを中心に沢山置かれ、中心に大きな鉄の檻が置いてある。

 中に何もないのが不信感を疑問へと変える。

 鉄の檻を調べようとホールへと降り立つ。

 カルシャが鉄の檻の中へと足を踏み込みと檻の外から鍵がかかった様な音がした。

 カルシャはすぐさまドアノブをガチャガチャと回すが開かなくなっている。

 カルシャが戸惑っていると、陽気な音楽とともに檻の中心に黒いロウソクの様な物が現れていつの間にか観客席には青い魂達が座りカルシャを観戦していた。

 異様な会場の熱狂にカルシャは戸惑う。

 真ん中にあるロウソクが目を見開きカルシャを見つめニタニタと笑っている様に見える。

 次の瞬間にロウソクの下の部分から吹き出る黒い液体の様なもので体を作り人間の様な見た目へと変貌する。

 どこからともなく取り出したナイフとトランプカードを片手でお手玉の様に入れ替えている姿は曲芸師の様だった。

 頭はロウソクで指は3本しかなく白いマントの様なものが背中に浮いている。

 異常事態だがカルシャは妙に落ち着いていた。

 これまでの経験が蓄積され突然の出来事にもある程度対応できる様になっていたのだ。

 冷静に鎌を構え、相手の出方を伺うと同時に聞こえないくらい小さい声で魔法の詠唱を始める。

 猶予時間があれば魔法を唱えれるからだ。

 だが、相手も物言わぬ人形ではない。

 片手のナイフをカルシャに飛ばしてくる。

 カルシャは一度詠唱を諦め回避を優先する。

 距離をとった戦闘は飛び道具がある分相手の方が上手だと思い接近する。

 一気に近づき頭を薙ぎ払う様に切り裂く。

 あっけなくロウソクの部分と体の部分が離れてロウソクが地面に落ちる。

 乾いた音と共に落ちたロウソクを見下ろして勝ち誇るカルシャ。

 自分もやればできるという思いが彼女に力を蓄えさせ、それは経験値となり彼女を成長させていた。

 鎌をくるくると回して余裕を見せるカルシャ、後はこいつの魂を狩り取るだけだ。

 鎌を振り上げて、とどめを刺しに行く。

 バン!っという音と共にカルシャの体に衝撃が走り金網に叩きつけられる。

 カルシャは咳をしながら口を拭い、今自分に起きたことを分析する。

 辺りを見回すと、さっきまでは一本だったロウソクが3本に増えていて1本は体に付き、残りの2本は空中に浮いている。

 カルシャは立ち上がるが、さっきの衝撃で軽い脳震盪の様なものを起こしたのか、生まれたばかりの子鹿の様に足元がおぼつかない。

 三本のロウソクがカルシャに襲いかかってくる。

 連続で打撃と斬撃をもらってしまう。

 少しの油断が戦況を大きく変えて形成逆転へと導いてしまったのだ。

 カルシャは自分の甘さを恥じながら倒れ伏す。

 カルシャが倒れ伏した瞬間に会場の熱狂が最高潮に達しているのに気づいた。

 恐らくだがここにいる客はこの殺し合いの様なものを楽しんでいるのだろう。

 そしてカルシャにとどめをさす瞬間が見れると思い興奮しているのだ。

 倒れ伏したままでもカルシャはまだ諦めてはいない。

 小声で詠唱を始める。

 奴が私にとどめをさす時に必ずチャンスがあると考えた。

 カルシャの首に手が伸びた瞬間に、奴の手を力一杯握りしめて魔法を発動する。

 奴の手とカルシャの手が真っ赤に燃え上がる。


「根比べといきましょうか」


  カルシャの魔法で奴も苦しんでいるが、本当に苦しいのはカルシャの方だった。

 自分の手を燃焼させながら苦手な魔法の詠唱を続けているので消耗が激しすぎた。

 奴のマントにまで火が燃え広がり、一気に全身が燃え上がる。

 その間も空中に浮くロウソクがカルシャに打撃を行なってくるが、カルシャは手を離さない。

 ここを逃せばもう勝機がないことは明らかだった。

 ついに本体を焼ききれたが、カルシャの手も火傷がひどく力が入らない。

 手を抑えながらも残りの二本のロウソクの方を睨みつける。

 すると、片方のロウソクから黒い液体が吹き出して体が形成され始めた。

 カルシャは絶望した顔でその様子を見ていた。

 30秒にも満たない時間で本体の体が再構築され、残るロウソクは2本になったが、もうカルシャには戦う気力がほとんどなかった。

 鉄の檻の中を逃げ回る。

 どこかに脱出口がないかと必死の思いで辺りを確認するが、やはり入って来たドア以外に出口はなさそうだ。

 鉄の檻はいつしか鉄の監獄となりカルシャを捕らえていた。

 壁際に追い詰められたカルシャに奴の手が忍び寄る。

 首に黒い液体の様な物がまとわりつき、口の中にまで液体をの手を入れてきて息ができなくなる。

 必死に残った片方の手で払おうとするが、力が足りない。

 空中に浮かされた幼き体は簡単に力を失い、徐々に弱っていく。

 命運尽きたかに思われた時、凄まじい爆音と共に鉄の檻の一角が爆破された。

 それはカルシャにとって、暗い雲の中にさす一筋の光の様に思えた。


「新参者のくせに余計なことに首を突っ込むからこういうことになるのよ、まあ、あんたのおかげでこいつの戦い方を見れたことはお手柄だと思っとく」


  棒状の杖の先にハートの形をした杖を携えたレリューアがそこには立っていた。

 レリューアは、魔法の詠唱をはじめる。

 ロウソクの化け物はレリューアにナイフを投げつける。

 カルシャは必死に口を動かすが喋れない、奴の液体が口のなかを這いずり声が出ない。

 レリューアは気づいてないのか?、魔法を詠唱し終わる前に攻撃をもらうぞ、とカルシャは思ったらしい。

 だが、結果は違った。

 ナイフがレリューアに届く前に水壁に絡め取られ、ロウソクの片方は真空の刃で切り刻まれて消滅していた。

 カルシャが驚いたのはそれだけでない。

 いつのまにか口が動かせるようになっていて、空中に浮かされていたはずの自分が地に立っていたからだ。

 あの一回の詠唱で攻撃と防御、さらにカルシャを助ける余裕までレリューアは見せつけたのだ。

 レリューアのあまりの強さに震えが止まらなかった。

 レリューアの実力が怖いからではない、今起きた現状に対して少し憧れにも似た感情が出てしまった自分が怖かったのだ。

 レリューアは最後のロウソクに杖を突きつけ詠唱を始める。

 その間もロウソクは反撃に転じようとしていたが、レリューアの詠唱はあまりにも早く2秒ないほどで高位の魔法を発動している。

 カルシャが下位の魔法を唱えるのに10秒ほど全神経を集中させてようやく発動にかかるのに、レリューアはリラックした表情のまま、いとも簡単に高位の魔法を複数扱っている。

 約1秒の詠唱時間、ロウソクの体は弾け飛び本体のロウソクは内側から感電死したように急に静かになりぐったりと倒れて魂へと姿を変えた。

 レリューアがロウソクの魂を回収すると、会場内にいた観客の魂が一斉にレリューアの杖の中へと入っていく。

 恐らくだが観客の魂もロウソクが生み出していた亡霊なのだろうとレリューアは語った。

 私はその一瞬で魔法の発動を行うレリューアに対して少しの憧れを抱いてしまった。

 とんだ休日になってしまったが価値のある日を過ごしたと思う。

 レリューアの魔法の技術の高さには感服したカルシャだが、カラトのこととは別だと心で思いながらも少しレリューアを尊敬していた。














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