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〜黒の街〜

  夢を見る。

 体が誰のものかはわからないが私はそこではルシェと呼ばれていた。

 紫髪の友達と一緒に冒険をしている夢だ。

 冒険の途中で猫二匹と出会う。

 奇妙だけど楽しい冒険の断片のようなものが流れる。

 私はかけがえのない友との出会いがこれほどまでに人生を豊かにしてくれるとは思いもしなかった。

 だけど所詮は夢。

 いつかは覚めてしまう空虚な幻想。

 さあ、目覚めの時間だ。


  私はいつもの白いベッドから身を乗り出して起きる。

 いつもの部屋変わらない日々、そうなんだけど今日はなんだかいつもと違う気がする。

 部屋を出て広間へと向かう。

 任務の内容を聞きに行くためだ。

 正直カルシャはまだこの仕事に意味を見出してはいないが、やることもないのでとりあえず郷に入っては郷に従えだと思い任務を毎日続けていた。

 とはいえ最近の任務は子供のナメクジの駆除だけで難しい任務は任されてはいない。

 上もカルシャの実力が大体わかったのか比較的簡単なものばかり指示してくる。


「私って落ちこぼれだったりするのかな?」


 そんなことを考えて少し気が滅入る。



  広間につくと今日はカラトがゲート役をやっていたので声をかける。

 カラトはこっちに気づくと手を振り挨拶し返してくる。

 カルシャはカラトがゲート役をしていることを疑問に思ったので聞いて見ることにした。

 するとカラトは親切丁寧に教えてくれた。

 ゲートを作る死神は階級値が高い死神に限定されるらしい。

 なんでも死神大王が決めた数人しかこの城とほかの地域を繋ぐゲートを開くことはできないらしい。

 それがカラト達ブラック階級らしい。

 色で階級が上がりブロンズ、シルバー、ゴールド、ブラックでブラックに近いほど階級が高いらしい。

 ちなみに今のカルシャは何も得ていないため見習い死神として扱うそうだ。


「何気にカラトってすごいやつなの?...」


  カルシャの質問に対して爆笑クラスの笑いをしたカラトは。


「なんだよ、今更気づいたのか?」


  と腹を抱え笑っていた。

 だがその話をした後、カラトは嬉しそな表情でカルシャにブロンズ色をした彼女の名前が彫られたペンダントをゲートから取り出した。


「おめでとう、今日からカルシャはブロンズの死神だ」


 突然の告発にカルシャは驚いた顔で言い返す。


「で...でも私...、全然活躍してないよ....」


  しゅんとしたカルシャの表情を見ながらもカラトの表情は明るかった。


「何言ってんだ、新人は生きて帰ってくるのが仕事だ、俺たちの活躍を見て学んで少しずつ強くなっていけばいいんだよ、それにお前は充分やってくれているさ」


 カラトの暖かい言葉に救われたかのように笑顔になるカルシャだった。

 少し夢の話をしようと話題を変える。


「実は昨日夢を見たんだ、夢の中で私はルシェって呼ばれて....」


  そこまで言いかけるとなぜかカラトの表情が急に険しくなり思わず話を止めてしまった。


「....カラ....ト....?」


 ハッと気をとりなおしたように笑顔になり「なんでもねぇよ」とだけ言い、いつも通りナメクジ処理の任務を言い渡さされたカルシャは強引にゲートに押し込められた。

 カルシャは一瞬とは言えカラトが一度も見せたことのない表情が脳裏に焼きつき無性に考え込んでしまう。

 カラトはカルシャがゲートに消えるのを確認すると独り言で「...まさかな....」と呟いた。



  任務が終わり広間に戻ってくる。

 カルシャは疲れた顔をしながらカラトの元で報告をする。

 朝のカラトの不機嫌な顔はもうそこにはなかったので少し安心した。


「おつかれさん、明日カルシャは休みだから好きにしていいぞ」


  カルシャは不思議そうな表情を浮かべる。


「休み?...」


  カラトは説明口調に話し始める。


「休みってのは死神の休暇のことだ、要は明日の任務はないってだけ」


「休みって何をしたらいいの?」


  カラトは少し唸りながらも提案を出す。


「そうだな、お前はまだ街に降りたことがないだろ?、広間の階段を使って降りていけば街に行けるからとりあえずいって見たらどうだ?」


  他にすることもないのでその提案を受け入れて明日は街に行くことに決めたカルシャは自室に戻り眠りについた。



  次の日。

 カルシャは目覚めると身支度を整えて街に行く準備をする。

 初めて降りる街に少し不安はあるが楽しみでもあった。

 なんせ死神の街に行けるのだ、生前なら経験することすらできなかったことが現実に行えるのだから期待感が高まる。

 城の広間から階段を駆け下りているとその道中に緑髪の死神が本を片手に歩いていた。

 その死神にこの街のことを知っているなら少しでも聞こうと思い声をかける。

 挨拶をすると緑髪の死神はこちらに振り向いて顔を見合わせる。

 彼女の顔に変な文字の刻まれたメガネがかけられていたので少し笑ってしまった。

 彼女は少し照れながらカルシャに挨拶をし返した後。


「何かようですか?」


  カルシャに質問する。

 カルシャは質問に対してを解答を答える。


「あなたはこの街に詳しいの?、もし詳しいのならあなたの用事に付き合いながら一緒に街を歩いてくれない?」


  彼女はクスクス笑いながらも了承してくれた。

 ただ、「多分私とくるとつまらないよ」とは言われたが。



  街に着く。

 黒いビルが立ち並び魂の光が唯一の光のように点々と怪しく燃え上がり夜の街のような顔をのぞかせていた。

 街は城から見たとおりのイメージで暗く、どことなく寂しげな雰囲気を出している。

 カルシャは彼女の後について行く。

 ある程度歩くと書店のような店に着いた。

 彼女はどうやら本を買いに来たらしい。

 彼女は目当ての本を手に取るとレジへと向かいお金のように魂を差し出す。

 店員らしき人はそれを当然のように受け取り商談が成立したように見えた。

 その一連の作業を見てカルシャは彼女に質問んする。


「ねえ、魂ってお金なの?」


 彼女は少し微笑むと答えてくれた。


「魂はお金の様な物で大体あってるよ、あなたも死神なら少しは魂の使い道について考えた方がいいわよ」


  彼女は店の席について先程購入した本を読みふける。

 カルシャはつまらなくなったので自分も本を買ってみようとめぼしい本を探す。

 ふと顔を上げると面白そうな本が目に止まった。

 魔法の初級編と書かれたタイトルの本だった。

 これに決めたカルシャはレジへと向かう。

 先程の作業を見ていたカルシャは最近狩りで稼いだナメクジの魂を店員に見せる。

 店員はナメクジの魂10個ほどと交換で本をくれた。

 早速彼女の隣の席に座り一ページ目をめくって見る。

 最初の目次のページをパラパラ見終わると本格的なページへと入る。


「最初は間合い?、大事なのは詠唱時間と相手との距離?」


  魔法を使う前提の基本的な戦い方と間合いの取り方などの情報が載っている。

 とりあえずそのページの基本を頭に叩き込んで次のページを開く。



  数時間後。

 本を読み終えたカルシャは少し本の内容を実践で試して見たくなり彼女に相手になるように話を持ちかけた。

 彼女は嫌々ながらも見るだけならと一応承諾はしてくれた。

 店の表に出るとカルシャは早速本に書いてあった通りの詠唱をし魔力を練り上げ魔法へと昇華しようとする。

 確かに火がついたが、それはカルシャ自身の手を燃やしただけで消える。

 カルシャは自身の手を見る、少し火傷の様な跡がありヒリヒリする。


「失敗か?」


  続けて試してみる。

 水は足元に水たまりができるだけで終わり、雷は電気マッサージのごとく優しい。

 彼女はカルシャの魔法を見て少し笑い出しそうな勢いだ。

 自分には魔法の才能はないのかと思い始めたが最後に風の詠唱を始めた。

 カルシャの詠唱が終わると地面から上空に向かって勢いよく突風が吹き荒れる。

 割と強めの風力で前が見えづらい。

 これはまだ使えそうだと思いカルシャは笑顔で彼女の方を振り向く。

 だが、彼女は笑ってはいなかった、両手で顔を隠し絶望した様な口元が見えていた。

 どうやらメガネを飛ばしてしまったようだ。

 カルシャは謝りながら上空を見上げ、落ちてくるメガネをキャッチする。

 そしてメガネを返す時に彼女の瞳が見えた。

 目の色が左右非対称で俗に言うオッドアイと呼ばれるものだった。

 彼女はメガネを受け取るとすぐに掛け直す。

 それほど彼女は怒ったような素振りは見せていないがあまりそれに触れてはいけないような気がしてそれ以上の言及はしないようにする。

 ふと彼女の名前をきいてないことに気づいたカルシャは名前を訪ねる。

 彼女は少し泣きそうな顔で名前を教えてくれた。


「レルカ=グラース」


  彼女はそれだけ言うとそそくさと城の方へと帰って行く。

 カルシャは帰って行くレルカに自分の名前を告げて「またどこかで会おう」と言い別れる。

 数時間経ったが割と有意義な時間を過ごしたと思う。

 自分に魔法の才能はなくとも、使える可能性のある魔法が使えたのだ、これは戦闘技術がなにもないカルシャにとっては大きな一歩だ

 一人になってもまだ休日は続いている。




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