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〜カラト〜



 2話〜 カラト〜


  目がさめるとまだ白い部屋にいる。


「やっぱ夢ではないか.....」

 カルシャは大きく深呼吸をして精神統一を測った。


  自分が死んだ原因は未だに思い出せないが、一度これについて考えるのはやめようとする。

 なぜか嫌な気分になるからだ。

 思い出したくないなにかが記憶の根幹にありそれが邪魔していて思い出させないようにしている気がしてならない。

 しばらくすると自室のドアがノックされて見覚えのある男性が部屋に入ってきた。


「よう!カルシャ」


  挨拶と共にカラトは現れる。


「今日はなにをするの?、てか昨日は武器を渡し忘れてたなんて聞いてないわよ」


  そう、カラトはカルシャ用の武器を取りに行くために一度別れたのだが、そのことを伝え忘れていたせいでカルシャが丸腰で苦楽の森へと行くはめになった経歴がある。


「悪かったな...でも今日は大丈夫だ、俺も一緒にいって武器の使い方教えてやるからよ」


  話を簡単に流そうとするが昨日死にかけたことを忘れたカルシャではない。

 ふと素朴な疑問ができたのでカルシャはカラトに聞く。


「ねぇ、死神が死ぬとどうなるの?」


  カラトは質問に答える。


「死神が死ぬと魂になって他の死神が狩りとって力の一部にする」


  カルシャは絶句する。


「力の一部になるってどういうこと?」


「まんまの意味だ、結局その死神は消えて新しい死神と一体化するってことだ、もしそれさえなければその魂は消滅するしかなくなるからな」


  あまりにも簡単に続けるカラトにカルシャはさらに問い詰める。


「それって、人殺しと変わらないんじゃない?」


 カラトは急に笑いだし手を前でふる。


「いやいや、もともと俺たちは死んでるんだぜ、人殺しとは言えないな、魂殺しというとこか」


  カルシャは何か違和感を感じる。

 魂を回収するということは植物にしろ死神にしろ相手を殺める行為ではないのかと。

 カラトはそんなカルシャの様子を見ると勢いよく手を握り駆け出す。


「え、な...なに...」


  あまりに突然だったため変な声を上げる。

 カラトに連れられて行き着いた場所は、この城のテラスだった。

 相変わらず馬鹿でかい城だということをカルシャに再確認させた。


「で...なに?、景色がいいなぁとかそんな話?」


  カルシャは不機嫌そうに世界を見下ろす。

 黒い街が下の方で存在することくらいしか見るものがない。

 だが、カラトは誇らしげに語り出す。


「景色がいいか....、そんな風に思えているなら俺たちの魂の回収には意味があるんだよ、ここにある街は全部死神達が命をかけて回収してきた証だ」


 言葉の意味がわからない。


「死神達の証?」


「そう、この街は俺たち死神が集めた魂で形作られている、お前はまだ知らないだろうがここには死神にもなれない弱い魂があるんだよ、そんな魂を守るためにこの街は作られた、死神大王によってな」


 弱い魂?守るため?私にはよくわからない。


「死神になれない弱い魂ってなに?それに死神大王って...」


「まあゆっくり知っていけばいいさ、俺が一から教えてやるからさ」


  彼は私の目線に視線を合わせて優しげに話した。



  カルシャはカラトに連れられて城の武器庫に案内された。

 様々な武器が系統別に綺麗に仕分けされている。

 カラトは色々な武器を紹介するがカルシャが気にいるような武器はなかなか見つからない。

 どれを手にとってみてもしっくりこない。

 カラトは結構真剣にカルシャに合う武器を考えてくれているが決まらない。

 だが、そんなカルシャの目に止まったのは鎌であった。

 カラトにはそれは扱い辛いからやめておいた方がいいと言われたがカルシャはそうは思わなかった。

 まるで今まで鎌を扱ってきたような感覚があったからだ。

 とりあえず構えて振り回してみる。

 やっぱり使いやすい気がして満足げな笑みを浮かべる。

 満足げなカルシャを見たカラトは少し不満げな顔をしながらも自分の気持ちは抑えた。


「まあいいや、とりあえず今日の任務に行くぞ、今日はお前と一緒に憎悪の洞窟の探索することになってるからな」



  カラトと一緒に昨日の広間へと向かうと、今日は昨日の茶髪の死神ではなく桃髪の女死神が立っていた。

 カラトがその死神の前へ行くと急にその死神はカラトに抱きつきこう言った。


「あーカラト!今すぐにデートしましょ!」


  急に抱きついてきた女性を見てカルシャは不快感で感情がいっぱいになり、ついついきつい口調で話してしまう。


「はぁ?、カラトは今から私と探索の任務があるんだけど」


  女死神はカルシャを不機嫌そうに睨みつけた後カラトの方に笑顔を振りまく。

 カラトはまんざらでもなさそうな態度なのもカルシャにはなぜか腹がたつ、どうでもいいはずなのにだ。


「レリューア、今日はカルシャと任務があるから無理だ、今度の休みにでも埋め合わせはするから許せ」


  カラトの言葉に瞳を輝かせているその女死神はレリューアというらしい。

 レリューアはカラトと少し話して終わると、モワモワしたゲートを出現させた。

 カラトとカルシャがゲートに入った時にカルシャは振り向きレリューアの方を確認する。

 やはりカルシャに対抗心むき出しの表情のレリューアの視線が刺さってくる。

 なぜかこいつには負けてはいけないという気分になるカルシャであった。



  ゲートを抜けると、そこはひんやりとした冷気に包まれた洞窟内部であった。

 薄暗い洞窟の壁には水滴が流れ落ちており肌寒さを感じる。


「さあ、始めるか」


  カラトの掛け声とともに探索が始まる。

 薄暗い洞窟に合わせて視力を慣らしながら奥へと進んでいく。

 5分ほど歩いたところでカルシャは足元に違和感を覚えて靴底を見ようと足をあげようとした。

 するとなぜか足があがらず白いネバネバしたものに靴が絡まっていることに気づいた。

 自分の鎌でネバネバした物体を伐採して脱出したが少し時間がかかってしまった。

 その現場をカラトはしっかりと笑いながら見ていることにカルシャは恥ずかしい気持ちになりながらも表情は変えず冷静を気取った。

 さらに奥に進むと巨大なナメクジのような生き物があたり中に蠢いていた。

 体は40センチほどの長さがあり縦の大きさは子供の顔くらいの大きさのナメクジなどそうはいないだろう。

 緑色の体色をしていて牙は鍛冶屋の名人に打たれたように光っている。

 ナメクジの動いたところに先ほどのネバネバが付着していくのを見てカルシャは注意を向ける。

 あまりの数の多さと見た目の気持ち悪さに少し気負いしながらもカルシャは構える。

 カラトが異空間から剣を出現させ構える。

 カラトの剣は黒い包帯のような物で巻かれている上に刃が研がれておらず殺傷力はあまりないように見える。

  カルシャがナメクジに斬りかかる。

 カルシャの鎌がナメクジに当たるとあっけなく一刀両断にする。

 あまりにあっけない獲物を切り裂く手応え。

 ナメクジの体が裂けるとそこから青い魂が出現するのをすかさず回収する。

 カルシャが次のナメクジに標的を絞ろうと視線を送るとナメクジの大群はもうカラトが一層した後だった。

 カルシャが一体倒している間にカラトはさっきまでの大群を倒し終わっていたのだ。

 カラトは涼しい顔をしてカルシャを見ていたので相当な速さで大群をなぎ払ったのだろう。

 それもカルシャよりも早く。

 なぜかカルシャはそれだけの実力差を垣間見てもカラトが人外というほどには感じなかった。

 相手がナメクジだっただろうからか?

 カラトがカルシャが戦い終わるのを見届けると洞窟の奥を指す。



  さらに洞窟の奥へと進むと足元に水たまりがたまっていて歩きづらくなってきた。

 やがて開いた空間に出る。

 洞窟の中とは思えないほど巨大にぽっかりと空いた空間はまるで大部屋のようだった。

 一瞬大気が揺れた気がしてあたりを見渡すが何もない、不振に思い上を見上げるとカルシャと同じ大きさの目玉が二人を捉えていた。


「危ない!」


  カラトの叫び声と共にカルシャは突き飛ばされる。

 次の瞬間にカラトの方へ白い糸のようなネバネバした物が放出された。

 カラトは剣で弾くが流石に量が多く少し服に付着した。


「じっとするな!とにかく動け!」


  カラトの声が洞窟内に響く。

 その声でハッと意識を取り戻したしたカルシャは敵の姿を見る。

 敵は天井に張り付きこちらを観察している。

 それはナメクジではあったが異様な大きさだった。

 カルシャの何倍もある身体に巨大な瞳がギョロギョロと動きながらカルシャを捉えている。

 体色は紫に赤い斑点模様が散らばっていて気味が悪い上に、背中にある卵のような物が不気味さをより一層引き立てていた。

 そこまで観察するとそれは粘着力を失ったテープのように天井に張り付くのをやめ地上に落下してくる。

 全速力で走りそれにプレスされない位置まで移動する。

 地響きが鳴り響き大地が揺れる。

 振動で頭が痛いがそんなことも言っている余裕はなさそうだ。

 さっきの着地に衝撃か奴の背中の卵が割れて中身が出てくる。

 そう、それはさっき大量にいたナメクジだった。


「こいつがさっきのナメクジを産んでいたの!?」


  ナメクジたちはカルシャを見つけるやいなや一斉に襲いかかってきた。

 冷静に鎌を振るいナメクジを切り裂こうとするが、刃が体に当たった瞬間に気づいてしまった。

 背中から生まれた子供は皮膚ができたばかりで柔らかいはずだと思っていたが体に張り付いた卵の殻が思ったより頑丈で刃が弾かれたのだ。

 弾かれて態勢を崩したカルシャにナメクジの大群が一斉に飛びかかり襲いかかる。

 鋭い牙が幼い肢体をえぐり取るように食い込み彼女は声にならない絶叫をあげる。

 トラウマになりそうなほどの痛みが脳に電気信号として送られ頭が張り裂けそうになる。

 目から涙を流しながらも歯を食いしばりどうにかなりそうな自分の意識を保ち続ける。

 突如旋風が巻き起こりナメクジ達が全て吹き飛び青い魂となりカルシャは助かったがそれはカラトが起こしたものだった。

 膝をつき息もたえたえの呼吸を続けるカルシャ、もはや立ち上がる気力があるかどうかもわからない。

 だがカルシャの前には勇ましくいつになく真剣な表情で超巨大ナメクジとの間に立ち睨みつけるカラトがいた。

 カラトはカルシャの方を振り向くと笑顔で一言発した。


「よく頑張った、あとは俺に任せろ」


  その短く力強い言葉はカルシャの心を突き動かす。

 カラトは剣を振り上げ巨大な敵へ突っ込んでいく。

 超巨大ナメクジは糸を吐きカラトを絡めとろうとするがそれを軽快な動きで避ける。

 かなり接近し標的との距離が小さくなってくると反撃を開始する。

 だが標的の体はヌルヌルしており刃が通る前に受け流されてしまう。

 ここままではラチがあかない。

 カラトは戦闘を続けながら相手の行動を観察する。

 標的はこちらを見失うと360度動く目玉で的確にこちらの居場所を突き止めて糸を吐いてくる。

 幸い水たまりがいたるところにあり、糸がそこに入れば溶けてなくなるようだった。

 だが水たまりがない場所に付着すると粘着罠のような効能を持っていることがわかった。

 時間をかければかけるほどこちらが不利になるのは明白だったためカラトが取る行動は一つに絞られた。

 カラトは壁を駆け上がり標的の頭上へと移動する。

 標的がギョロギョロした目でカラトを捉えるのを確認すると勢いよく目玉に向かって落下し全体重を乗せて目玉に剣を突き刺す。

 勢いよく血のようなものが噴出し標的が悶え始める。

 壁から壁へゴロゴロと錯乱したように体をぶつけ合わせるたびに洞窟内が揺れ動く。

 カラトは急いでカルシャの元へ戻りカルシャを背負い洞窟から脱出する。

 カルシャは申し訳なさと劣等感に精神が汚染されそうになる。

 だが、カラトは気にするなの一点張りでカルシャを励ます。


「今日の任務は探索だ、あんなでかい獲物を見つけて生きて帰れるだけでも上出来だ、お前はまだ生まれて間もない死神なんだからもっと俺を頼ってもいいんだぞ」


  カラトの優しい言葉にカルシャは彼を疑うのはやめようと思うことにした。

 本当に悪い人であればカルシャを守るような位置どりはしないだろう。

 カルシャは戦闘中ずっとカラトが自分を気にかけていたのがわかったのだ。

 もし彼一人であればおそらくだがあの魔物にも勝っていたであろう。

 今日の敗北を次の勝利の糧にできるかはカルシャ次第ではあるが頑張ろうと思う。

 もう彼の足を引っ張らないためにも...。






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