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ゾンビ誕生の瞬間

 邪魔者もやっと居なくなったしそろそろ持って帰った物の整理でもしよう。

 えーと……チラシ類はこの棚で文房具は引き出しの中にまとめておけばいいか。

 後は……



「誰か!誰か助けて!」



 ん?何だ?



「来ないで!こっちに来ないで!お願いだから……あっちに行ってよ!お願いだから……!」



 珍しい。

 この街で僕以外のゾンビを見るなんて。

 あの襲われて居る女性も運が無いな。

 多分誰かが助けに行かない限りはもう助からないだろう。



「お願いよ!誰か!誰か助けて!居るんでしょう!?見て見ぬフリしないで助けて!何でもするから……!早く……!」



 確かにこの近辺には少なからず家に立て籠もっている人間は居る。

 今女性が叫んでいる道路のすぐ近くの民家にも四人ぐらいの男女が居る。

 けど、多分助ける事は無いだろう。



「金でも体でも何でも捧げるから!私を助けて!い、い、いや!?こっちに来ないでよ!もう!ヤダ!?いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



 今この場であの女性を助けるメリットなんて正直無い。

 あの女性の言う事が本当だとして、金や体を捧げるとしてもそこにどれだけの価値があるかは分からない。

 通貨は最早価値を失っているし、体目的だとしてもこれだけ暗ければあの女性が自分の好みのタイプかは分からない。


 そして僕の予想通り、あの女性は誰にも助けられる事なくゾンビに捕まり、喰い殺されてしまった。

 でも、別に可哀想とは思わない。

 何故なら、



「ガ……ウガァ……(死んじゃった……私、何もしてないのに死んじゃったよ……どうして、どうして誰も助けてくれなかったのよ……)」



 例に漏れずあの女性もまた自我と感情を持ち合わせたゾンビになったからだ。

 確かに目立つ外傷は残ってしまう。

 でも、僕はどう考えても思い切ってゾンビになってしまった方が楽だと思う。


 こんな荒廃した日本でこの先安定した人生が得られる保証は無い。

 いつ、食料と水が無くなり飢えと渇きで悶え苦しむ事になるかは分からない。

 そうでなくても今の日本で食料と水を得ようとするなら生き延びた人間が独自に築いた巨大な組織に下り、理不尽な要求を飲んでやっと得られるか、誰かを傷つけて奪い取るしか方法は無い。


 そんな奴隷か獣よような人生のどこに幸せがあるのだろうか?


 仮にもし、奇跡的に日本が復興に成功したとして、以前と変わらぬ生活が約束されたとしよう。

 でも、そうなればやりたくも無い仕事や勉強に励まなくてはならなくなり、結局自覚の無い奴隷にならなければならない。


 年間どれだけの人間が過労死していると思う?年間どれだけの人間がノイローゼになっていると思う?年間どれだけの人間が自殺していると思う?

 ……生きながらにして屍予備軍としての生活を余儀なくされるこの国なんて、滅んで正解だし復興する必要なんて無い。


 別に僕自身がそんな目にあったから国を、社会を憎んでいるというわけでは無い。

 ただ、日々疑問に思っていたのだ。

 何の為に生き、誰の為に死ななきゃいけないのかって。


 だからそういうしがらみから完全に解放されるゾンビは楽だし自由だ。

 もし、生きた人間に僕の言葉を届ける術があるのなら迷わずこう言うだろう。

『ゾンビは絶望の象徴では無く、希望の象徴である』

 と。


 ほら、あの女性も自分の立場に気付いたようだし、我に返った女性を襲ったゾンビも如何に自分達ゾンビが幸せか説明を始めている。



「ガー(突然襲ってしまって済まない。でも、どうしても生きた人間を見ると襲わずにはいられなくなるんだ。今はもう大丈夫だし、傷つけようとはしない。だから少し俺の話を聞いてくれないか?)」


「ガ……?(あれ……?私生きてる、の?でも、どうして?凄い痛みを感じたし意識は朦朧として死を感じたのに、今はもう痛みは感じないし意識はハッキリしている……?それに、あなたは?)」


「ガウ(俺は田中秀たなかしゅう。二週間程前にゾンビになってこの街を徘徊していた者だ)」


「ガ……(田中さん……私は山田加奈やまだかな。ねぇ田中さん。教えて。どうして私は生きているの?どうして私を襲ったの?)」


「ウガ(残念だがあなたは生きてはいない。ただ、生まれ変わったんだ。人類に次ぐ新しい種族のゾンビに。そしてあなたを襲った理由は、ゾンビとなった者は生きた人間を見ると襲わずにはいられなくなるからだ。どうしても我慢出来ず、ついやってしまった)」



 人類に次ぐ新しい種族ときたか。

 人類に次ぐ事が出来るほど文明を発展させる事が可能かは分からないし、多分一世代限りの種族ではあるだろうけどその表現は正しいのかも。

 確実にもう僕達は人類という種からは逸脱しているしな。



「ガウ……(そう……本当なら悲観して、あなたを憎むべきなんでしょうけどどうしてかしらね。不思議とあなたが憎いとは思えないし怒りも覚えない。むしろ、ゾンビになってから清々しい気持ちさえあるわ)」


「ウガ(あまり宗教的な事を言うのは趣味では無いんだが、魂の解放とでも言うべき現象が起きているのかも知れない。一度死んで、別の種に生まれ変わった俺達は過去のしがらみに囚われなくて済む。そういうのを本能的に感じ取っているから清々しい気持ちになっているのかも知れないな。俺もそんな感じだったし)」


「ガガ(そう。まぁどうせ生き残った所で家族や友人は皆んな死んでしまったかゾンビになっているんだし、この世に未練なんて生きる事しか無かったから丁度良かったのかも。田中さん。私を襲ってくれてありがとう。私をゾンビにしてくれてありがとう)」


「ウガウ(止めてくれ。そんなつもりで襲ったんじゃないし、本来なら憎まれる所だ。そんなお礼を言われるとむず痒くなるから駄目だ)」


「ガ(ま、人一人殺しているんだからその程度の罪悪感は必要なのかも知れないけど、私にとっては救いになったわ。ありがとうね)」


「ウガ(はは。なんだか変な感じだな。……まぁ何にせよ、山田さんもゾンビになったばかりで自分の身にどんな変化が他に起こっているのか分からないだろうから街を歩きながらでも説明しようか?)」


「ウ!(ええ!お願いするわ)」


「ガウガ!(よし!ならまず俺達ゾンビは……)」



 うんうん。

 最初は絶望に明け暮れていたけど、立ち直ってくれて良かった。

 襲った男のゾンビもアフターケアはばっちりみたいだし。

 あれがもし人間同士の会話なら恋の一つ芽生えてもおかしく無い所だ。


 うん。今日は良いものを見れたな。

 変に気分を害さないよう外に出る事も片付ける事もせずに休むとしよう。





こんな感じで彼らは会話をします。

少ない言葉数で意思の疎通が出来るのっていいですよね。

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