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伝承者は出ない。多分。

 まず、今僕がやっている事を改めて考えてみよう。

 ゾンビとなってしまった僕はもう人間では無い。人間らしく生きようとも思えない。

 でも、人間であった時の事を懐かしむ事はしたい。

 だから、あの活発で希望に満ち溢れていた三週間前の日本の残響とも呼べる過去の産物を僕は集めている。

 簡単に言えば過去の日本で使用されていた生活感のある品だ。


 例えば学生が使っていた授業ノートや鞄。

 サラリーマンが使っているようなスケジュール表やメモ帳など。

 後は携帯やパソコンとか使用の可否に関わらず身近な電子機器や、さっき拾った広告のチラシとかだ。


 一見ゴミを集めているように思えるかも知れないが、実はそんな事はない。

 たった三週間だけとは言え、それだけの期間があればパニックになった人間が自らの手で祖国を滅ぼすには充分だった。


 ゾンビに対抗する為籠城を決意した者は周辺のスーパーやコンビニから食料や飲料水を片っ端からかき集め、抵抗を決意し武器となる物や身を守る防具になる物を集めるべくデパートやホームセンターからあらゆる道具をかき集めた。

 使えそうな物は何でもだ。

 勿論生活用品なんかも片っ端から無秩序に持ち出されている。


 僕はその時の様子を間近で見ていたからよく分かる。

 誰から構わず自身が生き延びようとするあまり、我先にとそこにある物資を持ち出そうとする姿に他者を思いやる気持ちはどこにも無かった。


 言うなれば生き残りを賭けた物資の争奪戦。

 欲しい物が手に入らなければ誰かを傷つけ、あるいは殺してでも奪い盗り、欲しい物を誰かが持っていればやはり誰かを傷つけ、殺してでも奪い盗っていた。


 自身が生き残る為に誰かを殺し、自身が生き残る為に誰かに殺される。

 案外この国はゾンビが発生しなくてもいずれは滅び行く運命だったのかも知れない。

 どれだけ平和そうに日々を取り繕っていても、潜在的にはそんな凶暴な心があらゆる人間に宿っていたのだから。


 そしてそんな醜い争いが全国各地、あらゆる場所で発生すれば当然国は荒れ果てる。

 デパートやスーパーやコンビニはそういった人達の争いによって少しずつ破壊されて行き、一般家屋は物資が手に入らなかった人達がドアや窓を破って中に侵入し、使えそうな物を次々と盗んでいく。


 その家屋に人が居なかったのであればまだいい。でも、中には人が住んでいる家に荒らしに入り、その家の住人が抵抗すれば殺して奪える物は奪っていった者もいる。

 あの平和な日本では考えられなかった強盗殺人が毎日のように日本全国で起こっていたのだ。

 狂っているとしか思えなかった。


 頼みの綱の国や警察、自衛隊はゾンビに人権があると主張した為に銃火器による応戦が遅れ、かなりの数の人が犠牲になってしまった。

 恐らく大半がゾンビになってしまっている。

 そんな状態だから誰もが自分の身は自分で守らざるを得なくなってしまった。


 そしてその結果が今の日本。

 核こそ使われていないが、色んな武術の伝承者が多発しそうな状態になってしまった。

 ここまで来ると逆に笑えてくる。

 長きに渡り栄華を誇ったこの国がたった三週間で滅ぶなんて。

 それも自国の民の手によってだ。

 本当、これ以上の笑い話なんて無いだろう。


 勿論さっきの連中みたいに未だしぶとく生き残っている人間はいる。

 多分人口は5000万人を下回っていると思うがそれでもまだ生き残りはいる。


 その人達にとって、生き残った事は良い事なのか悪い事なのか、僕には分からない。

 生きていればいつか必ず報われる時が来る……とは言うが、こんなあからさまにヤバイ国に援助に来る国は無いと思うしそもそも外国が日本と同じようになっていない保証は無い。

 だから救援は期待出来ない。

 かと言って、元々自給自足が困難であった輸入大国の日本が他国からの輸入が期待出来ず、今ある手持ちの物資だけで生活しようとすればいつか必ず限界が来る。

 こんな状況で農業なんて出来るわけが無く、当然船だって出せないから魚貝類の確保も難しい。

 となるとそう遠く無い未来には食べる物が無くなり餓死者が出始める。


 ゾンビに襲われゾンビと化し、人間に襲われ死体と化し、空腹に襲われ死体となる。

 少しずつ人口が減り、本当の意味で日本という国が滅ぶのは目に見えて分かる事だった。


 だから今生きている人間は本当に可哀想だと思う。

 生きるも死ぬも未来には絶望しかないのだから。


 だから僕はそんな暗い未来を見据えるのを辞め、明るい過去を振り返る事にした。

 あの時は良かった。あの時は平和だったと思えるような品を集める事で。


 ぶっちゃけもう僕がゾンビになってしまった時点でこの国がどうなろうとどうでも良かった。

 滅ぶもよし、何とか立て直して再建するもよし。

 いずれにせよ、ゾンビの僕にはもう関係のない事だから。

 非情なようだがいざ実際にゾンビになってみるとそんなものだった。


 まぁそんなわけで僕は第二の人生としてゾンビの生活を満喫する事にした。

 過去の残響を集め、日々の日常の変化を傍観する。

 幸いにもゾンビになって分かってきた事も沢山ある。

 そろそろ良い頃合いだし分かってきた事をまとめてみるか。

少しの間シリアスな感じが続きます。

本当はシリアル要素一切排除の作品にしたかったのですが世界観を表現する為に止むを得ず……

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