コンビニの中と外
時は世紀末。
そう言っても過言では無い程に荒廃してしまった現代日本。
360°どこを見ても目に入るのは荒れ果てた家屋やスーパーやコンビニ。
扉という扉は壊され、窓という窓とは割られて内部はどこも荒らされている。
恐らくどこも新鮮な野菜や肉、お菓子やジュースは無くなっているだろう。
一応近くのコンビニの中に入って何か残っていないか確認をしに行ってみるが、当然と言えば当然のように何も残ってはいない。
強いて言うのであれば物を漁った時に出来たゴミだけ。
雑誌の一つですら残っていない。
勿論今更コンビニに何か残っているかもと思って希望を抱いているわけじゃない。
でもやっぱり、こうも今の日本が荒廃してしまっているとかつての日本を思い出すような品を探し求めるのは仕方の無い事。
今度はレジの裏にあるスタッフルームに行って何か無いかを探してみる。
まず、目に付いたのはスタッフ用のロッカーだ。
どこにでもあるような縦長の服と鞄を保管する為だけの簡易なロッカー。
四つあるうちのどれもが閉まって中が確認出来ないので一つずつ右から順に開けてみることにする。
一つ目。
ハンガーが三つ。それだけ。
元々備え付けられていた小さな鏡は無くなっている。
二つ目。
何かのキャラクターのシールが三枚貼られているだけで中は空っぽ。鏡も無い。
三つ目。
粉々に割れた鏡がロッカーの中に散らばっている。
どこかのお店のポイントカードと数百円分の小銭も一緒に散らばっている。
けど、興味なし。
四つ目。
おぉ!血で薄汚れてはいるけどコンビニ制服が上下揃っている。
これはポイントが高い。
持って帰ろうかどうしようか悩む所だが、もしかすると誰かがここに保管している物かも知れない。
一週間経ってもこのままだって貰って帰るとしよう。
僕は他にも何か無いかとスタッフルームを見回してみる。
次に目に入ったのは多分店長とかが使っていたPCのデスクだ。
PCは画面が割れていて使えないが、デスクの引き出しはどれも鍵が掛かっていてまだ荒らされていないようなので順番に壊して壊して開けていく。
一番上の大きい引き出しには何かの書類や鉛筆、ボールペンなどが所狭しと詰められていた。
どれもまだ使えるようなので必要な分だけポケットに入れて持ち帰らせて貰う事にする。
左側にある三段になっている引き出しの一番上にはお店で使っていたであろうスタンプや印鑑など書類仕事に使いそうな物が入っていた。
が、別にこれは特に欲しいとは思わないのでそのままにしておく。
三段あるうちの二段目。
何かの書類や広告のチラシが素のままで積み重ねられている。
決算報告やバイトのシフト表、夏期キャンペーンやらクーポンなど様々だ。
書類は別にいらないが広告のチラシとかはダブっているものもかなりあるので一枚ずつ貰って帰る事にする。
そして最後の三段目。
ここには多分バイトの人の履歴書が入っていた。
まぁまぁな数が入っていたからこのコンビニも元はかなり賑やかな場所だったに違いない。
とは言え今となってはもう必要ないものだし、こんな所で誰かの個人情報を得てもその人が生きている確率なんてかなり低いのでこれもそっと引き出しを締めてそのままにしておく。
……ざっと見た感じ目ぼしい物はこれくらいかな?
思いの外収穫があったから僕としては満足だ。
後は人に見つからないように気をつけて外に出れば……っと。言ったそばから誰か来た。少し隠れよう。
「ねぇやっぱり止めとこうよ!」
「馬鹿!今日はあっても明日には無いのが今の常識だ!食い物も尽きたし多少リスクを負ってでも何か食い物を探さないとそのうち餓死するぞ!」
「そうだけどさ!でも何もこんな真夜中に探しに来なくてもいいじゃない!もし奴らがいたらどうするのよ!」
「その時はその時だ。このコンビニもそう大きくは無い。外から中は丸見えだし、奥にいるとしてもたかが知れてる。大人数で囲まれない限りは俺が何とかする。だから安心しろ」
「でもこんな真夜中で街灯もロクに付いてないのに大丈夫なの!?灯と言えば月の光しか無いのに……。もし死角から襲いかかられて来たらどうするのよ!」
「……お前がそこまで言うなら用心の為に石でも投げて反応を確かめるか。それでもし何も反応が無かったら中を探索する。それでいいだろ?」
「……うん。それなら」
どうやらここに来たのは若い男女二人組みたいだな。
女の方は特に武装していないみたいだが、男の方は金属製のバットを持っているのがよく見える。身近にある武器としては一番手頃だが、殺傷力はそれなりに高いから注意が必要だな。出来る事ならこのまま遭遇する事なくやり過ごしたい。
「これくらいの大きさの石なら音も出るし奴らも居たら気づくだろ。よし。3.2.1で投げるぞ。何かあってもすぐに逃げれるように準備しておけ」
「分かった」
石を投げて反応があれば逃げる、か。
ならタイミングを見計らってこのロッカーを揺らした大きな音で驚かしてやるか。
それで逃げてくれるだろ。
「3…2…1…それっ!」
ガランガランと店内に拳大の石が投げこまれる。そこそこ大きい音が鳴ったのでこれならどんな奴でも音に気づくだろう。
よし。それじゃ期待に沿ってやるか。
ガワンガワンガワンガン!
「なっ!?」
「きゃぁ!?やっぱり居たんだよ!」
「駄目か……クソ!逃げるぞ!」
「は、早く!奴らが来る前に行こう!」
「あぁ!」
バタバタと駆け足で男女は去って行く。
ふぅ。変に粘られなくて良かった。
これで安心して外に出られる。
コンビニの外に出ると心地よい夜風と月明かりが僕の体を包んでくれる。
こうして天を仰いでみると、今の壊れた世界が嘘のように思えてくる。
なんでこんな事になったんだろうなぁ。
あんな事件さえ起こらなければ、今も日本は……僕は今なおゾンビにならず、人間として普通の生活を送れていただろうに。
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