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花を咲かせる魔法使いはとりあえず楽をしたい  作者: 岳鳥翁
アリエリスト領と花の魔法使い
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8:二組目の訪問者

 地竜の森にて花園の賢者の捜索を行っていた二人は、突然目の前に現れた広大な花畑に思わず目を奪われていた。

 そう、突然である。

 花畑であるならば、特有の甘い香りもしたはず。しかし、目の前のこれはいつの間にか、当たり前のようにそこに存在していたのだ。


 故にクェルはすぐさま警戒心を顕わにする。


「(これ自体が何者かによる罠の可能性もある、か……)お嬢様、お気をつけ下さい。先ずは私が安全を確かめに……」

「すごいわ! 見て、クェル! こんな花畑、私今まで見たことないわ! 家の花壇の何百倍もあるわよ!!」

「…なっ!? お嬢様! 危険です!」


 突然の行動にクェルが慌てて制止を促すも、少女がそれを聞くはずもなかった。

 ローブの少女は花畑へと駆け出したかと思えば近場にあった花の前へとしゃがみ込んで観賞し始める。


「クェル。これ、何て花なのか知ってる?」

「…すみません。そういったものには疎く…」

「そう。……と、ところでクェル。ここ、花園よね?」


 思い出したかのように言葉を漏らした少女。

 花に視線を向けたままであるため、少女の顔はクェルには見えないが声でわかる。隠しきれない喜びが滲み出ているのだ。


 

「ええ、そのようです。誰が見てもここは花園である、と言うに違いありません」


 だからクェルもそれに便乗し、少女が喜びそうな言葉を紡いだ。


「そうよね…そうよね! そして私たちが探していたのは花園の賢者よね!」

「はい。『花園の』賢者です」

「森のこんなところに、こんな花畑があるなんて情報はなかったはず。でも、話に聞いた賢者に会った冒険者は花園の賢者って言ってたのよ。てことはつまり、その冒険者もまた、ここに辿り着いたんじゃなくて?」

「そうですね。会いに行っても会えなかった冒険者からはここの関する情報はありませんでした。恐らくは幻覚などの隠蔽工作がなされていたのかと」

「賢者なんて呼ばれる人よ。会う人を選別でもしているのかしら? ふふっ、でも私たちは辿り着いた。つまり、私たちなら会ってもいいということよ!」

 

 振り返った少女は喜色満面の笑みを浮かべていた。

 

 少女の行き過ぎた想像に少しだけ物申したくなったクェルであったのだが、その笑顔を見て何も言えなくなってしまう。…もっとも、言っても何も聞かないだろうが。


「待ってなさいよ! 花園の賢者!」


 着いてきなさい! と花畑に突っ込んで行く少女にあれほど先行しないでと言ってるのに、とほぼ諦めの表情を浮かべたクェル。

 だが彼女は少女の護衛であり、従者だ。ならば着いていくしかない。


 お嬢様に追いつかなければ、とその後をすさまじい速度で駆けるクェルなのであった。







 ◇






 今日も今日とて、俺は青林檎の畑に水をやり、集まってくる虫達に飴玉を分ける。

 この一連の行動は俺がジャイアントアントたちの世話になっているころからのものであり、面倒くさがりの俺が唯一続けている奇跡的なものと考えてもいいだろう。

 まぁ、虫の相手をするのは別に嫌いなことじゃない。小さい頃はカブトムシとかクワガタの他にもカマキリやらバッタやら、はたまた買ってきたキャベツに付いていた芋虫なんかも育てたりしていたし。

 そして改めて言わせてもらうが、俺はただ養ってもらうだけのニートになりたいんじゃない。養ってもらいつつも相手の癒しとなる。そんなヒモになりたいのだ。なお、主夫と言われるほど働きたくない。

 もちろん、奥さんが何もしなくてもいてくれるだけでいいと言ってくれるのであればその限りではなく、全力でその言葉に甘えさせてもらうが。


 何が言いたいかっていうと、俺はジャイアントアント以外の虫達にも世話になっていたりするので、その恩はちゃんと返す、ということだ。

 普段からしーちゃんが持ってきてくれる物の中には、ジャイアントアントが採って来たものの他に、彼ら彼女らが採って来てくれたものも混ざっていたりする。

 他にも彼らはこの花園の警備なんかもしてくれているので、俺はこうして飴玉でお礼をしているのだ。

 肉食であるはずの虫も好んで食しているのを見たときは驚いたが、皆が喜んでくれるのならそれでいいだろう。

 材料の蜂蜜はハニービ達との関係が続けば定期的に手に入るし、青林檎は魔法で簡単に栽培できる。そして作り方も潰してまぜまぜして固めるだけと超手軽。こんなものでここの虫たちと良好な関係を築けるのなら安いものである。

 だから皆さん。どうか俺のことを見捨てないでね?


 さて、そんなわけでもうこのままここで永住してもいいんじゃないかと思うようになってきた今日この頃。

 また今日も飴玉を配り終えたら寝ようと思っていたのだが、どうやら今日に限ってはそうさせてくれないようだ。



「ちょっと! 離しなさいよ! あと解いてよね! 私は花園の賢者に会いに来たのよ!? なんで虫に襲われてぐるぐる巻きにされて運ばれなきゃなんないのよ!! はーなーしーてー!!」

「クッ、魔物ども! お嬢様に手を出せば、我が剣でみじん切りに……!! あ、ちょっ、今私の剣を抜き盗っただろ!? 返すんだ!!」

「きゃっ! ちょ、ちょっと!? 今お尻触ったのどこのどいつよ!? 高貴な私のお尻を触るなんて不敬罪もいいところよ!! ……はっ、まさかあなたたち、私にいかがわしいことをする気なのね!? 動けないことをいいことに、あんなことやこんなことまでする気なんでしょ!? 虫が初めてなんて嫌よ!? 絶対に嫌! たーすーけーてー!!」

「お嬢様ぁ!!」



 ……何ぞこれ?


 思わず運んできたカマキリを見てみるが、首を九十度傾けるだけで何も答えない。

 だが、簡単な思考ならおおよそ理解できる。要は、このカマキリが両の巨大で凶悪な鎌に挟んでいる物体は勝手に花園に侵入してきた侵入者なんだとか。

 このカマキリは見た目は花カマキリを大きくしたような姿なので、隠れて油断したところを捕まえたのだろう。糸でぐるぐる巻きなのはクモが手伝ったのだろうか。


「いーやー!! 私の初めては、かっこよくて素敵で、お金持ちの強い王子様って決めてるんだからー!!」

「理想が高すぎます、お嬢様ぁ!!」


案外余裕そうな気がするのは俺だけなのだろうか。早いところ落ち着いてほしいのだが。

 ていうか、何で口だけ縛らなかったんだ。おかげでうるさいったらありゃしない。

 初めて来た冒険者も仲間の助けを求めるのに必死だったが、ここまでうるさくなかったはずだ。


 とりあえず近くにいたクモ(ジャイアントデススパイダーとかいうらしい。物騒)に指示を出して口も糸で塞いで貰う。もちろん、呼吸はできるように鼻は開けてあるが、そのおかげでうるさかった二人も言葉らしい言葉を発さず唸るだけになった。

 

 ……全身拘束された女二人に、それを傍で眺める巨大な虫を引き連れた男。絵面がやばい。主にアラウンドエイティーン的な意味で。


このまま森の入り口に返してもいいのだが、なんかそれだとまた同じようにここに来る気がする。

何故こんなところに来たのかはわからないが、わざわざこんなところまで来るのだ。何かしらの理由があるのだろう。ここで放り出して何度も同じようなやり取りを繰り返すより、ここで話を聞いて事を済ませた方が楽な気がする。無理な話なら断ればいいし、大丈夫そうなら虫たちに頼んでやってもらえばいい。


とりあえず、鼻以外糸で巻かれていると話もできないのでカマキリに糸を切断してもらう。もちろん、動けないように手首の部分は糸を残して、虫たちにはいつでも動けるように待機してもらえるように頼んだ。


彼女ら(声から判断した。恐らくあってる)を連れてきたハナカマキリがその鎌を振るう。一歩間違えれば彼女らごと切断しそうな凶悪な鎌であるが、鎌は彼女らを傷つけることなく見事に糸だけを断った。


「ちょっと!! 糸を解くなら最後まで取りなさい……よ…………」

「……クッ、囲まれたか……!!」


やっと視界が開けたと思えば、自分達の周りを虫の魔物が囲んでいるのだ。まぁ、そんな反応になるのも頷ける。

ただ、今回話すのは俺だ。なので、未だ俺に気付いていない二人に、俺の方から話しかける。


「いい加減落ち着いてくださいな。俺が面倒くさいから早く話を終わらせたいんだから」


ビクッ、と一度体を強張らせたと思えば、次の瞬間に彼女らは勢いよくこちらを向いた。

一人は長い金髪に碧眼の、魔法使いのような杖とローブを纏った少女。

もう一人は鎧を身につけ、赤く長い髪を一つに結った女騎士。


彼女らも前回と同じく冒険者なのだろうか?


そんなことを考えていると、縛られているにも関わらず、金髪の少女が嬉しそうに声をあげた。


「あなたが、『花園の賢者』なのね!!」




誰のことなんでしょうか。

 


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