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76:前座は速攻。だって面倒だろ?

お待たせしました。そして申し訳ない。


また名前を間違えていたっ…!!

 とりあえず、ソクズさんの案内で石造りの通路から脱した俺たちは、先ほどとは打って変わって木造の通路を進んでいた。じっとしていれば、木人擬きたちのこともインテリアの一部だと勘違いしてしまうかもしれない。

 

「それで? 案内は任せていますけど、どこに向かってるんですかね、これ」


「巫女石の部屋だ。この国の儀式などを行う神聖な場所だよ。巫女選定の儀式をやるならあの男もそこにいるはずだ。だからこそ、誰にも見つからないようにその下を進んでいるわけなんだがね」


「どうりで、まだ天井が低いはずだ」


 見上げればすぐそこに天井があるのを考えるに、二メートルもないのだろう。まぁそれでも床下というのを考えれば高い気もするが。

 やがてソクズさんの後ろに続く形で歩を進めていると、通路全体が揺れるほどの咆哮がどこからか響いてきた。

 あれは、ドラゴンか何かの鳴き声か?


「……すまない、カオル君。少し急ぐぞ」

「てことは、何かまずい事態が起きてるってことですかね」

「……そうとも言えるな」


 うわぁ行きたくねぇ……何て顔をしたところで問題の解決にならないことはよくわかっているが、それでも顔をしかめるくらいは許してほしいものだ。何せ、もともとは逃亡ついでに観光に来ただけだったのに追い掛け回され、殺されかかった挙句、今度は厄介ごとときたもんだ。じいさんには文句くらい言わなきゃ割りに合わない。



 駆け足になったソクズさんの後を追う形で俺も木人擬きと共に付いて行く。


 徐々に大きくなっていく地響きに冷や汗を流しながら進んでいくと、不意にソクズさんが立ち止まった。どうやら、目的地のすぐ下に到着したらしく、すぐ上でドンパチやっているのがよくわかる。

 時折少女の叫ぶような声が聞こえてくるが、その少女が戦っているのだろうか。


「やはり、私の娘か。気をつけろと伝言はしたんだがな……」

「娘さんが戦ってるのかよ……」


 決して高くはない天井がところどころ軋み始めている。上での戦闘がそれほどすごいことになっているのだろうか。急に天井が抜けてこないかと心配をしていると、足元にいた木人擬きの一体が俺の体をよじ登って頭の上に乗っかり、心配すんなというような様子で俺の頭をつついていた。

 励ましてくれるのは嬉しいが、葉っぱがこそばゆいしたまに突き刺さる枝が痛いので止めてほしいものである。


「カオル君。折り入って君に頼みがある」


「……すごく簡単に予想が出来ますが、まぁ一応聞いておきます」


「娘の身を守ってほしい。もちろん、私の権限で叶えられる範囲のことは聞こう」


 何となくわかっていた頼みに、思わずうげぇ、と口の端を歪めてしまう。

 明らかにやばそうな雰囲気のするこの上の舞台に誰が好き好んで上がるか、と言いたいところではあるのだが、このまま拒否してほっといてもそれはそれで面倒なことになる予感しかしない。

 とどのつまり、まだソクズさんの娘さんが残っているうちに参戦するのが得策か? 何だったら、この人の権限で色々と後の事が楽になるおまけつき。


 ……やっといた方が良さそうだな








「よーしよし、チビども。よくやった」


 そんなわけで、木人擬きたちによる先制攻撃がいかにも私が黒幕ですみたいな怪しい奴に直撃し、凄まじい勢いでぶっ飛ばされたのを確認してから床下から身を乗り出した。

 巨大な腕となっていた木人擬きたちがもとの群体へと戻り、トゥリィートゥリー! と嬉しそうな鳴き声を上げて俺の下へと駆け寄ってくる。


「にしても、お前もいるとは運が良かったぜ」


 視線を足元の木人擬きたちから正面へ戻す。

 そこにいたのは、さきほどまであの怪しげな男と闘ていたであろうあの忍者の男。戦闘での疲労のためなのか、わずかながら息が上がっている。


「あ、あなたは……」


 事が済み次第、殺されかけた恨みを返そうと内心で考えていると、その忍者の男の背後に猫耳の鉄扇を手にした少女の姿があった。おそらく、あの娘がソクズさんの娘だろう。

 ということは、状況的にあの娘と忍者の男は仲間と考えるのが妥当か。


 ……あれ、あの娘が俺の殺害を命じた黒幕って可能性も出てきたんじゃが。


「ああ、くそ。情報量が多すぎてよくわからねぇ……。後にしよ」


 咲け、といつものように命じれば、俺の咲かせた数多の花々が部屋中を覆いつくしていく。

 咲かせたのはクローバー。『復讐』の意味も持つ花であるが、今回俺が重視した意味は『幸運』。突然現れた花を初めて目にするソクズさんの娘は、その様子に狼狽えるが忍者の男は俺がやったとわかっているためか動じる様子はない。


 とりあえず、ソクズさんに頼まれたのはあの娘の方なので、考えられる限りの癒しの意味を持つ花で体のあちこちを覆い、部屋の隅へと転がしておく。もちろん、あれだけでは防御面で不安しかないのでその上から植物のシェルターを構築した。

 忍者の男? さぁ? 自分で対処するでしょ。


「生きていたんだな。殺したと、思っていたんだが」

「黙れよ、くそ野郎。許してほしけりゃ、あの化け物何とかしてから死ね」


 決して油断せず、忍者の男から一定の距離をとる。

 こいつを相手にこの程度の距離など無意味にしか思えないが足場が俺の有利である以上、わずかでも時間は稼げるし、いざとなれば木人擬きたちが動くだろう。

 その時間さえあれば相打ちくらいには持ち込める。


「しかしまぁ、飼い主が変ならペットもそうときた。何だよあれ、真っ白で尻尾が五つとか、九尾の劣化版か何かかよ」

「あれは先代巫女の娘であるサクラ様の力だ。あの男が、その力を暴走させてああなった」

「解説ありがとうよ頼んでないけど」


 でっかい獣とか、あの地竜の森でのあの巨大なクマとの一戦以来だ。

 あの時と同じ方法で仕留めようかと思えば、あれは人が変化した姿ときた。もう元に戻らないとかならあきらめがつくが、そうではないとなると無力化する必要がある。


 そして、それ以外にも懸念すべきことはあるのだ。



「下等種風情がぁアあ!!! よくも、ヨくもよクもよくモ!! この私をぉおオオ! 我が帝国の技術をぉオおおお!!!」


 先ほどぶっ飛ばされていた怪しげな男。よく見ると体中のあちこちに魚の鱗のようなものが見える。独り言で我が帝国云々と喋っているのを聞くに、今回の黒幕はあいつっぽい。

 何かされるのは面倒であるため、奴が話しているうちに足回りのクローバー(シロツメグサ)を急成長させ、手足を拘束。しかし、怪しげな男は自身の拘束された手足を鼻で笑うと、一息にその拘束を引きちぎって見せた。

 

「無駄ぁですよぉぉおお!!! 我が帝国の誇る強化薬をもってすれば、我が力は数十倍にまで跳ね上がるのでぇぇええす!! 奇妙な魔法を使う様ですがぁ、その程度の拘束がぁあ! 解けないわけないでしょぉおお!!」


 さぁ、我が力、帝国の技術に恐れおののくのでぇぇす!! と爪を振り上げ、十メートル以上もあった距離をほぼ一瞬で詰めようとした男。

 

「あっそ」


 だが、その攻撃を避ける必要はない。

 男の頭頂部に咲いた一凛の花が、急成長を開始し、男の生命力を養分として一気に吸い上げていく。すると、男はその速度を一気に緩め、道半場で倒れ込んでしまった。

 咲かせたのはマツバギク。花言葉は『怠け者』『怠惰』。


 まぁあれだ、何をしたかと言えば、生命力の低下による弱体化と、花言葉によるやる気の阻害のダブルパンチをお見舞いしたわけだ。弱体化しているのにそれを解こうとするやる気さえ起きない。結果、敵は一方的に弱って死ぬ。

 なんとも恐ろしい技を考えたものだ。俺なら即死だね。主にやる気的な意味で。


「おい。あいつ、もう動けねぇからどっか連れてって縛っとけ」

「……あ、ああ。わかった」


 忍者の男が側までよっても、反撃してくる様子はない。うう、とか、ああ、とか呻き声をあげながら縛り上げられてどこかへと引きずられていく様子はなかなかにシュールだった。


「さて、だ。よくわからんが、さっきからこっちを見たまま動かないわけなんだが……」


 振り返ってみれば、先ほどから唸ってこちらの様子を伺うだけの九尾擬き。

 一応動きがないかを木人擬きたちに監視させていたんだが、あの怪しい男の対処が終わっても襲ってこないときた。仲間か何かじゃなかったのかね。


 しかし、狐、ね。

 はぐれてしまったシロの奴はいったいどこをうろついているのやら。


「ウウウゥゥゥゥゥウ……」

「はぁっ、狐語は分からねぇんだよ。……できればそのまま、じっとっしておいてくれよ」

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