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74:地下からの侵入

 時を遡ってアズサ達が準備を終えたころ。


 反応が留まっている目的地であった中央の城に漸くたどり着いた俺は、城周りに彫られていた堀や、そびえ立つ石垣を難なく巨花で飛び越えて息を潜めながら何度目かになる階段の見張りの様子を伺っていた。


「また二人か……」


 見据えた先には刀を差した侍が二人。

 しっかりと二人の位置を確認した俺は「咲け」とだけ唱えて魔法を発動させた。


 その直後、見張りの二人が見ることのない背後の足元に夫々一本ずつ白い花が咲いた。


 ケシ科ケシ属の花、ポピー。色によって花言葉が違う花であり、白は「眠り」や「忘却」の意味を持つ。名前はラテン語由来で「粥」という意味があるらしい。なんでも幼児を眠らせる際に催眠作用のある乳汁を粥に入れていたからだそうな。

 その他にも、あまり詳しいわけではないがギリシア神話にも眠りの神様と関連して登場するのだとか。


 閑話休題


 徐々に徐々に、しかし相手に気づかれないようにその数を増やしていくポピーは、やがて見張りの侍の足元にまで到達。ついには足にも根を伸ばし始めてそのまま侍たちを夢の世界へと誘った。


「……妙だな」


 眠りこけている侍たちを伺いながら、俺は先ほどの二人の様子に違和感を覚えた。

 いや、この二人だけではない。ここに来るまでに遭遇した侍皆がそうなのだ。

 

 いくら俺の魔法の効果が強力になったからと言っても、効果を発揮するまでには僅かではあるが時間差があるのだ。ならば、あの二人は足にまで伸びた根を見てその様子に何らかの反応があっても良かったはずなのだ。

 しかし実際にはそんな様子を見せることなく、見張りは糸が切れた人形のように崩れ落ちて眠り始めた。最初は楽でいいと思っていた俺もこう何度も続くと少しばかり不安になってくる。


「どういうことだ? 俺の魔法が想像以上に強力になったのか?」

 

 あの精霊王にかけてもらった祝福……ではないよな。あの話通りなら、杖が力を発揮するのは森の中や周りが植物に囲まれているときだけのはずだし、花言葉の効果が増幅されるわけではない。となると、もっと何か別の要因があるのか?



 しばらく考えてはみたがそれらしいものは思い浮かばなかった。

 念のためにと眠っている侍を新たに生やした花々で窒息しない程度に全身を覆うと、これまでと同様に人目に付かない比較的木や草が生えている場所に転がしておいた。よく見なければ分からないし、見えたとしても不気味な植物の塊だ。見張りがいないとわかっても暫くは大丈夫なはず。まぁ今頃は城のあちこちに転がっているのだが。


 しかし、俺が懸念しているのはそれだけではないのだ。


 少しだけ見えている城の天守閣らしき部分。

 面倒なことに、この城都の中心にありながら堀や石垣まで用意した要塞のようになっているのだ。おまけにその二つを乗り越えてもいたるところが階段や迷路のようになっている。何個かの階段を上ってきたが未だに目的地であるあの男のところに到着する様子はない。まったく、どうなってるんだここは。


「他の道を探そうにも、一人で探し回るのは面倒が過ぎるぞ。……かといって、このまま同じことを繰り返すのも面倒だしなぁ……」


 賭けに出るか、正規法で会談を愚直に上るか。

 どっちも面倒という結論しか出てこないのだが?


 俺の代わりに全部やってくれる奴がいれば一番楽に済むんだが……


「代わり……人手か」


 そこで思い出したのは森で出会ったあの木人達の姿。話せはしなかったが、コミュニケーションは可能であったしかなり動けていた。集団での行動とかすごかったぞあれ。


「……精霊とはいえ、植物だし……できるんじゃないか?」


 ふと考えたのはあの木人擬きが俺だったら作れるんじゃないかということ。

 流石にあんな精霊そのものを作れるわけではないが、よくよく考えてみれば擬きくらいならできないこともないかもしれない。

 いわばファンタジーの世界でよく出てくるゴーレム、その植物バージョンである。


 これができるようになれば、俺は指示を出すだけで作業をこなすことが可能になる。更には、移動や苦手な近接戦闘、壁役までもをこなせればその使用方法は無限大。まさに面倒くさがりが目指すべき極地なのではないだろうか。

 なんてこった、こんなことならあの天使にはゴーレムマスターになれる才能でも頼んでおくべきだったぜ。


 ……まぁもっとも、あの時俺には選択の余地なんてなかったがな! 今度話す機会でもあったら言っておいてやろう。


 さて、そうと決まれば早速作ることにしよう。正直な話、場所や時間の都合上悠長に試作している暇はない。今回に関しては取り合えず数をそろえることを優先だ。


「えっと……何か良さそうな花言葉は……マリーゴールドは確定で、あとはタイムとかも入れとくか。体は……」


 記憶にある花をピックアップしていき、植物ゴーレムに使えそうな花を目の前に咲かせていく。



 そして少しばかりの試行錯誤の末、出来上がった試作のゴーレムがこいつらである。

 その数、合計二十体


『トゥリィィーーーー!!!』


「……な、なかなか元気そうなのができたんじゃないか?」


 俺が指示を出す前からかって動き回っていることを除けば、ほとんどが想定通りである。

 体の部分は『再生』の花言葉を持つユーカリ、その若木を使用し、『命の輝き』の花言葉を持つマリーゴールドを中心に『活動力』『勇気』のタイム、『勝利』のグラジオラス、『心が通じる』ススキ、『強靭』のミツマタ。

 本体が引火しやすいユーカリであるため火には弱いが植物なんだし仕方ない。短時間にしてはなかなかの力作が出来たと思っている。

 が、ここまでしろとは言ってない。


『トゥリィイイーーー!!』

「ええい! 飛び掛かるな疲れるだろ!」


 まるで遊びたい盛りの子供のように鳴き声? を発して飛び掛かってくる木人擬き。俺は杖を振り回しながら振り払おうとするのだが、彼ら? にとってはそれさえも遊びのようなものらしくあの特徴的で奇妙な声を上げていた。どうやら喜んでいるらしい。俺にもそれが分かるのはススキのせいなのだろうか。


 毎度毎度指示を出すことを面倒くさがったのが裏目に出たか。マリーゴールドを入れたのは失敗だったかもしれない。


 しかしこれでもそれなりに考えて作ったのだ。無駄にするのは、それはそれで何か嫌だ。


「ほれ、さっさと他の侵入経路を調べてきてくれ。見つけたらここまで報告に来るんだぞ? あと、俺以外の奴の前ではじっとしたまま動くなよ? 木になるんだ。以上、いけっ!」

『トゥリッ!』


 俺の合図にピッタリと揃った敬礼を披露した木人擬きは、バラバラになって捜索を開始。俺はと言えばあとは待つだけである。

 少しだけ思っていたのとは違ったが、指示は聞いてくれているようだし役目をこなせるならそれでいいだろう。俺は楽ができるので非常に助かるというものである。

 自身を隠す影になるように木を何本か生やした俺は、座り心地を良くするために地に草花を生やした。


 侍は何人か動けなくしているため、木人擬きが戻ってくるまでの間ならこうして休むことも可能だろう。自分で動かず成果だけを得る。うむ、ラスボスが手駒を増やす理由が何となく理解できる。



 ドーンッ!! と何か固いものを破壊する音が響いた。


 

「……不安しかねぇ」







 ◇






『トゥリッ!』


 あの破壊音から少しして、音の響いた方から一体の木人擬きが報告しに来た。何でも、城の地下に続く穴を見つけたらしい。ジェスチャーで教えてくれた。

 これ、ススキの効果なかったら何言ってるのか全く分からなかったぞ。


 案内されたのは城の裏手。先ほどいた場所から階段を二つほど降りた場所だった。二段ではないぞ。


「これか」

『トゥー!』


 作った木人擬き全てが集合して指をさしたのは壇上に積まれていた石垣の一部。そこには子供なら通れそうな細い穴が開いていた。どうやらこれが城内部の地下にまで続く秘密の抜け穴らしい。

 緊急時に子供だけでも逃がす穴か?


『トゥリィー!』

「早くいけってか? おいおい、俺がこんな穴を通れるわけねぇだろ。もっと大きい穴を見つけてくれ」


 ほれ、と穴を通ろうとしてみるが腕が一本入るくらいで胴までは入らない。

 その様子を見た木人擬きたちはトゥリー? と一斉に頭の部分を傾げると、すぐさま何かを思いついたのか行動を開始する。


 何体かが俺を穴からどかすと、一体が穴の前に陣取って「トゥリーーー!!」と腕らしき枝を上げて合図を出した。

 するとそれを見ていた他の個体が合図を機に、その一体に駆け寄ったかと思えば腕(枝)や脚(枝)を複雑に絡まらせていく。

 

 そして最後の一体が合体を終えると、そこには巨大な木の腕がゴウンゴウンと唸りを上げて体(腕(木))をしならせていた。


「合体とか、え、なに君たち戦隊なの?」

『トゥゥリィィイイイィイィィィ!!!』


 俺の言葉に返事を返さず、木の腕が後方へ勢いよくしなると、その反動で腕が引き絞った弓から射出された矢のような勢いで石垣に叩きつけられた。

 

 ドガンッ!!! というすさまじい破壊音が辺りに響く。ついでに、俺めがけて石の破片が飛んできたので慌てて巨花の壁を築いて防いだ。

 俺の頭と同じくらいの石とか飛んできてるんだけど? 何、次はマリーゴールド使わないとか思ったこと怒ってるの?

 

 また使わなきゃ(恐怖)


『トゥリィイ!』

「あ、ああ、うん。ありがとう?」

『トゥリッ!』


 いつの間にか元に戻っていた木人擬きたちは呆然としていた俺の側までやってくると、行くぞ行くぞと言いたげな様子で俺を広げた穴まで連れていく。

 城全体が壊れないかという心配もあったが、その様子もなさそうなのでとりあえずは一安心である。


「真っ暗だな。あと、高い」


 念のためにと覗いてみれば、穴の向こう側には光源がなく何も見えていない状態。手元にあった石垣の小さな破片を落としてみれば少しばかり高さがあることも分かった。

 

 花でも咲かせて階段でも作ろうかと考えていると、後ろからのぞき込んでいた木人擬きたちが先に降りて行ってしまう。

 光に関する花言葉で何かあったかと考えていると、目の前でトゥリッ、と木人擬きが声を上げた。


 何だと見てみれば、なんと彼らは自身の体を使って階段を作ってくれたようだった。



「何というか、変なところは気が利くのな」

『トゥリッ?』


 どうせなら、あんな音立てたりとか石垣の破壊とかももう少しやり方を自重してほしかった。


「ま、ありがとな」

『? トゥ!』


 

 木人擬きたちが己で作った階段を下りていく。

 さぁ、これで内部への侵入も完了だ。



 待ってろよ、忍者男。


二次審査通りました! ありがとうございます

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