71:潜入
就活やら研究室の用事で投稿が遅れてしまいました。
和尚のリアルの都合上、投稿が遅れることが多々あると思います。
書きたいのに書けないのが悔しいです
見えない結界を越え、都への侵入は完了。鳥居が他のものよりもかなり高いため、いつもよりも花を伸ばさなければならなかったができないことはない。俺が怖がらなければいいだけの話だし、あの男に受けた分を返すためならばこれくらいどうということはない。
雲がないことだけが気がかりであったが、ないものは仕方ない。たとえ見られたとしても、それが見間違いだったのでは? と思わせるほどの速度で結界を越えればいい。
「……もう二度とやりたくはねぇがな」
すさまじい速度で上下の動きを、それも体全体で行ったせいなのか、視界は揺れているわ頭は鈍痛がするわ、おまけに足も震えるわで絶好調には程遠い状態だ。だが壁越えに使った巨花を見ており、それを確認しに向かってくるやつがいないとも限らない。そのためこの場所から一刻も早く移動する必要がある。
とりあえずこのままのコンディションでは問題があるため、いつも通りリアの実を実らせてそれを食した俺は、偽装用のホオズキを体に咲かせて巻きつかせると人が通りそうにない狭い路地に身を隠したのだった。
身を隠して暫くすると、案の定警備兵らしき侍たちがやって来た。が、彼らは暫くその場を捜索しただけでろくに人を探すような様子を見せなかった。人に言われてきてみたわいいが、信じていないということなのだろう。
まぁしかし、俺にとってはありがたいことなので特には気にしない。君たちは立派で熱心な警備兵ですよっと。
少しの間人が通らないことを確認した俺は、ゆっくりとした動作で路地から出る。クローバーとロウバイによる導きで、感覚的にではあるがあの男がこの都の中心部に近いところにいることはわかっている。すぐにでも行動に移したいのだが、体力が戻っているとはいえ、精神的な疲労はどうしようもない。
だが、こんな時間から宿を訪ねるのも難しい話だ。できないことはないかもしれないが、確実に周りの者達の印象に残ってしまうだろう。それが壁越えを見た奴なら変に結びつける可能性もある。
そのため、今晩に限っては野宿するしかないのだ。街の中で野宿というのもおかしな話だが花をフルに使えばできない話でもない。
「問題は場所だな」
朝になっても人の目に着かない場所を選ぶ必要がある。どうしたものかと考えていた俺の目に映ったのは都の街の中に植えられた植物群。その中にはそこそこの木も植えられていた。
朝になり、日の出とともに目を覚ました俺は、体を木の幹に固定するために巻き付けていたホオズキの拘束を緩めて体を伸ばす。
多少パキパキと体から音がしたが問題はない。朝の目覚め、リアの実があれば何でも解決なのである(精神的なもの以外)。
警備の獣人や街の住民などの姿がないことを確認した俺はすぐさま木から降りると何食わぬ顔をして都の中心に向けて歩き出した。腕に咲かせたのはクローバーとロウバイ。その反応と感覚を頼りに、俺は木造住宅が並び立つ街を歩く。
話に聞く江戸のような街並みみたいだなと考えながら、時折遭遇する警備の獣人をうまくやり過ごすこと数回。
木造住宅が並び立っていた場所から一変して、今度は武家屋敷が点在する場所に出てきた。
都の中心に近いほど住む者の位が高くなっているのだろうか。
もうすでに人が起きだす時刻だからか、徐々にではあるが後方の平民街から活気が感じ取れるようになってきた。加えて、俺がこれから進むことになるこの屋敷の領域では平民街よりも警備が厳重なようである。現に、二人一組で行動する者と遭遇する頻度が高くなっていた。
「しっかし、まるで城下町だよな。あんな城があると」
物陰に隠れながら見上げた先には、天高くそびえたった白亜の城。洗濯洗剤もびっくりの白さである。壁だけが白いならともかく、屋根の瓦らしきものまで白いとはどういう趣味をしているのだろうか。日の当たりようによっては眩しくて見えないぞ。
「普通なら、この街の……いや、中心都市だから国で一番偉いやつが住んでいるんだろうな」
確か、巫女とかいうのだ。ただ、精霊王の話では次の巫女を決める云々でいろいろとややこしいらしい。俺からすればそうですかとしか思えないが、どうか俺の邪魔だけはしないでもらいたい。
「さてさて、反応はっと……ん?」
十何組目かの警備の目を欺いた後、あの男のい場所を確認した俺はその反応にふと首を傾げたのだった。
「……面倒臭ぇ。あの野郎移動してやがる」
それも都の中心。すなわちあの城に向かって、である。
もともとの位置はもう少し進んだ場所にあるはずの屋敷だった。そのため、また夜になるのを待って奇襲を仕掛けるつもりだったのだが、予定が狂ってしまった。
ただ、修正自体は可能な範囲である。
「今度は必ず、捕えてやるぞ」
俺の気持ちに呼応するかのように、手に咲かせた花が不気味にうねるのだった。
◇
「……」
ミナヅキ家のとある部屋。上質な畳に、備え付けられた家具は最上級の木材を利用したもので部屋の装飾も質素ながら凝ったものが飾られている。
美しい景観の部屋はきっと誰もが感嘆の声を上げ、是非とも住んでみたいと言葉にすることだろう。
しかし、そんな部屋に居ながらも寂し気な様子で外を眺める少女が一人。
サクラ・カヅキ
先代巫女の実の娘にして、次代の巫女の最有力候補。真っ白な髪や赤い目は母親譲りであり、民を想うその心はまさしく巫女、と言ってもいいだろう。
しかし彼女が巫女となることはないだろう。
何せ、今日がその巫女を決める大事な儀式の日だ。にも関わらず、彼女は部屋から出ようとはしない。
正確には出ることが叶わないのだ。
あの日、アズサに捕らえられてから彼女はこの部屋から出ることが不可能になった。世話係という監視役に加えて、ミナヅキ家の暗部の者も己の知らぬところから見張りを続けている。前回のように運よく逃げることはできないだろう。
「母様……」
思い出の中で微笑む母の姿。
もう二度と見ることが叶わないその姿を瞼の裏に思い描いた彼女は、その母の後を継ぐことができないという事実に顔を俯かせた。
「カオルさん……」
そして同時に、こんな自分が巫女になれるはずがないのだと己の過ちに声を震わせた。
突然現れた異国人の青年。何故こんなところにとは思ったが、この青年についていけば追手を退けつつ都に戻ることができるかもしれない。
そんな浅はかで愚かな選択をした結果がこれである。
何も知らない青年は殺され、自分は捕まって巫女になることは叶わない。
自分の行動によって、異国人とはいえ人を死なせてしまったのだ。殺されても文句は言えない行いだ。
ごめんなさい、と何度も何度も、涙を流しながらつぶやく少女。しかし、そんな彼女の懺悔は突如開かれた扉によって妨げられることになった。
「ほぉ? ほぉほぉほぉ! まさか一番初めの部屋で引き当てるとは。ふむ、私も運がいい。これも普段の行いがよいからこそ、なのでしょう」
「だ、誰ですか……」
現れたのは黒いローブを身に纏った男。
彼は部屋に踏み入って早々にサクラを見つけると、不気味に口角を上げながるのだった。
「ふむ、私をご存知ではない、と? まったく、これだから劣等種は困るというもの。ま、そんなことはどうでもいいのです。大事なのはこのリットマン・ハーバルがあなたを見つけたという事実のみ! それ以外に大事なことなどありませんでしょう」
男の奇妙で不気味な話し方にヒッと短い悲鳴をあげたサクラは、何とかここから出ようと唯一の扉に目をやった。
扉の外、その床が赤く染まっていた。
「あ、あなた、外にいた人はどうしたのですか」
「殺しましたが?」
サクラの問いに当然のように答えたリットマンと名乗った男。一番聞きたくなかったその答えに、サクラの体は恐怖で固まった。
「愚かにも、劣等種がこの私に刃を向けたのです。当然の事でしょう。むしろ、この私の手で死ぬことができたことに感謝するべきでしょう! もう一匹いましたが、まぁ殺したのでどうでもいいですがね。しかし今日を狙ったのは本当に正解でした。まさか予想通りに事が運ぶとは所詮劣等種は劣等種。頭に筋肉でも詰まっているのでしょうか?」
やれやれといった様子で肩をすくめたリットマン。
「……私も殺すつもりですか」
「そうしたいところなのですがねぇ。こちらにも色々とあるのでできないのですよ。あぁ、嘆かわしい! だが仕方ない。というわけで」
リットマンが懐から取り出したのは淡い紫色の液体が入った小瓶を掲げて不気味に笑うのだった。




