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64:精霊

 俺とシロの目の前で、数多くの木人たちに囲まれる謎の老人。

 だが、その見た目とはかけ離れた存在感は、確実に人ではないことが理解できる。隠そうとしているならともかく、こうも明らかにされていれば流石に俺でも気づくだろう。

 まぁそれも、じいさんという存在を知っているからこそではあるが。


「そのあなたの子供に連れてこられたんですが、いったい何の用があって私たちは連れてこられたんでしょうか?」


 一応言葉遣いだけでも失礼がないように正しておく。

 じいさんに対しての口調は、じいさんが気にしないと許可をしてくれたからこそのものだ。じいさんのような人間よりも格が上の存在の中には気に入らないってやつもいるらしいので、下手な態度でいきなり襲われでもすれば被害を受けるのはこちら側になるのだ。


 もっとも、二人目に会うとは考えてもいなかったわけだが。


『さぁ、それはワイにもわからんからなぁ……』

「……そうですか」


『ただ、見ればわかる。多分やけど一目で気に入られたんやろうな。加護持ち……それも地竜なら不思議やないからな。近づくだけで安心感があるんやろ』


 うんうんと頷くようにしてこちらを見る老人。だが俺は、その老人の言葉の中に出てきた聞きなれない単語が気になった。


「加護持ち?」

『なんや、知らんのかいな』


 俺の問いかけに、老人は驚いたような仕草を見せる。しかし、それでも知らないものは知らないのだから仕方がない。

 老人の言葉に肯定の意を示す。


『まぁ立ち話もなんやし、ついて()ぃや』


 老人はそう言って踵を返すと、大木の根本、根っこが重なり合ってできた穴の中へと入っていった。


 言われた通り俺たちもそれに続いて中に入る。少しばかり頭を下げる必要があったが、入り口の大きさに反して中はかなり広いドーム状の空間になっていた。老人は、そんな広い空間の中心に据えられた小さなテーブルを前に胡坐(あぐら)をかいていた。


 それに倣って俺も座ると、フードの中にいたシロは飛び降りて俺の隣に陣取った。包まって寝ることもなく、お行儀よく座っているところを見るに、敬意を払わなければならない相手だとわかっているのだろうか。


『まぁ気になるやろうから、先に名乗っとくで。ワイは、この大木の精霊ってやつや。名前はないから、どう呼んでも構わんで』

「カオル・ハナフジ……いや、花富士薫です。今は休暇目的でこの国にきています。あと、この隣の白狐がシロです」


 軽く会釈をすると、シロもそれに倣って頭を下げた。

 精霊だと名乗った老人は、その様子を興味深そうにみると、小さい声で「おもろいことになっとるなぁ」と呟いた。何の話か気になるが、大方シロの見た目が珍しいとか、そんな話だろうと考えて無視しておく。


『それにしても、や。何か変な術で誤魔化してると思ったら、あんた別大陸の人間かいな。ようこんなところまで来はったなぁ』


「来た、というよりもここに飛ばされた、という表現の方が正確ですね。この場所に来たこと自体は私が決めたことではなかったので。あと、見た目を変えていることはわかるんですね」


 無駄なことであるならば、魔法を維持する必要はないだろうと、俺は体に巻き付けていたホオズキを消した。まぁここから出るときにでもまた咲かせればいい。


『何や、変わった魔法やな。長生きしてきたけど、そないな魔法は見たことないで』

「でしょうね。じいさ……地竜様にも言われました」

『お、何や加護持ってるかと思ったらあいつと知り合いかいな。ということはあいつが一方的に見つけて与えたわけやないんやな。珍しいこともあるもんやな』


 遠い目をしながらあらぬ方向へと視線を向けている精霊の老人。

 今の言動からすると、じいさんとこの老人はどうやら知り合いであるらしく、少しばかり関係性を問うてみればお互い大昔にドンパチやっていたそうな。


 ……いや、物騒なんだけど


『まぁ、今はもう落ち着いてるんやけどな。あん時は若かったからなぁ、ワイらも』

「……」

『無言は悲しいから、何か言うてぇな』

「いや、見た目に反してよく話すんだな、と」


 寡黙そうな老人に見えるのだが、いざ話を聞いていればその様はまるで若い関西人を彷彿とさせるものである。

 俺の言葉にそうかぁ? と首を傾げる精霊の老人であったが、それ以降特に気にすることなく本題に入った。

 すなわち、『加護』についてである。


『さっきから言うてるからわかるやろうけど、あんたの場合は【地竜の加護】のことやね。属性竜はわかってるか?』


 出てきた単語に首を傾げた。

 俺がアリエリスト家に住み着いた頃、海藻類と決闘になったときにクェルがそんなことを言っていた気がする。


「確か……世界に認められた人化可能な竜、だったか?」

『まぁそれでもええんやけども、正確には世界に戦力として認められた竜のことやな。世界が危機に瀕した際の防衛機能となる存在、と言ってもええ』


 ……なんか、話が一気に壮絶なものになっているんだが。


『ようは強い竜ってことやな』

「なるほど、それでいいなら納得です」


 やろ? と親指を立てる精霊に頷き返せば、俺の隣にいたシロは呆れたように俺を見上げているのだった。

 だが今考えるような問題でないのなら、それは俺が考える必要はないといえるだろう。というか、そんな聞いただけでも面倒なのがまるわかりな問題に誰が首を突っ込むか。世界がどうとか重すぎるだろ。


『でや、そんな存在に認められ、有事の際には人としてその役割を受け持つ。それが加護持ちやな。言ってしまえば、属性竜の代理人や』

「え」

『すごいことやねんで? 加護を持てるんは各属性竜につき一人だけや。その分、加護持ちになった人間の能力が強化されるんや』

「……え」


 ダイリニン? ユウジの際の?

 何で俺が知らないうちにそんな面倒臭い事に巻き込まれているんでしょうか?


「……ワタシ、カゴモチ、チガウネ」

『何言うてんのや。その首の紋章、あの地竜のもんやろうに』


 ほれ、ここのや、と精霊の老人は自身の首の付け根辺りを指さした。

 慌てて確認しようとしたが、位置的にどうやっても俺からは見えない部分にあるので、シロに確認してもらう。

 やがて、老人の言ったような紋があったのだろう。シロは小さくコンッ、と鳴くとその前足を精霊の老人が示した部分と同じところに置いたのだった。


「……あのじじい絶対ぶっ〇すッ……!!!」

『おー怖っ。思わず規制かけてもうたやないか。にしても、まさか自覚がなかったとはなぁ。目ぇつけられたってことで諦めぇや』


 そう老人は朗らかに笑って顎肘をついた。


「……はぁっ。じいさん、地竜様の件についてはまた戻ってから改めて問いただすことにします」

『無駄な気ぃするけどなぁ。それと、今の口調から察するに、普段はあの地竜相手にもっと砕けてるんやろ? ワイに対しても同じように話してええねんで?』

「わかりました。あのじじいぶっ殺す!!」

『規制かける暇なかったわ』


 苦笑いを零す精霊の老人に、俺の言動を聞いてから腰の部分を尾で叩き続けるシロ。とりあえず口に出したことで幾分か落ち着いたので話を続ける。

 

「まぁ、加護についての何やかんやはもういいです。で? それが何であの木の子供に連れてこられる理由になるんだ?」

『そりゃあの子らが木の精の子供やからやろ? 土と木との関係はかなり密接やからな。世界にも認められた土の竜、その加護やねんやから懐かれるのも当然と言えば当然やろうに』

「……そんな竜とドンパチやってたんだよな?」

『昔な。ほら、偉そうにされんのなんか嫌やったし』


 そう言って昔の事でも思い返しているのか、目の前の精霊は天井を見上げてあの頃は~なんて呟きだした。

 それをよそにして、俺は今後のことも考える。


「とりあえず、帰ったらじいさんを殴ることは決定か。……殴れるかはわからんが」

 

 それもこの国から帰れるまで待たなくてはならないがな。恐らくだが、あと半月もないくらいで一か月が経つのではないだろうか。

 ……ふむ、それまでここにいるというのもありなのではないだろうか?


「精霊のじいさんよ、一つ頼みがある」

『それでなぁ~……ん? どうしたんや?』


 俺の言葉に現実へと戻ってきた精霊のじいさんに、頼みとして暫くここに滞在させてくれるように許可を求めた。

 とりあえず、その理由としてここに来た経緯や、俺が異国人であるために跡を追われていることなどを詳しく話していく。

 途中途中で、何故か俺ではなくシロを見ていた彼であったが、やがて話を終えた俺に対して帰ってきたのは以下の一言。


『ワイはそれでもええんやけど、ちょっと難しいなぁ』

「難しい?」


 よくわからないその言葉に疑問を持つと、せや、と一言呟いて精霊のじいさんは俺とシロのことを同時に指さしたのだった。


『まぁここに来る途中で気づいたかわからんけど、この空間はちょっと特殊でな。普通は人が立ち入られへんようにできてんのや。もちろん、魔物とかもな』

「? けど、俺とシロはここに来ているぞ?」

『それはあの子らとワイが許可してるからやな。けどな、その許可も長く続かん。この空間に張ってある結界は世界そのものが構築した特殊なもんで、ワイにはどないもできひんのや。まぁそういうことで、ここでの長期滞在は不可能ってことやな』


 すまんな、と言葉を零す精霊のじいさんに、俺はそうですかと一言だけ返すことしかできなかった。

 この大木の精霊と名乗った目の前の老人は、世界とやらが張った特別な結界の中の主となのだろう。あった瞬間からじいさんに似たものを感じ取ってはいたが、昔のじいさんとドンパチやっていたり、世界がどうやらということを知っていたりと、只者ではないことは容易にわかる。


『なんや、ワイのことがもっと知りたいって顔しとるな』

「してません」

『精霊やねん、ある程度の心は読めるわなめんなボケ』


 何でこんな見た目は人のよさそうな好々爺なのに、こんな感じになってしまったのだろうか。

 そんな俺の心の内を知ってか知らずか、目の前のじいさんは目の前にあったテーブルに片足を乗っけて改めて名乗るのだった。


『今度はちゃんと名乗らせてもらうから、よぅく覚えっていってや! ワイはこの国の山の守り神にして、世界からこの世界の森の管理を任されとる精霊、その生みの親でもある精霊王や! よろしくなぁ』


 ババーンと効果音でも付きそうな自己紹介であったが、いつのまに移動していたのか、木人たちが精霊王を名乗った老人の後ろで何かしらのポーズを決めていた。


 おうち、帰りたいです

 

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