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62:どうしてこうなった(白目)

遅くなりましたがあけましておめでとうございます。今度から更新が遅れることが多くなるかもしれませんが、よろしくお願いいたします

 翌朝、目を覚ました俺はできる限りの速度で身支度を整えるとシロをいつもの定位置に押し込んでから森の中を進んでいく。

 逃げるついでに自由を満喫しに来たつもりだったのに、どうしてこんなことになっているのか。それを考えるだけで何故か涙がこぼれそうな気分になってくるが、とりあえず今は何を言っても仕方ないので黙って歩く。ここで愚痴を言っても、聞いてくれるのは理解するだけで同意はしてくれそうにない獣が一匹のみ。



「……こっちであってそうだな」


 ちょうどよく見つかった年輪で進行方向である東の向きを確認しながら森を進む。整備された道に出ることも考えたが、都方面で待ち構えている可能性も否定はできない。そのため、森を隠れ蓑にしてそのまま一気に都の結界を超える方がまだ安全面が期待できるだろう。幸い、俺は長い間森の中でも平気な男だ。


 それにいざここまで追手が来ることになったとしても迎撃が容易い。火の海にでもされない限り、俺が森の中で不利になることはまず考えなくてもいいだろう。

  もっとも、戦闘に入る時点で面倒なことこの上ないのだが。



「……ッ!」

「ん? どうした、シロ」


 不意にフードの中のシロが前方に意識を向けた。

 何かを見つけたのか、あるいは人でもいたのかはわからないが、とりあえず用心することにしてシロが視線を向ける前方を大きく迂回するようにして進んだ。


 少しすると、今まで静かだった森がザワザワと騒がしくなった。


 とりあえず体を隠せそうな木に背を合わせながら騒がしくなったほうを見やる。すると、そこにはにわかに信じられない光景が移ったのだった。


「何だあれは」


 恐らく、初見でこれを見れば誰でもそんな言葉が口に出ることだろう。

 やってきたのは、木。そう、あの()だ。今も俺が身を隠している、植物の。詳細を述べるなら、俺の腰ほどまでしかない、『大』の字の各頂点に葉の塊を付けたような低木。それがまるで幼い子供のように列を成して行進しているのだ。意味が分からん。



 流石ファンタジー。たまに俺の理解できる範疇をやすやすとぶっ飛んだほうに超えてくる。


「キュ?」

「あ」


 そんな考え事をしていると、ふと、行進中だった一体の木がこちらを向いた。目は何処にあるんだとか、発声機能あるのかとか、意外にもかわいい声をだすじゃんとか、色々とツッコミたいことはあったのだが、それら諸々を飲み込んで俺はどうもと会釈をする。


 今の俺の顔はすごくひきつっているはずなのだが、意外にもその目?があった木はキュ、と鳴いてからお辞儀をするのだった。

 

 あら、意外と話が通じたりする()だったりしますか?



「キューー!!」

『キューーー!!!』


「ですよねぇ!?」


 お辞儀を返した木の号令染みた鳴き声を合図に、他の列を成していた木たちが俺に向けて一斉に駆けだした。

 第三者から見れば、すごくコミカルに見えるだろう。実際、俺だったら笑っている。が、こういうのは当事者になって初めてその恐怖が理解できるのだ。


 想像してみろ、顔もない『大』の字状の木の大群が人と全く同じ動きで迫ってくる光景を。その光景はまるで夜の館に現れ追ってくる大量の西洋人形の如く。


 いつの間に俺のフードから飛び出ていたのか、シロの奴は獣特有の敏捷を生かして俺の遥か先を行っていた。俺もアリーネさんという人の皮を被った怪物にしごかれたり、リアの実を摂取したりで身体能力も向上しているはずなのだが、何故追いつけないのか。あれか、あいつにもリアの実食わしたからか。


 捕まえたら絶対盾にしてやる。


 チラリと後ろを確認してみれば、追ってきていたはずの木の大群の姿はなかった。数は多いが所詮は木。俺の足には到底及ばなかったのだろう。これで追いつかれてたら泣くぞ。主に今までの鍛えさせられたことに対して。


 シロが戻ってきたのか、俺のズボンの裾をクイクイと引っ張ってくる。

 危機を脱したからまた俺のフードにでも戻る気なのだろう。しかし、あの状況で俺を置いていったことに対して俺はまだ怒っているのだ。


 とりあえず、首根っこをつかんでアームロックをかけてやることで許してやろう。動物虐待?知るか、ここは異世界だ。


「コン?」


 ホレホレと締める腕に軽く力を込めていると、目の前でシロが鳴いた。

 何やってんだおめー、みたいな目でこちらを見ている。



「はぁ? 俺を置いて先に逃げ……」


 ……


 あれ? 何でこいつ目の前にいるの?


 思わず視線を腕の中に戻す。すると、そこにあったのは葉っぱの塊だったようで、バタバタと蠢いていた。


 ……胴体ほっそいなーとか思ってたけども、そりゃそうだ。だって木なんだもの。


「キュー?」


 相変わらず顔なんてどこにも見当たらないのだが、そいつは顔(らしき部分)を上げると、見下ろしていた俺の方を向いた(ような気がした)。

 そして首?を傾げるとともに例のかわいらしい鳴き声を上げる。


「や、やぁ? さっき……ぶり、なのかなー……」


「キューーー!!」

『キューー!!!』


 辺り一面から響いた同じような鳴き声とともに、今までどこに隠れていたのか大量の動く木が俺にとびかかってくる。


「……ハハッ」


 とりあえず一言。

 どうしてこうなった。







 どうしてこうなった(二回目)


 俺の目の前に並んだ数々の瑞々しい果物を口にしながら、俺はもう一度こうなった経緯について考えていた。

 しかし何度考えても出てくる答えはなく、結果同じ答えに行きつくのだ。


 もう一度言おう


 どうしてこうなった(三回目)


 隣で果物に齧り付いているシロに目をやるが、こいつは思うところでもあるのか、しきりに俺に目を向けている。その目は、お前名に押したんだと問いかけているようにも感じられた。


 俺が知るかよ、と言い聞かせてやりたい。


「キュ」


 そんな俺の元へ一本の木が寄ってくると、鳴き声とともに何かを差し出してきた。 

 見ればそれは器のような何か。形が歪で平らな場所に置いたとしても倒れそうな代物。


 そんな中には水だろうか? 何かの液体が入っていた。


「こ、これを飲め、と?」


 俺の質問に木は何かを答えるわけでもなく、ただそこにじっとしているだけだった。その様子だけを見れば少々変な形の木があるようにしか見えないのだから、更に不気味にも感じる。


 シロに毒見でもさせようと思って視線を送ったが、奴はそれに気づいたようで、俺と距離を取った場所に座り込んだ。


「キュ」

「……ええい、ままよ!」


 例え毒が入っていたとしても、その毒素を元にして俺の体から花を咲かせれば大丈夫なはず。いざとなればリアの実で回復すればいいだろう。


 少しばかりとろみのあるその液体を一杯煽り、口に含んだ。

 するとどうだろうか。

 甘いながらもどこかさっぱりとした不思議な味が、俺の味覚と嗅覚を突き抜けていく。更には液体が俺の喉を流れ落ちていく際にはフワリとした花の香りが口の中に広がっていた。


 なにこれめっちゃうまいんだけど。


 今度は飲み干すようにして器を煽ると、何がうれしいのか、木はキュッキュと鳴きながらその場で小躍りを始めていた。


『キュッキュッキュ!』


 あ、ごめん訂正。ここにいる木全員で踊ってた。

 はっきり言って怖いです。ほら、シロの奴も何が何だかわからなくて震えてんじゃんざまあみろ。


「プハッ! ……あー、おいしかったよ」


 少々とろみがあるので一気飲みはやりづらかったが、それでもこれは十分にうまかった。度数の強い酒をこれで割って飲んでもたぶんおいしいっと思う。


 空になった器を受け取った木は、小躍りを続けたままその場から退いて行った。

 

 そしてまだまだ続きそうな鳴き声の合唱と踊り。その様はまるでミュージカル。つまりは訳が分からない(カオス)



 もう一度言おう。


 どうしてこうなった(四回目)


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