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花を咲かせる魔法使いはとりあえず楽をしたい  作者: 岳鳥翁
アリエリスト領と花の魔法使い
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6:決意してみたけど、無理なものは無理

 青林檎と飴玉で許してくれたでござる。


 脚が六本あるだけあって、しーちゃんの速度はかなりのものだった。二本足の俺が勝てるはずがない。加えて、面倒だからと普段から運動なんてしないのだから尚更だろう。俺が追いかけていることに気づいてしーちゃんが止まってくれなければ、今頃この迷宮のような巣の中で野たれ死んでいたに違いない。

 さて、許してもらえたのはいいが、なれない運動でかなり体力を消耗した。身体能力は一般人以上であるが、だからといってしーちゃんの速度に追いつけるはずもなかった。おかげさまで俺の部屋まで戻るのも億劫になるが、部屋にはじいさんを残してきているので待たせるわけにはいかない。


 ……やっぱり疲れるからゆっくり行こう。


 足を止めると、俺は額から流れていた汗を服の袖で拭う。

 ちなみにではあるが、今着ている服もじいさんが持ってきてくれたものだ。

 話によれば、じいさんの保有する宝の中にあったものらしい。お宝レベルの装備とか正直気が引けるのだが、転生初日にしていた上下のスウェットは出来るだけ大切に使っていたものの着れるものではなくなっていた。

 そのためありがたく受け取ったのだが、性能がヤバイ。勝手に俺のサイズに変わったり、いつの間にか汚れが消えてたり、ほつれとか穴が直ってたり。

 あと、その上から着ている深緑のローブであるが、これもなんか色々効果がついているらしい。

 いや、じいさんが詳しく知らないんだから俺が知るわけないでしょうに。曰く、お宝の中にあったやつ、とのこと。


 閑話休題


 通路の壁に寄りかかるようにして座り込む。巣の中はどこも似たような作りなので、気を抜くと迷いそうになる。が、巣ができた当初からすんでいる俺にとっては我が家も同然。よくしーちゃんに巣の案内とかしてもらっているのである程度は分かる。それでもある程度なのだから、この巣がどれほどのものなのかわかってもらえるだろう。


 体力の回復を待つ間、ちょうどいいとろにしーちゃんとは別のジャイアントアントが近くを通りかかったので、彼女に部屋まで運んでもらった。


 出来るならば、移動するときは常にこうやって運んでもらいたい。楽だし。


 流石にじいさんと直接の御対面は彼女に悪いので、部屋の近くで下ろしてもらう。ありがとう、と感謝の言葉を伝えると、彼女は何の反応もなく仕事に戻っていった。


 改めて思うが、しーちゃんとの反応が全然違うな。こう、なんというか、リアクションが違うのだ。しーちゃん、もしかしてワーカーよりも上の個体だったりするのかな?



 まぁいい。それもいつかわかるだろう。


 「じいさん、悪い。遅く……って、もう帰ったのか」


 俺が咲かせた椅子に、もうその姿はなかった。仕方ないので椅子用に咲かせた花は邪魔なので消しておく。

 帰るなら帰るで一言言ってくれればいいのだが、強者であるじいさんにそんなことを言っても無駄である。今までそうやって好きに生きてきたんだろうし、これからもそうなのだろう。

 どうりで運んでくれたジャイアントアントが普通に部屋に近づいてくれたわけだ。



 さて、結局じいさんが何しに来たのかはわからなかったわけだが、帰ったのならそれでよし。こちらもこちらでやることはあるのだ。

 なのでニートではない。ニートとヒモは違うのだ。

 違うったら違う。



 ジャイアントアント以外の移動手段も欲しいなぁと思いつつもまた外に出る。

 巣は当然のことながら地下にあるので、外に出ると日差しがまぶしい。朝も出たが、すでに陽は高くなっており先程よりも明るい。

 そして暑い。


 「うへぇ……暑い。『咲け』」


 イメージはわりと適当。取り敢えずは向日葵。それを更に巨大にし、青林檎の畑まで日陰が続くように咲かせた。

 余談ではあるが、向日葵の花言葉は『あなただけを見つめる』『愛慕』とかだ。テストにはでない。


 一瞬で畑まで列のようになって咲いた巨大向日葵。その下の日陰を進んで行くと朝にも来た畑に辿り着く。

 ノコンギクで囲まれた畑に入り、丁寧に収穫していく。その数二つ。

 何度もここに来るのは面倒なので、本当は朝のうちに一気に収穫したいのだが、如何せん、この青林檎は足がとてつもなく早い。新たに与えられた性質の変化で腐らないように調整もできるのだが、何故か味が格段に落ちるからやっていない。そのために使う度にここに来なければならないのだ。


 さて、これをどうするのかという話なのだが、物々交換に使うのである。


 「予定じゃそろそろなんだが……」


 まだかと思い、いつも彼らが飛んでくる方向を眺める。が、どうやらその行動は無駄だったようで、頭上からブブッ、という羽音が聞こえた。

 どうやら、俺が来る前から来ていたらしい。


 「もう来てたのか。じゃあこれ、約束のものな」


 畑の天井にしている植物。そこにいたのは小型犬程はあろう蜜蜂の姿が三匹。

 ハニービーと呼ばれる魔物らしいが、俺にとってはよい関係を気づいているお隣さんだ。元不毛の地を挟んだ森の中というかなり離れた場所であるが。


 はいこれ、と手にしていた青林檎を渡すと、彼らのうちの二匹が潰さぬように鋭い大顎で挟んだ。

 すると、残った一匹が丸く蓋のついた歪な木鉢を抱えて俺の下に降りてくる。

 その木鉢を受け取って中身を見れば、そこにはいつも通りなみなみと入った蜂蜜。木鉢は両手で持たないときつい大きさなのでかなりの量だ。


 「ん、確かに。それじゃ、運搬は任せる」


 俺の言葉を理解したのかはわからないが、ブブッと羽をならしたハニービーたちは主の待つ巣へと戻っていく。


 俺はその様子を見届けると、木鉢を一度地面に置いて座り込んだ。重いのである。


 この蜂蜜は、飴玉を作るのに使ったり、しーちゃんが持ってきてくれる果物にかけたりと色々と便利なのだ。あのじいさんも絶賛してくれる味なのでかなりのものなのだろう。


 こうしてハニービーたちと蜂蜜と青林檎の取引が始まったのは一年ほど前なのだが、まぁそれもいつか話すだろう。未来の俺、頑張れ!


 「……さて」


 未来の俺に説明を丸投げにし、俺は懐から金属製の笛を取り出した。

 これもじいさんコレクションである。流石じいさん。もう存在がタヌキロボットみたい。


 俺の指定した相手にしか聞こえない音を発する笛らしいが、軽く吹くだけも効果があるのだから素晴らしい。こんな広い元不毛の地だと笛をおもいっきり鳴らすのってけっこう大変だから大助かりだ。


 ピーッという音が元不毛の地…言いづらいから花園に変更しようか。花園に響き渡る。

 俺自身にはそれほど大きい音のようには思えないのだが、これがこの花園の端っこまで聞こえているのかと思うと不思議なものである。

 この花園、俺の魔法で花を咲かせたことは確かであるが、咲かせた後はこの土地に溜まっていた負のエネルギーとやらを栄養としている。

 どうやら俺の魔法、咲かせた花の栄養源を指定できるようでこれがなかなか便利だったりする。俺の魔力を指定した場合だと咲いている間魔力を使用するが、すぐに消せるメリットがある。この向日葵もそうだ。花園の負のエネルギーはあと数百年経っても吸いきれない計算なのでここらの花が枯れることはないだろう。


 やっぱり、異世界だなぁ、と今更ながら考えていると、近くにいたのか花の影からニュッと頭を出してこちらを見つめる影が一匹。

 黒いカマキリである。それも成人男性くらいありそうな大きさの。


 「ああ、君が一番のりか。こっちにおいで」

 『ギギッ』

 

 大顎を鳴らした彼女は俺の言葉を聞くとのそのそとこちらへと寄ってくる。

 座り込んでいるため、巨大な彼女が寄ってくるのは迫力が凄い。多分、苦手な人なら気絶するレベル。まぁ、元々嫌いじゃなかったし、もう慣れたから問題はない。


 「ほら、味わって食べるんだぞ?」

 『ギッ!』


 まるでわかった! と言ったように反応する彼女は、俺が取りだした飴玉を大顎に挟むと、うれしそうに触角を揺らしてその場を去っていく。 

 

 それを皮切りにして、俺の下に花園の虫達が集まってくるのがいつもの恒例だ。

 青いバッタに紫色のクモ、角がドリルになったカブトムシに、何それ剣? と言いたくなるような顎のクワガタムシ。鮮やか過ぎるガや毒々しい色のチョウにセミ。ナナフシやムカデにトンボなどなど。まさに虫のバーゲンセールである。

 季節間違えてるんじゃないかと言いたくなるが、彼ら彼女らはそもそも魔物であるため、そこら辺は関係ないらしい(じいさん談)。そして明らかに捕食者被捕食者関係の虫もいるのだが、これもじいさんが言うには、俺の前ではそういった争いはしないことになっているらしい。実際、この花園ではある程度の食物連鎖が成り立っているのだとか。


 本当なのかどうか疑わしいのだが、彼ら彼女らは明らかに俺の言葉を理解している節があるので否定もできない。

 ていうか、魔物って本来は本能で動いて、人間とかも襲うって冒険者から聞いてたんだけど?


 もう集まってくる気配がないのでゆっくりと立ち上がった俺はそのままチラリと視線を青林檎の畑にやる。

 

 「原因、あれくらいしかねぇわな…」


 こりゃちょっと、本格的に知るべきなのかもしれない。

 いくらなんでも青林檎が万能すぎる。じいさんが隠すのもそういった理由からなんのだろう。


 










 「調べるの面倒だな……青林檎すげぇってわかってればそれでいいか。うん、そうだそうしよう」


 やっぱり、また今度できるときにするわ

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