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54:そうだ花見をしよう(現実逃避)

 アリストの街は外壁を通ればすぐに街の大通りに出てくるのだが、ここではあの鳥居を抜けてからも少し歩く必要があった。

 俺の場合は侵入という後ろめたい手段で入ったので、あの鳥居を抜けてきた人と会わないように森の中をそのまま進み続けた。


 下手をすれば、俺があの列に並んでいないことに気づく人がいるかもしれないからな。


 森を進む途中で色々と見たことのない植物を多く見かけた。地竜の森のあの花園の花は結局のところ全て俺が魔法で咲かせた花である。そのため、あの花園はこの世界からすれば異世界の花が咲き乱れる唯一の場所と言っていいだろう。なお、リアの実は除く。


 よくよく考えてみればあの森に三年かも住んでいたはずなのだが、俺はこの世界の花のことを全く知らない。せいぜいイス代わりにしていたあのやけに固い花くらいだろう。あとリアの実。

 これでは俺の持つ花魔法も宝の持ち腐れ状態なのではないだろうか。別に現状で不便だとは感じていないが、それでも少しもったいないように感じてくる。

 

 アリストに戻ったらそこらへんのことを勉強してみるのも悪くはないかもしれない。

 気が向けば、だけでも。


 そんな感じで見かける花々を観察しつつも足を進めていると、街らしき場所が見えてきた。上から見たときに見えた五重塔のようなものも見えるため間違いはないだろう。


 とりあえず、俺は森の中から街へ続いている道を確認する。


 いくら花言葉での偽装があるとはいえ、過信しすぎるのもよくはないだろう。風景の一部として認識させることもできるができるだけ危険なことはしたくない。

 

 そのまま少しばかり待っていれば道を行く人の影が途切れる。これ幸いと道へ出た俺は、できるだけ怪しまれないように堂々とした足取りで街へと入ったのだった。



 これで森の中での野宿、という選択肢を取らずにすむ。






「まじかよ……」


 それは俺がこの町に入ってから数時間後のことだった。


 順調に街への潜入を果たした俺は、とりあえず当初の目的であった情報収集のために動き出した。

 調べる内容はここがどこなのか、どんな国なのか、通貨などといった基本的なもの。これがわからなければ今後の行動の指針が決まらない。


 幸運なことに、俺の偽装を見破るようなやつはここではいなかったために情報収集はうまく捗っていた。これもコチョウランのおかげと考えておこう。


 ここは中州(なかしゅう)と呼ばれるヤマト大国の地域の一部らしい。流石に世界地図が見当たらなかったために国の位置までは把握はできなかった。そもそも、世界地図なんて作られているかも疑問ではあるがな。


 あとはこの国が周りを海に囲まれた海洋国家であることと、他国との貿易を制限し、侵入も許していない鎖国状態にあること。ただ、貿易は南州(みなみしゅう)と呼ばれる地域の一部でのみ許されているそうだが。

 聞いた時には何故追われていたのかを理解したさ。


 そんでもってあの時俺のことを追いかけてきた集団。あれはシャルル王国では騎士にあたる、侍と呼ばれる人々なんだそうだ。腰に下げている刀を手に、すさまじい身体能力で特攻してくるとかなんとか。


 もうここまで言えばわかるだろう。


 戦国時代の日本


 まさにこの一言に尽きる。

 侍って、刀ってまんまじゃねぇかよ。


 狭い路地裏に身をかがめた俺ははぁ、と長い溜息を吐いた。


 しかし、すべてがすべてそうというわけではないらしい。


 それがはっきりとわかるのが彼らの種族だ。


 頭に生えた獣のような耳に、臀部付近から伸びる獣のような尻尾。


 どう見ても俺のような人間に見えない彼らは、言ってみれば獣人(じゅうじん)というものなのだろう。なお、正式名称は知らん。

 だが、ファンタジーでも知られるエルフやドワーフのような普通の人とは違った特徴を持つ種族と考えたほうがいいのは確かだ。というかそういった種族に合うのは何気に初めてのことであるので少しだけ感動していたりもする。


 じいさん? あれは別。そもそも人型になれるだけで本質は別のものだ。


 そしてもう一つ。この国を治めているのが【巫女】と呼ばれる女性であるということ。日本でも卑弥呼と呼ばれる女性が邪馬台国を治めていたという話を聞いたことがある。確かあれは神様の声を聴ける存在であって、それをもとに政を行っていたとかなんとか。

 

 もう詳しいことはあまり覚えてはいないが、そんな感じだったはずだ。

 

 一概に同じとは言えないが、似たようなものだと思っておこう。


 そしてその【巫女】に関わる話であるが、このヤマト大国では次の巫女を決めるための催事が本州(ほんしゅう)(みやこ)で行われるのだとか。

 巫女は国の守り神の声を民に伝える役割を持つ重要な役職であり、国のトップである。


 そのため、国中から巫女の候補とされている少女がこの時期に都へと集まっているのだそうだ。なお、どうやってその候補から巫女を選ぶかまではわからなかったが、そのことに関しての興味はほぼないので放置。


 巫女云々に関しては頭の片隅に留めておく程度でいいだろう。とりあえず、もともとの目的であった情報収集の成果については上場といえる。我慢して苦労しただけの甲斐はあった。


 そう喜んでいたのがつい先ほど。

 

 そして悲劇は起こったのだった。



「金がねぇ……」


 情報収集も終え、大まかな予定として俺が初めに思い付いたのが本州の都へ向かうことであった。


 というのも、このままここで一か月過ごすのも楽だしそれはそれでありな提案である。しかし、この国は何故かは不明であるが昔の日本の景観が色濃く見える国だ。一つ観光するのもいいかもしれない、というのが俺の意見。


 それに偽装しているとはいえ余所者の俺がここに居続けていれば、いらぬ面倒に合うかもしれないのだ。長期間滞在するだけでリスクは高まると考えたほうがいいだろう。


 それ故に移動することでこのリスクを下げる。都を選んだのは、単純に気になるからというのもあるが一番の理由はこの国最大の都市であるからだ。

 広ければ広いほど、身を隠すにはちょうどいいだろう。おまけに都まではこの近くの街にある港から船ですぐなんだとか。行きの大半を歩かずに済むというのはそれだけで高評価に値する。


 そんなわけで、予定を決めた俺は今日一日の疲労を取るためにリアの実を摂取しつつ、今晩の宿を取ろうとしたのだった。

 

 そこで現実に気づいたのが先ほどのこと。







「食料は問題ないにしても、寝床はなぁ……」


 時を進めて、現在俺は街から離れた場所にいた。

 行く当てもなくフラフラと行き当たりばったりで歩いていたのだが、潮風や波の音が聞こえているのでここは海の近く何だろう。


「じいさんがもっと気を利かせてくれていれば……」


 俺はそう言ってソッと指に嵌められた指輪に目を落とした。


 何の金属なのかもわからない、銀にも金にも見える指輪だ。

 俺がPさんとともにアリストの街に行く際にじいさんがくれたものだが、よくよく考えてみればその存在をほぼないがしろにしていた代物である。

 まぁでも、中身の時間が止まったりするわけでもない本当にただ容量のでかい指輪型の物入といったところか。それでもすさまじいものなんだろうけど。

 

 今度から有効活用するようにしようと考えつつも、俺はじいさんがこれに金を入れたと言っていたことを思い出したのだ。

 

 まぁ、結果的にいえば使えなかったんだけどな!



 確かにアリストの街では使えたのだろう。だが、この国では全く使えない代物である。貴金属として売り払うという手もなしだ。他国の貨幣が手に入らないこの国で、見るからに貨幣であるこの金貨なぞを出してみろ。多分怪しまれる。



 それと! じいさんが入れていた金も少なすぎる気がしたんだが!? あれって、じいさんに挑むような奴らが持ってた金だろうに。何故金貨数枚なんだ。金欠? 金欠なのか? おかげで、人の金で生活する経計画の一つが完全に水の泡だ。



閑話休題



 

 そんなこんなで金のない俺は、宿をとることもできずにこうして街から出てウロウロしているわけだ。まぁ贅沢を言わなければ、そこらへんに咲かせた花をベッド代わりにもできなくはない。屋根も作れるだろう。


 たが最近屋敷で寝るようになって身としては、やはり建物の中で寝たいというのが本音だ。


 そのためには金を稼がなくてはならないのだが、その方法が全く思いつかない。俺の魔法で大道芸、というのも考えたが目立つし、何よりも俺が面倒臭い。何故そんな見世物に俺がならなくてはならないのか。



 どうしたものかと考えるうちに辺りはだんだんと夕闇に染まりつつあった。寝床の確保は急務だな、と考えた俺はそのまま空を見上げる。



 見事な満月がうっすらと見えていた。

 まだ陽が残っているために目立たないが、暗く成ればそれはそれは見事な満月を見せてくれるだろう。


 ザザァーッという波の音が大きくなる。見れば、海もすぐそこだ。まだ暖かい季節であるため、潮風にあたっても寒いとは感じなかった。むしろ、心地良いとまで感じている。


「……そうだ、花見をしよう」


 そんな言葉が口から漏れた。


感想、ブクマ、レビューなど待っています!

面白い、続きが読みたいと思われた方は是非にどうぞ! 

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