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53:侵入するけど、高いところは苦手です

 体感で三十分程歩いたような気がする。



 転生してきた時からそうであるが、俺の身体能力はあの少年天使によって底上げされているため、このようなことで疲れることはない。

 ないのだが、それでもやはり俺の性格上、どうしても面倒なものだと感じてしまうのはもう仕方のないことだといえるだろう。


 以前地竜の森まで行くのに使った巨大植物の成長を利用した移動法。できるなら使いたいところであるが、あれは目立ち過ぎる。情報収集に徹したい俺からしてみれば悪手でしかないのだ。花言葉が強化されているとはいえ、限度というものがあるだろう。無理はできない。


 

 さて、話を戻そう。

 それだけの時間を文句を言わずにひたすら歩き続けた俺である。道すがら、どう見ても俺やPさんと同じ人種には見えない商人らしき男たちも見かけたのだが、今度は逃げられることもなく済んだのでホウセンカの効果は問題ないようであった。


 そんな俺の視線の先には、馬鹿でかい鳥居のような建造物があった。

 ような、というかまんま鳥居なのだが、その大きさ故どうしても日本にあった鳥居とは別物のように感じる。

 いったい、日本のどこに百メートル以上ありそうな鳥居があるというのだろうか。


 あのでかさなら、距離さえとれば森の向こう側にあってもしっかり視認することもできるだろう。


 ホヘェ、と鳥居を見上げながら道を行く。鳥居は見えても、残念なことにまだ街らしきものは見えていないのだ。

 まぁでもあれほどのものだ。どういう目的で作られたのかは知らないが、きっと街もあるだろう。うん。


 ここまでの労力と、コチョウランの幸運を信じて、俺はまだ見ぬ街のことを考えて歩を進めるのだった。










「……近くで見るとでけぇな」


 それから更に三十分程歩いただろうか。

 視線の先にそびえ立つ巨大な鳥居はその足元までまだ距離があるにも関わらず、とてつもない存在感を放ちながらも、どこか神聖なもののようにも見える。


 そもそも日本で言う鳥居は神様の住む世界と人の住む世界を分ける境界のようなものであり、そして門である。

 はたしてこの馬鹿でかい鳥居がその役割を担っているのかは、詳しい人物に聞きでもしない限りわからないことである。まぁ、気にしても仕方ないのでそんな人物がいるとしても聞くことはないだろうが。


 ともかくだ。

 あれが何かしらの役割を持つ場所であることは間違いないだろう。


 遠目ではあるが、人のようなシルエットが列をなして鳥居の前に並んでいるのが見えた。それに沿って視線を前列へと移してみると、鳥居の真下にはその入り口を守るようにして横並びになっている人たちの姿。


 目を凝らせば、手には棒のような長いもの。槍だろうか? なら、あれが門番のような役割なのだろう。現に、先頭の何人かが許可を取って鳥居の下を通っているように見える。


 鳥居の中央を通っているのを見るに、日本の鳥居のような作法は存在しないのだろう。それか、根本から違うものなのか。


 まぁいいや、と呟きながら俺は鳥居まで続く道を外れて森の中へと足を踏み入れる。


 あそこまで行って並んで入る、ということも考えたが、見るからに何かありそうな巨大な鳥居を前にその考えは諦めた。

 万が一にも俺の魔法が破られれですれば即お縄、というのが容易に想像できる。あのような得体のしれないものを前に、リスクのでかい賭けに出ることはないだろう。


 それに、門番というものにはあまりいい思い出はない。アリストの街では街の領主の娘であるPさんに連れられていたにも関わらず怪しいやつ認定されたことはまだ記憶に新しい。

 もっとも、誤解は解けたし、門番のやつらの頭には毛の代わりに見事な花が咲いたわけなんだが。


 閑話休題


 人に気づかれないように森の中を移動する。

 木々の隙間からあのでかい鳥居の一部が見え隠れしているのを確認し、できるだけ鳥居から離れるように進路をとる。

 

「さて、このあたりかな」


 ちょうど鳥居の境界、その延長線にあたる部分を前に立ち止まる。

 本当ならこのまま向こう側へと向かいたいところなのだが、そういうわけにもいかないのだ。

 

 あの鳥居が何の境界の入り口なのかははっきりしないが、おそらくは街やそれに準ずるなにかなのだろう。となると、あの鳥居はアリストの街にある外壁。その入り口に相当するものと考えるのが妥当だ。


 そう、外壁。なら、あの鳥居以外が無防備であるはずがない。

 というか、そうでないと治安や警備に大きな不安をもたらすことになるだろう。森を通れば、どんな危険人物だって立ち入りが許されてしまうのだから。


 そのため、ここにも何かしらの仕掛けが施されているだろう。それがどういうものであるかは一切不明であるが、少なくとも直ぐそばに人がいないのであれば逃走という手段も取りやすくなる。

 可能性の話をすれば、鳥居よりも面倒なことになるかもしれないが、それはあの鳥居を通る場合も同じなのでどうしようもない。


「つーかそもそもの話、こういう賭けって俺嫌いなんだよなぁ……」


 できるならノーリスクの手段を取りたいのだがそんなものはないので仕方ないだろう。



 はぁ、とため息を吐き出しつつ、俺は空を見上げた。


 わずかな雲がかかった晴天。木々の隙間から垣間見える青空を見て気分を落ち着かせた俺は、よし、と自分を勇気づけるように声を出す。


「『咲け』」


 もう言い慣れた一言である。

 手にしていた杖で軽く足元の地面をコンッ、と軽く小突くと、そこから小さな双葉が顔を覗かせた。

 

 双葉の目が出たことを確認して軽くその場から上に向かって跳べば、それを合図としたように双葉が急激な成長を始めた。

 徐々に生い茂る葉に、太くなっていく幹。まるで木の成長を早送りで見ているような気分になるが、現実で起きている出来事である。

 俺が天使と名乗る少年から与えられた魔法、『花魔法』によるものだ。詳しい説明は省く。面倒だからね。


 俺自身、まだまだ未知な部分もあるんじゃないかとも思っているのだが、現状で不自由している気はしないので不自由してから考えることしよう。


 とりあえずは、花咲かせて成長の速度や方向、大きさを調整できると考えておけばいい。あと花言葉。


「……やっぱ慣れねぇな」


 ぐんぐんと成長していく木。今回俺が選んだのはコナラの木である。クワガタやカブトムシが集まってくるあれだ。

 その花言葉は『勇気』『独立』などがある。


 俺はその勇気が欲しい。


「慣れねぇんだよなぁっ……!!」



 みっともなく叫んでしまいそうになるのを、何とかその言葉で抑え込む。


 現在俺がいるのは、おそらく標高二百メートル程の位置。

 もうコナラの木が成長できる大きさではないのだが、それは俺の魔法によって変えている。魔法って本当にファンタジー。

 

 あの鳥居の高さは目測百メートル程。不可視の壁、もしくは防犯的な何か(結界など?)があるとするならその高さと同じかそれ以下の部分までと考える。


 今から俺が何をするのか。簡単なことである。正面から入れないのだから壁(見えてない)を超えるのだ。以前成金豚の領地に侵入する際にもとった方法である。犯罪? 知らんなぁ。


 念のためにと鳥居の倍ほどの高さまで来ているのだが、俺はもう足元の景色を見ることはできない。


 おそらく俺が先ほどまでいた地面は遥か下にあるだろう。見た瞬間に足元が震えて落ちる可能性もないとは言い切れない。安全のために、と木の枝を柵状にしているのだが、それでも怖いものは怖いのだ。


 しかしこれで終わりではない。

 今度は俺のいる場所を逆さまに向けないように木を成長させ、壁を越える必要がある。

 わかりやすく言うと、Uを逆さまにしたように木を伸ばすのだ。


 特に今から曲げて成長させる作業は慎重に行わなければならない。普段は大雑把に伸ばしているのだが、下手をすれば俺が落ちる。そのためこの作業には細心の注意を払わなければならない。


 ふうっ、と息を吐いて集中する。


 成長は俺の意のままにさせることは可能だが下手には操作できない。そのため、角度や見えない壁の位置も頭に入れて木を伸ばしていく。


 

 やがて俺を乗せる柵状になった先端がうまい具合に壁(予想)を超えた。そこまでで一息入れた俺はあとは楽だというように地面に向けて木を伸ばした。

 取り合えず、柵の中から外へ出る。時間的には少しの間だったのに、地面に足をつけたのが久しぶりに感じた。操作に集中していたからだろうか。

 

 魔力の供給を止めて巨大コナラを消す。あんな鳥居よりもデカい木は遠くから見れば目に付くに決まっているため、俺と同じようにホウセンカを幹に巻き付けて成長させていたのでバレてはいないと信じたい。


 もっとも、アリーネさんのような人がいれば全部無駄であるのだが、まぁやらないよりはいいだろう。

 あんな人外じみた人がそうポンポンいるとは思いたくない。


 体に巻き付けているホウセンカとコチョウランが健在であることを確認し、俺は迷いなく足を左斜め前へと進めていく。


 壁(?)越えを行った際に、家などの建造物が多く集まる場所が見えたのだ。おそらくは街だろう。それも、それなりに大きい。

 距離があったためアリストと比べてどうかまではわからないが、それでもそれなりに人は集まっているはずだ。そうであるならば、本来の目的である情報集めも容易にできるだろう。


「しっかしなぁ……」


 歩きながら、俺はそんな言葉を口に出す。

 頭に思い描いたのは、先ほど空から見た街の光景。そのなかでも、俺はあるものが脳裏に浮かびあがっていた。


 昔見た五重塔みたいなやつといい、刀みたいな剣に和服みたいな服装といい、果てはあの鳥居ときた。


 どう考えても昔の日本みたいなところだよな、と口に仕掛けるが、和服の集団のことを思い出して辞めた。


「ま、頭に獣みたいな耳を生やしている時点で普通じゃないわな」



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