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49:勝利と悪意の裏側で

「……何なんだ、あれは」


 時を同じくして、場所は花園から少しばかり離れた森の中。そこには突如出現し、そして消え失せた巨大な花に目を見開いたフードの男の姿。


「何なんだ、あれは!? 何が起こった!?」


 わけのわからないものを見た、と言わんばかりの表情で頭を抱える男。確認しようにも、あの場所で何が起きたのかわからない以上、近づくのは危険を伴う行為である。

 しかし確認しない以上、何があったのかが不明であることも事実であった。そして、この任務が失敗したという事実を再び思い出す。


 ドンッ、と近くにあった木に拳を叩きつけた。


「報告、しなければ……だが、何を言えばいいんだ。実験に使用した魔物は巨大な花に食われました、などと言って信じてもらえるのか? 到底信じてもらえるとは思えん……! それに、任務を失敗している時点で何と報告をすれば……」


 ブツブツと言葉を漏らす男は、フードを被ったままの頭を無意識のうちに掻き毟る。


 最初はよかった。

 運よく想定以上の素体を発見し、投薬に成功。並のものならまず立ち向かうことさえできない化け物が完成し、後はこれを王国の王都へ差し向け、道中の街をも巻き込んで王国を消耗させるはずだった。


 しかし現実はどうだ。

 王都へ向かうどころか、化け物は何かに怯えたような姿をみせたあと、突如予定進路を変更。向かったのは実力者と名高い【鬼姫】と【風斬】がいるアリストの街。そしてもっとわけのわからないことに、化け物はアリストの街への道中にあった花園で化け物以上の大きさの花に食われてその姿を消したのだった。


「とにかく、長居はできん。信じられずとも報告はしなければ――」

「悪いが、帰すわけにはいかないのでな」


 男の頭上から響いた声。

 何者だ、と男が見上げるよりも早くその者は背後へと着地を決め、油断していた男の腕をとって組み伏せた。


「クソッ!! 何者だ!!」


 振りほどこうにも、相手の方が力が強いために体を動かすことができない男。何とか首だけを動かし、横目で自身を抑え込む相手を見る。


 そこにいたのは、赤い長髪を後ろで一つに結った軽装の鎧を身に纏った女の姿。

 一瞬なっ、と言葉をなくした男であったが、次には力づくで拘束を解こうと暴れ始める。


 しかしそれは叶わず、それどころか体はピクリとも動かせない状況になっていた。


「クッ……!! 何がどうなっているんだ!? 離せ!」

「離すわけがないだろう。あまり暴れるなよ? その気になれば、お前の腕の一本や二本は切り落とせるんだからな」


 そう言って腰の剣を抜いた女――クェルは剣先を男の肩に向ける。

 ユリウスの指示でカオル追って来たクェル。加勢しようにもそれは無理だと判断した彼女は、花園少し離れたこの場所に怪しい人物を発見したため、こうして気づかれないように近づいてきたのだった。


 現状片手で抑えられているにもかかわらず、男は先ほどと同じように体を動かすことができない。どんな力をしているんだっ! と心の中で悪態をつく。


 というのも、クェルの力はもともと強いほうではあったのだが、フルフートとの一件でリアの実を摂取して以来その力は格段に上がっているのだ。

 そんじょそこらの大男でも片手で軽く相手をできるほどには。


「さぁ、立て。お前にはいろいろと聞きたいことが山ほどあるんだ。洗いざらい話してもらおうか」

「……」


 剣を突き付けられた男は、クェルの言葉に何も返さなかった。

 それを不審に思ったのか、クェルは拘束は解かずに男の一挙一動に注意を向ける。ここから状況を覆されるとは考えられないが、逃がすことだけはさせんと最大限の警戒を行った。


「我らが主よ! バンザーイ!!!」

「っ!?」


 突然叫びだした男の行動に、クェルは一瞬動揺する。だが、すぐに持ち直して、再び男の拘束を強くした。

 しかし、男はそれ以外の行動を見せなかった。それどころか、その叫びは徐々に大きくなっている。


「バンザーーイ!! 我らが主よ! バンザーーイ!!!」

「おい! 静かにしろ!」


 なおも万歳と叫び続ける男に、クェルは怒鳴り声をあげる。しかし、男はその指示を聞くつもりがないのか、一向に辞める気配はない。

 男の声は止まらない。このままではこの声に釣られた魔物たちが獲物を求めてやってくるだろう。


 まさかそれが狙いなのか


「こっの……!」


 黙らない男に痺れを切らしたのか、クェルは手にしていた剣の柄を男の頭に叩きつけようと腕を振り上げた。



「バンザーーーーーーイ!!!」

「っ!?」


 だが男が今まで以上の声を上げた瞬間にそれは起こった。

 突如、男の姿が膨れ上がり、体中の穴という穴から光が漏れた。


 異変に気が付いたクェルは行動を中断し、全力で後方へ跳ぶ。


 爆発音

 爆風

 木々の破片


 男を中心に、辺り一面がすさまじい力で破壊、粉砕されていく。


「グゥッ!?」


 それはクェルも例外ではなく、激しい爆発の衝撃に体を揺さぶられ、爆風によって周囲にあった木の一本に背中を叩きつけられた。


「じ、自爆した……だと……」


 幸いにも、リアの実によって体は強化されているため、重症とはなっていない。それでも、動けはするだけで戦闘となれば元のように動くことは難しい状態にはなっていた。

 信じられんと言葉を漏らしたクェルは、覚束ない脚で立ち上がる。どうやら、見た目以上にダメージはあるようだ。


「……帰還したら、ユリウス様に報告しなければな」


 

 ◇  



「報告は以上になります」

「……下がれ」

「はっ」



 サルバーニ帝国

 シャルル王国の西側に存在するこの国は、皇帝を政治のトップとする中央集権国家である。

 そして、この国の最もたる特徴はその軍事力といえるだろう。

 有能な将校を数多く有し、武器も国内の鍛冶師が鍛えた高性能なものを配備。そして、希少といわれる魔法使いを集め、部隊として運用していることも要因の一つ。


 しかしながら、そんな帝国も完璧であるわけではなかった。というのも、土地が痩せているために農業が発達しづらいのである。

 鉄などを産出する鉱山などは豊富であるが、代わりに農地となる平地が少なかったのだ。


 そのため、帝国は武力によって周辺の小国家を侵略。力によって制圧し、領土を広げ、食料の生産を賄っているのが現状だ。

 そして、帝国西部に存在する小国家を粗方属国とした帝国が次に目を付けたのが東部にあるシャルル王国であった。


 肥沃な土地を持つ王国は、帝国にとってはまさに格好の獲物。

 だが、予想外にも王国の軍事力は相当なもので、数十年前には両者痛み分け、という結果に終わっているのだ。

 それからは互いの国の北部の国境沿いで小競り合いが続いている関係であった(南部でないのは地竜の森が存在するため)。



 今回の作戦は、そんな膠着状態を打破し、帝国側が一気に有利になれるはずだった。


「……失敗した、のか」


 部屋に残された男は、部下が去っていったドアを見つめた後、そんなことを呟いて天井を見上げた。


 帝国が作り上げた強化薬。それは人の理性や思考を変質させ、力や魔力などを最大限にまで引き上げる薬である。

 今回は、それを魔物用に改造したものを使用。投薬した魔物に王都、並びにその道中に存在する街を襲わせ、王国を疲弊させる作戦であった。

 が、結果は報告の通り。


 作戦は失敗。

 誘導は意味をなさず、魔物は突如進路を変更。そして、その消息は絶たれたという。


 男は目の前の報告書に視線を落とす。

 

 『対象はアリストへ向けて進行。その後、消息不明』


「……【鬼姫】か、あるいは【風斬】にやられたと見るべきか」


 難儀なものだな、とため息をつく男。

 同報告書には、対象の魔物の監視員もいたそうだが、そこを気にかける様子はない。

 捕虜にはならないだろうという確信があるからである。


 あわよくば、かの二人のどちらかが手傷を負っていれば上々とさえ。


「……む? 時間か」


 時計を確認した男は、近くに吊っていたフード付きのローブを手に取った。

 

 ――会議の時間である

どうも、二修羅和尚です。

第二章はあと二話ほど続きます。それが終わり次第、三章に入りますのでどうぞよろしく!


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