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48:花園に賢者は一人

どうも二修羅和尚です。お待たせしました、今回で二章の話はだいたい終了。


なお、今回の話では人によっては苦手な描写があるかも。

……口移しって、大丈夫ですか? 苦手ならその部分だけ読む飛ばすのがいいかもだ。


というわけで、第48話、どうぞ!


 いつの間にか巨花の拘束は力づくで突破されていたらしい。体中に張り巡らせていた花も同様に、奴が無茶苦茶な動きで振り払っていた。

 今もなお成長し続けている花たちではあるが、成長速度よりも奴が花を除去する方が早い。全部払われてしまうのも時間の問題だろう。


 そしてこちらを認識しているからなのか、奴の目は俺に向けられていた。


「……」


 血走った獣の目だ。俺が魔法を使った原因だと知っているのか、それは獲物を見る目、というよりも敵を見る目と表現したほうが正しい気がする。大方、俺を自身にとっての脅威だとでも考えているのだろう。

 

 逃避ではなく排除。実に魔物らしい、それも、捕食者視点の思考である。最も、期待などしてはいないがな。


 だがしかし


「それは俺も同じことだっ……!!」


 咲け、と一言。それだけで、奴の体の至る所から数々の花が成長を始める。同じことをしても先ほど同様、振り払われて無意味に終わるだけだろう。だが、わずかでも時間ができれば今はそれでいい。


 鬱陶しそうに体の花を取り除こうとする巨大なクマの魔物。その様子を確認した俺はすぐさま岩へと駆け寄った。

 重そうな岩である。もしこれが俺に直撃していたなら、確実に俺は死んでいただろう。


 クッ、と思わず口から息が漏れた。自己嫌悪で頭を打ち付けたくなるほどに。しかし、しーちゃんのおかげで守られた体をそんなことで傷つけていいわけがない。

 そして、今はこの岩を退けることが最優先だ。


 まだ花を振り払っている巨大クマに一瞬だけ、後で殺す、という意志とともに視線を向けると、俺は岩の下から岩を持ち上げるようにして幾多の花を咲かせ、そして上に伸びるように成長させる。

 花には十分な強度を持つように少しばかり手を加えているため、岩を持ち上げる途中で折れるようなことはなかった。

 ある程度持ちあがったところで、花の成長方向を横向きに変更する。突然下の支えを失った岩はゴロンッ、という鈍い音を立てて別の場所に転がった。


「しーちゃんっ!!」


 巨大クマがまだ苦戦していることを尻目で確認し、先ほどまで岩があった場所に駆け寄る。どうか無事であってくれと、そう祈りながらしーちゃんの名前を呼んだ。


 目に入ったのは、痛ましい姿になった一匹のジャイアントアント。脚が数本ひしゃげ、腹も半分ほど潰れている。胸の部分もへこんだ金属のようになっている箇所が多数みられた。

  

 周りの土が湿っているのは、おそらく腹から漏れた体液なのだろう。


 一瞬、言葉を忘れた。


「しーちゃん」


 漸く出てきたのは、俺を助けてくれた彼女の名前。


「……しー、ちゃん」

『……ィ……』

「っ!? しーちゃん!!」


 もう彼女の鳴き声は聞けないのか。そんなことを思ってしまっていた俺の耳に微かに響いたのはつい最近まで毎日のように聞いていた音だった。

 見れば、ほんの微かにではあるが顎の部分が動いている。


 生きている! よかった、生きている!


 しかし、あまり喜んでばかりいられない状況であることも事実だ。現に、しーちゃんの体は瀕死といっても過言ではない。早急に治療し、安全な場所に避難してもらう必要がある。


「待ってろよっ」


 しーちゃんの目の前にリアの実の花を咲かせる。花は一度大きく咲いたかと思えば、すぐさま花弁を枯らし、実を大きくすれば、そこには見慣れた青い林檎のような果実。

 出来上がったリアの実をもぎ取った俺は、しーちゃんの口の前に持っていってやった。


 しかし、しーちゃんは小さく鳴くだけでリアの実を食しようとはしない。これではいくらリアの実がすごかろうともまったく意味がない。


「頼む、食ってくれ、頼むから」


 そういうと、しーちゃんの顎がわずかに動き出した。そっと顎で挟めるようにリアの実を動かしてやる。が、顎で挟んだと思えば、それは重力に従うように地面に落ちた。


 しーちゃんには、もうほとんど力が残っていなかった。



 『死』という言葉が脳裏によぎる。


「っ、死なせてたまるかよっ!!」


 なりふり構っていられない。

 俺は地面に落ちていたリアの実を拾い上げると、それを口に入れて咀嚼する。いつもの味だ。だが、飲み込むことはしない。


 ある程度リアの実が口の中で潰れたところで俺は顔をしーちゃんの口元に近づけた。


 俗にいう口移しである。

 

 これなら、しーちゃんがリアの実をかみ砕く必要もなく、またそれほどの力を用いらずともリアの実を摂取できるだろう。

 まだ日本に居た頃の俺がこの様子を見れば、うへぇ、と顔を歪めるだろうが、三年の森での共同生活でそんな風に感じることもない。それがしーちゃんであるならば何をためらう必要があるのか。


 口の中のリアの実が少なくなってゆく。しーちゃんがちゃんと摂取してくれているのだろう。

 同じ行為を数度繰り返すうちに、しーちゃんの方も回復する。ひしゃげていた脚も、潰れていた腹や胸も元通りになっているようだ。


 あと、俺は別に昆虫性愛(フォーミコフィリア)じゃない。普通に人間の女の子が好きだから。そこは忘れないように!


 ……よし、安心したからか、いつも通りの思考になってきた。


『ギィッ!』

「……ああ、本当によかったっ……!」


 元通りに戻った体で擦り寄ってくるしーちゃんに触れる。

 いつもの金属のような冷たい体ではあるがしかし、確かにそこには命がある。助けたかった命。今度は助けられた命である。


 嬉しそうに頭の触角を揺らしながら顎を鳴らすしーちゃん。だが、あまり長い時間そうしているわけにもいかないのだ。


「『咲け』」


 ここからだいぶ離れた場所、花園の中心部近くに、魔法を用いて新たに花を咲かせる。範囲数十メートルにも及ぶその場所には、背の高い黄色い花をつけた花が姿を現した。


「しーちゃん、俺はちょいとあのでっかいクマさんを肥料に変えてくる。治ってるとはいえ無理はしてほしくない。君は他のみんなを連れてあの黄色の花畑まで避難していてくれ」

『ギィッ、ワカッ……タ』

「……そいうや、少し話せるようになったんだっけな」


 後が最悪の気分ではあったが、しーちゃんが最初に話してくれた言葉が俺の名前というのは何だか感慨深いものがある。

 またあとで、いっぱい話でもしような、としーちゃんと約束をかわすと、しーちゃんはギィッと大きめの声で鳴いて黄色の花園へ向かった。ほかの魔物たちもしーちゃんの声を合図に同じ場所へ向かう。


 セイタカアワダチソウ

 北アメリカが原産のこの花は、観賞用として持ち込まれた外来種。何気に蜜蜂が蜜を作る蜜源植物でもあるのだが、その名の通り背が高い。河原や空き地などに群生するが、場所によっては高さは1~2.5メートルのものが3.5~4.5メートル程にもなる。

 そして、その花言葉は『元気』『生命力』。あれだけ咲かせれば、それなりの効果を発揮してくれるだろう。

 願わくば、しーちゃんがもっと元気になりますよう。



 ……さて


「漸くお前の番だ」


 絶えず魔力を流し続けたことで、払っても払っても振り払えなかっただろうに。

 しーちゃんとの用事を終えた瞬間に魔力の供給を途絶えさせたため、今はもう再生して生えてはこないだろう。


 振り返って巨大クマに視線をやれば、ちょうど体中の花を取り除き終えたところだったらしい。フンッフンッ、と腕を振り回したのち、相手もこちらに目を向けた。


「グルァアァァ……!!」

「何言ってんのかさっぱりわかんねぇわ。……いやまぁ、それが普通なんだけどもよ。話せたところで、俺がお前と話そうなんて思うわけもないわな」


 殺す。ただ殺す。もう決めたことだ。

 やらなきゃ死ぬ。それがこの世界の常識だ。この世界に来た時に、それは十分に思い知らされた。

 そして自分だけではない。俺の大事なもんが危険なら、その元凶を取り除く。幸い、俺にはそれができるだけの(もの)がある。


「グルァァアァッ!!」

「『咲け』」


 唐突な突進であったが、動きが読みやすい。アリーネさんに比べれば屁のようなものだ。 

 まっすぐに向かってくる巨大クマの魔物。俺はタイミングを見計らい、奴の頭に直撃するように巨花を空に向けて急成長させた。

 いきなりの地面からの攻撃に対処できなかったのか、巨大クマは体を大きく仰け反らせる。かなりの衝撃だったのか、先ほどまで力強く地面を蹴っていた前足が完全に宙に放り出されていた。


「『咲け』」


 すかさず魔法。

 今度は浮いた前足を新たに生やした二本の巨花で拘束しにかかる。だが、これだけではまた力づくで引きちぎられるのも想像に難くない。


「『咲け』」


 なのでもう一工夫。

 今度は万歳状態になっている巨大クマの股間を打ち付ける様に地面から巨花を咲かせた。打ち付けた瞬間、すさまじい絶叫を辺りに響かせた巨大クマであったが、それを無視して持ち上がった後ろ足を前足と同じように拘束する。


 あぁ、オスだったんだ。あっそ。


 完全に宙づり状態になった巨大クマ。こうなってしまえば、いくら力自慢でもそう簡単には破れまい。

 グルグルと唸り声をあげてこちらを見るクマ。どうやら、未だに抵抗の意思があるようだった。まぁ、なくても変わりはないのでそれはいい。


 とりあえず耳障りなので口の部分も幾重にも巻いたツタで拘束する。その際、奴の鼻の先端部にだけ一輪のオオバナサイカクを咲かせた。

 先日の化け物になった成金豚にも用いた強烈な臭いを放つ花だ。


 フガッ!? という音とともに暴れだす巨大クマ。しかし宙づりであるため、拘束からも臭いからも逃れられない。かわいそうに。けど殺す。

 動物愛護団体? 異世界まで来ればいい。それにあれは魔物だ。


 と、そこまで考えてふと俺は巨大クマを見上げた。

 巨大なクマの大きさは十メートルには届かないだろうが、それでも十分にでかい。今はアリーネさんによる制限もないため、魔法で何をしてもいい状況だ。


「サイズ的には物足りないが……まぁいいか」


 殺し方は決まった。考えていただけでまだ一度も試したことがない魔法であるが、こいつを実験台にするならちょうどいいだろう。肥料にすることには変わりはないんだ。


「対じいさん用に考えた巨大生物専用のもんだ。実験第一号に選ばれたことを喜んでおくんだな」


 そして死ね。


「『咲け』」


 いつものように言葉を唱えることは変わらない。がしかし、体から持っていかれる魔力は相当なものだ。今までこれほど一度に使用したことがないため、初めての感覚だ。

 ……そして疲れる。走った後のような気分になってくる。


 やがて、俺を中心とする辺り一面の地面が鳴動し始める。徐々に徐々に揺れもひどくなり、そして俺と巨大クマを取り囲むように巨大な、巨花が小さく思えるほどの巨大な花弁が地面から持ち上がるようにしてはえてきた。

 

 宙づりにされたクマは、その光景を前に少し怯えるような動きを見せた。

 

 やがて、俺が立つ地面も隆起し始めると、地面のいたるところからあまたの花が顔を覗かせる。地面だった場所は花畑に早変わりし、そして俺の立つ場所諸共を空高くに押し上げた。


 取り囲むのは、測るのも面倒になるほどの巨大な花弁。そして、俺が立つのはその中心部に立つ柱頭の天辺だ。


 そとから見れば、とてつもなく巨大な花が咲いていることだろう。そして、その花の中にいるのが俺と巨大クマだ。


 宙づりだったクマの拘束を解くけば、ドシンッ、という音とともにクマが花の中の花畑に降り立った。

 遥か眼下に見える巨大クマは、辺りを見回したのち、俺に目を向ける。

 

 敵を見る目だ。どうやら、まだやるつもりのようだ。



 俺の立つ柱頭の花柱を殴りつけ始める巨大クマ。おおかた、これを折って俺を下に下ろすつもりなのだろう。

 だが、それは叶わぬことだ。


 必死に花柱を殴り続けるクマの背後。そこに数多の蛇が花畑に紛れるようにしてクマへと向かう。

 何かが入づるような音でも耳に入ったのか、後ろの地面に視線を向ける巨大クマ。だが、それはもう遅い。


 そもそも、ここにとらわれた時点で終わっているのだ。


「グルルウォォオォァァァアアアアア!?!?」


 眼下から響き渡る絶叫音。見れば、そこには幾多の蛇……いや、()()()()に襲われる巨大クマの姿。

 振り払おうにも、振り払う前に続々と根が体に纏わりついていくために対処が追い付いていない。

 おまけに足元の花畑の花たちが、まるで逃がさないと言わんばかりにクマの足元に絡みついている。


 そしてそれは一瞬だ。


 体中に花を咲かせてやった時よりも圧倒的に早い速度で衰えていく巨大クマ。生命力、体力の他にも、養分にできそうなものは全てこの()()()()に吸収されることになる。



 これこそ、俺が対じいさんように用意した必殺の魔法。今回が初の使用であったが、何とかイメージ通りに発動してくれた。

 対じいさん、とはつけているが、言わばこの魔法は巨大生物のようないつもの戦法が通じにくい相手用に作ったものだ。まぁ、そもそもはじいさんに本気で敵対されるようなことになった際の対策にと考えたものであるが。

 無論、そうならないことが一番いいが、念のためである。命に関わるかもしれないことを面倒臭がってはいられないのだ。


 原理であるが、それは簡単だ。

 俺を中心に敵ごと取り込む形で超巨大な花を咲かせ、その花弁の内側に閉じ込める。あとは、花が己の生存を維持しようとして内側の生物を養分として襲い始める。また、魔法を使おうにも、その魔法に含まれる魔力も養分とみなされて吸収。意味をなさなくなる。そして巨大であるが故、その吸収速度は半端ではなく、普段俺が苦戦する相手でも殺しきることができるのだ。

 食虫植物のようなものと考えればいい。


 だがもちろん欠点も多い。

 まず魔力消費が大きすぎる。俺でも疲れるほどなのだ。普通の魔法使いでは展開する前に干からびる。そして、展開、生存維持の補助のために俺も一緒に中にいなければならないのだ。中で俺が殺されれば解除される。


 そして花であるため、飛んで逃げられたら終わりだ。魔力を無駄に使うことになる。、あぁ。だから使う際には拘束するのが一番いいのだが。


 そうこうしているうちに、巨大クマは骨を残して肥料となったようだ。纏わりついていた根が骨から離れて、辺りをさまよう始めた。

 どやら、次の獲物を探しているようである。


 それを見計らって俺は補助に回していた魔力の供給を切る。


「おぉ……一瞬だな」


 言葉の通り、自身を維持できなくなった超巨大花は一瞬で消滅。俺は落ちる前に新たに咲かせた巨花を足場とし、残ったクマの骨は自然の摂理に従って落下を始めた。


 少しして、カランッ、と乾いた高い音を立てて骨が散らばったのだった。


 


というわけで、ここからは閑話やプロローグが続きます。それが終わり次第、第三章へと話が移ります。これからもよろしくです。


感想、ブクマ、レビューなんかも待ってますよ! じゃんじゃんこい!

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