45:強化兵
どうも二修羅和尚です!
昨日に続く連続投稿! テンションあげていくぞ!
「どうぞ、紅茶です。砂糖かミルクは使いますか?」
「あぁ、お構いなく」
勘違いでございました。よかったよかった。
Pさんが出て行った直後、何かと恐ろしげな雰囲気にしてくれた張本人はいきなり頭を下げてこう言った。
「私を助けていただき、本当にありがとうございました」
何のことか訳も分からず、困惑していた俺にソファーへの着席を勧めたアンデール。それに従って、何かと座り心地のよいソファーに腰を下ろしたところで、こうして紅茶を出してきたのだった。
「……で? 俺に何の用ですか? あなたとは会ったことがないと思うんですが」
「ええ、こうして会うこと自体は初めてですよ。しかし、こうして話が出来るのは他ならぬカオル様のおかげなんです」
あと、私に対しては敬語はなしでお願いします、と付け加えたアンデール。
俺としてはありがたいことなので文句はないのだが、表面上とは言え、ユリウスやこいつは本当にそれでいいのだろうか。
「どこで会った?」
「どこ、というのははっきりとは覚えていません。が、あなたと戦い、そして一瞬で敗れた末にこうして私は私を取り戻せた。そのことだけは理解しています。あなたのことも、このアリエリスト家の当主様から聞きました」
……? ちょっと何言ってるのか分からないんですが。
つまるところ、俺とどこであったのかは覚えていないが、俺と戦った記憶があってそのおかげで今のアンデールがいる、と。で、俺のことをユリウスから聞いた、と。
「そんな感じの解釈でいいのか?」
「ええ。大体合ってます」
ふーん、と目の前の紅茶を一口。意外にもおいしかったので、一瞬ほぉ、と声を漏らした。メイドさんが入れてくれるものと大差ないんじゃないだろうか。
まぁ、味なんかよく分からんけども。少なくともアリエッタが以前入れてくれたものよりはおいしいと思う。
「これでも元貴族ですからね」
「そうか。んで、そういう回りくどいことはいい。時間が掛かって面倒だからな」
今日は俺の休日ライフ初日なんだ。こんな面倒臭いことで時間を使われては、五日間なんてあっという間に過ぎてしまう。はやく部屋に帰りたい。
どうして連休のときに限って時間が早く過ぎてしまうのだろうか。
俺の言葉に、ハハハ、と苦笑いを浮かべるアンデールは、紅茶を一口含んで喉を潤すと俺と向き合った。
「では、簡潔に。覚えているかは分かりませんが、私はカーマインという男に連れられ、あなたと戦った元強化兵です。まぁ、先ほども言いましたが、戦った、と言えるほどのものではなかったそうですが」
アンデールの言葉に、俺はん? と首を傾げた。
何故ここで海藻類の名前が出てくるんだ?
久しぶりに聞く、あまり思い出そうとも思えない名前に疑問を覚えたが、強化兵という言葉にあ、とつい声が漏れた。
『キヒッ、キヒャヒャッ! お前が俺の相手なのかァ・・・若いなァ・・・いい断末魔が聞けそうだなァ・・・』
『斬殺ゥ? 刺殺ゥ? それとも圧殺ゥ? ・・・キヒッ、決ィめた! 刺殺だァ!!』
思い返したのは、アリエリストの代表を決めるという体で行われた決闘。確か、あの時あの海藻類が連れてきた男がいたはずだ。
何か、完全に狂ったような話し方にヤバそうな雰囲気のあれ。何か相手するのも面倒で速攻で終わらせた記憶がある。そのあと、死に掛けの状態でウィリアムに預けたような気がする。
チラ、と思い出す傍ら、目の前のアンデールに視線をやる。
それに気づいたのか、アンデールは思い出しましたか? と笑顔で語りかけてくる。
フード被ってたからあまり確信は持てないが、言われて見れば、そんな気もする。
でもなー。あれがこれになるって、ちょっと信じられないんだが……
「……ちょっと信じられねぇ。本当にあの時の狂人なのか?」
「狂人……まぁ、あの時の私はそういわれても仕方ありませんね。思考や精神も、薬のせいで狂っていましたから。今日、カオル様に来ていただいたのは、お礼の他に、そのことについても話すつもりでしたので」
一度そこで言葉を切ったアンデールは、紅茶に手をつける。
……え、その話、もしかしてめっちゃ長くなったりします?
◇
結論、長かったです。
いや、アンデールの悲惨ともいえる今までの出来ごとをそんな一言で言い表すのは本当に心苦しいのだが、それでもあれだ。長い。
もう俺のこと休ませる気ないだろ、と文句を言いたくなったが、話している内容が内容なだけにそういうことも言えず、またそういう表情をするわけにもいかなかった。
というわけで、アンデールの話をまとめるとしよう。
元々アンデールはお隣のサルバーニ帝国の貴族であったそうだ。サルバーニといえば、アルスが何か言ってたところだったはずだ。昔この国と戦争してたんだっけ?
どうして帝国の貴族であったアンデールがあんな狂人みたいになってたのか、ということなのだが、そこで出てくるのが先ほどアンデールが言っていた薬であるらしい。
強化薬、という名のその薬は、その名の通り服用者の能力を大幅に上昇させるものだそうだ。が、その代償として精神や思考を狂わせるとのこと。
見た目とかも変わったりするのか? という俺の質問に、アンデールは分からないとしか答えなかった。本人曰く、薬に関しての情報は服用される直前に話されたことしか知らないらしい。だが、そういう薬があってもおかしくはないとは言っていた。
恐らくだが、あのとき成金豚が服用したのはそういった類の薬なんだろう。クェルが何かを飲んだ、といっていたのを覚えている。
そしてアンデールが強化兵となった経緯だが、あらぬ疑いをかけられた末、死刑となったらしい。だがそれは、魔法使いを強化兵にするという実験にアンデールなどの貴族を利用するためのシナリオ。アンデール意外にも複数の貴族が冤罪で捕らえられ、実験に用いられたのだとか。
よくそんな国が存在できるよな、とは思うが、帝国は皇帝の権力が凄まじいため、誰もが逆らえないとの事。もはや恐怖政治である。
そもそもの話、アンデールの家に冤罪がかけられたのも、皇帝の恐怖政治に否定的だったから。他に冤罪をかけられたのもそういった貴族だったそうだ。
不安分子の排除に、魔法使いを用いた実験。帝国にとっては一石二鳥だったってわけね。
「よくそんな国にいたな、お前」
「皇帝陛下には逆らえませんでしたから。それに元々は貴族。治める領地も、守る民もいましたしね。……もっとも、今となってはどうしようもありませんが」
自嘲気味に笑うアンデール。だが、その膝に置かれた拳がわずかに震えているのを見るに、やはり悔しかったのだろう。
しかしこうして話を聞くと、俺は運がよかったのだろう。
俺がこの世界に来たときにいたのはこのシャルル王国とサルバーニ帝国の間に存在する地竜の森。逆方向に不毛の地があれば、俺はその帝国とやらでブラック企業も真っ青な労働を強いられていた可能性もある。
「……で? 俺にお礼ってのは?」
こいつの身の上話はまぁ、大体分かった。だが、お礼の理由がよく分からん。こいつ曰く、俺がその強化兵である状態から助けたって事なんだろうが……
「正直な話、何故私がこうして正気に戻ることが出来たのかはよくわかりません。ですがあの日、あなたの魔法によって、私は死にかけながらもかすかに意識を取り戻しました。それは事実なんです。だからこそ、あなたにお礼が言いたかった」
ありがとうございます、と俺の目の前で頭を下げるアンデール。
「俺が何かした、ねぇ……」
確かあの時の俺は、こいつの体力と魔力の両方を限界まで花に吸収させたような気がする。
それが原因でこいつの体内にあった薬の成分も一緒に除去したんだろうか?
……うん、わからん。
「まぁ、話はだいたい分かった。で? お前はこれからどうすんの?」
「今の通り、ですよ。元より死ぬはずだった命です。助けてもらえただけでなく、こうしてアリエリスト様に雇われて働かせてもらっています。精一杯頑張らせてもらいますよ」
「帝国のほうは、もういいのか?」
俺のその言葉に、一瞬言葉を詰まらせたアンデール。
「もういい、とは思えません。カオル様のおかげで薬の副作用のみが消え、以前の私よりも力は増しています。ですが、現状の私でも帝国に何かすることもできません。こうして、アリエリスト様に仕え、帝国のことを話すくらいしかできないんです。」
それに、と言葉を続ける。
「貴族だったから叶わなかった教師の夢が、こうして叶って少しばかり嬉しかったりするんですよ」
◇
俺は一人、アンデールの部屋を出て自室に向かった。
アンデールがPさんを部屋から出したのは、恐らくあの話を聞かせないためだったのだろう。
そして、アンデールが話した内容はもうすでにアリーネさんやユリウスの耳に入っているはずだ。そう考えると、今までのアリーネさんによる地獄のような特訓にも理由が出てくる。
恐らくではあるが、あの二人は俺の存在が帝国に知られ、拉致されることを懸念しているのだろう。強化薬という恐ろしいものを開発した帝国が、その効力を残したまま副作用を消すことが出来る俺を欲しがらないとはいえないのだ。
逆の立場になってみれば、喉から手が出るほど手に入れたいと思うのも当然だ。俺だってそうするし、誰だってそうする。
となると、魔法戦はともかく、接近戦がクソ雑魚というのは大問題だ。その道のスペシャリストが来たら、俺なんぞひとたまりもない。其れゆえの特訓だったのだろう。
歩きながら長いため息を吐いた。
話が進めば進むほど、俺にとって不幸な未来しか見えてこない。
何故だ。俺は只、楽に生きて養われたいだけだというのに……
しかし、そう考えればある程度の道筋も見えてくる。
其れすなわち、俺が目立たないようにすればいいだけのこと。そうすれば、俺の存在が帝国にばれる事もないし、俺があの地獄のような訓練をする必要もない。
なんだ、そう考えれば簡単な話ではないか。
少しばかり気分のベクトルが上を向く。なんなら、これを理由にこの屋敷に引きこもり続ける言い訳にもなる。
「メイドさんに、酒でも用意してもらおうか」
そんな調子で部屋へと戻った俺は、まだ夕食前にも関わらず、酒を飲んで布団に包まったのだった。
ほら、今日は精神的に疲れたし、構わないよね!
あと、晩御飯はリアの実でしたまる
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