44: 迫る悪意とアンデール
どうも、二修羅和尚です!
テストも終わり、夏季休暇に入るため、出来るだけ書くぞー!
では第44話、二章の終りに向けて! どうぞ!
「で? どの魔物にするんだ?」
「さてな。ただ、できるだけ強力な魔物を選べってよ。命令とはいえ、人使いが荒いもんだぜまったく」
地竜の森、西部
多くの魔物が闊歩し、日夜生存競争が行われる弱肉強食の世界が広がる(一部除く)この場所で、明らかに怪しい動きをする怪しいローブに身を包んだ二人組みの姿があった。
愚痴を漏らしつつも、二人は辺りを警戒しながら奥へ奥へと歩を進めていく。
「それにしても、開発部もまた恐ろしいもん作ったもんだな。人の次は魔物相手の薬とは」
溜息を吐きながらそう言葉を零した男は、懐から皮製の袋を取り出して中を覗き込んだ。その中には、青く色のついた肉が複数個。しかし、こんな色をしているが、味も臭いも普通の肉と変わりないのだとか。それも、獣相手でも騙せるほど。
そんな男の言葉を聞いたもう一人は、やれやれといった様子で同意をしつつも言葉を返す。
「おいおい、あんまり言うもんじゃねぇぞ? どこで誰が聞いてるかわかったもんじゃねぇ」
「おー、怖い怖い……ま、こんなところで誰が聞くんだって話だがな……待て、静かに」
先ほどまでの雰囲気はどこへやら。一人が口に手を当てて合図を出すと、残ったもう一人は素早い動きで近くにあった木を駆け上がった。
合図を出したもう一人も、同時に別の木の上に飛び上がる。
しばらくの間二人が息を潜めていると、やがて眼下に姿を現したのは一匹の魔物。
ワイルドギガベアー
熊の様な見た目をした魔物であるが、その姿はカオルが知る熊が可愛く見えるほど凶悪で、しかも巨大である。
性格は獰猛。その巨体から繰り出される力はジャイアントオーガにも匹敵するといわれており、また厚い皮と脂肪によってどんな攻撃も物ともしない。一説によれば、魔法による攻撃にも耐えたといわれている。鋭い爪や凶悪な牙も相まって、冒険者では紫ランクの冒険者が討伐に借り出される魔物である。
しかも、今回二人が発見した個体は、二人にとっていい意味で予想外だった。
「で、でけぇ……ほんとにあれ、ワイルドギガベアーなのか?」
「静かにしろ、聞こえちまう。……しかし、ほんとにでかいな」
一般的なワイルドギガベアーは二足で立って三メートル程の大きさであるが、この日、この二人の前に現れたワイルドギガベアーは四足歩行状態でも二メートル程。恐らく、立てば五メートル近くになるだろう。
この森の主、と言われても信じてしまえる。それほどの迫力、そして強さを感じ取れる魔物だ。
あいつにしよう
互いにそう合図を出し合った二人の行動は速く、一人があらかじめ拾っておいた拳サイズの石をワイルドギガベアーの後方へ投げる。
落石音に反応し、何だ? とでも言いたげな様子で後ろを振り向いたワイルドギガベアー。その隙をつき、今度はもう一人が皮の袋に入っていた青い肉を取り出してワイルドギガベアーの進行方向に放り投げた。
少しして、後方には何もないと感じたワイルドギガベアーは男が投げた肉の存在に気付く。警戒するような仕草を見せたものの、腹でも減っていたのか、臭いを嗅いですぐにパクリと齧り付いた。
「あれ、どれくらいで効果が出るんだ?」
「知らん。それも含めて俺らの仕事だ。……って、言ってる間に効果が出てきてるぞ」
ほれ、と一人の男が指をさすその先で、先程まで肉を食していたワイルドギガベアーが動きを止めたと思えば、途端に呻き声を漏らし始める。
ガァッ、ゴガッギャ、と苦しそうではあるが、男たちはこれといった感情もなく、徐々に姿を変えていくワイルドギガベアーにほおっ、と関心の声をあげた。
元々巨大だった体躯は更に大きくなり、立てば八メートルを超えそうなほど。鋭い牙や爪は太く、大きくなり鋼鉄さえも砕くのではないだろうか。
「よし、後はあれを王都方面に誘導すれば完了だ。他の奴らが誘導用の餌を運びこんでいるだろうから、進行方向の確認が取れしだい、俺達は帰還する」
「あいよ。ま、なかなか楽な仕事だったな」
変化を終えたワイルドギガベアーは、のっそりとした動きで立ち上がると鼻をピクピクと動かし始めた。
臭い消しなどで対策はしているが、二人は出来るだけ気付かれないようワイルドギガベアーから距離をとる。
やがて、何かを嗅ぎ当てたのかもう一度四足歩行に戻って移動を開始し始めた。
北東方面――王都へ向かっているとみて間違いはないだろう。
「確認。よし、直ぐに帰還する。俺達がいた証拠は残すなよ」
「んなヘマするかっての……ん? おい、あれどうしたんだ?」
何がだ、と返した男はもう一人が指をさす方に視線を向けた。
そこにいるのは、先程王都へ向かっていたワイルドギガベアーの姿。相変わらずの恐ろしい姿であるが、その動きはピタリと止まっていた。
よく見れば足が震えているようにも見える。
「いったい何が……」
あったんだ
そう言おうとした男であったが、それは叶わなかった。
森に響き渡る大絶叫。何かに怯えているような声の主は他でもない先程のワイルドギガベアーであった。
件の魔物は、その場で何度も何度も頭を狂ったように振り回すと、次には進度東に変え、そのまま駆けだし始めた。
「……おい、あれまずくねぇか?」
「ッ!? 直ぐに帰還して報告だ!! 仲間にも伝えろ!」
酷く焦った様子の男は、すぐさま木から飛び降りる。
「対象は【鬼姫】と【風斬】のいるアリストに進行中とな! 場合によっては作戦前に討伐されかねないぞ!!」
◇
「あぁ、何と素晴らしき日なんだろうか」
目を覚ました俺の第一声である。
アリーネさんとの約束通り、本日から五日間は俺がすべきことはない。故にダラダラする五日間である。特訓? 依頼? 何それおいしいの?
働かない、故に我在り
適当なところにリアの実を実らせ、早速齧り付く。相変わらずの食べ飽きない味であるが、今日は一段と美味く感じる。心の持ちようってやっぱり大事なんだと再認識した瞬間である。
「……で? そんな俺の貴重な日に、何でここにいるわけ?」
「何よ、来ちゃダメだったわけ?」
むすっとした様子で言葉を返したのはアーネストことPさん。起きた時からベッドの端に座っていらっしゃったのだが、この素晴らしき日の始まりを噛み締めるのが先だと考えて後回しにしていたのである。
「まぁ、朝っぱらから何かあんの? とは思うわな」
シャクシャクとリアの実を食べ進めて完食する。
「朝って……カオル、今はもう御昼よ? いつまでたっても起きてこないから来たわ」
「へー」
どうりで俺の目覚めがいいわけである。
窓を見てみれば、影がだいぶ短いので本当のことなのだろう。
「それに、カオルにも用があったしね」
「ん? 俺にか?」
「正確には、私じゃないんだけど……呼んでも大丈夫?」
全然大丈夫じゃないんですけども。
「いや、まず誰だよそれ。それに、今の俺は休暇を謳歌するのに忙しいんだ。また五日後以降で、その気になればその用とやらも聞いてやる」
だからおやすみ、ともう一度布団にくるまろうとした俺であったが、Pさんに腕を掴まれて寝転がることが出来なかった。
こいつ、アリーネさんやアリエッタとは比べ物にならないほど貧弱だが、それでも一般人より上の力を持つ俺の行動を阻止できるあたり、血統ってすごいんだなと実感させられる。
ていうか、あの二人がおかしい点について。(今更)
「今の私の魔法の先生よ。学校が始まるまでまだ期間はあるから、それまでの間お願いしてるの。父上の紹介だから信頼できる人よ? カオルにお礼を言いたいって言ってたから会ってあげてほしいんだけど……」
「俺が知るかよ。それに、その魔法の先生とか会ったことないから、お礼とか言われてもわけがわかんねぇよ」
逆にまったく身に覚えのないことでお礼言われるとか、それは驚愕通り越して恐怖だよ。
「そういわれても、あの人どうしてもって私に頭まで下げてくるから困ってるのよ」
「そりゃ大変だ。これからも困るかも知れんが、頑張ってくれ」
「母様に言いつけるわよ」
「……ふっ、生憎だがな、俺がこうしてこの部屋でダラッと過ごすことはアリーネさんのお墨付きなんだ。故に、お前がアリーネさんに何を言ったところであの人が俺に何かをすることは――」
「乱暴されたって」
「ちょっと待てやコラ」
ベッドから立ち上がろうとしたPさんの腕を掴んだ。明らかな嘘ではあるが、あの人のことだ。娘の言うことが嘘であろうと一度は信じて俺に剣を向けてくるに違いない。
やだ、俺が乱暴(剣による物理)されちゃう。
ありえそうな未来に、少し背筋がぞっとした。
「先生に会ってくれる?」
「……お前、ほんといい性格してるよ」
「お前じゃなくてアーネストよ」
はいはい、アーネストアーネスト
◇
取りあえず、俺のプライベートルームに赤の他人を入れるとか論外であるため、いつものローブに身を包んで部屋を出た。Pさん曰く、どうやら件の先生とやらはこの屋敷の応接間で待っているとのこと。
相変わらずでかい屋敷だと文句を零しそうになるが、今はPさんが目の前にいるのでやめておこう。
「連れて来たわ」
「アーネスト様ですか? どうぞ、お入りください」
目的の部屋に付いたのか、Pさんが一言言うと中から若い男の声が響いた。
返事を確認したPさんは、目の前の扉を開くと俺に入るように促した。多分、自分が先に入って俺がいなくならないようにとか考えているのだろう。
正解だ、ちくしょう
はぁっ、と溜息を零した俺はPさんに促されるまま部屋の中に入る。それを見て、Pさんも中へ入ってくると、件の人物と俺の間に立ったのだった。
「カオルに紹介しておくわね。今、私に魔法を教えてくれているアンデール先生よ」
「アンデールです。よろしくお願いしますね、カオル様」
紹介されたのは、群青色の長髪姿の男性。年は俺よりも少し上程度なので若いだろう。うらやましいことに女が好みそうな長身とお顔をしていらっしゃる。糸目なのでタ○シとでも呼んでやろうかケッ。
「で? 一ついいか?」
「はい、なんでしょう?」
Pさんに尋ねたつもりであったのだが、反応したのは糸目のこのアンデールという男だった。
「俺と会ったことありましたっけ?」
はて、いったいどこであったと言うのだろうか。
俺の問いに、アンデールは「ああ」と何故か納得したように頷くと、目の前に建っていたアーネストに声をかけた。
「すみません、アーネスト様。ここから先はカオル様と二人で話したいのです。少しの間、部屋の外で待っていてはもらえませんでしょうか」
「私がきいちゃダメな話なの?」
「申し訳ございません」
頭を下げるアンデールを見て、Pさんはいいわ、と言葉を返した。
「元々、カオルを連れてくるだけだっしね。私は母様のところに行くから、二人で話したいことを話しておくといいわ」
「ありがとうございます」
深々と頭を下げるアンデール。Pさんはそんな彼を見た後、俺を見ると
「じゃ、後は頼んだわよ」
などと言って部屋を出て行った。
「……えっ?」
何か、話が急に進み過ぎてついていけなかった件
「さて、カオル様。漸く、二人になれましたね」
Pさんが出て行った扉を見つめていた俺のその背後から、アンデールのそんな言葉が聞こえてくる。
みれば、やけに笑顔なアンデールがそこにいた。
……あの、尻に悪寒が走ったのは気のせいですよね?
感想、ブクマ、待ってマース!




