43:休日を求めて
どうも、二修羅和尚です。
ほんと、最近暑いですね。嫌になってくる。
そんなこんなで、第43話です。どうぞ!
「え? 魔法、使ってもいいんですか?」
「ええ、構いませんわよ。ただし、必要最低限。あくまで剣を用いることが前提ですわ」
アルスたちとの飲み会から帰った翌日。疲れも酔いも朝一番のリアの実大先生のおかげで完全回復していた俺は、またギルドかと嫌々ながらアリーネさんの下へとやってきていた。
そして、真っ先に言われたのが「魔法の使用を許可しますわ」の一言。
いったい、昨日の今日で何があったのか。
「必要最低限、というのは?」
「仕留める時のみ、ですわ。タイミングは私が指示します。カオルさんには、剣による立ち回りを覚えてもらったほうがよろしいと思いましたので」
何でも、俺には剣の才能はあまりないのだとか。まぁ、あればリアの実食った時に超人みたいになってるわな。
まぁでもよかった。
あんな重いものを振り回した挙句、斬る時にはあの手に残る嫌な感触を何度も体験しなければならないのだ。あんなもの、続けても慣れそうにないし、慣れたくもない。なら、アリーネさんのこの提案は俺にとっても渡りに船ともいえるだろう。
「では早速ギルドへ向かいますわよ。今日は、紫への昇格依頼を受けてもらいますので、そのつもりで望んでくださいましね?」
「了解しましたっと。でも、魔法使えるなら楽になりそうでよかったですよ」
「ええ、頑張ってください」
◇
「アリーネさぁぁぁぁん!!! 魔法っ!! 早く、魔法の使用許……ヒアッ!?」
「ォオォオオオォオオ!!!」
「カオルさん、力で受けてはいけませんわよ! 受け流すのです! 訓練を思い出してくださいまし!!」
数時間前までの、楽になるとか言ってた俺をぶん殴って肥料にしてやりたい。
アリーネさんとともに向かったのは、地竜の森だった。ただ、俺が住んでいた花園とは違う方向から森に入ったため、知っている場所なのに全然違う場所に見えたのだった。
そして開けた場所でアリーネさんに待たされること暫し。地響きとともにアリーネさんが連れて来たのが今日の相手であった。
直ぐ側に振り下ろされた巨大な棍棒が足元の地面を砕き、その破片が容赦なく俺に降りかかってくる。
いつもなら、うわ汚ねぇと文句をいいつつも払い落とすのだが、今はそんな暇もなく、ただ逃げ回るので精一杯なのだ。
「オオオォォォォォオオォォッ!!!」
「うっせぇっ!! そして怖ぇぇ!!」
再度振り下ろされる棍棒を、今度は横に飛び退いて回避する。
もう何度目何度目かになるこの行動に、相手方は段々と腹を立てているようで、元々赤かった顔が更に赤くなっていた。避けられることがそんなに嫌なのか、鬼め。
……まぁ鬼なんだけども
フシューッ、とまるで熱気を漏らすように吐き出される息。束の間の時間に俺は息を整え、もう一度相手を見る。アリーネさん曰く、相手を観察することも近接戦闘においては重要なんだとか。
ジャイアントオーガ
真っ赤な肌と頭に生えた二本の角。下顎から上向きに生える巨大な牙に鋭い眼光。簡素な腰巻に、身の丈ほどの棍棒というその姿は、一見すれば日本の昔話に出てくる地獄も鬼を想起させる。あと筋肉とかすごい。
名前通り、普通のオーガよりも体の大きなオーガである。
ここで説明しておくと、オーガというのは冒険者のランクで言えば赤のパーティが相手をできる魔物だ。
魔法が使えず、また魔法への耐性が低い代わりに、力、耐久、体力はすごいらしい。魔法使いがパーティにいれば比較的簡単に相手が出きるらしいが、そうでない場合は距離をとっての攻撃や、タンク役に気を引いてもらっての背後からの奇襲、罠などを用いるそうだ。
逆に言えば、これが出来なければ橙から赤には上がれない。大抵の冒険者が橙止まりになる理由である。
俺? 単独で相手にして赤に昇格したんですがなにか?
何せ、普通のオーガはアリエッタやアリーネさんよりも力が弱いのだ。嫌々ではあったとは言え、いつもよりも脅威の少ない相手に遅れはとらなかった。
というか、とったら後でまた鍛えなおしとか言われそうで怖かった。
話を戻す。ジャイアントオーガだ。
こいつはオーガよりも体がでかいため、力も耐久も体力もオーガより上なのは当然。そしてその筋力はアリエッタなどと同じくらいなのではないだろうか。
俺が逃げ回っているのは、それも理由の一つ。訓練でアリエッタやアリーネさんを相手にしているとは言え、彼女らは俺に合わせて手加減してくれているのだろうが、今回は殺意を持って棍棒を振り回しているも同然なのだ。
それなんて悪夢?
そしてそれを剣で受けろ?
ハッハ、意味わかんね。
「カオルさん、落ち着いて見てください。確かに力はアリエッタや私と同じくらいあるかもしれません」
やっぱゴリラじゃん。もはや鬼じゃん。
「ですが、それだけですのよ? 速さはそれほどでもありませんわ」
俺が動き回る中、アリーネさんは高い木の上から俺にそう伝えてくる。
ジャイアントオーガも、アリーネさんの位置には届かないと本能的に察したのか、まずは目の前の俺に目をつけているようでまたも巨大な棍棒を振り下ろす。
「ノワッ!?」
「オォォオッ!」
相変わらず剣で受けることはしないが、今度は動きを見ながら回避行動に入る。
確かに、言われて見ればアリーネさんの言ってる通りな気がしないでもない。体の大きさやその棍棒の振り下ろしによる迫力から、真っ先に逃げていたので気にしていなかった。
棍棒の速度を気にしながら動くこと数度。
何となくタイミング等が掴めてきたのか、回避は先ほどまでのものと比べて洗練されていたような気がする。
棍棒の薙ぎ払いが、屈んだ頭の直ぐ上を通過していくことに一瞬冷や汗をかく。が、今では最初ほどの恐怖感は自分の中に残っていないようだった。いうなれば、遊園地のジェットコースターみたいなものである。
徐々に徐々に、目を慣らし、体を慣らし、頭の中でどうやってあの棍棒を受け流すのかをシュミレートしていく。
もう言いつけ破って魔法を使おうかとも考えたが、それをすると後が怖い気がするのでちょっとだけ頑張ってみる。
やるなら……ここ!!
「どらぁっ!!」
「ッ!?」
棍棒の振り下ろしに合わせて剣を斜めに構えた俺は、剣と棍棒が接触する瞬間に力を込めて、起動を逸らした。
確かにアリエッタやアリーネさんよりも遅いかもしれないが、力は凄まじいの一言に尽きる。受け流したはずが、まだ手にはジンジンと痺れが残っていた。
「魔法の使用を許可しますわ!」
アリーネさんのその一言に、俺は待ってましたと魔法を使う。
軌道を無理やり変えてやったせいか、大きく体勢を崩していたジャイアントオーガ。その巨体に向けて一言、「咲け」と唱えてやれば、一瞬にしてジャイアントオーガは数多の花の餌食となる。
なお、アリーネさんやユリウスには俺が杖がなくとも魔法が使えることはすでにばれている。というよりも、逃げるのに必死だったから、そこまで気にしていなかったのだ。俺は悪くない。
暫くして、花が成長しなくなったところで魔法を解除してやれば、花の中から現れたのは干からびたジャイアントオーガの姿。もはやジャイアントの面影はない。
「お疲れさまですわ。ちゃんと受け流せたようでなによりですわ」
「……そうですね。ちょっと疲れましたよ」
剣を手にジャイアントオーガに近づいた俺は、むき出しになっている歯のうち、特徴的だった下顎の牙を剣の腹を叩きつける。頑丈であるため、これを折るのは中々大変な作業である。
「これからの訓練は、主に対人戦を想定した剣での立ち回りを覚えてもらいますわ。回避については非の打ち所がありませんが、受身と受け太刀を中心に頑張ってくださいまし」
「……」
無言で牙を折る腕に力を込めた。たぶん、今の俺はそうとう酷い顔になっていることだろう。なんなら、白眼になっていてもおかしくはない。
これもアリーネとかいうゴリラのせいなんだ。
「討伐証明部位の回収が終わりましたら、すぐに帰りますわよ。時間は有限ですわ。今日中に青に上がれたら、暫く依頼はお休みにしましょう」
その一言に、俺の体の活力が戻ってきた気がした。あぁ、絶望の中に見える希望と言うのは、これほどまでに輝いて見えるのか。
しかしまだだ。この言い方の場合、依頼は受けずに訓練を増やす、などという罠が待っている可能性もある。
「……訓練も、休みにしてくれませんか」
「……そうですわね。最近カオルさんも頑張っていますし……五日ほど訓練も無しにいたしましょう」
「マジッすか!?」
ダメもとでも聞いてみるものである。
普段は頑張りたくない俺であるが、そうやって俺に益のある御褒美が待っているならば、頑張ってやらないこともない。
勢いよく牙に剣を叩きつけてやると、牙は簡単に折れた。その牙をアリーネさんから事前にもらっていた袋にしまい、ローブの懐へ。
「さっ、行きましょう! さっさと終わらせますよ!」
「……なるほど、こう扱うのですね」
アリーネさんが何かを呟いたような気がするが、まぁいいだろう。今は速攻で依頼を済ませて昇格し、あとは帰って寝て休むことしか考えていない。
「あれ、何で俺依頼を受けることが当たり前みたいになってるんだ……?」
そんなことをふと思ったのは本日の暮れ。青になってアリエリストの家でのことだった。
……あれだ、どんどん染められている気がしてならない。
「働きたくない、養われたい、故にヒモになりたい。そうだ、俺はそのためにここにいる」
危うく孔明の罠に引っ掛かるところだった。アリーネさん、恐ろしい人。
そもそも、ギルドで依頼を受けることだって不本意だったのだ。何故、あんな御褒美如きでやる気を出して頑張ってしまったのか。まぁ今更言っても仕方ないのだが、それでも少し不満に思う。
本来、こうしてこの家で養われることは、俺が決闘に勝ったことによるアリエリストからのお礼であるはずなのだ。
それなのに、今はこうして俺の想定外の方へと話が進んでいる。
「……決めたぞ」
明日からの五日間は俺は何もせずにここでのんびりと過ごす。そして期限が来れば、訓練、依頼断固拒否の意思を示そう。何なら、ここを拠点とし、花の巣に変えて防衛線だってしてやろうではないか。閉じこもって籠城してやる。何せ、自給自足できるのだ。
……この魔法、籠城戦とかめっさ強くないか?
「……相変わらず、根っこの性格は変わっとらんようじゃのぉ」
「そんな自分が大好きなのさ。……ていうか、なんでじいさんがここにいるんだ?」
窓から聞こえてきた声に返答してやると、声の主――じいさんはやれやれといった様子で中に入って来た。
それを見た俺は慣れたようにリアの実を実らせ、もぎとってじいさんに投げ渡す。
「ほう、気が利くの」
「そりゃどーも」
うまそうにリアの実を咀嚼するじいさんを眺めつつ、一人俺はじいさんがここに来た理由を考える。
……まさか、俺を案じて連れ戻しに、とか?
「ないの」
「三文字かよ」
真顔で返されたら、流石の俺も少し悲しくなるぞ。
「何、今ここに来たのは出かけるついでじゃよ。少しばかり森を出るのでな」
「出かける? じいさんが? どこに?」
森にいた頃、じいさんが出かけることなんて全くと言っていいほどなかったはずだ。そのじいさんが出かける?
「少しの、他の竜どもと会ってくるんじゃよ」
「……じいさんみたいな竜が他にもいるのか」
「三匹ほどじゃがな。まぁそれはよい。そういうわけで暫く森を空けるでな。それだけいいに来たんじゃよ」
じゃあ行くわい、と短い挨拶を終えたじいさんは、そのまま窓の外へダイブ。ベッドから起き上がって窓の外を見れば、巨大な竜が月の方角に向けて飛び立っていく途中だった。
「……じいさんの竜の姿、久々に見たな」
月を見上げながら、俺は昔じいさんに会ったころをしみじみと思い浮かべるのだった。
殺されかかった記憶を思い出したので、すぐに寝ました。。
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