41:心の傷はリアの実大先生でも癒せない
どうも、二修羅和尚です。
少し難産でした。主に、二人のシーン。こういったところをうまく書ききれる人って本当にすごいと思います。もっと、読んで書いて腕を磨かなければ……!!
「痛ぇ……腕が痛ぇよ……」
その日の夜遅く、俺はジップ、アルスに連れられて夜の街道を運ばれていた。
……そう、運ばれてるんだ。今はジップにおぶってもらっている。俺もこんな筋肉の塊みたいな大男に身を任せるなど御免被りたいのだが、状況が状況なのだ。仕方ないと諦めるしかなかった。
「だ、大丈夫ですか? 賢者様」
「大丈夫なわけないだろ……今の俺を見てよくそんなことが言えるなおい。……もうちょいゆっくり運んでくれ。振動が体に響くんだよ……あぁ……体中が痛ぇ……」
「お、おう。すまねぇな」
もう今は話すだけでも胸が痛いため、最後の方は囁くような声だったが、顔がすぐそこにあるためジップには聞こえているようだった。
少し歩みがゆっくりになる。
「しかし驚きました。賢者様がまさかギルドで倒れこんでいるとは……やはり、あの【鬼姫】の扱きは相当なものだったのですね」
「だろうな。俺達もあんたのおかげでここまで来れたようなもんだが……あのレベルはまだ想像がつかねぇぜ」
アルスが言う通り、今日の分と定められた依頼を達成した俺はギルドへ帰還して早々に倒れこんだのだった。帰り際にそこらで花のベッドでも作って寝ようと思ったのだが、ギルドへ帰還して依頼の達成報告をしなければ意味がないとアリーネさんに言われ、頑張ってアリストまで帰ったのだ。そしてギルドの端っこですぐに寝た。変な目で見られていたのは気のせいだろう。
ちなみに、俺が今回受けた依頼は黄に上がるための街での手伝い(主に探しものなど)や橙、赤に上がるための街近郊部での討伐クエストだ。この街は近くに地竜の森があるため、たまに森の浅い部分から弱い魔物が街の方……といっても結構離れた場所ではあるが、出てくるそうだ。
虫系統の魔物は森から出てくることはないらしい。今回俺が討伐したのはRPGでもお馴染み、弱いことで知られているスライムとゴブリン。非常に面倒この上ないことだが、アリーネさん監視の下での実戦訓練なのだ。あれだ、大魔王からは逃げられない、てやつだきっと。
いつもなら魔法で簡単に討伐もできただろう。何せ、離れた所から一方的に花の栄養にしてやればいいのだ。それが俺に許された攻撃方法は剣による攻撃のみ。
俺に死ねと言ってるんですか! という叫びは、アリーネさんのそうならないためですのよ? という言葉に土俵の外へ上手投げ。
結果、俺は今日必死に剣を振るっていたのだった。
戦士の人とか、よくあんな鉄の塊を振ろうと思えるよね。戦士職とかああいう近接武器を好んで使う奴らはみんなMなんじゃないだろうか。きっとそうに違いない。
それにあの斬るという感覚も嫌なものだ。まだ手に残ってやがる。
スライムはまだよかったのだ。見た目は流動する液体だし、中心部の核を傷つけてやればそれですべて終わる。物理無効とかなかった。
しかし、ゴブリン。あれはダメだ。何がダメなのかと問われれば、もうその存在すべてとしか言いようがない。臭い汚い気持ち悪いの3Kに加えて、人型ってだけでもう無理。魔物であるとはいえ、人を切っているような気分になる。戦闘中は無理やり押さえたが、終わった瞬間は手に残る感触がすごく気持ち悪かったし、何とも言えないものであった。嫌な思い出である。
昔、この世界に来た一年目で天使の加護が消えた後襲ってくる動物型の魔物を殺していたが、あの時は魔法を使っていた。殺す覚悟はあのときにしたつもりであったが、同じ殺すでも、剣と魔法ではこうも違うものなのか、と実感させられた。
とにかく、剣と言うものは好きになれそうにない。疲れるし、面倒だし、気持ち悪い。使ってみて思うが、何故アニメや漫画の主人公たちは好き好んで剣を振るおうとするのだろうか。
明日もこんなのが続くのかと思うと辟易としてくる。
……考えることも面倒だ。
「しかし賢者様よぉ。そんなんでこれから飲めるのか?」
振り向いたジップが聞いてくるが、男の顔面ドアップは流石に勘弁してもらいたい。
俺はジップの顔面から距離を取ろうとして仰け反るのだが、すぐにそれを中断する。筋肉痛で思わず顔を歪めてしまった。
その様子を見ていたのか、アルスが手持ちのバッグを開いて中身を探り出すのだが、ある程度経ったところで土下座しそうな勢いで頭を下げた。
「すみません、賢者様……! 手持ちにはポーションがあるのですが、これは怪我用。疲労には効かないのです。不甲斐ない俺をどうか許してください……!」
「ポーション……回復……あ」
そこでふと思い出した俺は背負ってくれているジップに頼んで降ろしてもらうと、二人にここで待つように言い聞かせて一人になれる場所まで移動する。
体中が痛かったが、そこは無理やり我慢。それらしいところまで来た俺は魔法でリアの実を一つ実らせてもぎとった。
どうやら俺の思考回路は今日の脳筋行動によってだいぶおかしくなっていたらしい。よく考えてみればこの疲労感もこのリアの実大先生にかかれば何のそのだったのだ。
一口、二口と齧った後、俺は無言になってリアの実を食す。
まるまる一つ食べ終える頃には、さっきまでの疲労やら気分はどこへ行ったのか、体調も気分も万全になっていた。
ただ、今でも斬る感触を思い出して顔が引きつるあたり、大先生でも心までは治せないようだ。
「待たせた」
気分も落ち着いたところで二人のところへと戻った。
先程までのグロッキーな様子が嘘のように平然としている俺を見て二人が驚いていたのだが、すぐに諦めたような溜息を吐いたジップと流石賢者様! と何故か俺を褒め称えるアルス。
まともな反応が一つもなかった。
「おい、何でそこで溜息を吐くんだ」
「あー……あれだ。賢者様には常識ってのが通用しねぇって事を思い出しただけだよ」
「失礼な。俺はまともだ。それより、目的地はまだか? 俺は腹が減ったんだ」
ジップの反応は無視して尋ねる。
今日はアリエリスト家まで帰っても食事が用意されていることはないのだ。リアの実を食べたとはいえ、今日一日の出来事を考えればまだまだ物足りない気分になってくる。こいつらの奢りなんだ。面倒だが、それに見合う見返りはある。自重はしない。
「取りあえず、酒と味の濃いものが食いたい。アルス、案内頼んだ」
「っ!? はい、賢者様! この命に代えましても!!」
……いろんな意味でこいつが怖いのだが、気のせいにしてもいいよね?
◇
「戻りましたわ」
「おや、ずいぶんと早いお帰りだったね? アリーネ」
時刻はカオルがギルドで倒れていた頃まで遡る。
カオルを残して一人足早に屋敷に戻ったアリーネは、着替えを済ませると真っ先にユリウスの執務室に直行していた。
先ほどまでの動きやすい服装とは打って変わり、今は貴族の夫人らしいドレス姿。そんな妻を見て、ユリウスは内心で綺麗だ、と呟くのだった。カオルが知れば惚気るな、と文句を言いそうな光景である。
「ええ、予想以上にカオルさんが頑張ってくれましたわ。おかげで今日一日で赤まで昇級してくれましたの」
「確か、剣だけで討伐依頼を受注させたんだったね。それで一日で赤までいくのか。すごいじゃないか」
一般的には橙が冒険者の基準だといわれている。だいたいの冒険者はこのランクまで上がることができるのだが、そこから先は上がれる者と上がれない者が出てくるのだ。
故に、剣を扱うことに慣れていないカオルが赤まで、それも一日で上がったことに驚いているのだ。
「私が指導していますのよ?」
「……そうだったね」
ユリウスは思い出したように笑った。忘れていたわけではないが、自分の妻は王国でも類を見ない剣の強者である。彼女にとっては当たり前のことだったのかもしれない。
「それじゃあ、期限の五日後には剣だけで青まで上がれそうだね」
「いえ、それは無理ですわ」
即座に否定した妻の様子に一瞬、ユリウスは疑問を覚えた。
「それはまた、どうしてなんだい?」
「才能がありません。技術のあるなしではない、もっと根本的な部分です。カオルさんには、斬ることを躊躇うきらいがありますわ。あれでは剣の腕は上達すれども、実戦ではあまり役に立ちません。言うなれば、精神がまだまだ未熟ですのよ」
もしこれをカオルが聞いていたならば、無茶言うな、と言い出すことだろう。
何せ、彼はもともと日本に住んでいた極普通の面倒臭がりな学生。故に殺す目的で武器を振るったこともないし、そもそもの話、武器なんて所持していれば捕まるのは確実。料理だって面倒臭がりな彼はレンジでチンか、お湯を注ぐくらいのものだったのだ。
そのため、アリーネのその評価は仕方のないものと言える。
「慣れそうにないのかい?」
「難しいですわ。無理強いをすれば可能ですが、止めておいたほうがよろしいかと。あまり無理をさせては私たちへの信用が損なわれます。ただ、アリーネにふさわしい殿方に、という建前上、もう少しやる気を出してほしいものですわ」
アリーネが困ったように片手を頬に当てる。その様子を見て、ユリウスにも思い当たることがあったのか苦笑を浮かべていた。
「だけどそうなると心配だね……万が一にも、彼が帝国の者の手に渡ってしまうようなことがあれば……」
「ユリウスさん、それは心配しなくとも良い事ですわ」
考え込むように呟いた言葉であったが、アリーネはそんなことはあり得ないとばかりに否定の言葉を返した。
そもそもの話、カオルに剣を教えるようアリーネにいったのはユリウスである。というのも、言い聞かせてはあるが、万が一カオルがリアの実の量産という埒外の所業が行えることを周りに知られれば、カオルを狙うものが大勢出てくることになる。
カオルが強者であることは事実であるが、前回のコールとの試合を見る限り、近接戦が不得手なのは明白だった。仮にその道の強者が相手となれば苦戦は免れない。
その対策としてアリーネに頼み、カオルに剣を教えてもらっているのだ。
なお、当の本人は不満をぶちまけ、更にはリアの実をおやつ感覚で食す男である。
閑話休題
「そうなのかい?」
「ええ。カオルさんは斬ることに躊躇いがあるだけですわ。現に、魔法であれば殺すことも辞さないようですし、敵には容赦しない方ですもの。それに、カオルさんを相手に魔法で勝てる方はそういませんわ。あれなら、私が剣による守りの術と距離のとり方を教えれば大丈夫でしょう」
要は直接的に殺すのか、間接的に殺すのかの違いである。
カオルが嫌がるのは、自らの手で相手を斬る感触のみ。魔法での攻撃ではそういったものを感じなくて済む為に行うことができるのだ。
「じゃあそれで頼むよ。任せっきりにしてすまないね」
「ふふっ、ユリウスさんのそういうところ、私は大好きですのよ?」
「アリーネ……」
一室で向かい合う二人の影が徐々にその距離を縮めていく。
やがて影が重なる程まで迫った二人は、お互いの顔を見合い、さらに顔の距離までもを近づけて――――
◇
「なぁ、帰ってもいいか?」
「早ぇなおい!?」
アルスが無駄に張り切って予約した高級感溢れるレストランに、辟易として項垂れるカオルであった。
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