40:ちょっと何言ってるのか理解できません
どうも! 二修羅和尚です!
最近週一投稿が板についてきたように感じます。
それでは第四十話です。あの人たちの登場でっせ?
「さ、入りますわよ」
「わかった。入るから逃げないから。だから、引きずるのは勘弁してくれませんかねぇ……」
現在、アリストの街のギルド前。久しぶりに訪れるギルドに俺は襟首を掴まれ引きずられながら入るのだった。
あれだ。途中でチャンスがあったからこっそり逃げようとしたんだが、逃げ出す前に捕まったあげくまた逃げないようにとこんなかっこで連れてこられたのだ。
いや、懲りないなお前といわれればそうなんだけども。実践とか言われたら逃げたくもなるのをわかってほしい。今までの訓練だって、身の丈ほどある剣の素振りを千回とか、アリストの街の外周走りこみ十周とか、娘のリハビリを兼ねているとか言うアリエッタとの剣による模擬戦(全敗中)とか、挙句アリーネさん直々のお手合わせ(俺は死ぬ)といった文字通り血反吐を吐きそうになるものだったのだ。
そして今度は実践と来た。はっきり言おう。嫌な予感しかしない。いったい俺に何をさせるのかと考えただけで逃げ出したくなるのは当然。それが正常な思考回路のはずなんだ。
アリーネさんが堂々とした足取りでギルドの中へと入っていく。
アリーネさんもこの街の領主の妻だからなのか顔が知られているようで、中にいた冒険者たちはこちらに目をやり一瞬ギョッとした態度を見せると、続いてそのアリーネさんに引きづられている俺を見て更に唖然としていた。
……ふっ、いいんだよ。街の子供達にナニアレーヘンナノーと言われてからすべてを諦めたのだ。今更他の奴らに見られてもどうということはない。いちいち恥ずかしがるのさえもう面倒なんだ。
だから、受付嬢さんたち。そのうわぁ、という目をやめなさい。
そんな周りの目を知るかとばかりにアリーネさんは受付へ向かう。もちろん俺の襟首を掴んだ手は未だに離してはくれません。誰か、何か言ってやってください。
「依頼を受けたいのですが、黒で何かいいものはありませんの?」
「……え、あ……い、依頼ですね!? しょ、少々お待ちください!!」
その場にいた受付嬢の女性が慌しい様子で奥の部屋へと引っ込んでいった。それを確認したところでアリーネさんが俺の襟首を掴んでいた手を離す。
急なことであったが、頭を床に打ち付ける前に手を着いて回避する。離すなら、離すといってほしいものだ。
アリーネさんの俺に対する扱いがだんだんとおざなりになっている気がしないでもないのだが、そんなことより今は確認しなくてはならないことがある。
「あの、今黒の依頼とか聞こえたんですけど……」
「? ええ。確かに言いましたわ。それがどうかしましたの?」
不思議な事を言いますのね、と返された。鬼ゴリラなのに見た目は美人だからそうやって小首をかしげる仕草も絵になっている。
いや、そうじゃなくてだ。黒って確か最高ランクだった気がするんですが?
「アリーネさんが受ける依頼ですよね?」
「何言ってますの? カオルさんが受けなくては意味がありませんわ」
「……笑えない冗談は、冗談って言わないんですよ?」
「ええ。私、本気で言ってますのよ?」
…………
「……ハハッ」
逃げます
「させませんわよ?」
いつものごとく、まずは魔法でと動作に入ろうとしたところでアリーネさんの手刀が俺の首に沿えられていた。おかしい。俺は逃げようとはしたがまだ行動に移していなかったはずだぞ……!
「あの、俺は別に何もしてませんよ……?」
「あら、そうでしたの? 逃げようとする気配がしたと思ったのですが……勘違いでしたのね」
この人、本当に思考でも読めるんじゃないのだろうか。
首筋から離れていく手を確認してホッと息を吐いた俺は、内心でびくびくしつつも「そうですよ」と応える。
「……賢者様?」
どうやってこの状況から逃げようかと考えていたときだった。
ふと後ろから聞こえた声に反応して振り向いた。
別に俺が賢者だという自覚はこれっぽっちもないのだが、不本意なことに俺のことは冒険者の間では【花園の賢者】とかいう中二ネーミングで広まってしまっている。そのため、そんな呼び方をされれば俺のことなのかと思って振り向いてしまうのも仕方のないことだろう。これで違ってたら恥ずかしいだけだ。
だが幸いといって良いのか、それとも不幸にも、と言ったほうがいいのか。その人物は俺の顔を見ると「やっぱり!」と嬉しそうな顔で駆け寄ってきたのだった。
「賢者様ではないですか! あの花園から街にいらしてたんですね! こんな形でまた会えるとは思ってもいませんでしたよ!」
「お……おお、久しぶり、だな……?」
駆け寄ってきたのは年齢が俺より少し上くらいの青年だった。それも金髪碧眼のイケメンで、見るからに上等な装備や武器を身につけている。その事実に若干イラッとしつつも、青年の勢いに負けてついそんな返事を返してしまった。
「覚えててくれたんですね!!」
すみません。覚えてないです。
とはこの空気の中では非常に言いにくい。はたして、俺とこの青年は会ったことがあったのだろうか。
「おいアルス! いきなり走り出してどうし……」
続けてこちらにやってきたのは大剣を背中に担いだスキンヘッドの大男。アリーネさんやアリエッタと違って、こちらは見た目からしてゴリラだった。
そんなスキンヘッドゴリラも俺を見て言葉を無くしていた。
「おお! 賢者様じゃねぇか!! 久しぶりじゃねぇかよ!」
「……あ」
思い出した。こいつら、最初に花園にやってきた冒険者だったわ。このゴリラの見た目が特徴的だったからよく覚えている。
なお、名前はまったく思い出せていない。
「あら、知り合いですの?」
「え、ええ。まあ」
「お、【鬼姫】様も一緒なのかよ……」
「あの【鬼姫】様と依頼ですか、賢者様。流石ですね!」
隣にいたアリーネさんの言葉に頷くと、大男のほうがアリーネさんを見て一歩たじろいでいたのだが、もう一人のイケメンの方は何故か俺をすごいとのたまっていた。
確か、その鬼姫ってのはアリーネさんの異名だったっけか? ユリウスがアリーネさんのことを話していたときにその名が出てきてたはずだ。
「お待たせしました、アリーネ様。依頼書を複数枚お持ちしましたのでこの中からお選びください」
「わかりましたわ。それじゃあカオルさん、少し待っていてください」
何枚かの紙を持って現れたのはブルームさんだった。どうやら、先ほどの人と交代したらしい。
ブルームさんの方を見ていると、ふいに視線があう。久しぶりにこのギルドへと来たのだが、向こうは俺のことを覚えていたのかお辞儀をされた。
とりあえず、会釈で返しておく。
「で? 急に街なんかに出てきてどうしたんだよ、賢者様。俺はてっきり、あの森の中でずっと引きこもってるもんだと思ってたんだが?」
「ジップ。失礼な言い方をするんじゃない。賢者様のことだ。何か、俺達には考えの及ばない事情があったんだろう。……ですよね! 賢者様!」
こいつ、俺とこのジップとかいう男で話し方に差がありすぎるのではないだろうか。
一瞬、俺を相手に話すこいつの頭に犬耳の幻想が見えたような気がした。……妙に様になっている気がしてむかついた。
「まぁ、うん。そう言われたらそうなんだわ」
「やはりそうなのですね!」
まぁでもこのイケメン君の言ってることも間違いではないのだ。何せ俺があの森を出たのは、養われるという夢のためなのだからな。俺にとって譲れないものだし、こいつらの考えが及ばない事情ではあるだろう。
「で? その賢者様が何でアリエリスト家の【鬼姫】様と一緒なんだ?」
ジップと呼ばれた大男が俺に向けてそんな疑問を口にする。
何で、といわれれば俺がアリエリスト家にお世話になっているから、なんだろうが正直な話こいつらが俺のことを知っていても俺はこいつらのことをよく知らない。そのため、馬鹿正直に本当のことを話すつもりはない。あと、何かと面倒な話なので面倒臭い。ここ重要。
だがあれだ。何故アリーネさんとここにいるのかということについては答えられる。
「……本当、何でなんだろうな……俺もわからん」
「……何か悪いな。苦労してるなら相談くらい乗るぜ? 恩もあるしよ」
ため息を吐く俺を見て何かを察してくれたのか、ジップはそんな慰めの言葉をかけてくれた。隣のアルスとかいうイケメンはよくわからない顔をしていたが、最後には流石賢者様! と俺を褒めていた。とりえず、ぶん殴っても良いですか?
「ところで賢者様! 他のメンバーも賢者様の顔を見れば喜びます! 今晩、俺達の仲間と一緒に飲みにいきませんか?」
「え、やだよ。面倒臭い」
どこを殴ろうかと考えていると、イケメン――アルスだったか? ――がそんな提案をしてきた。ので速攻で断った。何故俺がわざわざここまで来て食事をせねばならんのか。知ってるか? アリエリスト家だと、メイドさんがわざわざ部屋まで食事を運んできてくれる。しかも、そこらの飲み屋の食事以上の飯が、だ。故にわざわざ街の飲み屋に行く必要性を感じない。
「まぁそんな連れねぇこと言うなって。俺たちが奢るしよ。それに、あんたに助けられたイクスの奴がお礼言いたかったって日頃から煩いんだ」
「えぇ……んなもんいらないってのに……」
「あら、良いではありませんか。カオルさんも冒険者なら、他の冒険者との関係は広げておくべきですわよ?」
俺が行きたくないオーラ全開で拒否していると、今まで受付にいたアリーネさんが数枚の紙を手にしてやってきた。
この突然現れて人の意見無視して勝手に話を決めていくところ、流石夫婦というべきなのか。似たようなことをユリウスにもやられたものだ。
「それに、こちらの方々はこのアリストのギルドでも屈指の実力者。確か紫ランクの『真の花』の冒険者ですわね?」
「これはこれは。あの名高き【鬼姫】に覚えていただけるとは。これも賢者様のおかげですね!」
「やめろ。俺に話を振るな面倒臭い」
「俺達、もともと『真の剣』という名前だったのを賢者様への気持ちをこめて『花』に変えたんです!」
だからどうしたというのだろうか。ええい、構うなうっとうしい! 構ってほしい犬か貴様は!
イケメンの男に擦り寄られても嬉しいことなんざ一つもない。お前は隣のジップにでも擦り寄ってろよ。きっと貴腐人たちに人気出るから。
「とにかく、これも人脈を広げるためですわ。カオルさんの分の夕食は作らなくてもいいとシェフには伝えておきます。楽しんでくださいましね」
「それ、強制されてるんですが……はぁ、今更か。それで? 何の依頼を受けるんですか?」
俺らしくもないが、もう諦めた。ここで抵抗しても力で適わない以上どうしようもない。まぁでも、仮にどんな凶暴でやばい奴が相手でも面と向かって相手にしなければ俺の敵ではないはずだ。相手の見えないところから花を使って攻撃。隙を突いて生命力やらなんやらを吸収すればそれで終わりだ。
「それが、黒の依頼をカオルさんに受けてもらうことをギルドに言ったのですが、カオルさんはまだ白のランクだから無理だといわれましたわ。私が見ているとは言いましたのに、規則なのでといわれれば仕方ありませんわよね」
……おや? これはもしかして依頼をやらなくてもいい、何てことがあるのではないだろうか
「なるほど! 無理なら仕方ないですね! では俺はこいつらと飲んできますので、先に帰っていてください!」
そういった瞬間、アルスの方が嬉しそうな顔で賢者様! と言った。だが勘違いするんじゃない。この人が去れば、俺はどこかの宿にでも入って時間まで休むつもりだ。
こうでも言わなければ、実践訓練がなくなったからいつもの訓練を、何て言い出しかねないのだ。この人は。
「なんでも、黒の依頼を受けるには、最低でもその一つしたの青でなければなりませんの。ですので、カオルさんにはまず青を目指してもらいますわ!」
これを、と俺の前に出されたのは手に持っていた数枚の依頼書。計五枚。
それぞれの依頼書の左上には黄、橙、赤、紫、青の文字。
「青までのランク昇格用の依頼を持ってきましたの。とりあえずですが、今日から五日間でこれらを受け、青に昇格してもらいますわ」
ギルドの許可は受けていますわよ? 私の推薦ですので、と微笑むアリーネさんの笑顔が俺には悪魔のそれにしか見えなかった。
「……ハハッ、冗談きついっす」
「本気ですわよ?」
……
逃げました。
そして捕まりました。
「おいそこの二人ぃ!! 俺に恩があるんだろ!? はやく助けろよぉ!!」
「すまん。流石に黒の【鬼姫】相手には無理だわ」
「すみません、賢者様……!! 俺に、俺にもっと力があれば……!!」
行きと同じくアリーネさんに引きずられていく俺を、薄情者二人は助けてくれなかった。あいつら、余計な名前広めるくらいなら今この状況で助けを求めている俺を助けろよ……!!
「さ、頑張りますわよ、カオルさん。今までの成果も見ますので、討伐以来については魔法ではなく、剣術で討伐をしてもらいますわ」
「俺に死ねと!?」
「あなたのためですのよ」
どこら辺が俺のためなのかを小一時間ほど問いたいものである。
その日、俺は赤にあがった。
腕が痛いです
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