36:再会
どうも、二修羅和尚です。
昨日の雨は凄かったですね。おかげさまでびしょ濡れでした。どうせ濡れるなら、美少女の方がいいです。
さてそんなわけで、二章第二話です。前回から少し時間が遡りますが、お付き合いください。
話は遡ること一週間と少し前。Pさん誘拐事件解決後に、俺が一度森への帰省を願い出たときのことだった。
「カオル君。アーネストとの結婚式はいつ上げるんだい?」
唐突に言われたその言葉に、俺はしばしの間意味が理解できなかったし、理解できたところでまったく意味不明。あれだ、わけがわからないよ、というやつだ。その時の俺はきっと間抜け面をさらしていたに違いない。
とにかく、予想だにしなかったこの言葉に俺は苦笑い。直ぐ帰るとだけ返答し、結婚云々についての答えは先延ばしにしたのだった。
今思えば、この時にはっきりと誤解を解いておけばよかったと思わないでもない。が、もう後の祭りである。それに何がどうなってこんなことになっているのかがわからない以上、安易な返答は出来なかったのだ。
何度も言うが、俺は養ってくれる人と不和な仲になりたくはない。養う養われるという関係上、好ましいとは思えない間柄にはなりたくない。俺の立場も厄介者ではなく、アリエリスト家を救った者として養われたい。気分良いしね。
だが、結婚というのは流石にやりすぎ、といえるのではないだろうか?
確かに貴族の娘と結婚するならばその家との関係は良い、といと考えていいだろう。あのユリウスのことだ。自分が好ましくないと考える相手に結婚の話を持ちかけることはないはずだし、俺もユリウスは信用に足る人物であると認識している。
付け加えて、アリエリスト家は称号もちと呼ばれる貴族の中でも上位の家柄だそうだ。俺一人を養うことなど造作もないことのはず。これまでのような扱いは継続されると考えてもいい。
ただなぁ……結婚ってなぁ……
しかもあのPさんと、である。
何もPさんが駄目、ということではないのだ。一応Pさんだって美少女と呼べるし、性格もキツイ一面もあるが思いやりがあるのだってわかっている。
だが、話が急すぎるのだ。気分的にはスタンドからストライクの変化球が飛んできた気分。元々甲斐性のある姉系美女に養われるという夢があった以上、結婚のことも考えてはいたがこれは想定外だ。
そして俺が一番懸念していることがある。
ずばりPさんが貴族の娘である、ということである。そしてそのPさんと結婚するということは俺も貴族の一員となる、ということでもある。多分、状況的に俺に嫁入りではなく、俺が婿入りすることになるだろう。貴族の娘がどこの誰とも知れぬ男に嫁入りした、何て噂されてもこちらが迷惑だし、養ってもらう家に迷惑をかけられん。
養ってもらえるなら嫁入りでも婿入りでも拘りはないからそこはいい。問題なのは、貴族になることである。あからさまに面倒事の予感しかしないのだ。
これで俺が次期当主という謎の面倒な扱いを受けるならば速攻でここから逃げるが、アリエッタが他の貴族と結婚するとすれば、その話が実現することはないだろう。だが次女であるPさんと結婚するにしても俺が貴族になることは変わりない。とすれば俺も貴族として振るわなければならない、なんて場面があるかもしれないのだ。
マナーや姿勢、話し方や作法などを仕込まれるのだろうか。実に面倒臭い。
……あれ? 考えれば考えるだけ、Pさんとの結婚にメリットを感じないぞ、これ
◇
「……帰ったら、すぐに断ろう。そうしよう。そうしないといけないんだっ……!!」
そんな風に決意した馬車の中の俺である。
御者さんがこちらを訝しげに見てきたが、それも一瞬のこと。すぐに視線を前に戻した。
ここはアリエリスト家が持つ馬車の中。森までの道をまた歩いて戻るのが面倒だ、ということをユリウスに申し出たら快く出してくれたのだ。道もあやふやだったし渡りに船である。
ただガタゴトと揺れが酷くて尻を痛めそうだったので、今は馬車の中を花で埋め尽くしている。俺一人には少々大きい馬車だったので今は席の上に咲かせた花をベッド代わりに寝転がっていた。揺れはあるが寝れないほど酷くはない。だから寝る。
今この時だけは、しーちゃんと久しぶりに会える、という事を喜んでおこう。厄介事は後回し。未来の俺が何とかしてくれるはずだ。
暫くすると、今まで揺れていた馬車が動きを止めた。
着きましたよ、という御者さんの声に身を起こした俺は馬車の中を元の状態に戻してから降りる。
「ありがとうございました。ところで、御者さんはここで待ってるんですか?」
「必要とあらばそうしますよ」
見事な営業スマイルを決めてくる御者さん。だが、場合によっては数時間もここに留まらせておくことになる。それは申し訳ないことだ。森のすぐそばで、魔物が襲ってくることもありうるだろう。
現在はちょうど正午くらいの時間帯。俺は夕刻くらいに迎えに来てくれるように御者さんに頼んでおく。
かしこまりました、と丁寧な礼をして去っていく御者さんを見送り、俺は懐かしの地竜の森に足を踏み入れたのだった。
取りあえず諸々の恨みとストレス発散のため、じいさんを一発殴らなけば―――
~ドナドナ~
「久しぶりじゃの、カオルよ」
「……ああ、うん。そだな」
「む? どうした、そんな疲れた顔をしおって。お主のことじゃ、ここを追い出された恨みや何やで我に喧嘩でも売ってくると思っておったんじゃがな」
「……」
「まぁ、売られたところで我が圧勝するのは目に見えておるがのぉ?」
そういって笑うじいさんに、俺は苦笑いくらいしか浮かべられなかった。
「……ところで、いつまで乗っ取るんじゃ?」
「いや、俺が乗ってるんじゃなくてな。これ、乗せられてんだわ」
「ギイィッ!」
元気よく鳴いたその声に視線を下へ移す。
黒。圧倒的な黒の群れがそこにいた。
言わずもがな、これ全部がジャイアントアントである。
何がどうなっているのか、俺だって説明してほしいところであるが、唯一分っていることといえば、俺が森へ足を踏み入れたと同時に、こいつらが地面から大量出現→運ばれるという流れのみ。
離れてみれば俺が動く巨大な黒い絨毯に運ばれているように見えるだろう。
「まぁ、我がやらせたんじゃがな」
「よしじいさん。一発かます」
犯人はこの人だった。この怒りが冷めないうちにやる。
指輪のアイテムボックスから杖を取りだした俺は、素早くそれをじいさんに投げつける。じいさんからもらったもの? 知らん、今は俺のもんだ。
「危ないのぉ」
しかし目の前の存在は俺の怒りなど知らんという顔で杖の投擲を避けたのだった。おまけに、通り過ぎていく杖の端を掴んで俺に投げ返すという離れ技までやって見せた。
こいつ、人間じゃねぇ。
「ドラゴンじゃからの」
そうでした。
飛んできた杖がぶつからないうちにアイテムボックスへと収納する。もうちょっと遅ければ俺に直撃していただろう。冷や汗ものだった。
してやったりといった様子のじいさんに顔を歪めそうになるが、やれば更にウザイ顔をかましてくることは目に見えている。俺はじいさんを無視して運んでくれたジャイアントアント達に一言礼を言って降ろしてもらった。
じいさんが原因とはいえ、彼らの善意で俺を運んでくれたことには変わらないだろう。
小さくギイィッ、と鳴きながら触角を揺らす彼らを見て、思わず頬が緩んだ。
「……ふむ、そういうところは相変わらずなんじゃな」
「ん? 何がだ?」
「……気にするな。それより、ここはおかえり、と言うのが正しかったかの? 人間どもが身内を迎え入れる言葉だったと思うが?」
「……まぁ、合ってるけども」
どうやらじいさんが人を虫呼ばわりすることは変わらないようだ。
そのことに、変わらないな、と懐かしい気持ちになっている俺もいる。
まだここを離れてそれほど時間がたっていないはずだが、森の外での出来事は俺が考えている以上に濃かったのだ。仕方ないと言えば仕方ないことだろう。
「だがすまんな。じいさんへのその返答、三番目にすることにしてるんだ」
「……ほぉ。この地竜の森の主である我を差し置いて、優先するものがおるとな?」
「い、威圧してもダメだぞ? これだけはもう決めてんだから」
笑顔で笑いかけてくるじいさんが逆に怖い。そもそも、笑顔は威圧のためにある、何て話を聞いたことがあるのだが本当らしい。身をもって実感した。したくはなかったがな。
じいさんから視線をそらして、俺は辺りを見まわした。他のジャイアントアントがこうして来てくれたのだ。なら、この場所に彼女が来てくれていてもおかしくはないはずだ。というか、これできてくれてなかったら俺は泣く。
極力じいさんを視界に入れずに彼女を探す。
「ギイィ…」
ふと聞こえたその鳴き声に俺は直ぐ視線を移した。
彼女がいたのはここから少し離れた木の根もと。一般的なジャイアントアントと同じ見た目ではあるが、体に括り付けられたダイヤモンドリリーが明確に彼女であることを示していた。
駆け出す
辿り着いた彼女の目の前。昆虫特有の複眼が俺を映す中、俺は目線を合わせてその頭を撫でた。
触角が揺れる
「ただいま、しーちゃん!」
「……ギギッ!」
その一言を、俺は彼女に、一番に言いたかった。
ダイヤモンドリリー。花言葉は『また会う日を楽しみに』。
俺としーちゃんはこうして再開を喜びあったのだった。
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